私とみくが出会ったのは、今から二年とちょっと前だった。

彼女と初めて口をきいたのは、私達がこの諸星学園高校に入学して、二日目の初授業の日だった。

私は、遅刻しないよう、早めに登校した筈だった。耕一郎みたく、「学生は、遅刻はもってのほか」ってタイプではないけれど、それでも、初授業で遅刻して目立つのも嫌だったし。遅刻はしないにこしたことはない。

時間にして、8時だった。ちょっと早すぎるなと思いながらも、桜が咲き乱れる校門をくぐった。

そこで、今村みくが現れたのだ。

彼女は何を思ったのか、私の隣に並んで歩いていた。

そして、こんなことを口にした。

「ねぇ、この学校の桜ってすっごくキレイだよね。」

「あの、あなたは?」

いきなり、話し掛けられ、私は戸惑った。よく顔を見てみると、昨日、同じクラスで見た覚えがある。

「あっ、私ね、今村みくだよ。多分、同じクラスかな。」

今村みく、彼女は、くったくのない笑顔でそう言った。

「私は。」

とりあえず、名乗ろうとした。しかし。

「あっ、言わないで、私が当てるから。うーんと、確か・・。」

彼女は頭にひとさし指を当て、考えるポーズをとって見せる。

「あっ、分かった。千夏!」

「千夏でしょ。絶対、そうだよね。」

「あの、違うんだけど・・。」

はしゃぎまくっている彼女を否定するのは、少し心苦しかった。

「え〜、そうだと思ったんだけどな・・。」

また、考えはじめる彼女。

「あ〜、思い出した!!」

周囲が振り向くくらいの声で彼女は叫んだ。声、ちょっと大きすぎるよ・・。私は、思わず周囲をチラリと見た。

「千里でしょ。城ヶ崎千里。すっごく可愛い名前だなって思ったんだ。」

私の名前が周囲に響き渡る。彼女はものの見事に私の名前を校内にて宣伝してくれたのだ。あまりの恥ずかしさにその場を逃げ出そうとすら思った。

しかし、彼女はそんなことを気にした風もなく、私に向かってにっこり笑った。

「どう?あってるよね。」

そんな彼女を置き去りにする勇気など私にはなくて、苦笑しながら答えた。

「う、うん、あってるよ・・。」

「やったー。というわけでさ、お花見しよ。」

「は?」

私は、思わず自分の耳を疑った。

お花見?

「あの、今村さん、お花見って、今から?」

「そうだよ。今から。行こう。ねっ。」

私の答えなど、聞こうともしないで、私の手を引っ張り、桜の木の下まで走る彼女。っていうか、今からって・・。

そして、問答無用で私は、彼女の”お花見”付き合わされた。

「気持ちいいね。千里。お弁当持ってくれば最高だったなぁ。」

彼女は本当に気持ち良さそうに、背伸びをした。

「今村さん、遅刻しちゃうよ・・。」

「いいじゃん、いいじゃん。」

いや、何がいいんだか・・。彼女は・・。

彼女がくつろぐ反面、私は時間ばかりが気になった。折角、遅刻だけは、避けようと、早めに出たのに、これでは意味がない。

しかし、彼女は動く気配など微塵もないようであった。この、学生が一番忙しい時間帯にお花見なんぞをしている、私達は、もの珍しげな視線に晒されていた。入学して二日目で、目立ちまくっている。全くとんだ災難である。

隣で桜にはしゃぎまくっている彼女をよそに私は全く落ち着かなかった。

時計を見ると、もはや8時30分。真っ青になった。完全に遅刻である。

「今村さん、遅刻だよ。」

彼女を見ると、眠っていた。しかも寝言まで・・。

私は、慌てまくって、彼女の肩を揺すった。

「今村さん、起きてよ。遅刻だよ。」

「う〜ん、あと一分だけ〜・・。」

彼女は、完全にいってしまっていた。そのまま、授業に向かおうとも思ったが、彼女を取り残すのは何となく、良心が痛むし、後で何か言われるのも面倒なのでとりあえず、必死で彼女を起こす。自分のお人好し加減に呆れながらも。

「今村さん!今村さん!」

8時40分。

「あ〜、良く寝た。」

爽快そうに彼女は叫んだ。

「よく寝たじゃないよ。遅刻だって。完全に。」

「あっ・・。誰も、いないよ・・。」

「だから、遅刻なんだって!」

彼女は、やっと状況が把握できたらしく、ガバッと起きた。

「急がないと!」

いや、今更、気付かれても・・。さっきから私は何度も起こしたのに・・。

「行こっ。千里。」

そう言って、私の手を握り、にっこり、笑った。

そして、私達二人は、授業初日にして遅刻して、クラスの注目を浴びたのは言うまでもない。しかし、こんな彼女とこれからずっと、付き合って、さらに、メガレンジャーというあまりに大きな秘密を共有し、あまりに強い絆が生まれようとはこの時、夢にも思わなかった。