フレーベル少年合唱団                                                                      
 最初の定期演奏会

   自分の少年合唱団鑑賞の旅のルーツは1975年9月のフレーベル少年合唱団定期演奏会に遡る。このことを思い出す限り書いてみた。初めて自分でチケットを購入して鑑賞した記念の演奏会である。この時は、将来日本の少年合唱団を聴きに行くようになるとは想像もしていなかった。

  フレーベル少年合唱団の存在を知ったのはビクター少年合唱隊がきっかけだ。『天使のハーモニー てんとう虫のサンバ』を聴くうち、日本にはどれぐらいの数の少年合唱団があるのかに興味をもった。現在ならネット検索になるが当時の情報収集は図書館が主力だった。そのような資料が置いてありそうな図書館は自宅から徒歩25分ぐらいの場所にあるのでそこまで出かけなければならなかった。『音楽事典』という名前だったと思うがこれが年度ごとに出版されていた。それで調べるうち、今現在覚えている少年合唱団の名前は「フレーベル少年合唱団」「桃太郎少年合唱団」「広島少年合唱隊」だった。その中で、フレーベル少年合唱団が都内にあることを知った。レコードの存在を調べたが見つからなかった(行きつけのレコード屋に調べてもらった。当時は分厚い台帳だった)。数年後、上野の東京文化会館の資料室に行きLPレコードを視聴できたがそのレコードは廃盤になっていた。話を1975年にもどそう。朝日新聞の夕刊のコンサート情報で敬老の日に昼公演が都市センターホールで開催されることを知った。早速ホールの住所を職業別電話帳で調べ、更に千代田区の地図で場所を確認した。定期演奏会に関しては合唱団に電話すればと思ったが億劫なので当日いきなり会場に行ってみた。幸いにして当日券は購入できた。開場を待つうち、休憩になった団員たちが制服姿で出てきた。中学生とおぼしき団員が演奏会に来た友だちと「連休中、全然勉強できなかった」「俺たちもだよ」と談笑していたことを覚えている。

   開場になり席を確保してプログラムを見ると、中学2年生まで在団していることを知った。小学生の一番下の学年は覚えていないが1年生はいなかったように思う。合唱団の人数は覚えていないが「少ない」とは思わなかった。40名弱いたのではと思う。プログラムを読むうち、いつも行っているオペレッタは今回イソップではなく西遊記を行う旨が書いてあった。今の子どもたちには勇壮に駆け回る孫悟空の方があっているということも書いてあったような気がする。(つづく)

    開演すると合唱団が整列し「きょうは ぼくらの 演奏会、演奏会、みなさん ようこそ、こんにちは こんにちは こんにちは みなさん こんにちは」と歌った。「ただいま、歌でご挨拶したのはフレーベル少年合唱団です。続いて団歌『僕らの歌』を演奏します」とアナウンスが流れたような気がする。団歌を元気に歌うと演奏会の始まりだ。ここから、指揮者の磯部俶先生が曲の解説をしながら演奏会を進めた。T部はロバの会の作曲者による合唱曲で覚えている限りを書こう。曲名は正しいかどうかわからないのでご容赦いただきたい
・『おとなマーチ』 ・『青い芝生』 ・『少年が来て 鳩が来て』 ・『ヤマアラシ』 他にも1曲か2曲あったかもしれないが残念ながら記憶にない。
  『おとなマーチ』は「なりたい、なりたい、なりたい、なりたい、大人になりたい」で始まる愉快な曲だ。少年たちは生き生きと歌っていたように思う。『青い芝生』は一転静かな曲で「青空は 青い芝生だ 昼の月が 昼寝して」で始まった。少年たちの声は曲調にあっていてわめくようなことはなかった。声がきれいに伸びていたことを覚えている『少年が来て 鳩が来て』も静かな曲調で、公園で絵を描いていた少年のところへ鳩が来て一緒に遊ぶという歌詞だった。磯部先生によると、最初の2曲が低学年向きでこの曲は上級生向きとのことだった。静かなピアノ伴奏と合唱団の歌声のバランスが絶妙だった。これに対し、『ヤマアラシ』は、元気な歌だった。歌詞の内容は、ヤマアラシは元々海に棲んでいて象の30倍ぐらいの大きさだった。祭りには神輿にしてクジラたちが担ぎまわった。それが何かのきっかけ(この部分が記憶にない)でヤマアラシになってしまったというものだ。出だしは元気な歌声、ヤマアラシになった部分は寂しげに、そして最後、ヤマアラシは元、海のウミアラシと元気に歌い「おー」という掛け声で終わる。掛け声部分を小さな子どもたちが喜び「おーだって」とうれしそうに話す子もいた。当時はもっと元気な歌声でもいいのではと思ったが後年コーラスをやるようになってから静かに説得力ある声を出すことの難しさを知った。だからこの日のフレーベルは質の高いコーラスを行ったと理解できた。

  U部のオペレッタは、少年合唱団の保護者のみなさんが金閣、銀閣の手下になって合唱した。男性ボイストレーナー2名(立派な声だった)が金閣大王と銀閣大王を歌うという家族的な雰囲気のものだった。このオペレッタの最後に歌う『旅には歌がいっぱいあるな』を磯部先生が指導して、会場全体で練習してから開演となった。合唱団員が担当するのは、元気な孫悟空、おっとりした感じの猪八戒と沙悟浄、穏やかな三蔵法師、唐の兵士2名、その他のメンバーが岩と川になっての合唱だった。見せ場は、妖怪たち(保護者)に捕まった三蔵法師、猪八戒、沙悟浄を孫悟空が助けに来る箇所だった。金閣、銀閣が貫禄があり声が立派だったこと、それに合わせる保護者のコーラスが場を盛り上げた。更に金閣、銀閣が「妖怪たちのスローガン」と言うとお父さんたちが「よく飲み」、お母さんたちが「よく遊び」と答えるのも笑いを誘った。孫悟空が登場して丁々発止を行って、銀閣を瓢箪に吸い込むと「悪い遊びも吸い込もう」と元気に言う。「チンジャラジャラ」と言うと夜光塗料で描いたパチンコ台の絵が飛んでいく、同じように「赤タン、こいこい」で花札の絵が、「ホールインワン」でゴルフクラブがなど分かりやすい演出が面白かった。最後に三蔵法師が「先はまだ長いが旅を続けよう」で終わる。この後、会場全体で『旅には歌がいっぱいあるな』を歌って演奏会は終了した。

  『旅には歌がいっぱいあるな』の歌詞は3番まであったと思うが覚えているものを書いておこう。正しいかどうかはわからない。
旅には 歌が いっぱあるな 思い出したよ 風の歌 風の歌 ひと汗かいた 峠道 タチツボスミレが 歌ってた 歌ってた あのそよ風が なつかしい

  歌いやすく、覚えやすい歌だった。この演奏会は家族的雰囲気で和やかなものだった。良い悪いは別にして、現代の演奏会の雰囲気とはかなり違っていた。



ジャンルの広いプログラム
    
フレーベル少年合唱団第44回定期演奏会
                          2004年 11月17日


 チケットの購入が面倒だった。パンフレットに記してある問い合わせ先にTELすると「担当者が会議中」とのことで対応してくれた女性に当日受付での取り置きが可能かどうかの確認を頼み後刻TELしたら取り置きは可能だが当日券の購入をして欲しいようなニュアンスだった。「会社関係の方ですか」と聞かれたからそのような客が多いのだろう。昨年は「平日の夕方5時までに来れば購入できる」の一点張りだったから少しはよくなったと考えよう。フレーベル社の隣にフレーベル館という子ども向けの本や教育玩具を販売する店があり土曜日も営業しているがそこではチケットを販売していない。一般の人には積極的にチケットを売ろうという気がないのではと思ってしまう。
 当日は6時前に会場のイイノホールに着いた。ホールのある7階から一つ下の6階まで列が伸びていてなかなか盛況だ。列に並び、なぜかもぎり嬢の立つ場所より奥にある当日券売り場でチケットを購入した。プログラムは以下の通りである。
オープニング「開」
    団歌
第一部   「爽」
1. 夢の世界を
2. カリブ夢の旅
3. 君をのせて
4. マイ バラード
第二部 「欧」
1. デバホデウンボトン
2. ラトンケデビジャエルガト
3. エルバティオデミカサ
4. サンタルチア
5. セレナータ
6. オーソレミオ
第三部   「雅」
1. 木曽節
2. よさこい節
3. 黒田節幻想
第四部   「憧」
1. 春が来た
2. 海
3. とんぼのめがね
4. 雪
5. 赤とんぼ
6. はるかなる望みを胸に
7. 天にはさかえ
第五部 「雄」
 混声合唱「筑後川」
1. みなかみ 2.ダムにて 3.銀の魚 4.川の祭 5.河口

