クライシス皇帝との闘いが終り、南光太郎は、自分自身を鍛える為、そして、自分自身を探す為、旅に出た。
その一年後・・。
白鳥玲子は、相変わらず、東京で、カメラマンと忙しい日々を過ごしていた。
そんなある日、玲子は仕事で、空港に出かけることとなった。良い写真をとるために、なるべく、良い場所をとろうと、定刻の2時間前に空港についた麗子。とりあえず、空港内のレストランで食事を済ませ、さしてすることもなく、空港内を散策していた、その時だった。
玲子はとある青年に目がついた。それは少し長身で、サングラスをかけてはいたが、その面影は懐かしい感じを彼女に与えた。
「光太郎さん・・。」
玲子はその青年に思わず、声をかけた。
「光太郎さん、よね・・。」
「あ・・。」
その青年は少し驚いた様子を見せたが、サングラスをとった。
「やっぱり光太郎さんね。」
「玲ちゃん。」
その笑みは一年前と全く変わっておらず、玲子を安心させるものであった。
「光太郎さん・・。」
玲子は何という言葉を初めに発してよいか分からず、ただ、その名前を呼ぶだけであった。瞼が熱くなる。自分がこんなにも涙もろかったのか、玲子は思わず目を手でこする。
「玲ちゃん。どうしたんだ。らしくないぞ。」
光太郎は笑いながらそう言った。
「だって・・。いきなり光太郎さんが・・。今まで、今までどこいたのよ・・。連絡もくれないで・・。」
自分が光太郎に何を伝えたかったのか、混乱する頭で探り、かろうじて言葉を発する玲子。
「ごめん。俺はクライシスを倒した後、一年前、言った通り、自分をもっと鍛える為に日本を出たんだ。そして、各地を旅をした後、怪魔界へもう一度行ったんだ。そして、皇帝亡き後も、まだ強力な幹部クラスによって怪魔界の弱いクライシス人は支配されていることを知った。だから、反皇帝派の人達と闘ってたんだ。」
「そうだったの。」
玲子は、光太郎が経験した怪魔界での更なる、闘い、そして、数日前にその怪魔界は滅び、残った反皇帝派のクライシス人は新たな地を見つけ、新しい生活を形成されつつあること。そして、クライシス人に真の平和が戻りつつあることを聞いた。
「そう、じゃ、クライシスの人たちは平和な生活ができるようになったのね。」
「ああ。」
光太郎は笑って頷いた。
「で、茂君とひとみちゃんと響子ちゃんはどうしているんだ?」
「うん、三人はね、佐原空港の次の社長さんがね、引き取って下さったの。だから、幸せに暮らしているわ。」
「そうか。それは良かった。」
光太郎は心から嬉しそうに笑った。光太郎は、怪魔界にいる間、クライシス帝国によって、両親を亡くしてしまった三人が気がかりだったからである。
「で、光太郎さんはこれから、どうするつもり?」
「俺?」
「そう、光太郎さんよ。また、外国へ行くの?」
「そうだな。」
「考えてなかった。」
言って、軽やかに笑う。
「全く・・。」
玲子は呆れたように光太郎を見た。しかし、これが光太郎なんだと、光太郎に再会できたという事実を噛みしめてもいた。
「というのは、嘘。」
「え・・。じゃあ・・。」
「ああ、日本で暮らすよ。」
「本当に?」
光太郎は、はっきりと頷いてみせた。
「また、佐原空港でヘリのパイロットをすることになったんだ。」
「本当に?」
「ああ。さっきから玲ちゃん、”本当に?”って台詞多いぜ。俺が嘘吐くと思ってるの?」
「さっき嘘ついてたじゃない。」
玲子はむくれて言った。
「はは、さっきのは冗談だよ。」
「何よ、光太郎さん、いつも、私を驚かせてばかりで・・。」
玲子はまた、瞼が熱くなるの感じた。それはさっき以上のものであった。熱い液体が目からポロポロ落ちるのを感じた。
「おいおい、何泣いてるんだよ。」
「だって・・。」
「それでさ、玲ちゃん。俺、この一年で考えたんだ。」
不意に光太郎は真剣な表情になり、こう言った。
「何を?」
玲子はしゃくり上げながら光太郎に訊ねた。
「俺さ、玲ちゃんのことが、その、麗ちゃんがどれだけ大切な人なのか、分かったんだ。」
光太郎にしては珍しく、だんだん声がどもっていくのが玲子に分かった。
「光太郎さん・・。それって。」
頷く光太郎。
「一緒になりたいんだ。玲ちゃんと。」
今度は光太郎の口調ははっきりとしたものであった。あまりに意外でそして、嬉しくもある展開に、玲子は言葉が全く出なかった。さっきから流れっぱなしの涙はさらに止まらなくなり、体中が震えているのが分かった。
「駄目、かな・・?」
玲子が全く口を開かなかったので、光太郎は心配そうに玲子を見た。
玲子は首を振りながら必死で喉から声を絞り出した。
「ううん。私もずっと、光太郎さんが好きだった。好きだったの。それがずっと聞きたかったの。」
「じゃあ。」
光太郎の顔がパッと明るくなった。
「うん。私、光太郎さんと結婚したい。」
正直、その瞬間は玲子が意識的にではないにしろ、2年間待ちわびた瞬間だったのかもしれない。以前、偽装結婚という光太郎達のクライシスに対する作戦に積極的に協力したのも、この瞬間をイメージしていたのだろう。その時の自分がどれだけ、胸を躍らせていたのか、玲子は今になって思い出した。
「ありがとう。玲ちゃん。」
「うん。」
玲子は、今はっきりと自分自身、幸せを掴んだことを確信した。そして、これからずっと光太郎と生きていきたいと心から願った。
「玲ちゃん、顔、真っ赤。」
光太郎は笑った。
「あ・・。ハンカチ、ハンカチ・・。」
さっきから、頭が混乱して、ハンカチを探すのに手間取っている、玲子に光太郎は自分のハンカチを差し出す。
「はい。」
「あ、ありがとう・・。」
玲子はそのハンカチで涙を拭う。
「あ、そういえば、仕事・・。」
玲子は思い出したように、カバンから鏡を取り出し、自分の顔をまじまじと見た。
「こんな顔じゃ仕事ができない。化粧直ししないと。」
「あ〜、こんな時間。」
一人で焦りまくる麗子。
「玲ちゃん、慌てないで。」
「じゃあ、私これから仕事だから。」
「あとで色々付き合って貰うから、忘れないでよね。光太郎さん。」
「はーい。」
光太郎の返事を確認し、玲子は、化粧室に向かって走っていった。その足取りは、急いでいるに関わらず、喜びに満ちていたのは言うまでもない。