今日は、美杉教授一家は家族で遊園地に来ていた。この間、真魚が遊園地のチケットを友人から譲り受けためであるである。(HEART TO HEART参照)
「で、どれ乗るよ〜。」
太一ははしゃぎながら言った。
「あっ、これ、お化け屋敷なんてどーよ。なぁ翔一。」
「えっ・・。おばけ・・。」
翔一がピクリと肩を震わせた。
「まさかその年で怖いとかはなしにしようぜ。なぁ、翔一。」
太一は翔一の肩を叩いた。
「そ、そんなことないって。」
ムキになる翔一。
「四人だとさ、あんまり迫力なさそうだからなぁ・・。」
太一が腕を組んでぶつぶつ言っている。
「そうだ。二人ずつってのはどーよ。」
「二人ずつ・・。」
今度はその言葉に真魚が反応する。無理もない。実は真魚は、ここに来るのは翔一と二人きりという予定だったのだ。
(チャンスかも・・。)
「組み合わせは、その、どうするの?」
真魚は少し顔を赤くして言った。
「もしかして、真魚姉。」
太一はニヤリと笑った。
「な、何よ。」
「分かってるって。真魚姉と翔一で、いいんだろ。翔一が喚く姿にお目にかかれないのは残念だけどな。今回は真魚姉に譲ってやるって。」
「そ、そんなこと言ってないでしょ。」
更に顔を赤くしてムキになる真魚。
「うわ、赤くなってるし。なぁ、翔一。」
太一はニヤニヤしながら、翔一の肩に手を置く。
「真魚ちゃん、大丈夫?夏でもないのに暑そうだよ。」
「お〜い・・。」
相変わらず天然な翔一の反応に太一は、真魚のことが少々気の毒になる。しかし、真魚の方は今日に限っては何故か、翔一の天然ボケに救われた気がした。この間まで、このままでいようと決心した矢先でもあったわけであって。
「まぁ、がんばれよ。真魚姉・・。」
「何をがんばるのよ。」
「で、俺はお父さんとだ。」
「あ、ああ・・。」
「まさか、お父さんまで怖いとかはなしだよな・・。」
「わ、私は怖くないぞ・・。」
と、言いつつ、カチンコチンの美杉教授。
「じゃあ、ジャンケンで勝った方からだ。こっちのチームは俺だ。」
「じゃあ、俺が・・。」
「ジャンケン・・。」
「ポンッ!」
翔一はグーで、太一はチョキだった。
「じゃあ、真魚姉と翔一先行けよ。」
「う、うん・・。」
ゴクリと唾を飲みこむ翔一。真魚は照れを隠しながら翔一と並んだ。その翔一は手と足が同時に動いていて、しかも、足が震えていた。
「翔一君、大丈夫?」
「な、何が?」
「足、震えてるし、手と足が同時に動いているよ。」
「気、気のせいだよ・・。」
「そう、それなら、いいんだけど。」
「じゃ、入ろっか。」
真魚の方は一生懸命冷静に見せているが、内心かなりはしゃいでいた。まさか、こんなことで翔一と二人きりになることができるなんて、思ってもみなかったからだ。
(ちょっとは、太一に感謝しなきゃね。)
思わず、クスリと笑ってしまう。
二人は係員にフリーパスポートを見せ、中に入る。
翔一は、ますます、震えが大きくなり、時々、歩が止まっていた。
「翔一君、どうしたの?行こうよ。」
「う、うん・・。」
自動ドアが開き、真っ暗や身の中へ二人は歩いて行く。時折、不気味な叫び声や泣き声が響く。
「わっ・・。わわ・・。」
翔一は肩をピクピクさせていた。
風の効果音・・。
「がぁぁぁぁぁ!!」
大きな唸り声とともに、グロテスクなデザインのゾンビの模型が飛び出す。
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ゾンビの登場の唸り声に負けない大きさで、翔一が喚く。
「ちょ、翔一君?」
真魚は、ゾンビよりも、翔一の喚き声の方に反応する。
ヒシッと真魚の手を握り、後ろに逃げようとする。その体温に思わずドキリとする、真魚。その手があまりにも強く真魚の手を握り締めていたから。
「翔一君、大丈夫?」
ドキドキしながらも、翔一の方を見る。
「こ、こわいよぉぉ・・。」
真魚の手を離さずに震える翔一。
思わず、クスリと笑う真魚。
「もう、翔一君はしょうがないんだから。」
「手、握ってていいから、行こう。ねっ。」
「う、うん・・。」
その後も翔一の怖がりようは子どもみたいだった。そして、真魚の方は、翔一に手を握られっぱなしで、ドキドキし通しだった。もはやお化け屋敷どころではない。
そして、とりあえず、二人は、出口へ出た。
「もう、翔一君、苦手なら苦手って言えばいいのに。」
「ご、ごめん・・。」
翔一は、シュンと下を向いた。
「いいよ。私はちょっと得したみたいだし。」
「えっ?何?得って・・。」
「教えない。」
そう、一言言って笑い出す。真魚。
何のことか分からず、頭をかしげる翔一。
「あー、楽しかった。」
真魚は心からそう思っていた。お化け屋敷よりも、翔一と手を繋いだこと、恐怖からとはいえ、翔一に必要とされているということから、とても充実していた。
その後、太一と美杉教授が出て来た、案の定、美杉教授もカチンコチンだった。
「あ〜、我が父ながら、情けない・・。」
そんなことをぼやく太一。
「で、真魚姉、翔一はどうだったよ〜。」
「た、楽しかったよ。」
「で、どういう風に・・。俺のお陰で二人きりになれたんだろ。」
真魚の耳元で囁く太一。
「別に、あんたに頼んだ覚えはないんだから。」
「チェッ、真魚姉のケチ!ということは何かあったんだろ・・。教えろよ。」
「だーめ。」
言いながら、クスクス笑う真魚だった。
「で、翔一はどうだったよ。」
「えっ、そのあの・・。」
太一には強がった手前、まさか、自分が、お化け屋敷の中で喚きまくったとは流石の翔一も言えなかった。
それから、色々回り、最後に太一の機転で二人で観覧車に乗ることになった、翔一と真魚。
「今日は、楽しかったね。翔一君。」
「うん。俺も。」
「今度は、その、あの、二人きりで・・・。」
勢いでそんなんあ台詞が口から出ていたことに気付き、慌てて、下を向く。顔が熱くなる。
しかし、その台詞の声は小さすぎて、翔一には届いてなかった。翔一は、後ろに、太一と美杉教授が乗ったゴンドラに気付いて、そのゴンドラに向かって、手を振っていた。
(聞こえてなかった・・。)
安堵とともに、少し、残念だという気持ちもあった。しかし、真魚は、正直、自分が、翔一と今以上の関係を望む時、今の一番安心できる関係が崩れてしまうのではないという不安もあったのだ。
(今はまだ、このままでいいよ、ね・・。)
そして、後ろのゴンドラには、「ヤレヤレ」という風に、顔に手を当てている、太一がいた。
こうして、美杉家の休日は過ぎていった。