 パンフレットによるとはセレクト(小2〜中1 ソプラノ10名 アルト10名 メゾソプラノ7名) A組22名(年中〜小4) B組34名(年少〜小2 未就園児1名)の3クラスに分かれている。
 オープニングはセレクトとA組が団歌を力強く歌った。昔は「今日はぼくらの演奏会」で始まる『演奏会の歌』もあったが最近はやらないようだ。新しい制服である紺色のダブルスーツは落ち着きのあるセンスのいいデザインだ。リーダーらしい少年が歓迎の挨拶をし「一部はさわやかな曲を演奏します」との言葉に続き一部が始まった。流れるような歌声は曲のさわやかな雰囲気を表し特に「カリブ夢の旅」は晴れ渡ったカリブ海を想像させるような仕上がりだった。1曲目と2曲目が終わるとA組が引き上げ残ったセレクトが三つの体形に分かれた。3曲目はやや平板な感じでもう少しメリハリが出ると更によい合唱になっただろう。最後の「マイバラード」は余韻を残すような合唱で序盤は上々のスタートを切った。
 2部の「欧」は最初の3曲はセレクト、A組、B組のセレクトでの演奏だ。原語での合唱で曲が始まる前に年下の団員が「小さなねずみを靴下の中で飼っています」「ねずみさん、ねずみさん。猫さんが襲ってくるよ。今日は襲ってこなくても明日襲ってくるよ」「僕の家の中庭は雨が降ったら濡れちゃいますが雨宿りしながらも遊べます」というように歌の説明をするのは親切でよい。スペインの童歌である3曲は短いながらもリズミカルで明るい曲でこういう曲を聴くと国民性がよくわかる。終わるとB組が引き上げセレクトとA組が残ってカンツォーネの合唱だ。伴奏にバイオリンが加わることで歌が引き立ちきれいな仕上がりとなった。ハイソプラノを歌った3名もきれいな声で演奏効果を高めた。
 3部はセレクトだけの合唱で一番の聴かせどころなのだろうが共演の和太鼓二つの音が大き過ぎ(自分の席は3列目で太鼓に近かった。後方の席にはどう聞こえたかは不明)合唱の邪魔だった。民謡歌手がマイクを通して歌っているなら効果的かもしれないが少年合唱には残念ながら釣り合わない。どうしてもというなら間奏でたたけばばよい。ここは余計な飾りつけは考えずセレクト本来のきれいな合唱を観客にしっかり聴かせるべきだった。日本民謡は少年合唱が歌うと違う魅力が出る。編曲もよく太鼓さえなければこの日一番のプログラムになったはずだけに残念。
 4部は団員全員による「春が来た」から「雪」は小さい子の元気な声が楽しい。客席から「かわいい」という声がありなんとも微笑ましい。このうち何人がセレクトに残るか興味がある。続いての「赤とんぼ」から「天にさかえ」はセレクトの中から選抜された10名の合唱だ。選抜メンバーだけにきれいに揃っているが賛美歌は曲の深さが足りないように感じた。もう少しゆっくりしたテンポで声を出すといいのかもしれない。
 最後の5部はセレクトと保護者、OBの混声合唱で団員がソプラノ、保護者である母親がアルト、OB6名がテノールとアルトのパートに分かれ聴き応えのある引き締まった合唱だった。OBは少ない人数にもかかわらずしっかり声が出ていて流石と思う。平日の夜では人数を集めるのが大変だろうが少年合唱団であるからには男声だけで歌うこだわりが欲しい。
 終わると団員全員が揃い『フニクリ フニクラ』『アンパンマン』を元気に歌った。客席から手拍子が起こりフィナーレらしいよい雰囲気ですべてのプログラムを終えた。また指同の手島明子氏が勇退し手島 英氏にバトンタッチされる旨の挨拶があった。満席の会場から拍手が起きた。
 会場を出て同じビル内にある洋食屋でビールの小瓶とポテトサラダを注文。今日の印象を書き出してみる。きれいなハーモニーで声もよく出ていたがなにか物足りない。理由はフレーベルならではの曲がないからと思う。広島BCには『折り鶴のとぶ日』、新潟BCには久住先生作曲のオリジナル曲があった。今回はこれを聴いたから演奏会に来た甲斐があったという曲が残念ながらないのだ。強いて言えば「アンパンマン」かもしれないがプログラムには入っていない。団歌もいい曲だがメインにはならない。フレーベル少年合唱団のために作曲された新しい曲があってもよいと思う。なんだかんだ言ったが団員たちを悪く言うつもりは毛頭ない。幅広いジャンルの曲を歌った団員たちに「お疲れさま」とねぎらいの言葉をかけたい。団員たちが合唱の楽しさを知り豊かな心を持つ人間に育つことを願う。

少年合唱だけのプログラムに好感
    
第45回フレーベル少年合唱団定期演奏会
                                                 2005年10月26日

  「恐竜の時代へタイムスリップ」の副題がついたフレーベル少年合唱団定期演奏会へ出かけた。当日のプログラムは以下の通りだ。
第一部    セレクト
 1,団歌  2,フェニックス   3,未知という名の船に乗り
 4,気球に乗ってどこまでも  5,ひろい世界へ  
 6,四季の歌 1)花  2)我は海の子  3)もみじ  4)冬景色
第二部 セレクト・A組
 児童合唱組曲「恐竜探検」
 1,さあ、タイムトラベル! 2,青い海 緑の大地  3,恐竜マンボ
 4,恐竜お経  5,恐竜が消えた日  6,地球よ いつまでも
第三部   A組 B組
1, 歌よ ひびけ 2,きょうりゅうとチャチャチャ 3,ジャンボゴリラと竹の子
4,勇気りんりん 5,アンパンマンマーチ
第四部   セレクト
1, シェリートリンド 2,帰れソレントへ 3,歌の翼に
4,シューベルトの子守歌 5,草原情歌 6,茉莉花
第五部 セレクト
1, 流浪の民 2,祭と花と娘 3,大地讃頌

  フレーベル少年合唱団は3クラスに別れている。幼児を主体にしたBクラス、小学校低学年が主体のAクラス、そして中学生と小学校上級生が主体のセレクトである。パンフレットによるとB組25名、A組24名、セレクト32名となっていてかなりの大所帯だ。今年は賛助出演はなし。会場は音響のよい紀尾井ホールなので少年合唱を純粋に楽しめそうだ。当日は雨で足下が悪いにもかかわらず開場直後に席はどんどん埋まっていった。今回も広角的に見ようと2階の最前列を確保した。

  時間になり『団歌』でスタート。力強い歌声で演奏会への期待が高まった。終わるとリーダーの団員が観客に挨拶。よく通るきれいな声は合唱団員ならではだ。第一部は比較的新しい歌から古い歌までジャンルが広いにもかかわらずどの曲も調和が取れた合唱だった。中でも『未知という名の船に乗り』は長いにもかかわらずメリハリの効いた合唱だった。

  第二部の合唱組曲は初めて聴く曲でステージには50名強の団員が上がった。曲の始めに若いメンバーが「さあ、出発だ。恐竜たちに会いに行こう」「地球に落ちてきた1個の隕石が恐竜たちにとって大変なことになりました」などと短いスピーチをするのは好感がもてる。この組曲は元気にタイムトラベルして恐竜の時代に向かう『さあ、タイムトラベル!』 青い空、緑の大地でゆったりと過ごす恐竜の様子を歌った『青い海 緑の大地』、草食恐竜と肉食恐竜がそれぞれの目的をもって動きまわる様子をユーモラスに歌った『恐竜のマンボ』、恐竜の名前がお経のように続々と出てくる『恐竜お経』、隕石のために地球が冷えていく中で恐竜たちが死んでいく様子を歌った『恐竜が消えた日』、今、豊かな自然を守っていこうと訴える『地球よ いつまでも』からできている。恐竜に興味のある人には図鑑等で見たイメージが膨らむはずである。この曲は元気のいい男の子向けの曲でメッセージ性もあり恐竜に興味のない人にも自然の大切さが伝わってくるはずだ。それぞれの曲のイメージをうまく掴んで合唱する団員たちはこの日、一番輝いていた。ここで休憩。

  休憩後、フレーベル館社長の挨拶がある。この中で、すべての練習に参加した団員に『精勤賞』を渡したくだりがあったがその団員をステージに出して紹介すれば他の団員の励みになるのだがと思った。話の主体は会社のアピールでそれも大切なのはわかるが、きょうの主役である少年合唱団を前面に出すような話を聞きたかった。

