償い

 彼は焦っているようにみえた。自分のしたことの償いしようとする。しかし、状況は彼の意とは逆方向に向かっているかのようだ。デジタルワールドをもとに戻したい。自分のつけた爪痕を消したい。

 ダークタワーを倒作業はデジモン達の休息のために一時中断された。

 一乗寺賢も木陰でワームモンを休ませていた。その背中は憂鬱が漂っていた。彼は何を考えているのか、僕には見当がつく。焦っている。自分のしたことが取り返しがないことを改めて実感している。そんなところだろう。そして、自分を責めている。全ての責任背負いたがっている。自虐的なまでに。

「一乗寺君。」

後ろから声をかける。

「あっ・・・。」

彼は意表をつかれた様子だった。

「何?僕が君に声かけるのって珍しい?」

「いや、嫌われてる思ってたから・・・。」

「何で?」

「だって、嫌われて、当然のことしてきたから・・・。」

彼はうつむいた。

「そうだね、君のやってたことは確かに許されることじゃないよね。」

わざと、意地悪を言ってみる。本当は過ぎたことなど、どうでもよかった。さらに彼はうつむく。

「落ち込んじゃった?」

「いや、本当のことだし。」

全てのことを真面目に受けてしまう彼が少し、可笑しかった。まぁ、無理もないことだが・・・。僕は吹き出してしまった。

「何で、そんなに真に受けるのさ。」

「だって・・・。」

戸惑う彼のしぐさが可愛い。

「そんなに、償いがしたいの?」

「じゃあさ、償わせてあげる。目、つむって。」

「目?」

「そう。」

「早く。」

何のことやら分からない顔をしながら、彼は目をつむる。

僕は、彼の唇に自分の唇を重ねる。

「ハイ、終わり。」

彼は、自分の唇に手をあて、顔を真っ赤にする。

「僕が食べたんだよ。君の罪を。君は一つ償ったじゃない?」

「あんまり、一人で抱えるの、やめなよ。」

「だって、さっき許せないって・・・。」

「ああ、あれ?君を困らせてみたかったんだ。だって、一乗寺君が可愛かったから。」

顔を真っ赤にする彼。こんな表情もするのか。

僕は彼に惹かれている。少々自虐的なところも。時折見せる表情も。全て。