真魚と翔一はまず、リビングルームから皿やグラスを運んできた。

「じゃあ、僕がお皿を洗うから、真魚ちゃんはそれを拭いていってくれる?」

「うん。」

そして、二人は仕事を始める。

二人は手を動かしながら、

「何か、今日はすっごく楽しかったね。」

「うん。やっぱ、家族っていいな。」

「だね。」

「俺、今日改めて思っちゃった。ここにいて良かったって。先生も優しいし、太一も面白い奴だし、それから真魚ちゃんといてすっごく楽しい。」

「私といて、楽しい?」

「うん。楽しい。」

真魚は顔を赤くして小さく笑った。

「私も一緒だよ。翔一君。翔一君といてすっごく楽しい。」

「うん。」

真魚はその時、自分でもよく分からない不安を思い出した。

それは、今の生活が壊れてしまうということ・・。それは真魚にとって翔一との別れを意味するように思えてならなかったのだ。

そんなことないと思っても、時々ふとそんな感情が湧きあがり、その時の自分はどうしようもなく悲しく、不安でその不安は掻き消すことができなくて。

(この生活がずっと、続けばいいのに・・。)

真魚は、時々、そんな願いをかけていたのだ。

「翔一君、ずっと、ずっと、このままがいいな。私。だって、今が一番、楽しい。」

「真魚ちゃん?」

翔一が真魚を顔見た。

「家に帰ると先生がいて、太一がいて、そして、翔一君が笑ってくれて・・。」

急に涙が溢れてくる。自分がどうして泣きたいのかも真魚にも分からなかった。ただ、涙が勝手に。

「あれ?私、どうしちゃったんだろ・・。」

「真魚ちゃん・・。」

翔一は少し心配そうな顔した。

「とにかくっ、ずっと今のままでいたいなって、来年もクリスマスパーティーしたいって、駄目、かな・・。」

だんだん、声が小さくなり、下を向き、皿を拭く手が止まる真魚。

「ううん、そんなことない。俺も今が一番好き。だから、その居場所を守りたいって前に話したでしょ。先生に、太一に、真魚ちゃん。俺も真魚ちゃんと一緒だよ。」

「そう、だね。」

真魚は手で涙を拭った。

「そうだよ。」

「そうだよね。」

真魚は信じようと思った。信じたいと思った翔一を。そして、これからずっと翔一と一緒にいることを。

(だって翔一君だからね。)

それから、リビングルームのつくえを拭き、後片付けは終了した。

「お疲れ様。真魚ちゃん。真魚ちゃんが手伝ってくれたから早く終わったよ。」

「うん。」

真魚は今度は笑顔だった。

「そうそう、翔一君に、まだクリスマスプレゼント渡してなかった。」

「そっか。楽しみだなぁ。」

翔一はわくわくした表情を浮かべた。

「はい。」

「ありがとう。何だろう。開けてみていい?」

「ちょっと、恥ずかしいけど、いいよ。」

翔一は嬉しそうにリボンを解いていく。

「あっ、これ。」

「うん。翔一君が編んだのに比べたら全然下手なんだけど・・。がんばったんだ。」

そう言って、恥ずかしそうに下を向く。

「下手じゃないよ。すっごく上手。あったかいしね。」

翔一は嬉しそうにマフラーを首に巻いた。

「どう、似合う?」

「うん。」

真魚はにっこり笑った。

「嬉しいなぁ。やっぱ冬はマフラーだよね。」

翔一はマフラーを巻いて、無邪気に笑った。

その笑顔見て、真魚は心から、編んでよかったと思った。がんばって良かったと思った。

思えば、自分はこの笑顔が見たくて慣れない編み物をしていたのだと、改めて気付かされる。

そして、今、目にしたその笑顔。

(本当に良かった。今年は最高のクリスマス。)

「真魚ちゃん、来年もクリスマスパーティー、しようね。」

「うん。」

真魚は心から来年もこうであるように祈ったのだった。

こうして美杉家のクリスマスイヴの夜は更けていった。