  3部はひたすら楽しく元気な歌声が聴けた。『アンパンマンマーチ』を聴いて客席で踊っている子がいるのは楽しい雰囲気だからだろう。昨年に比べ声が揃っていたのが進歩だったが幼児を指導する場合、「大きくなったらこの歌を合唱できるようにするための練習をしています」という目標が必要だろう。3部が終わると帰る観客がいてほぼ満席の客席に余裕ができた。自分の並びにいたうるさい幼児連れがいなくなったので合唱に集中できそうだが虚しい気分になった。

  4部はセレクトの選抜メンバー12名による合唱でソロも楽しめた。さすがにきれいなハーモニーで少年合唱の魅力を楽しめた。原語で歌うのも意欲の表れだろう。欲を言えばアカペラの宗教曲を入れる、または選抜メンバーの「主題」を決めた上での選曲をして欲しい。せっかくの選抜メンバーなのだから「柱」になるプログラムを考えるべきだろう。

  続いての5部はセレクト全員がステージに上がった。『流浪の民』は少年合唱の定番で楽しみな曲の一つだが快調なテンポで進んできたのがソロの前に演奏が止まった。「なぜ?」と思っていたらソロのメンバーが前に出るための間だった。前もって前に出しておくとか間奏の間に前に出る練習をしておくべきで指導者の考えを疑わざるを得ない。最後の『大地讃頌』を変声期前の少年だけで聴くのは初めてでここまでできるのかと感心した。だが男声がないのは物足りない。こういう歌こそOBの出番なのだがそうはできない事情があるのだろう。残念なことだ。アンコールは『ラデッキー行進曲』と『アンパンマンマーチ』。悪くはないが昨年も書いたようにフレーベル少年合唱団の歌と言えば「この曲」というのがあればもっと良い雰囲気で終わることができただろう。なんだかんだと書いてきたが最初から最後まで少年合唱だけでプログラムを組んだのは多いに評価したい。この姿勢を今後も続けるべきと考えつつ席を立った。

  外へ出ると雨は小降りになっていた。「軽くいきましょう」とOBの人たちに誘われ四谷駅近くの鳥料理の店で歓談した。OBならではの意見や感想を多数聞くことができ有意義な時間を過ごすことができた。歌をやっている人もやっていた人たちも共通して楽しい雰囲気がある。昔は少年合唱団の合宿があり、OBの人たちが現役の面倒を見ていたそうだ。その延長線が今の雰囲気につながっているのである。現在は合宿がないそうで伝統的な良さが後輩たちに伝わっていかないのは残念である。

広いホールで健闘
フレーベル少年合唱団第46回定期演奏会

                           2006年10月23日


  職場を出るやいなや、道楽さんは早足で駅へ向かった。普段は他の人に抜かれることがほとんどだがこの日は前の人をどんどん追い抜いていく。道楽さんが仕事に行く日はいつもお留守番のぼくだけれど演奏会のある日は一緒だ。今朝、職場に行く時はのんびり歩いていたのに今はまるで別人だ。「こんなに速く歩けるじゃないか」「職場は別に急いで行く場所ではない。でも演奏会は違う。人は目的に応じて行動が変わるんだ」「勝手にしてくれ。でも事故に気をつけろよ。事故を起こしたら、演奏会には行けなくなるぞ」「わかってる」電車にうまく乗り継くことができJRの錦糸町駅には6時過ぎに到着した。演奏会は6時30分に始まるから歩いて3分のトリフォニーホールには余裕で間に合う。「そこの店でホットドッグでも食べよう。空腹はよくないから」安心したぼくは、道楽さんにアドバイスした。
 この日のプログラムは以下の通り。指定された座席は2階前列の左端だった。

第1部  明日への希望  セレクト・A組
 1.団歌  2.心の中にきらめいて 3.Tomorrow
 4.Let’s search for tomorrow 5.遠い日の歌
 ※日本の歌
 1.ふるさと 2.みかんの花咲く丘 3.赤とんぼ
 4.ずいずいずっころばし 5.落葉松
第2部  祈り  セレクト・A組
1. アヴェ・ヴェルム・コルプス   W.A.モーツアルト
2. アヴェ・ヴェルム・コルプス     G.フォーレ
3.マリア・マーテル・グラチェ     G.フォーレ
4.ハレルヤコーラス        G.E.ヘンデル
休憩
第3部 僕達の歌  セレクト・A組・B組
 1.グルリンパ  2.リサイクルレンジャーの歌  3.木の葉のゆうびん
 4.クイ・クヮイ・マニマニ 5.サラス・ポンダ  6.地球はみんなのものなんだ 
第4部  映画の調べ セレクト
 1.チキ・チキ・バン・バン   2.チムチム・テェリー
 3.ムーン・リバー       4.慕情
第5部  ひのくにの歌 セレクト・A組
  児童合唱組曲「ひのくにの歌」
  1.お城は天下の名城で  2.ひごの昔ばなし  3.阿蘇

 今回の会場である墨田トリフォニーホールは1800名を収用できる大きなホールで新日本フィルハーモニー交響楽団の本拠地である。従ってオーケストラを鑑賞するのが本来の目的で少年合唱に向いているホールではない。しかし入場者数を考えるとやむを得ないことで難しいところだろう。今回のフレーベル少年合唱団は大きな声を出すことに主眼を置いたため残念ながら少年合唱特有の繊細さを十分に味わうことができなかった。それでも少年たちが健闘したことはおおいに評価したい。では定期演奏会のことをレポートしていこう。

 演奏会は例年と同じく団歌でスタートした。舞台にはセレクト、A組、B組合計55名の団員が整列し力強く歌った。まどみちお作詞、磯部 俶作曲の団歌は躍動感があり観客に元気を与える曲だ。終わると大柄な子が歓迎の挨拶と3曲続けて合唱する旨をスピーチした。最初の3曲は声で勝負という感じだ。ソプラノに比べアルトが強いのは最近の特徴だ。アルトが声を出すのをもう少し我慢すれば違う味わいがあったはずだ。4曲目が終わるとB組が退場し5曲目へと移る。この曲も大きな声に力点が置かれたが中盤できれいなハーモニーが聴けたのはうれしかった。次の日本の歌はセレクト20名の合唱となった。最初の『ふるさと』は一転して高音部と低音部のバランスがよくなり情緒のある合唱となった。このクラスは高音、低音のバランスがよく少年合唱らしい純粋さを楽しめた。これなら次の曲も楽しめそうと期待が高まった。その期待通りきれいなハーモニーを楽しめた。『みかんの花咲く丘』はオーソドックスな美しさ、『赤とんぼ』と『ずいずいずっころばし』は合唱向きの編曲による声の美しさを楽しめた。5番目の『落葉松』は合唱曲本来の美しいハーモニーを楽しめた。合唱は声の大きさも大切だが曲に合わせて声をコントロールすることに重点を置いた方がよい。これができるセレクトはやはり違う。歌い終わり、一度退場したセレクトが整列し直すと宗教曲となる。1,2曲目の『アヴェ・ヴェルム・コルプス』は「作曲者の違いを楽しんでください」の言葉通り、曲の特徴を捉えての合唱だった。『マリア・マーテル・グラッチェ』はテノールとバス、それとオルガンのために作曲され前半がマリアへの祈り、後半がイエスの栄光を讃える内容だそうだ。明るい出だしで始まりやや陰になって最後は祈りで終わる賛美歌で各パートの声がよく出ていた。伴奏をピアノではなくオルガンでやればそれらしい雰囲気になったかもしれない。2年前にフレーベルの宗教曲を聴いたときは、楽譜を撫でる感じだったがそれに比べ深みが出ていた。宗教曲は正しく歌うことと聴く者の心に響かせることが必要なので難しい。これができるようになると少年合唱団としての更なる発展があるのでおおいに期待したい。前半最後の『ハレルヤコーラス』はA組17名を加えての合唱で一生懸命歌っているのがよかった。変声期前の少年だけでの合唱も聴き応えがあった。

  「第3部はぼくたちの大好きな曲をお送りします」というスピーチで後半が始まった。少年たちはジャケットを脱ぎ、手を大きく動かしながらパワー全開の歌を披露した。1番目は長調、2番目は短調の曲でいずれもキャラクターソングだ。『リサイクルレンジャー』を聴くのは初めてで時代を反映した歌で「くるくるまわせ」という歌詞が印象に残った。終わると後列のセレクトが退場し、変わって未就学児20名のBクラスが登場した。「次はぼくたちが歌います」と元気に挨拶すると客席から拍手が起きた。『木の葉のゆうびん』はゆっくりとしたテンポの輪唱、『クイ・クヮイ・マニマニ』『サラス・ポンダ』は軽快なリズムに乗った歌で小さな子が好きそうな曲だ。またこの年齢だからこそ歌える歌詞を楽しむことができた。最後の『地球はみんなのものなんだ』は低学年向きの歌だがBクラスのメンバーは無理なく歌っていた。数年前のこのクラスは好き勝手に声を出す子がいたがそれがなくなり抵抗なく耳を傾けられるようになった。指導の成果であろう。このクラスのメンバーには歌の楽しさと正しい歌い方を指導することを望みたい。

