僕は素直じゃない。
素直になりたいのに素直じゃない。
どうして僕は素直じゃないのだろう。
今日も、僕達は、デジタル作業復旧作業をやっていた。
今日は二人ずつで、作業にあたることになった。
クジで、僕と一乗寺さんと僕がペアになった。
「伊織、今日こそ、素直になれよ。」
大輔さんがからかうように僕にささやいた。
僕は、何故かムッとする。
「別に大輔さんには関係ないことです。」
また、憎まれ口を叩いてしまった。
僕はいつもうこうだ。
本当は、一乗寺さんと仲直りしたいのに。
大輔さんのいうことは当たってるのに・・・。
今日こそは。今日こそは。
僕と一乗寺さんは一つのエリアのダークタワーの破壊を任された。
「ゴールドラッシュ!!」
「スパイキングフィニッシュ!!」
ディグモンもスティングモンも絶好調で、ダークタワーは次々と破壊されていく。
その間、僕達はすることが、なくて、黙っていた。
僕は今日こそ一乗寺さんに話しかけようと思ったのだが、どうしてもその第一声が出せない。
ほんの少しの勇気を出せばいいだけなのに。
このエリアのダークタワーは完全に倒されてしまった。
(またチャンスを失ってしまった。)
「お疲れ様。ワームモン。」
「ううん、このくらい平気だよ。」
「ありがとう、アルマジモン。」
「朝飯まえだぎゃ。」
「お疲れ様。伊織君。」
一乗寺さんはそう言って僕に笑いかける。
こんな風に笑える一乗寺さんこそ本当の一乗寺さんだと分かっているのに。
「お、疲れ様でした。」
僕はつい、ぶっきらぼうに答えてしまう。
(何でもっと嬉しそうにできないのだろう・・・。僕は・・・。)
僕達は集合場所へ向かって歩き始めた。
(今こそ・・・。)
でもやはり、僕は何も言えない。自分がここまで弱虫だったなんて・・・。
正直、情けない。
仲直りしたい。
一乗寺さんと話がしたい。
そんなことばかり考えていた。
ドシャ!!
色々考えてばかりいて、僕は何時の間にか、石につまづいて、転んでしまった。
「大丈夫かい?伊織君。」
「ハイ、大丈夫です。お構いなく。」
また、言ってしまった。もっと言い方があるのに・・・。
僕は立ち上がろうとした。
「いたっ!」
足首がズキズキ痛み出す。
「伊織君、ちょっと、足、挫いてるんじゃない。足、見せて。」
「大丈夫です。」
「大丈夫じゃないから。」
一乗寺さんは僕を座らせ、足に触れる。
「やっぱり。これじゃ歩けないよ。」
「背中に捕まって。」
一条寺さんはしゃがんで、背中を僕に差し出す。
「歩きます。」
僕は何故か意地になってしまって立ち上がろうとする。
「いたっ。」
「ほら、無理しないで。ねっ。」
ついに僕は一乗寺さんの背中におぶさる。
「よいしょっと。」
一乗寺さんは僕を背負って立ち上がる。
一乗寺さんはそのまま歩いた。
「ごめんね。恥ずかしいかもしれないけど、我慢してね。」
僕を背負って大変な方なのは一乗寺さんなのに、僕の事ばかり気遣ってくれている。
ごめんなさい。
こんな優しい人に僕は素直になれないなんて・・・。
全然誠実じゃない。
でも・・・。
今度こそ・・・。
「あの、一乗寺さん。」
「何?伊織君。」
「ありがとうございます。」
「いいえ。どういたしまして。」
一乗寺さんはニッコリ笑った。
その笑顔は本当にやさしくて・・・。
何故か僕が照れてしまう。
「治兄さんもね。」
「えっ?」
「治兄さんも、こうやって僕をおんぶしてくれたんだ。」
一乗寺さんは静かに、でも、嬉しそうに語り始めた。
「僕が泣くとね、いつも治兄さんがおんぶしてくれた。僕、その時の兄さんの背中の感じ、今でも覚えてるんだ。すごく暖かくて、大好きだった。」
その時の一乗寺さんは本当に幸せそうで・・・。
素直じゃない僕の心を溶かしていく。
「僕も、一乗寺さんの背中、好きです。」
「そう?ありがとう。伊織君。」
「ごめんね。変な事か語っちゃって。」
「そんなこと、ないです。」
「ありがとう。」
僕は、今日、やっと素直になれた気がする。
一乗寺さんの嘘のない優しさに触れて。
前から分かってたんだ。
優しい人だって。
「あの、これからも、よろしくお願いします。
「こちらこそ。よろしく伊織君。」