高石はまるで、僕の身体を知り尽くしているかのように、的確に、そして、じわじわと刺激を与えていく。
「やぁっ・・。」
僕は顔面を羞恥の色に染めていく。それを見て、高石は笑った。計画どおりというように・・。
「どう、して・・。」
「知りたい?」
僕は頷く。
「君が欲しそうだったから。」
「違う。僕は欲しがってなんかいない。そんなこと、したくない。」
「欲しがっるさ。ホラ、こことか・・。」
高石は、耳元でそう、囁くと、その口で、僕の耳たぶを軽く噛む。
「やっ・・。」
高石の吐息があまりにも、間近に感じられ、僕は、気が変になりそうだった。
「やだ・・。」
「嫌じゃないくせに。」
「僕には・・。」
「彼女がいる。」
高石が続けた。そして、笑みを浮かべる。
「君の言いたいことくらい分かってる。」
「だったら、何故・・。」
その問いには答えず、高石は、僕の上半身を愛撫しながら、下半身に手を伸ばしていく。
「やだぁぁ・・。」
そして、悪戯な手は、太股まで下りていき・・。
「そこは・・。やめ・・。」
僕の抗議など、気にも留めないという風に、高石は、太股を撫で上げながら、指を奥に進めていく。
コワイ・・。
誰にも触れられたこと、なかったのに・・。
よりによって、同性に・・。
コワイ・・。
僕は、顔を強張らせた。
「そんなに、怖がらなくていいのに。」
高石は、平然と僕の中に侵入していく。
高石が、分からない。
彼が僕に対して何を求めているのか、彼の欲するものが全く、理解できない。
「やはぁん・・。」
高石が誰も触れたことのない領域を軽々と、侵していく。
初めて感じる痛み・・。屈辱・・。
僕が、僕でなくなる。そんな感覚さえ味わった。
さっきまで、普通に好きな女の子とデートして・・。普通に・・。
僕は、何者なのだろう・・。
「やだぁあん・・。」
「いたぁぁん・・。」
「やだぁああん・・。」
「二度と、女の子なんかと付き合えないようにしてあげるよ。」
高石・・。
君は、何を言っているの?
高石の指を僕を追い立てるように、突き上げてくる。
「もう、やめ・・。」
「どうして?君はまだ求めてるんだよ。僕を。」
「ホラ、見て。」
「何・・?これ・・。」
それは、紛れもなく、僕の精液だった。
僕は、高石に触わられ、射精していしまっていた。その事実に、僕は愕然とした。
どうして・・。
こんなにいやらしい身体が自分のものかと思うと、どうしようもなくなる。
射精自体、決して悪い行為ではないことくらい、僕だって、分かっている。しかし、僕は、男に犯され、射精をしているのだ。そう、思うと泣けてきて・・。
でも、そんなことは認めたくなくて・・。
京さんと付き合っているごく普通の高校生が僕であって、これは、本当の僕でないと信じたかった。そう、信じなければ、生きてはいけないような気がした。
「嫌だ。僕は、君を求めている訳ではない。僕は、僕は・・。」
息も絶え絶えになりながら、僕は訴えた。
そんな僕を高石は、冷笑し、行為を止めてはくれなかった。
「そんな口を二度と叩けなくしてあげる。」
言って、高石は、自分のを露出したかと、思うと、僕の中にいきなり、入ってくる。
「やはぁぁあぁん・・。」
そのまま、激しく、腰を動かし、僕を目茶苦茶に突き上げていく。
「やだぁぁあぁぁ・・。」
僕は、あまりの痛みに喚いた。
喚きながら、縛られている両手を必死に動かし、手首が熱くなった。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
「やぁぁぁぁぁぁあああ・・。」
僕が、どんなに喚こうが、高石は、力を緩めることなしに、僕を更に戒めていく。
どうして、彼は、僕からこんなにも奪っていくのだ・・。どうして・・。
彼が何をしたいのか、分からなかった。
ただ、痛くて、分からないことだらけで・・。
痛みの狭間でそんなことを考えている内に、僕は意識を次第に失っていった。