 4部の「映画の調べ」は再びジャケットを着用したセレクトによる合唱だ。4曲とも旧い映画で年輩客を対象にしたようだ。ソロや重唱を軸にして歌を引き立たせる聴き応えのあるプログラムだった。中で秀逸だったのは『ムーンリバー』と『慕情』(ともに原語)をソロで歌った2名のソプラノだ。前者は放射線状に伸びていくような声、後者は直線的に伸びてくる声だ。マイクを使ってだが2名の素直に伸びる声はボーイソプラノの魅力を伝えることができた。ただ一部の曲で重唱と指揮のテンポがややおかしい部分があったのは残念で指揮が見えにくかったようだ。少年たちはプロの歌手ではないのだから指揮者はわかりやすく指揮をすることに重点を置いて欲しい。

 5部の『ひのくにの歌』はプログラムの締めくくりにふさわしい曲だった。この曲に関心をもち楽譜を購入したので一部を引用させていただく。それによると曲は1975年、熊本児童合唱団の東京公演のため、作詞作曲されたものだそうだ。初演の結果、NHKの音楽番組「歌はともだち」への出演依頼がった。テレビで3曲目の『阿蘇』が全国に放映されると大きな反響があったそうでその点はよくわかる。1曲目の『お城は天下の名城で』は「えっ? なんだって」というように耳が自然に歌を聴く体勢になった。2曲目の『ひごの昔ばなし』は「ねんねこ ねんねこ ねんねこばい」と方言の歌詞で始まる。この部分のソプラノソロがきれいに決まり次第に音楽に引きこまれた。最後の『阿蘇』はその雄大さを合唱で表現することができた。そういう意味でこの曲は広いホールが味方となった。自分は阿蘇を2回訪れている。歌に出てくる「草千里」などの風景を思い浮かべまた訪れてみたいという気持ちになる合唱だった。またソロやオブリガード、重唱が散りばめられていたのもよかった。終えるともちろん大きな拍手が起こりアンコールを促した。アンコールは『シング』。のびのびとした合唱は大きなプログラムを終えた安堵感があった。最後は恒例の『アンパンマン』だ。これは全クラスが会場の手拍子に乗り楽しそうに歌った。その結果、観客もおおいに楽しんでいた。聴き応えのある演奏会ではあったが、残念なことを一つあげると観客のおばさんたちの「かわいい」という声しか聞こえなかったことだ。合唱に対する反応がないのは会社関係の招待客が多く音楽そのものに興味がないのかもしれない。だとしたらさびしいことだ。音楽の話と言えば休憩後に挨拶した社長の話も音楽的には興味のない話しだった。音楽と少年合唱に詳しい社員がフレーベル少年合唱団の意義を説明する方が厚みが出るだろう。合唱ファンを対象にしたミニコンサートのような催しがあればと思う。

 終演後、OBの人たちに「一杯行きましょう」と誘われご一緒した。OB会の集まりはいつも楽しく、ご相伴できるのはうれしいことだ。現役の少年たちもこのような大人になって欲しいものである。


入場者を楽しませたフレーベル少年合唱団
      
野外コンサートでも一生懸命な少年たち
                                         2006年11月18日

  ぼくは六義園の中を散策したかった。秋らしくなった空気を感じつつ木々の中を歩いたら気持ちがよさそうだ。しかし明日は北九州少年合唱隊の定演で小倉日帰りだし、今日中にやらなければならない用事をいくつか抱えている道楽さんには無理な相談だ。「一段落したら連れてきてあげるよ」ぼくの気持ちを察したようで道楽さんは慰めるように言った。「えっ? 六義園に何をしに来たかって? フレーベル少年合唱団のオータムコンサートを鑑賞するためだ。ぼくたちコンビの行く所には少年合唱があるのだ。ではこの様子を道楽さんに紹介してもらおう」

 駒込駅に近い六義園に入ると秋を楽しもうという人たちで賑わっていた。演奏場所となる枝垂れ桜の前には赤い毛せんを敷いた床几が用意されそこに座っている人もかなりいた。アルト側の前列が空いていたので席を確保して一段落。合唱団が歌う場所にはスピーカーが左右に1台ずつ置かれ、その間にスタンドマイク4本が等間隔に並んでいた。中央には指揮者用の譜面台、そして左の隅には音響機器が置いてあった。演奏効果を考えると屋根が欲しいが江戸時代の庭園には望めない。暖かい日が続いた東京だが急に気温が下がった。この日は快晴だったが1時近くになると気温が下がり寒くなってきた。オータムコンサートは1時開始の予定。5分前になると係りの男性が「準備に手間取っているのでもう15分ほどお待ちください」と観客に呼びかけた。すると隣に座っていた二人ずれのおばあさんが「えー? 早くしてよ」と文句を言った。それを「楽しみは後に取っておきましょう」と返すと笑い声が起きた。周りを見るといつのまにか大勢の人が集まっていた。

 そんな中、制服姿の11名(多分セレクト)が1列に整列した。代表2名がマイクの前に立ち一人が「みなさん。ようこそ六義園においでくださいました」と挨拶を始めた。それが終わるともう一人の少年が英語で同じ内容の挨拶をした。外国からのお客様を意識してのことだろう。二人が列に戻ると指揮者が登場しカラオケの演奏が始まった。8月に聴いたサマーコンサートでは雑音がひどかったが今回は大丈夫。最初の曲は『遠い日の歌』。野外コンサートについては音楽的なことをどうこう言うつもりはなく期待はしていなかったがアルトの2名がしっかりした声で歌うのを聴き、野外コンサートだからといって手を抜かず真剣に歌う姿に心打たれた。この日の編成はソプラノ6名、メゾソプラノ3名、アルト2名のようだった。2曲目は『アヴェ ヴェルム コルプス』。こういう会場で聴くと違和感があるが観客は熱心に聴いていた。この種の曲にカラオケの伴奏をつけるのは不自然だ。思い切ってアカペラにした方が少年合唱の魅力が伝わるはずだ。歌い終わると最初の代表とは違う少年が「次は日本の歌を歌います。『落葉松』『里の秋』『夢の世界を』です」と紹介した。この日のスピーチは交代で行われいろいろな少年の声が聴けてよかった。どの少年も姿勢良くはっきり話せるのは合唱団での活動の成果だ。「落葉松の秋の雨に濡れる」で始まる歌詞はこの季節の庭園演奏に似合っていた。雨も降っていないし落葉松があるわけではないが歌詞に歌われている光景がイメージできた人も多かっただろう。『里の秋』もこの季節ならではの歌だが、ややテンポが速いような気がした。アカペラでゆったりと歌えばもっと情緒が深まっただろう。『夢の世界を』は「落ち葉を踏んで歩いたね」という歌詞が「庭園を散策したい」という気持ちになった。1番が終わり2番に入ったところでAB組26名が整然と入場し合唱に加わった。流れが途切れずいつの間にかという感じで人数が増えるのはなかなかの演出効果だ。終わると一人の団員がマイクを持ち『みどりのそよかぜ』の1番をきれいな声で歌い、CMで自分たちが歌っていることを紹介すると「へー」という声が起きた。こういうアピールも必要でCMを見ればフレーベル少年合唱団を思い起こす人が増えそうだ。次は『グルリンパ』と『リサイクルレンジャー』だ。この2曲は両手を前後に振りながら元気に歌った。前半の曲が大人向きとすればこちらは小さな子ども向きだ。家族連れで来ている子どもがいることを考えてのプログラムだろう。こういう曲で合唱団に興味をもつ子どもが少しでもいればと思う。これが終わるとご存知『勇気りんりん』と『アンパンマンマーチ』だ。観客からの手拍子も加わり体を左右に振りながら歌うので楽しい雰囲気も伝わってくる。『アンパンマンマーチ』は指揮者が退き「上で手拍子」の言葉で手を上に挙げて賑やかに歌う。この歌はいつ聴いても楽しい。楽しい気持ちになるのを見計らったように「みなさんも一緒に歌いましょう」と『もみじ』『里の秋』『ふるさと』を歌った。ここでは合唱団が客席に近づき「一緒に」という気持ちを表した。「もっと大きな声でお願いします」と指揮者が観客に呼びかけると隣にいたおばあさん二人は「こんな高い声でないわ」と言いつつも楽しそうにしていた。「きょうはありがとうございました。この後も六義園散策をお楽しみください」と代表が挨拶して終了。どの観客も満足そうな表情でその場を離れていった。これを見て自分は、野外コンサートを見直した。

