やさしさ

 

「いくぞ、スティングモン。」

「おう。」

あの戦いから15年後、賢は警察官になっていた。

賢とスティングモンは一人の少年を追っていた。暴行、万引き程度の罪を幾度となく繰り返していた。

「止まるんだ。」

「うるさい、お前に俺の気持ちがわかってたまるか。」

少年は興奮していた。そして、あたりどころのない怒りが彼を突き動かしていた。

賢には、少年の苛立ち、悲しみが伝わってくる。それは、15年前の自分と似てたから…。デジモンカイザーだったあの頃、全ての世界を憎悪していた、あの頃…。

そしてまた、この少年も…。育った環境は違うが彼も憎み、悲しんでいた。全てを…。

「分かるよ、僕もね、子ども頃、君みたいに、この世の中全てが嫌いだった。」

少年は驚いたようだった。そして、不意に立ち止まった。彼は思った。この人なら僕の苦しみを取り除いてくれるかもしれない。

「俺、もう、嫌だ…。兄貴は頭よくて、俺、馬鹿だから…。」

彼の話を聞いて、賢は確信した。それは幼い頃の自分と感情だった。

「兄さんはなんでもできる…。でも、僕は…。」

そう思っていた。

「でもさ、君は、そのお兄さんの事は好きなんでしょ。」

「えっ?」

戸惑いながら、彼は頷いた。

「だったら大丈夫、僕もね、兄がいて、何でもできる兄だった。すごく、不安だった。僕の存在理由が分からなくてね…。だから、自分は兄さんが憎いって決め付けてた。でも、それって、違ってた。そう思ってた方が楽だった。」

賢は心から彼を救いたいと思った。15年前の自分と同じ瞳をしたこの少年を…。

「優しい…。」

少年はゆっくりと口を開いた。

「すごく優しい兄貴だ…。いつも僕を心配してる。」

「うん…。」

彼の兄さんは、生きている。でも、治兄さんは…。

 

 

 

15年前、自分の弱い心から、いろんな人を傷付けた。自分自身を含めて…。

しかし、手を差し伸べてくれる人がいることも知った。僕は、あんな風に人を救える人間になれるだろうか…。

賢は、ふっと、大輔の顔が脳裏に浮かぶ。彼の真っ直ぐな瞳に救われた。苦しみもがいていた自分に、迷うことなく手を差し伸べてくれた。闇に呑み込まれそうになっても彼が手を握ってくれていた。

「ありがとう…。」

賢は呟く。