「なぁ、賢伊織ばっか教えてないで、俺のも〜。」
「だったら教科書開けよ。」
半ば賢は呆れたように言う。
そもそも大輔が今日賢の家にやって来た真の目的は賢に宿題を見てもらうためではなかった。
だが、伊織の突然の訪問で賢が伊織の宿題を見ているのが何故か大輔には面白くなかった。
「ちぇ、ちぇ。」
賢はどうして大輔が拗ねているのかいまいち分からなかった。
(ほんと、鈍いよな・・・。)
「大輔、宿題やるんだろ。意味もなく拗ねるなよ。」
(意味があって拗ねてるんだよ。)
伊織は大輔が拗ねているのは自分の為ではと思い、気まずくなる。
「あの、一乗寺さん、何だか、僕、帰った方がいいですか?宿題、もう大丈夫ですし・・・。」
「いいよ、伊織君は帰る必要ないって。」
「でも・・・。」
「ほんと、いいから。ねっ。」
それが大輔にはさらに面白くない。
「ホラ、伊織君まで気を遣ってるじゃないか・・・。」
何でこいつはいつもこうなんだ・・・。賢は思った。
時々保育園児みたいに拗ねるし・・・。
「分かったよ。教科書開く。」
大輔は、このままでは余計に賢が伊織の方にいってしまうような気がした。そうなるとかなり面白くないので適当に持ってきた算数の教科書を開く。
「で、大輔はどこが分からないの?」
「全部。」
「もう、真面目に答えろよ。」
「だって全部分かんねーんだからしょうがねーだろ。」
「分かったから。最初からゆっくりやろう、な。」
賢は小さな子どもをなだめるように言った。
それが大輔には少し、いやかなり嬉しかったりした。
だんだん、さっきの面白くない気持ちが消えていく。賢が構ってくれる。
(なんか、悪く、ないよな・・・。)
賢は本当に教科書の最初の単元に戻ってゆっくりと丁寧に大輔に解説していく。大輔はそれがかなり嬉しくてたまらない。
(少しはまともに勉強しよっかな・・・。)
「大輔、分かってる?」
「あー、うんうん・・・。」
「ほんとに?」
「ほんとだって。」
実は説明聞くよりも賢の顔ばかり見ていた大輔だったのだが・・・。