暑い日の涼風
六義園コンサートのフレーベル少年合唱団

                                                   2007年6月3日


  道楽さんは、六義園の入り口で年間パスポートを示すとまっすぐに枝垂れ桜の前に用意された床几の前列右側の席を確保した。床几は4列、4行で合計16台が並んでいた。正面には譜面台とスタンドマイク3台、更に左右奥に1台ずつスタンドスピーカーが置いてあった。また右側の長机には音響機器が載せてあった。日差しが強く、ぼくが「暑いですね」と言うと「これでも風があるから先週よりもしのぎやすいよ」と道楽さんが答えた。先週のコンサートに同行した薫先輩が「みんな汗びっしょりですごく消耗した顔だった」と言っていたのを思い出した。それを見た道楽さんは「タオルを持たせて汗を拭くようにしないとかわいそうですよ」とスタッフに助言したそうだ。「そんなわけで先週はもう一つだったから、もう一度来よう」ということになり、この日はぼくが同行した。「風君、始まるまで適当に歩いてくれば」と道楽さんは言ったけれどぼくだけでは不安なので道楽さんと待つことにした。では演奏会の様子を道楽さんに紹介してもらいます。

 開始時間の1時が近づくといつものように合唱団が登場し、前列に年下のメンバー9名、後列に年上のメンバー12名が整列した。指揮の手島 英先生が合図を出すと年上のメンバーの一人が前に出てマイクを持ち、「みなさん、こんにちは。ぼくたちはフレーベル少年合唱団です。夏の歌、みなさんがよく知っている曲を歌いますので最後までお楽しみください。最初に児童合唱曲から『コスモス』と『時の旅人』を歌います」と挨拶した。適度な速さとはっきりした話し方は簡単なようで難しい。歌だけでなく話し方の練習もしっかりしているのだろう。この日、スピーチした少年たちは全員しっかりしていた。挨拶をした少年が列に戻るとカラオケの伴奏が始まった。最初の曲はゆったりした曲で声を十分に使っての合唱で「声が優しくなった」と感じた。またソプラノとアルトのハーモニーがうまく重なり合い聴いていて心地よくなった。曲が終わり余韻に浸りたいと思っていたらすぐに2曲目の伴奏が始まった。英先生の体勢か取れていなかったのは明らかで伴奏は指揮者の合図を指示に従うべきである。2曲目もゆったりした曲で味わい深い詩だ。比較的長い曲でテンポが微妙に変わり聴きどころがその分だけある。素直に伸びてくるソプラノとそれを支えるアルトがマッチする箇所が特によかった。終わると「ありがとうございました。次に『夏はきぬ』、『気球に乗ってどこまでも』、『銀河をかけるそり』を続けて歌います」と次のプログラムが紹介された。『夏はきぬ』は歌い方が合唱から唱歌風に変わった。歌い方が単調になったとでも言えばよいだろうか。『気球に乗ってどこまでも』はもう少しテンポを速めると切れが出ただろう。「気球ってゆっくり飛ぶんでしょう。このテンポで正解です」。風が横から口を出した。「言うね」「薫先輩の影響です」。次の『銀河をかけるそり』は速いテンポの曲で再び合唱風の声になった。ソプラノにひときわ伸びる声を出す子がいるのがわかった。「ありがとうございました。続きましてみなさんがよく知っている曲を中心に歌います。『茶摘み』、『雨降りクマの子』、『ドレミの歌』を続けてどうぞ」とスピーチがあり指揮が英 先生から手島明子先生に代わった。明子先生が正面に立ち合図を出すと少年たちは一斉に白いタオルをズボンのポケットから出して汗を拭いた。タオルをしまうと伴奏が始まりソプラノの少年が1番をソロで歌った。これぞボーイソプラノという感じで素直に伸びる声だ。2番は全員で歌い、唱歌風ではなく声がまっすぐに伸びていた。『雨降りクマの子』はせせらぎの音を伴奏に取り入れた効果でほのぼのとした歌になった。『ドレミの歌』はオーソドックスで安心して聴いていられた。終わると「続きまして『アンパンマン』より『勇気りんりん』、『アンパンマンマーチ』、『線路は続くよ どこまでも』を歌います。どうぞ、お聴きください」とスピーチが入った。伴奏が始まり少年たちが体を左右に動かすと観客から自然に手拍子が起きた。『アンパンマンマーチ』の前に「ぼくたちと一緒に歌いませんか? 知っている人は前に出てください」とスピーチすると2歳ぐらいの男の子が出てきたがすぐに客席にもどりかけた。すると明子先生に背中を押された少年がその子を連れて列に入れ賑やかに歌った。毎度のことだが観客は年輩の方々が中心で小さな子どもはごくわずかだ。これを逃してはならないのだろう。『線路は続くよ どこまでも』は旋律をアルトが歌い、ソプラノが「ポッポー」と汽笛の声を出す楽しい演出があった。そして最後に「シュー」と蒸気の出る音を出した。「なんですか?」と風が首をかしげたので説明した。本物の蒸気機関車を見たことのある世代も減ってきているのだ。「お年寄り向けの演出なんですね」と風が納得した顔をした。最後は観客と一緒に『夏はきぬ』と『茶摘み』を歌った。年輩の方々が楽しそうに歌っているのがよかった。終わると「アンコールをしてもいいですか?」と問いかけがあり拍手が起きると『リサイクルマン』を披露した。『月光仮面』や『少年ジェット』を思い出させる短調の曲で「地球温暖化」「缶にも感謝」「リサイクル くるくるまわせ」などという歌詞が現代風だ。最後に片足を前に出し腕をXにして「やー」とやると観客から笑い声と拍手が起きた。少年たちはきちんとした姿勢になり「ありがとうございました」という声を合図に前列のメンバーが右腕を直角にして腹部につけお辞儀をして退場した。後列も同じように挨拶して退場した。小さな紳士を思わせる挨拶は格好良かった。観客からも「ありがとう」とお礼の言葉を言う人たちがいた。このように概ね好評なのだが気付いた点を挙げておこう。本文でも触れたが曲と曲の間は指揮者に任せるべきである。合唱団は指揮者を見ながら歌い出しのタイミングを取るので尚更だ。また先週同様、この日も暑く歌っている間、汗を流している子が目に付いた。見ていて気持ちのよいものではない。汗を拭くためにも間が必要なので指導者は考慮して欲しい。

 「少し歩こう」道楽さんに誘われて園内を歩いた。木々のみどりが濃いのは夏だからだそうだ。途中、木陰がありそこを吹く風が心地よかった。「さっきの合唱もこの感じと似ているね」と言うと、道楽さんが「詩を書く人みたいだね」と褒めてくれた。

真夏の野外コンサート
                         2008年7月19日


  7月19日に、道楽さんが地域ボランティアをやったことはすでに話した。大きな声では言えないけれどその間、ちょっと抜けさせてもらって六義園でフレーベル少年合唱団のコンサートを鑑賞した。終わってからそのまま仕事に戻ることになっていた道楽さんが汗びっしょりで帰宅し「着替えをしたいから」と言ってイスに座るや「目がおかしい。明るい場所から家の中に入ったせいだな」とため息をついた。ぼくはそれを聞き「熱中症になりかけているかもしれない」と大きな声を出した。それを聞いた風君は「冷蔵庫から麦茶を出して飲んでください。それと保冷材でおでこを冷やしましょう」とアドバイスした。「帽子とサングラスを持っていったんだろ。それでもだめだったんだね」と麦茶を飲み始めた道楽さんの背中をたたいた。「きょうの暑さは異常だよ。コンサートの終わり頃、目がうつろになっている子が何人かいた。もう少し長引いたら倒れたかもしれない。そこまでしてやらなくてもいいのに」「人のこともだけど、自分のことも心配しよう。気分が良くなるまで外に出ちゃだめだよ」「わかった。それまできょうの話をしよう」。道楽さんは団扇であおぎながら話を始めた。

