試合を終え、蓮は久々に会う、姉、蓮と会場のレストランで食事をしていた。
「姉さん。何で、あんなに大勢来るんだよ・・・。」
蓮は、潤の顔を見ようとしないで、飲茶セットの中華ソバをズルズルとすすりながら言った。
「あら、だって蓮の晴れ舞台でしょたくさん、応援があった方がいいでしょ。」
耳を真っ赤にして尋ねる弟、蓮に潤はくったくのない笑顔で答え、烏龍茶に口をつける。
「そっそれは・・・。」
蓮が戸惑いの表情を見せる時、潤の顔つきが穏やかになっていった。
「蓮、あなたは本当に変わったわね。」
「なっ、何故そんなことが言える。」
「見れば分かるわ。前は今みたいに、笑わなかったし、顔を赤くしたりもしなかったわ。」
思わず、中華ソバを吹き出しかける蓮。
「おっ、俺は笑ってなどいないし、顔など赤くはない。」
「嘘ばっかり。はい、鏡。」
潤はにっこり笑って、蓮に鏡を差し出す。
「うっ・・・。」
自分の顔があまりに赤いのに、気付き、蓮は絶句した。
「ほらね。」
「こっこれは、熱いから、そうに決まっている・・・。」
一人で焦っている弟を見て、潤は静かに笑った。
「葉君には感謝してもし足りないわね。」
”ぶぶっ。”
今度は、蓮は、本当に中華ソバを吹き出してしまう。
「あらあら、蓮ったらはしたないわよ。」
僅かにからかうような口調で潤はそう言い、ハンカチを手渡す。蓮は、渡されたハンカチで口をこするように拭いた。
「何故、奴の名前が出てくる。」
蓮はムスッとした顔つきで言った。
「それは、あなたが一番よく分かっていることだわ。全く、照れ屋なところは相変わらずね。」
「そっ、それは姉さんが・・・。」
「でもあなたは、確実に、葉君に影響されている。いいえ、むしろ、葉君に惹かれているんだわ。」
「おっ、俺は・・・。」
蓮は、考えた。自分が以前と変わったことくらい、自分自身でよく分かっている。そして、それは、葉の影響というよりも、葉に惹かれた心が自ら変化していったということも。最近は、葉と行動をともにしたことで、葉の心の広さ、大きさ、にさらに惹かれていった。そして、あの時蓮は、葉とぶつかり、巫力を空にされた時、蓮は葉に救われたと心から感じたのだ。
そして、蓮は心から生きることを”楽しい”と思えるようになった。
「姉さん・・・。俺も、奴みたいになれる、かな・・・。」
蓮にしては、少し小さな声。そして、珍しく自身のなさげな、しかし、素直な感情から出た一言だった。
「なれる。あなたは、もう十分変わったわ。」
「私ね、あなたがシャーマンキングに例えなれなくても、あなたは、このシャーマンファイトでとても大きなものを得ると思ってるの。」
「おっ、俺は、必ずシャーマンキングになるっ。」
蓮は、勢いを付けるように、言い、肉まんを頬張った。
「そうね。」
そう言う潤の目は母親の優しさとどこか似ていた。
「じゃあ、姉さん、お母様達の所へ戻るから、身体に気を付けて頑張るのよ。」
「ああ。」
そして、潤は蓮を残して席を立った。
「お〜い・・・。」
一人になった蓮に気の抜けたような呼び声近づいてくる。
「お〜い、蓮。」
振り向くと、相変わらず、気楽そうに笑っている、葉が立っていた。
「何話してたんだよ〜。おまえ達。久々の再開だろ〜。」
「うっ、うるさい。お前には関係ない。」
「教えろよ〜。」
肩に手を乗っけて、葉は笑った。
「その手をどかせ。鬱陶しいぞ。」
「堅いこと言うなよ。」
「貴様は俺の食事の邪魔だっ。」
「だったらおいらも一緒に食うぞ〜。一人じゃ寂しいだろ。」
「寂しくなどないっ。来るなっ。」
「ていうか、これ美味そうだぞ〜。」
葉は蓮の食べかけの肉まんをパクリ「と一口食べる。
「食うな〜!」
「ケチケチすんなって。今度たこ焼おごってやるからさっ。」
「たこ焼か、考えておこう。」
そんな会話を繰り広げる、蓮の口は、僅かに、笑っていた。