「ねぇ、賢君、付き合おっか。」
「えっ?」
僕は、高校1年、京さんは高校2年だった。僕達は、学校も学年も違うのだが、何故か、友達としてよく遊んでいた。同じパソコンを趣味とする仲間として、そして5年前、デジタルワールドを冒険した仲間として。僕は、知らず知らずのうちに彼女の、僕にはない、底抜けの明るさに惹かれていた。5年前、僕は彼女のその明るさに幾度か救われたことがあった。そして、彼女も、そんな僕に少なからず、好意を抱いてくれていたのだ。
「うん。」
僕達は、ごく自然に彼氏・彼女の関係になった。しかし、付き合う宣言をしたところで、お互いの生活は、別段、変わらなかった。いつものように、約束をしては、お互いの家でパソコンの話題で盛り上がったり、二人で外出。付き合う前もやっていたことだったから。僕もそれが楽だった。この歳上の彼女は何でも、受け入れてくれるし、自然体でいられる。性格が正反対の割には僕達はウマが合った。
今日も僕達は、外出をした。彼女の買い物に付き合い、その辺りのゲームセンターで遊び、電気ショップを覗いたりする。変わり映えのしないデートコース。
「じゃ、ここで、またね。賢君。」
「さようなら。京さん。」
僕は、そのまま、田町行きの電車に乗る為に、駅に向かう。
「一乗寺君。」
聞き覚えがある、そして、久々に聞く声だった。
「高石君・・。」
「久しぶり。」
彼は高石タケル。彼も、5年前デジタルワールドを冒険した仲間だった。彼と会うのは本当に久しぶりだった。そう、デジタルワールドでの事件が終わってしまうと、パソコンという趣味で通じていた京さんとは違い、会うことも殆どなかったのだ。
「ほんと、久しぶりだね。」
「ねぇ、今、暇?」
唐突に高石が切り出す。
「えっ?うん、暇だけど?」
「だったらさ、僕んち来ない?すぐそこだし。久々に、一乗寺君と話がしたくて。」
「あ、いいけど。」
「じゃ、決まり。」
高石はニッコリ笑って、僕達は歩き出した。
「ねぇ、さっき、京さんと一緒だった?」
「うん。そうだけど。」
「確か、今、付き合ってるんだよね。」
「うん。ちょっと前から。」
僕は照れ隠しに頭に手をやる。
「へぇ、もう、僕達の間でそんな関係になる人が出て来たんだ。まあ、お兄ちゃんと空さんもだけどね。」
そんな会話を交わしながら、高石の住む、マンションの一室に着いた。
「どうぞ。大したおもてなしできないけど。」
「お邪魔、します。」
この家に訪れるのも久々だった。高石は、母親と二人暮らしで、その母親も、普段は仕事でいないので、家の中はいつもこうなのだろう。綺麗に片付いているのだが、空気がガランとしていて、どこか寂しい。
僕は高石の部屋に案内された。
「今、コーヒー入れてくるから。それとも一乗寺君は紅茶?」
「コーヒーでいいよ。ありがとう。」
言って、高石は台所に消えた。
僕は一人高石の部屋に正座をしていた。久々に訪れた家というのは妙に違和感があって、僕は落ち着かなかった。
数分後、高石が、コーヒーカップを二つのせたお盆を運んでくる。
「お待たせ。」
高石の姿に、僕は幾分ホッとする。
「あれ?足、くずせばいいのに。」
「あ・・。」
僕は、足がしびれているにも関わらず、ずっと正座をしていたのだ。
「イタッ。」
「大丈夫?」
「う、ん。ごめん・・。」
「謝ることないのに。」
高石はクスクス笑った。
僕は、恥ずかしさのあまり、下を向いた。
「ハイ、どうぞ。」
高石は、僕の前にコーヒーカップを差し出す。
「ありがとう。」
「で、元気?」
「うん。」
「そうだよね。」
「大輔は?」
「元気だよ。相変わらずヒカリちゃんを追い掛け回しているけどね。小学校の時と変わらないよ。あの調子じゃ。ヒカリちゃんも相変わらず。」
「でも、一乗寺君が京さんと付き合うとは思ってもみなかったな。」
「そう?」
僕は、コーヒーに口を付ける。
「何となくね。」
「あの明るいところに惹かれたわけ?」
「うん。そうかもね。僕には、多分、ないものを京さんはたくさん持ってると思う。そして、それは僕に必要だからって、わけわかんないよね。」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。しかし、京さんが自分にとって必要な人間であることは確かである。
「何となく、分かるけど。」
「ありがとう。」
「でも、良かった、一乗寺君が元気そうで。」
高石は相変わらず、人の良い笑みを浮かべている。
「で、高石君は?」
「僕も相変わらず。」
「そっか。」
その時・・。
急に、目眩が襲う。
世界が、目の前の高石が、歪んで見えた。眠い・・。
朦朧とする意識の中、高石が笑っていた。しかし、目が笑ってはいない。
「目、覚めた?」
目の前で、高石が笑っている。
「ここは?」
「僕は、どうしたの?」
高石は、何も答えなかった。
まだ、頭がぼやけている。何気に、手が、痛い・・。何かに吊られているように・・。
手が頭の上にあるようなので、降ろそうとした。が、動かない。
僕は、自分の状況を把握しようと頭を働かせる。
ここは、高石の部屋。そして、ここは・・。
僕は・・。今・・。
手が、頭の上で組むようにして、縛られ、ベッドにパイプに繋がれていた。
ようやく、僕は自分の身に起こった異変を把握することができた。
「君が、やったの?」
「他に、いる。」
高石は笑っている。
「どう、して・・。」
「やりたかったから。」
「だから、どうして。」
「さっき言った通りだよ。」
「解いて・・。」
高石は答えずにクスリと笑った。
僕は自分の身に何が起こるか、理解した。しかし、僕は、男で、彼も男だった。男が、男に・・。
「一乗寺君は飲み込みが早いね。流石、元天才少年。」
「やめろ・・。」
僕は手が震える。
「力、抜いた方がいいよ。後で大変だよ。」
「お願いだから・・。」
高石は、僕のシャツのボタンを外していき、僕の肌を露出していく。そして、そこに舌を這わせ・・。
「やだぁ・・。」
くすぐったさ・・。そして、軽い疼き・・。
「もう、感じてるんだ・・。」
「どうして、こんなこと・・。」
「さあね・・。」
「僕は、男だ・・。」
「そうだね。しっかりと、彼女もいる・・。」
高石は僕の上半身の突起の部分を指で触れ、もみくちゃにして、弄んだ。
僕はその刺激に身体を震わせた。
「やはぁあん・・。」
「やだぁああん・・。」
「女の子みたい。」
高石は笑う。
「違う・・。」
「やめて・・。」
「京さんに嫌われちゃう?男と寝たってね。」
「やだぁぁ・・。」
”京さん”の名前で僕は青ざめた。
僕は、見た。目の前に崩れていく、僕の平穏が・・。
普通が異常になる。
どうして、高石がそんな真似をするのか分からなくて、混乱して、京さんが頭の中をグルグル回っていて・・。
それでも、高石が与える刺激には抗えなくて・・。
普通が異常になる・・。
歪んでいく・・。
普通が、異常になる。