「真魚ちゃん、学校、遅れるよ。」
いつもより、起きるのが遅い真魚が、気になった翔一は、真魚を起こしに行った。
「う〜ん・・。えっ?」
真魚は、ガバッと起きて、目覚まし時計に目をやる。
「やばい・・。遅刻しちゃう・・。」
真魚は、顔が青くなった。
時計は7時45分。
「真魚ちゃん?」
「遅刻!!」
真魚は、慌ててタンスの中から制服を取り出す。
「真魚ちゃん?」
「ちょっと!翔一君、まだ、いたの?着替えるんだから出て行ってよ〜!」
遅刻の焦りから、翔一に対して大声を上げる真魚。
「あっ、ごっ、ごめん・・。」
翔一は少し顔を赤くして、台所へ逃げ帰る。
「しかし、真魚ちゃんが寝坊って珍しいな。」
言いながら、翔一は、真魚のご飯を茶碗に盛る。
バタバタバタ。
「真魚ちゃん。ご飯、できてるよ。」
「遅刻するから、いらない!!」
「でも食べないと・・。」
「いらないからっ!」
バタバタを家を出る。
(まじでやばいよぉ〜。)
必死で自転車をこぐ。
(昨日、寝るのが遅すぎたんだぁ・・。)
実は彼女が寝たのは午前5時。自転車をこいでいる今でも、頭がフラフラする。
(このまま寝ちゃそうって駄目じゃん・・。)
とか考えながら、学校に到着。
「門しめるぞー。」
生活指導の教師が生徒を急かしていた。普段、遅刻とは縁のない真魚なだけに、焦りまくっていた。
ダッシュで門をくぐる。
(何とか間に合った。)
教室に入ると、ほとんどの生徒が雑談に花を咲かせていた。
「あっ、真魚、珍しいね。遅刻なんて。」
2、3人の女子生徒が息を切らしている真魚に駆け寄る。
「遅刻じゃないよ。間に合ったから。」
「でもほんと珍しいよ。」
「ちょっとね、寝坊・・。昨日、寝たの5時なんだ。
「良い子の真魚がねぇ・・。」
女子生徒は顔を見合わせる。
「夜遊びかっ!」
「違うよ。ちょっとね・・。」
「何か、言葉が詰まっている。まさか〜。」
一人の女子生徒が真魚に詰め寄る。
「違うから。そういうんじゃないから・・。」
少し、顔を赤くする、真魚・・。
「そんなこと、一言も言ってないのに。」
にやりと笑う女子生徒。
ますます、顔が赤くなる真魚。
「記憶喪失の同居人とか。真魚が寝られない理由は。」
一同、ニヤニヤ笑っている。
「ちっ、違うって。翔一君は・・。」
「翔一君だって!」
始業のチャイムが鳴る。
真魚は、そのチャイムに胸を撫で下ろした。
そう、彼女が寝不足の原因は、編み物だった。最近、彼女は、学校から帰るとすぐに、部屋に閉じこもり、鈎針を握るという生活が続いていた。
(あ〜あ、慣れないことはするもんじゃない・・。)
(でも、もう少しだしっ。)
真魚は、心の中で自分を激励した。
しかし、その後の授業はほとんど、身にはいらなくて熟睡状態だった。
(あ〜、よく寝た。帰ってがんばらないと。間に合わない。)
真魚は、学活が終わるとすぐに、教室を飛び出す。
少し早めの速度で自転車をこぐ。
「ただいまー。」
「お帰り、真魚ちゃん。」
真魚は、台所にもよらず、自分の部屋へ直行した。
「真魚ちゃん?」
翔一は、不思議に思って、大根を切る手を止めた。
それから、数時間。
「真魚ちゃん、いる?夕食、できたんだけど。」
「うん、もうっちょっとしたら、行くー。」
「真魚ちゃん、何してるの?学校から帰ってから篭りっきりなんだけど・・。」
翔一は、真魚の部屋のドアを開けようとする。
「入らないでよっ!」
「ごっ、ごめん・・。とっ、とにかく、ご飯、だから・・。」
「分かったわよ。」
いきなり不機嫌になる真魚に首をかしげながら、翔一は階段を降りた。
「危なかったぁ・・。翔一君って、女の子の部屋でもお構いなしに入るから・・。」
真魚は一人ぼやいた。
それから数日間、真魚の篭りきり、寝不足の生活が続いた。
そして・・。
12月24日・・。午前4時・・。
「できたぁ!!」
真魚は、歓喜の声を上げた。
真魚は、淡い、水色のマフラーを掲げた。
「ちょっと、変になっちゃったけど、何とか・・。」
そのまま、眠気が真魚を襲い、真魚はそのマフラ−を抱くようにして眠りにおちた。