ブーメラン

 大空に力いっぱい投げても、手元に戻ってくるブーメラン。オーストラリア原住民・アボリジニの狩猟や祭事などの道具として知られ、現在では、国内外で競技会も開かれるほど愛好家が多い。最大の魅力は子犬のように宙を駆け回らせて華麗にキャッチする爽快感。だが、それ以前に、なぜ戻ってくるのか不思議でならない。謎を解くためにも、やってみたくなった。
 材質は木、プラスチック、紙に大別される。重さは最大で50c程度。翼は一般的に飛行機と同じで風を切る縁は丸く反対は斜めに、表は丸く裏は平らに削られている。形は「く」の字形と角が多少丸い帽子形の二枚翼が代表格だが、現在はキャッチしやすいプロペラ形の三枚翼が主流。羽の数は五枚翼くらいまである。多くは手作りで、デザイン
も鳥や飛行機など個性豊かなものもある。「ちょっと見てください」。日本ブーメラン協会代表理事の先光吉伸さん(52)が、はがき大の厚紙で作った三枚翼の紙ブーメランを自宅で投げて見せてくれた。左に急旋回後、水平回転しながら、すっぽり手の中へ収まった。お見事!糸で操られるように戻ってくる様は、何度見ても驚くばかりだ。感動は人を動かす。水戸フ゛ーメランクラブに在籍する平井剛さん(32)、良子さん(33)夫妻が始めたきっかけも戻ってくることにびっくりしたからだ。
「オーストラリア旅行で買ったブーメランが飛ばず、調べたら飾り物の土産だったんです。実物を投げて手元に戻ってきたときの感動は忘れません」と、良子さん。ブーメランを科学的に研究している大阪経済大学の西山豊教授(54)(情報科学)は、「科学性、創造性、達成感」の三点を指摘する。「自然を体験できるし、自分で道具を創ることで、物理の原理も学べる。そのうえ、キャッチに成功した時の喜びは格別です」 ただ、宙を舞うブーメランは軌道が予測できないため、安全には最善の注意が必要だ。最低半径50b以内に人や障害物のない広場で投げたいもの。保護メガネの着用も心がけたい。
 現在、日本ブーメラン協会の会員は約450人。「一人でもやれるから、隠れファンは未知数」と、先光さんは苦笑する。さて、肝心の話しだ。ブーメランが戻ってくるのはなぜ?「物体の運動が持続する『慣性の法則』の応用なんです。翼を立たせて、ふり下ろすように投げたブーメランは表側から見て反対時計回りに回転します。上下、前後の翼
の位置によって生じる揚力の差から、左へ左へと回り始めます。同時に本体も左に倒れるはずですが、回転自体を持続させる慣性の動きで、軸の傾きを戻す力が生まれて、本体は逆に右に横倒しになりながら一周するのです」・・・昔から物理は苦手だったが、何とかイメージはつかめた。次回はいよいよ挑戦編。記者の投げるブーメランは、はたして本当に我が手に戻るだろうか?
大空を一周して、自分のところに戻ってくるブーメランに、いよいよ記者が挑戦する。ブーメランは滞空時間や正確さなどを競うスポーツ競技でもあり、今月25日には、さいたま市の東京農業大学総合グラウンドで大会が開かれるというが、それは初心者には雲の上の話。今回は初めての一歩。「投げて、キャッチ」を目標に水戸ブーメランクラブの門をた
読売新聞日曜版「トライ」に連載(03'5/11.18.25)
たいた。
練習場所は、茨城県ひたちなか市の県立笠松運動公園の広々とした芝グラウンドだ。空は快晴だが、あいにくと風が強い。「平均風速が4b以上の日は、初心者は避
の第一投。左足を一歩踏み出し、野球の投手感覚で軽く投げると、一直線に飛んだ。やがて左旋回が始まる。さあ、戻ってくるぞと、緊張しつつ身構えていたら、旋回後すぐに失速し、ふらふらと落下してしまった。それならと、力んで投げた二投目が、大きく旋回しながら戻ってきた!だが、それでも足元に届かず、5、6b先に落下。三投目は、左後ろに大きく流れて行った・・・・・。 思うように戻ってこないのはなぜか。「投げる力ではなく、回転が弱いと失速するんですよ。また、風に向って45度に投げないと、バランスが崩れて前後左右に落ちてしまいます」。関根さんの解説に納得したものの、結果が出ない。クラブ歴9年、アキュラシー競技の名手・海老沢義明さん(39)が、強風要の四枚翼を投げた。ポリプロピレン樹脂製で、翼が先端から中心に向って細くなっているため、遠心力が強く安定している。ゆっくり旋回して戻ってきた所を見事にキャッチ。「風を読み、自分の癖と力を見極め、道具と投げ方を工夫するのが上達のコツです」と、海老沢さん。なるほど、ブーメランの極意は、的確な状況判断なのか。