それから・・。
どのくらい、眠っていたのだろう・・。
僕は、ぼんやりと、意識を取り戻す。
そして、改めて、意識を失う前の記憶が蘇る。
最初、その記憶も夢とさえ、思った。
しかし、そうではないと認識したのは、間もなくのことだった。
手首をベッドにくくりつけられ、半裸の自分を見た。
僕の周りに散っている、精液の感触があまりにリアルで・・。
「起きたんだ。」
案の定、目の前には、金髪、碧眼の高石がいて、夢ではないことを嫌でも思い知らされる。
僕は、おずおずと高石を見た。
「夢だと、思ってる?」
高石は、何事もなかったかのように、言い放った。
僕は首を横に振った。
高石は、口だけで静かに笑うと、
「どう、初め犯された気分は?」
とんでもない質問がとんでくる。
答えられる筈もなく、僕は顔を高石からそらす。
「どうして・・。そんなこと・・。」
「分からないって顔だね。」
僕は頷いた。
高石は何も答える、ただ、クスクス笑うだけだった。
「何が、可笑しい。」
その態度が妙に腹立たしくて、僕は、声を低くした。
「いや、別に。」
僕の腹立ちのこもった声にも高石は動揺するどころか、むしろ、楽しんでいるようだった。
それが、さらに僕を苛立たせる。
「ほどけ・・。」
僕は、怒りをこめて、今度ははっきりと言った。
「理由も分からないのに、こんなことしていい筈がないだろ。」
「理由ならちゃんとあるんだよね。」
「だったら・・。」
高石はクスリと笑った。
その時だった。
トゥルルルルルル・・。
携帯電話の着信音。
僕の携帯電話だった。
まさか・・。
僕は、高石の部屋にある時計を探し、時刻を調べた。
午後1時30分・・。
今日は・・。
「今日が、いつか、知りたい?」
僕は頷く。
「今日は、日曜日だよ。」
やっぱり・・。
昨日、つまり、土曜日、僕と京さんは日曜日に映画に行く約束をして別れていたのだ。
約束の時間は午後1時・・。
鳴り続ける携帯電話の相手は、明らかに京さんだ。
「君の両親には、連絡しておいたから・・。もしかして、連絡しなきゃならない人、まだいたの?」
「まさか、それ、知ってて・・。」
僕は、青ざめた。昨日、高石と僕が町中で出会ったのは、京さんと別れて、すぐのこと・・。
あり得る。
「その格好で行く訳?デート。」
高石はニヤリと笑った。
僕は、改めて、自分の姿を見た。とても外出などできるわけではない。第一、僕はベッドに縛り付けられているのだ。
着信音は少しして、切れる。
「お願いだから、ほどいて・・。」
「そうだね。君が僕に一つ約束してくれたら。」
「何でもきくから。」
「良い心がけだ。」
そう言って、高石は、僕の耳元で囁く。
「は?」
僕は、その約束に唖然とする。
高石は意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちょ・・。」
「君に否定する権利はない筈だよ。」
「分かった・・。」
僕は、しぶしぶ、承諾し、高石にやっとのことで解放された。
結果的に、僕は、京さんとの約束を破ることになった。
帰って、京さんの携帯電話に電話を入れ、今日のことをわびた。京さんは、怒りはしなかったが、その理由を知りたがった。僕は、ただの寝坊だと言い張ったが、様子がおかしいと薄々勘付いているらしく、納得してはいないようだった。このままだと、気付かれるのも時間の問題なのではなかろうか・・。僕は不安だった。もし、高石に犯されたことを知ったとしたら、彼女は・・。
「ねぇ、賢君、何か心配事とかあったら、言って欲しいな。私達、こういう関係なんだから。」
「大丈夫。ありがとう。」
僕が、そう告げると、
「そう、だといいんだけど。」
その声はどこか、寂しそうだった。
僕は、迷っていた。京さんとの関係を絶ちきることさえ、考えていた。もし、彼女が知ってしまったら。昨日の出来事、そして、僕と高石との交わした約束の内容を・・。