 この日は『やあ、こんにちは』という出だしの初めて聴く曲で始まった。「地球の生き物はみんな友だち」という内容の明るい曲である。終わると「みなさん、こんにちは。ぼくたちは、フレーベル少年合唱団です。本日は、お暑い中、六義園へお越しいただきありがとうございます。ただいま歌いました曲は小黒恵子先生作詞の『やあ、こんにちは』です。続きまして児童合唱組曲より『おやすみ ブラッケン』を歌います。どうぞお聴きください」とスピーチがあった。上級生が行うウェルカムスピーチはさわやかな語り口でいつ聞いても気分が良い。『おやすみ ブラッケン』も初めて聴く曲で、働き者の年寄り馬を思いやる内容でやさしさがにじみ出る合唱だった。続いてはこのコンサートではおなじみになった『おてもやん』と『ソーラン節』だ。合唱向きに編曲されており少年合唱団ならではの力強さがある。最初の頃は低声部が目立っていたが高音部も存在感が出てきた。次の外国曲『ドリーム』が終わると、ひとりの少年が前に出て「みなさんにお知らせしたいことがあります。童謡作家である小黒恵子先生の『花とライオンの音楽賞』をいただきました」とスピーチした。観客からも自然に拍手が出た。CM出演のことを話題にしがちなフレーベルだがこういう賞を取るほうが自分としてはうれしい。続いての曲は小黒恵子作詞による『鳩よ』と『ジャンボゴリラとたけのこ』だ。前者は「鳩よ あなたは美しい」という内容のコンクール向けの曲だ。朗々と歌い上げる曲なので、きちんとした発声が必要だ。野外コンサートではなく、残響のあるホールで聴きたい曲である。後者はセリフ付きの物語風な曲だ。ゴリラの大好きなたけのこが嵐で全滅してしまいスフインクスのアドバイスで日本へ行くという内容のユーモラスな曲だ。歌っている少年たちも楽しそうで観客も一緒に楽しんでいた。終わるとA組が加わり『地球が教室』と『リサイクルレンジャー』だ。始まって約20分が経過し、暑さでぼんやりしそうになった。『地球が教室』が終わった時、あらためて少年たちを見ると目がうつろになっている子が数名いることに気付いた。舞台はしだれ桜の前だが日かげはなく強い光線がふりそそいでいる。蚊を気にしている子や汗をたくさんかいている子もいて「この季節はきついなあ」と思った。暑さ対策を考えると帽子が必要だ。あわせてハンカチを手に持たせて随時汗を拭けるようにすべきだ。またカッターシャツにリボンタイというのも暑そうでTシャツにすれば良い。舞台マナーに反すると言う人もいるだろうが正式なコンサートではないし観客だってラフな服装なのだから気楽に考えてよい。観る者にとっても涼しげな服装の方がなごめるはずだ。合唱が終了し少年たちが無事に退場するのを見届けて六義園を後にした。時計を見るといつもより3分程度早い終了だった。

 「いつもと違うプログラムだったんですね」「『アンパンマン』を歌わなかったんだね。画期的だ」「だから新鮮な気がしたよ」。ぼくたちはしばらくの間、合唱の話をした。「さあ、気分が良くなってきた。もう行かなきゃ」と言う道楽さんに「無理しちゃだめだよ。終わったらまっすぐ帰っておいで。明日は宝塚だよ」と送り出した。「道楽さんは疲れが溜まっています。『それなのに行きたいんですか?』と聞きたいです」。風君が言うので「疲れは行けば吹き飛ぶよ。なにせ最高の合唱団を聴くんだから」と答えた。「それより、明日とあさっては道楽さんの暑さ対策をしなきゃね」「帽子とサングラスと水分ですね」「それと汗拭き用のハンドタオル。お酒は夕方以降に飲んでもらう。道楽さん対策をしながらぼくたちも旅を楽しもう」「了解です」。ぼくたちはグータッチをした。

 補足 
花とライオンの音楽賞についていくつかのサイトを調べたので引用します。
 児童合唱音楽の振興と発展を図るために川崎市在住の童謡作家小黒恵子さんが公益信託にして私財を投入し、文部科学大臣のもと設けたもの。毎年一団体が活動内容や実績を評価され受賞する。花のように美しくライオンのようにたくましい音楽に親しんで欲しいという願いが込められている。1996年に第1回としてクラウン少女合唱団が受賞した。今回、フレーベル少年合唱団が受賞した理由はわからないので、川崎市内に資料館を近々訪問するつもりである。


木陰の野外コンサート
                           2008年8月2日


  きょうの六義園野外コンサートは11時からなので、いつもより早く家を出なければならない。テレビで高校野球の開会式を見ている道楽さんを促して出発した。「きょうも暑いな」。道楽さんはぽつりと言った。にもかかわらず、三脚と一眼レフを持っている。「宝塚の影響ですね」「すぐに影響受けるんだから。単純なんだよ」。ぼくたちは笑った。

 六義園のしだれ桜の場所に舞台はなかった。「おや?」と見回すといつもと違う場所に床几が並んでいた。その先にマイクが置いてあり、木陰の下で歌えるよう場所が設定されていた。「前回、気分が悪くなる子がいたのでこっちにしたんです」と保護者らしき人が話していた。早速対応したことは喜ばしい。11時が近くなると手島 英先生に引率されたセレクトがやってきた。手島先生はきょうもネクタイ姿でご苦労なことだ。少年たちもカッターシャツにリボンタイの制服だ。この暑さですぐ汗をかくだろうからシャツの洗濯が必要だ。「この時期は、Tシャツの方がいいよ」と主婦の感覚になった。白か水色地にフレーベルのマークをつけると少年たちに似合うだろう。そんなことを考えているうちに代表の上級生が前に出て「みなさん、こんにちは。ぼくたちはフレーベル少年合唱団です。本日は六義園においでくださいましてありがとうございます。ぼくたちの歌と六義園の木陰で暑さをひと時でも忘れてくだされば幸いです。まずは児童合唱曲より『カリブ夢の旅』、『瑠璃色の地球』を歌います」と挨拶した。最初の『カリブ夢の旅』は何回も聴いているが暑い日だと海を連想して涼しい気分になれることを知った。次の『瑠璃色の地球』は静かな曲で気持ちが落ち着く。これも意識したことはないが暑い日の方が心に沁みることを知った。次は日本民謡から『会津磐梯山』と『ソーラン節』だ。少年たちは奮闘(特にソプラノ)しているが単調に聞こえるのが残念だ。だが『ソーラン節』では観客に手拍子を促し、英先生の合図で少年たちもひざの上あたりを叩くのはよかった。普段は単調になりがちな英先生の指揮だがこの曲では気合いが入っていた。これなら観客も一緒に楽しめる。終わるとA組を加えて『地球が教室』と『パンのマーチ』だ。ここで指揮が手島明子先生に交代。ここからはすべて斉唱で元気さを前面に出した歌だ。野外なので細かいことは言わないが地声に近いのが気になった。『パンのマーチ』が終わると指揮者の合図で一斉にハンカチを出し、汗ふきタイムだ。前回も書いたが各自がハンカチを手に持ち間奏などを利用して適宜汗を拭いて欲しい。汗をたくさんかきながら歌っている姿は見ていて気分の良いものではないしこちらも汗を拭きながら観ているのだ。『歌えバンバン』と『リサイクルレンジャー』が終わると「ぼくたち合唱団のテーマソングと言える『アンパンマン』より『勇気りんりん』と『アンパンマンマーチ』を歌います。小さいお友達は前に出て一緒に歌いましょう」とスピーチがあった。明子先生に促されたA組の数名が小さい子を誘いに行ったがうまくいかず上級生が応援に出て連れてきた。「ガールハントが下手だなあ」(この日は女の子が多かった)と明子先生が笑っていた。A組のメンバーは明子先生にコツを伝授してもらうと良い。にぎやかに『アンパンマン』を歌い終わると上級生たちは小さい子を保護者のところまで送り届けた。このあたりの配慮は良く保護者にも喜んでもらえるはずだ。少年たちが元の体形に戻ると、「最後にみなさんと一緒に『うみ』を歌いたいと思います。本日は、お暑い中、ぼくたちの演奏を聴いてくださりありがとうございました。このあとも六義園の散策をお楽しみください」とスピーチがあり観客に笑顔がこぼれた。少年たちを見ると、全員顔色が良く気分の悪そうな子はいないので安心した。『うみ』が終わると「アンコールしてもいいですか」と声がかかり観客が拍手をすると「それでは映画『ゲゲゲの鬼太郎』のテーマソングを歌います。ぼくたちが歌っています。映画を観てみてください」と紹介した。この歌も斉唱だった。せっかく少年合唱団が歌うのだから特徴を生かした合唱に編曲して欲しい。

 「写真うまく撮れた?」「だめ、汗が目に入ってピント合わせがうまくできない」「オートじゃないんですか? 不便ですね」「自分で合わせるからおもしろいんだよ。デジカメだとそれが難しい」「じゃあ、汗を拭いて散策がてら風景写真を撮ろうよ」「抹茶も飲みましょう」。ぼくたちは暑い中、六義園の散策を楽しんだ。