なかなかキャッチできずに、何度も何度もダッシュで拾いに行く。これが初心者の通過儀礼かと思い知った。だが、それでも、大空を相手に流す汗はさわやかだ。「お、今度はいいぞ!」。何投目かに、関根さんが叫んだ。旋回後、ゆっくり記者の頭上に舞い戻ってきた。ほとんど空中停止状態のブー
メランを、それ、キャッチ・・・・・両手いっぱいに伸ばしたが、空振りして落下。情けない話だが、緊張で腰が引けたのだった。先輩たちにキャッチのコツを尋ねた。「落下地点を予測し移動したら、両手を大きく上下に広げて待ちうけ、体の正面でサンドイッチのように挟み込む。」胸やおなかに近い方がキャッチしやすいですよ」関根さんは規定のキャッチを競うトリック/ダブリングの優勝経験者。片手はもちろん、背面、股下、両足キャッチなどという荒業も繰り出す。記者は何度も挑戦したが手に当てるのが精いっぱい。風にも泣かされ、残念ながらキャッチに至らなかった。しかし、戻ってきたブーメランに触れるだけでも、けっこう感動するものなのだ。「風が微風なら、キャッチできましたよ」関根さんの言葉に、負けん気がむくむくと頭をもたげてきた。
けたい所です。でも、風のない日なんて、まずありませんからね。風を読むのはブーメラー(ブーメランプレーヤー)の基本ですよ。と、クラブ代表の関根さん(53)。 バランスをとるため、上級者は、風穴を開けたり、重りに硬貨をテープで張ったり、数十本の自家製ブーメランを使い分ける。記者は、関根さん手作りの木製二枚翼を借りた。「前に見える木の、ちょっち上の方を狙ってください」心配そうな先輩ブーメラーたちに見守られながら
 風を切り、大空に弧を描いて戻ってくるブーメラン。より正確に、なおかつ"かっこよく"できるようになるには、その多彩な世界を知ることが大事。最終回は初心者向けの道具選びや、ちょっとステップアップして競技者を目指す人のための種目ガイドなど、様々な役立ち情報をお届けしよう。
初心者はまず、軽くて安全な素材の三枚翼を室内で投げ、感覚を磨くことから始めよう。 道具は手作りが基本だ。古いはがきや牛乳パックの空き箱を加工すれば、簡単に出来る。また、ほんのページをそのまま切り抜いて使える専門書「紙ブーメラン」(製作・著 トギー 誠文堂新光社)などもある。 体育館などの広いスペースでは協会が開発したソフトブ
ーメラン「カイラン」がおすすめだ。発砲ウレタン製で、重さ約30cと軽く、飛距離は5〜10b程度出る。微風なら、屋外でも楽しめる。一個千円(税込み)で協会で注文を受け付けている。 なれてきたら、広々とした屋外で、木製やプラスチック製を投げてみたい。木製なら、模型飛行機に使うカバ材の航空ベニヤか、シナ材のベニヤ(均一の五層タイプ)が素材に最適。量販店などでは、厚さ3〜5_で
50a四方なら数百円で手に入る。プラスチック製は、ベークライト、ポリブロピレン、塩ビなどの材質で、厚さ2〜3_のものを選ぶ。 完成したら翼に多少角度をつけたり削ったりして調整することも必要。思い思いのデザインを工夫すれば、楽しみも広がる。 もちろん、既製品もある。通信販売が主体で、一流デザイナー製品は数万円単位。室内やスポーツ向けなら、一本480円から5000円程度で手に入る。
 これで準備完了。さあ、練習だ!と、外へ飛び出したはいいが、悩ましいのが場所探し。人や障害物のない半径50b以上の広場がベストだが、都会で見つけるのは難しい。候補地は郊外の自然公園や河川敷、貸し切のグラウンドなど。迷ったら
前を競い、二年に一度、欧米、豪州を中心に開かれるワールドカップ出場を目指している。次回、来年7月のフランス大会に向けて、今からチャレンジしてみても遅くはないかも。 子どもから高齢者まで、年齢を問わず楽しめるブーメラン。近年は理科の授業で物理の学習に紙ブーメランを使う小学校もあるなど、遊びと科学の両面から親しまれている。「親子教室などで、ブーメランを投げて戻ってくる所を見せると、子ども以上に親が感激してしまいますね」と、日本協会理事代表の先光さん(52)。そういえば、ブー
一度協会に相談してみよう。 ブーメランは、スポーツ競技としても注目を集めている。1986年に協会が発足し、現在は関東、関西、四国、九州などで加盟団体が活動中。約450人の登録選手は、年三回の競技会で腕
メラン愛好家たちの間に、世界共通の合言葉があった。「Many Happy Returns」(いっぱい幸せが戻ってくる。) さあ、改めて、大空へ第一投!
慣性の法則 倒れながら一周
手作りで広がる楽しみ
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回転が弱いと失速、落下