マイキー・ロビンソン ボーイソプラノリサイタル
平成28(2016)年10月23日
(日)
(第1回)13:00~14:10(第2回)14:40~15:50(交流会)15:50~16:20
Studio RiRiTa(名古屋) 


 日本でボーイ・ソプラノのリサイタルが行わるのは、希少なことです。しかも、日本にゆかりがあるとはいえ、シンガポール在住の少年の歌声を聴くことができるようになったのは、このリサイタルを主宰したルイスさんはじめ、協力した人たちの努力が実を結んだと言えるでしょう。会場になった名古屋市の「Studio RiRiTa」は、定員50人ほどのホールですが、観客の立場から言えば、舞台奥から出入りすることに不慣れなほかは、音響効果もよく、ボーイ・ソプラノの繊細な歌声には、最も適した音楽ホールということもできます。

 マイキー・ロビンソンは芸名というよりも愛称。本名は、マイケル・智也・ロビンソンで、現在12歳。4歳から歌の個人レッスンを始め、11歳から音楽大学の声楽講師より本格的な歌のトレーニングを受け始め、2015年ニューヨークの声楽コンクール(ジュニア部門)で1位を獲得し、同年12月カーネギーホールで行われた受賞者リサイタルに参加。また2016年1月にも米国で行われた音楽コンクールの世界大会にて入賞し、同年6月にニューヨークのカーネギーホール・スターンオーディトリアム大ホールで行われたサマー・ガラコンサートにソリストとして出演。シンガポールでは、東日本大震災復興のためのチャリティー・イベントなどにも積極的に参加という経歴で、今回のコンサートも、
「日本の皆さんに、歌を通して感動を与えることができれば嬉しい。」
と語っています。Youtubeでもその歌声の一端を聴くことができますが、生演奏となると、また違った魅力に接することができるかもしれないという期待が高まります。

 ♪ プログラム ♪

1.歌劇「フィガロの結婚」より Voi Che Sapete W.A.モーツァルト 作曲
2.Ave Maria ジュリオ・カッチーニ 作曲
3.Mandoline ガブリエル・フォーレ 作曲
4.ふるさと(1回目) 高野 辰之 作詞・岡野 禎一 作曲
  浜辺の歌(2回目) 林 古渓 作詞 成田 為三 作曲
5.君をのせて 宮崎 駿 作詞・久石 譲 作曲 

 ピアノソロ  鋤柄 知里
 即興曲第15番ハ短調「エディット・ピアフを讃えて」 フランシス・プーランク 作曲
 
6.For the beauty of the earth ジョン・ラター 作曲
7.Röselein,Röselein ロベルト・シューマン 作曲
8.Bright eyes マイク・バット 作曲

アンコール
  Ave verum corpus(1回目) W.A.モーツァルト 作曲
    Danny Boy (2回目) フレデリック・ウェザリー 作曲

 
 この日のコンサートは、モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」より「恋とはどんなものかしら」から始まりました。この歌には、コンサートバージョンと劇場バージョンと二通りの歌い方があるようです。この日は、ステージ衣装からしてもコンサート・バージョンだったようで、やや控えめながら、「僕はこんなに想っているんだよ。」と恋に恋するケルビーノの秘めやかな情感を豊かに歌い上げていました。第1曲目から感じたことは、これまで大きな舞台をいくつも経験していることが、歌にゆとりを持たせていることで、それが観客席にまで伝わってきました。カッチーニの「Ave Maria」は、モーツァルトの「子守歌」がフリースの作曲であるのと同じように、ソ連のウラディーミル・ヴァヴィロフの作曲であることが最近では明らかになっています。しかし、この甘美で流麗な曲は、高音域になるにつれて透明度が高くなり、清澄な旋律の美しさを浮き彫りにするように仕上がっていました。フォーレの「Mandoline」は、ピアノ伴奏のリズム形が面白い曲ですが、歌は優美さを大切にした丁寧な歌い方をしていました。続く、1回目の「ふるさと」は、情感を込めて歌っていましたが、有節歌曲であるが故に1番ごとに違う歌唱をすれば、特に3番ではさらに強い意志を表現できたであろうと感じました。2回目の「浜辺の歌」は、流麗さを超えた情念さえ感じさせるような歌い回しが魅力的であると共に、日本でもあまり歌われることのない3番の歌詞が、シンガポールには違う歌詞が伝わっているのではないかと感じました。前半最後の「君をのせて」は、一編のドラマを感じさせるような起伏のある歌いぶりで、この曲の山場を形作っていました。

 ここで、伴奏者の鋤柄知里は、プーランクの「エディット・ピアフを讃えて」を独奏しました。この曲は、上海から帰国以来名古屋に住んでいた牛田智大が弾くことで初めて知った曲ですが、憂愁な味わいのある曲に仕上がっていました。

 20分の休憩の後、後半の「For the beauty of the earth」は、主催者のルイスさんとのデュエットという思いがけない展開でしたが、殆ど一緒に練習することのないままにここまで演奏できること自体がすばらしいと思いました。続く「Roselein, Roselein」は、バラに呼びかける冒頭の言葉のウムラウトを強調した表現が、素朴な歌全体を引き締めているように感じました。「Bright Eyes」をこのステージの最後にもってきたのは、この歌こそが今のマイキー君の持ち味を最大に生かせる歌と言えるからでしょう。しぐさを含めた歌全体に豊かな表情があふれていました。
  アンコールは1回目が「Ave Verum Corpus」、2回目は「Danny Boy」でどちらももマイキー君の声質や歌心に合致した曲でした。アイルランド民謡のような哀愁に満ちた曲がきっと合っているのだろうなと思いながら、「Danny Boy」を名残惜しく聴いていました。

 この後、交流会もありましたが、マイキー君の話し声そのものがとてもきれいで、語り口が表情豊かであったことが心に残っています。ルイスさんは、このコンサートを「マイキー・ロビンソン ボーイソプラノリサイタル 2016」と紹介しましたが、それなら「2017」はあるのでしょうか。そのような期待を持たせる紹介でした。