充実した合唱
フレーベル少年合唱団第48回定期演奏会

                                           2008年10月8日


  「申しわけありません。2列目しか空いてないんです」。手島明子先生が恐縮したけれど道楽さんは「どこでもかまいませんよ」と指定券を受け取った。入場し、ロビーのソファで用意したサンドイッチをほおばると開演5分前だった。「さあ、行ってみよう」。道楽さんは客席に入った。「コーヒーぐらい飲めばいいのに」「平日は仕方がないよ。休憩時間にしよう」。座席は2列目のソプラノ寄りでピアノを弾く様子がよく見える場所だった。では演奏会のレポートを始めます。

Part1 僕たちの夢
 ・団歌 ・夢を乗せて ・ジャンボゴリラと竹の子
 ・カリブ 夢の旅 ・瑠璃色の地球
 ※輪唱
 ・かえるの合唱 ・メトロノームの発明者メルツェルに
 ・うれしい楽しいクリスマス ・汽車ポッポ
Part2 夢を語る
 ※今年の活動報告
 ・CMソング&ステージ演奏曲
 ※日本の民謡
 ・会津磐梯山 ・おてもやん ・ソーラン節
Part3 未来への夢
 ※世界の名曲
 ・Dreame ・Non hoI eta ・Amivederci Roma
 ・Feels Alright ・Oh Happy day
Part4 夢を歌う
 ・夢はともだち ・地球が教室 ・パンのマーチ ・もしもコックさんだったら
 ・勇気リンリン ・アンパンマン=マーチ
Part5 夢に向かって
 ・Ave verum corpus  ・Ave maria シューベルト作曲
※同声合唱のためのグリーグ「子供のうた」
 「ノルウェーからのおくりもの」より
 ・北極海の船のり ・神様のおくりもの ・つかのまの春 ・漁夫のうた
 ・おやすみ ブラッケン ・ノルウェーの山々 ・美しきわが祖国
   大地讃頌 

 時間になり、セレクト34名が整列し手島 英先生の指揮で団歌が始まった。力強く引き締まった歌声を聴き演奏会への期待が高まった。終わるとアルトの上級生がマイクの前に立ち歓迎の言葉と今年のテーマは「夢」であることを紹介した。最初の『夢の世界』はやや抑え気味で始まり、後半にボリュームが上がった。ただ大きな声を出すのではなくきちんとした発声で歌ったのでスケールの大きな合唱に仕上がった。ソプラノにきれいな声を出す子がいるのもよく曲全体が輝いた。『夢を乗せて』は前列にいる下級生が張り切って歌っているのがわかり好感がもてた。ソプラノとアルトのバランスがよく躍動感のある合唱だった。『ジャンボゴリラと竹の子』はせりふ付きの楽しい歌だった。内容はアフリカに棲む竹の子好きなゴリラが大雨で全滅した竹の子にがっかりし、スフインクスの教えで日本へ竹の子を食べに来るというもので絵本を読んでもらっているような感覚だった。また「どうしよう」で頭をかかえ、「大丈夫」で右手を胸にあて、「ありがとう」で両手を前に広げる仕草も効果的だった。『カリブ 夢の旅』、『瑠璃色の地球』は高校生と思われる体格の良いOBが指揮をした。2曲ともゆったりした感じの仕上がりだった。終わるとメンバーは一度引き上げ、再び登場した。並び方がソプラノとアルトを交えた四つのグループに分かれ輪唱を披露した。ただの輪唱ではなく合唱になっているのは流石だった。

 Part2はCMソング、オランダの童話作家の前で歌ったというオランダ語の歌、映画で歌った『ゲゲゲの鬼太郎』、今年一番うれしかったという「花とライオンの児童音楽賞」にちなんだ『やあ、こんにちは』を披露した。個人的にはこの賞をもっと前面に出し、小黒恵子さんの作品を紹介して欲しかった。後半の日本の民謡は脇田岐太郎先生の力のこもった指揮で子どもたちがのびのびと合唱したのが良く客席からも自然に手拍子が起きた。この日のプログラムの中で子どもたちが一番輝いていた。「日本の民謡も少年合唱団が歌うと元気になります。六義園で積み重ねたことは無駄じゃないです」。風が感心した表情をした。ここで休憩時間になりビュフェへコーヒーを飲みに行った。ワインなどアルコール類に食指が動いた。「やめとけ。あんたが夢の世界へ行ってしまぞ」「そうです。控えてください」。薫風の仰せに従った。OBの方々とお会いしたのでしばらく歓談した。

Part3は昨年新調した朱色のジャケット(一つボタン。胸には白いポケットチーフ)、白いドレスシャツ、黒蝶ネクタイ、黒のタキシードズボンを身につけたセレクト24名が1列に整列した。この制服を初めて見たときは「格好良いな」と思ったがしばらくすると「?」マークになった。キャバレーを舞台にした曲のために新調したようで欧米の少年たちが着用すると似合うのだろうが日本人の少年には違和感がある。合唱団の制服というよりキャバレーのバーテンのようで自分としては感心しない。「少なくとも一流のキャバレーの雰囲気じゃないとあんたは言った」「賛助出演の金管四重奏がそれに輪をかけたとも言いました。安っぽくなるって」。薫風の言葉で昨年を思い出した。賛助出演は合唱を割引にするケースが多いので考えものだ。話は違うが自分は良いウィスキーを飲む時、ストレートと決めている。水割りにするとウィスキーの本当の味がわからなくなるのだ。ストレートで飲むときのつまみは水が一番でこれらを交互に飲むのがよい。少年合唱団をウィスキーに例えれば水はピアノである。この組み合わせで十分なのだ。「あんたの意見はいいよ」「そうです。コンサートの話にもどりましょう」「了解。もう一つだけ。ストレートで飲むのは良いウィスキーだけにしてください」。最初の『Dream』は静かな雰囲気で歌った。ゆっくりテンポで声を十分に使い、しっとりとした仕上がりだった。ピアノの音が大きかったこともありバーのカウンターで聴いているような感じだった。曲が終わってから「スタンダードナンバー『Dream』で始まりました。Part3は外国の曲をお送りします」とスピーチがあったが間奏の時にやると効果が上がるはずだ。「バーじゃないんだからこれでいいよ」「そうです。お酒を飲みたくなる雰囲気はだめです」。次の曲はカンツォーネだそうで日本語の題名は『夢見る想い』だそうだ。これは高音部と低音部のアンサンブルが良かった。合唱はこれが大切なことを再認識した。次の曲もカンツォーネだそうでソプラノのソロで始まった。素直なやわらかい声でマイクを通さずに聴いてみたいがこの会場では無理。やや哀愁をおびた曲をサラっと歌ったのがよかった。続いての2曲はゴスペルだそうで曲調ががらりと変わり軽やかなリズムになった。それに合わせるかのように少年たちも鎖をはずされた子犬が野原を走り回るような感じになった。と言っても勝手気ままに走るのではなくハーモニーの良さは保っていた。Part3はタイプの違う曲をそれぞれの持ち味が生かした合唱ができた。これは手島 英氏が少年たちを万遍なく見回しながら指揮した影響もある。こう言っては失礼だが以手島氏の指揮は常に一か所しか見ていないことが多く、合唱がいま一つ、パッとせずに気になっていたがこの日はそうではなかった。指揮者が「こういう合唱にしたい」とはっきりした考えをもち、少年たちにわかりやすく振ることは大切だ。

  「Part4は、ぼくたちが歌います」。Aクラス28名が整列し『夢はともだち』、『地球は教室』を合唱した。2曲ともハーモニーより声を出すことに重きを置いていた。しかし最後の伸ばす部分をしっかり歌うのを聴き、訓練されてることはわかった。ボリュームを犠牲にしてもいいから少年特有の声を生かした合唱が聴きたい。この後はB組(多分未就学児)13名が加わり賑やかな歌になった。これはこれでいいがA組の年上の少年にとって物足りないのではと気になった。Part4最後の2曲は『アンパンマン』だ。体を左右に揺すりながらの歌はかわいいのだがBクラスの動きはバラバラだ。指揮の明子先生が手を左右に振って動きを教えているが見ている子はいない。これを見るたび、男の子は二つのことを同時にできないことがわかる。しかしそれもご愛嬌で客席からは大きな拍手が起きた。「あんたも同じだろ。二つ同時にできないじゃないか」「二兎を追うものは一兎をも得ずです」「だからそこを割り切るようになった。でも風君、難しい言葉知ってるね」。

