(我不迷〜我迷ワズ〜)
俺は、吹っ切れた。
それまで俺は途方もなく、長い、長い、トンネルを歩いていた。
そして、それを誰かに悟られ、自分の弱さを曝け出すのが怖いから、強がった。
迷いのないフリをしていた。
更に、俺は、奴と出会うまでは、その長い、迷いという名のトンネルを歩いていることに気付くことすらなかった。
一族は、「我不迷」という言葉を俺に叩き込んでいた。
俺は、一族によって洗脳されきってしまっていたのだ。
憎しみという心を植え付けられていた。
しかし、ある日、奴と出会った。
奴は霊を”友達”と呼んだ。
俺は、奴の言葉を、態度を、嘲笑っていた。
しかし、どこかで気付いていたのだ。
奴には勝てないことを。
そして、どこかで奴を羨ましいと思っていた。
俺は、それを妬み、奴に嫉妬と今まで溜め込んだ、憎悪の全てをあの試合にぶつけた。
奴は、それをいとも簡単に受け止め、俺を受け入れた。
巫力がゼロになった瞬間だった。俺が吹っ切れたのは。
試合が終った後、俺達は笑っていた。
そして、俺は、生まれて初めて笑っていた。心底、心から。
嘲笑はできても笑うことができなかった俺。
「おい、貴様、何をしている。」
振り向くと、麻倉葉だった。
「いや、お前の頭のそのツンツンした部分、どーなってるのかなぁとか思って。」
「しっかし、結構かてーなぁ・・。どうやったらこうなるんだ?」
「うるさい、触わるな。」
「しっかし、何とも言えない感触だなぁ・・。」
更に俺の頭の尖がった部分を嬉しそうにいじる麻倉葉・・。
「貴様、話聞いてないだろ・・。」
「何か癖になりそーだなぁぁ。」
一人で悦に入ったような表情を見せる奴・・。
手はやはり俺の頭にある・・。
「って、一人で入りこむんじゃないっ!!」
「えっ?蓮、お前何か言ったか?」
我に戻ってキョトンとしている。
「だから触わるなと言っている。」
「いいじゃねーか、どーせ減るもんじゃなし。」
「俺がうっとおしいのだ!!」
「そ〜かぁぁ。照れちゃうぞぉ。」
「って、誉めてないっ!」
全く奴は理解のできない場面で理解のできない行動をとる。やはり、俺の理解を超えているのだ。
しかし、最近、何時の間にか、俺は奴のペースにはまる。
馬孫は時々、こう漏らした。
「葉殿と一緒の時の坊ちゃまは本当に楽しそう」だと・・。
楽しい?
生まれて13年間、そんなことを教わったことはなかった。怒りと憎しみとプライドは嫌という程、叩き込まれたが、「楽しい」ということは全く、俺とは無縁の世界だった。
ただ、多くを倒し、征服し、復讐することが全てだと思っていた俺には。
「なぁ、シルバんとこで買ったたこ焼やるから、もっと触わらせてくれよ〜。」
「たこ焼だと!?」
「ほら、できたてだぞ〜。」
「よし、乗った!」
「お前、やっぱりたこ焼、気に入ってたんだなぁ。」
「庶民の味も最近は口に合うようになってな。」
「って、お前エラソーだぞ・・。」
「ふん、俺は偉いのだ。」
俺は、たこ焼を口に入れた。
奴の言う通り、できたてらしく、温かかった。
「人の温もり」もこんなに温かいものなのだろうか・・。
俺の育った、世界にはこんな温もりはなかった・・。
「って、本当にいじってんのか!」
「やはりうっとおしいからやめろ!」
「お前、たこ焼食べたじゃねーか。契約違反だろ。」
「うっ・・。」
奴は気持ち良さそうに俺の頭を触わっている。
「まぁ、いい・・。ところで、貴様、シャーマンキングになる自信はあるのか?」
「うーん、まちまちってとこだな。これから何があるかわかんねーし、何より、あの葉王がいるんだ。簡単にってわけにはいかなねーだろ・・。でも、オイラ、楽しくやるんだ。それが、一番だろ。」
「楽しい」・・。
また、奴の口から出る、その言葉。
「楽しい、か・・。クク、やはり麻倉葉だな。ちなみにシャーマンキングになるのは俺だがな。貴様には無理だ。」
「決め付けんなよ。」
「だったら、貴様も勝ち上がれ。」
「ああ、まったりと勝ち上がってやるさ。」
「何かその台詞、やる気あるんだかないんだか分からないぞ・・。」
「これがオイラのやる気だよ。」
「そうか。まったりか、お前にとっては最高のまじないだな。」
「まぁな・・。オイラの座右の銘ってとこだな・・。」
「だったら、俺はこうだ。」
「我、迷ワズ。」
俺は、迷わない。
明るい道を歩くのだ。
堂々と、そして、”楽しく”。
13年も遅れをとってはしまったが、人生の光の部分を俺はこれからもっと、知るのだ。
その前に俺はもう一度奴とぶつかりたい。
今度は、お互い光のもとでぶつかりたい。
今こそ、迷いはない。
そう、「我不迷」だ。