  Part5最初はセレクトがテラスに上がりパイプオルガンを真中に二手に分かれ『Ave verum corpus』と『Ave maria 』を歌った。少年たちの声はマイクを使わなくても伸びており、きちんとした発声に感心すると同時にレベルが上がっていることを証明した。歌い終えた少年たちが階段を使って舞台へ降りてくると「ノルウェーの雄大な自然を美しいメロディにのせてお届けします」というスピーチで最後のプログラムが始まった。ノルウェーの厳しくも美しい自然と神様への感謝の心を歌う合唱はその情景を想像しながら聴くことができた。特に印象深かったのは『神様のおくりもの』で出だしのソロを歌ったソプラノと『おやすみ ブラッケン』だ。ソプラノソロは心観客のに訴えかけるという点では未熟だが質の良いしっかりした声で1、2年後の成長に期待がもてる。『おやすみ ブラッケン』は働き詰めの年老いた馬をいたわる心やさしさがにじみ出る合唱だった。

  締めくくりの『大地讃頌』はピアノとパイプオルガンの伴奏で深みのある合唱で客席から「ブラヴォー」が出た。ここにOB合唱団がいて混声合唱にするとよりすばらしい合唱になるだろう。さてこれで終わりにできると余韻を楽しみつつ席を立てたのだがそうはいかない事情があるのだろう。アンコールは『星のうわさ』と『リサイクルレンジャー』。せっかく「夢」というテーマがあるのだからそれにちなんだ曲が聴きたかった。そうは言ってもこの数年間では一番充実した演奏会だった。今後の発展を期待しよう。

 「磯部俶先生生誕100年記念コンサート」
フレーベル少年合唱団第57回定期演奏会
2017年8月23日(水) 文京シビック大ホール

 今回は磯部 俶 先生の生誕100年の記念コンサートである。自分は一度だけ磯部先生指揮のフレーベル少年合唱団を鑑賞している。記憶は定かではないが1975年の敬老の日だったと思う。当時はインターネットがないので演奏会の情報は朝日新聞の夕刊に載っている小さな演奏会情報が頼りだった。会場は平河町の都市センターホールと知り、電話帳で住所を調べ更に地図で確認するという作業が必要だった。

 会場で当日券を一般客として申し込むと、珍しそうな顔をされた。当時の観客は合唱団員の身内や友達、OBが多数を占めていて今のように会社関係の人は目につかなかった。入場の列にいると練習が一段落ついたらしく制服姿の団員たちが外へ出てきた。その中の中学生の団員が友達を見つけて「勉強やったか? おれ全然できなかった」と話しかけていた。「それは俺たちもだ」という会話を聞きながら微笑ましい気分になった。この日の曲目は、『ぼくらの演奏会』『団歌』、『ロバの会』の作曲者による5曲(大人マーチ、少年が来てハトが来て、青い芝生等5曲・・・だったと思う)とオペレッタ『西遊記』である。西遊記はボイストレーナーの男性2名が金閣と銀閣を演じ、この二人の手下たちを団員のおとうさん、おかあさんの合唱団が歌った。また挿入歌『旅の思い出』(題名は確かではない。今でも一番は歌える)を磯部先生の指導で観客も歌うという家族的な演奏会だった。この時、磯部先生が颯爽としていらしたことも覚えている。

 「42年前のことをよく覚えているね。最近のことはすぐ忘れるのに」「そろそろ今年のことを書いてください。忘れないうちに」。では童子たちの言葉に従うとしよう。

  会場ロビーには背広姿の社員5,6名が招待客とおぼしき人を迎えていた。他に幼稚園や保育園の先生らしき人も目立った。もちろん少年たちの家族や友人たちも多かった。歌を聴きに来たというより付き合いや、○○君を見ようという人が大半なのだろう。このことは演奏が始まってしばらくするとその影響が出た。先ず、歌が終わり、指揮者がまだ手を下ろしていないのに大きな拍手が出る。ここ最近の音楽会では見られぬ光景だ。指揮者が手を下ろさないのはまだ譜面が終わっていないからで観客はそこを理解しなければならない。更に騒ぐ幼児を注意しない保護者、演奏中でも平気で席につく非常識な人、客ではないが、周りの迷惑を考えずにシャッターを鳴らす雇われカメラマン。関係者は「観客さえ入ればそれでよし」と考えているとしたら大間違いだ。昔、ある落語家が寄席の観客の質が悪いので腹を立て、客に怒るのではなく、楽屋に向かって「おーい、キャラメルの箱じゃあるめえし入っていればいいってもんじゃないんだよ」と文句を言ったそうだ。良い演奏会にするためには観客のモラルも大切だ。「もうそこまでにしましょう」「年寄りは不平が多いね」「早く本題に入ろう」
 プログラム
 オープニング
  ぼくらの歌 S組 A組
1部 S組
 ボヘミア民謡とドイツ・オーストリアの調べ
  Abschied〜別れの歌  おお牧場はみどり
  歌の翼に 流浪の民
 2部 B組
  ぼくらのともだちアンパンマン
   ドレミファ アンパンマン     アンパンマンたいそう
3部 A組
楽しい童謡を集めて
 犬のおまわりさん    サッちゃん  歌のメリーゴーランドのテーマ
 青い地球はだれのもの  ちいさい秋みつけた  気球にのってどこまでも
 4部 OB S組 A組
    「ありがとう 先生」 初代指揮者 磯部 俶 生誕100年記念
   風になりたい  ふるさと  びわ  遥かな友に
 5部  S組 A組 OB
     みんなでうたう ぼくらのみらい  信長貴富 作品集
     いまだよ   ありがとう野菜  群青
     「ゆずり葉の木」に寄せるバラード

 団歌『ぼくらの歌』は、S組24名、A組32名によって歌われた。人数が多いことと個々の発声がしっかりしているので気持ちよく聴けた。大切な幕開きに相応しい歌だった。続いてS組のコーラスは「さすが」と思わせるものだった。先ずはアカペラで一番を歌った。少年合唱にはアカペラが似合う。発声が素直であること、体や喉に余分な力が入っていないので声が自然に客席へ飛んでくるようだった。ドイツ語の歌詞も自然で練習の成果が表れていた。ウエルカム スピーチに続く『おお牧場はみどり』は各パートの歌声と共にオブリガードがきれいだった。やり方によってはオブリガードが際立つがそういうことはなく、よく聴いていると耳に入ってくるさりげなさが良かった。よく知られている曲が一味違って歌われるのはうれしい。『歌の翼に』は憧れの人を爽やかな風に乗せ、心地良く素敵な場所に運んでいくように感じた。これだけの歌はただ練習を重ねただけでは歌えない。歌だけではなく少年たちの感性をいろいろな方法で豊かにした結果だろう。次の『流浪の民』も各パートの調和が良かった。後半は10名が代わる代わるソロを歌った。それぞれの声の特徴が分かり楽しかった。これらの声の調和が良い合唱につながっているのだろう。できることならマイクを使わずソロをできるだけ舞台の前方で歌って欲しかった。しかし会場の広さと身を入れ聴いている観客が一部と考えればマイクを使うのはやむを得ないだろう。
2部のB組は、全員一生懸命歌っているのが良かった。一時期はただ大声でわめくだけだったB組だが最近は発声法も良くなり、安心して聴けるようになった。鍵盤ハーモニカを入れたのも効果的だった。またB組ならではの演出もあり楽しい舞台だった。
 A組

会場ロビーには背広姿の社員5,6名が招待客とおぼしき人を迎えていた。他に幼稚園や保育園の先生らしき人も目立った。もちろん少年たちの家族や友人たちも多かった。歌を聴きに来たというより付き合いや、○○君を見ようという人が大半なのだろう。このことは演奏が始まってしばらくするとその影響が出た。先ず、歌が終わり、指揮者がまだ手を下ろしていないのに大きな拍手が出る。ここ最近の音楽会では見られぬ光景だ。指揮者が手を下ろさないのはまだ譜面が終わっていないからで観客はそこを理解しなければならない。更に騒ぐ幼児を注意しない保護者、演奏中でも平気で席につく非常識な人、客ではないが、周りの迷惑を考えずにシャッターを鳴らす雇われカメラマン。関係者は「観客さえ入ればそれでよし」と考えているとしたら大間違いだ。昔、ある落語家が寄席の観客の質が悪いので腹を立て、客に怒るのではなく、楽屋に向かって「おーい、キャラメルの箱じゃあるめえし入っていればいいってもんじゃないんだよ」と文句を言ったそうだ。良い演奏会にするためには観客のモラルも大切だ。「もうそこまでにしましょう」「年寄りは不平が多いね」「早く本題に入ろう」
 プログラム
 オープニング
  ぼくらの歌 S組 A組
1部 S組
 ボヘミア民謡とドイツ・オーストリアの調べ
  Abschied〜別れの歌  おお牧場はみどり
  歌の翼に 流浪の民
 2部 B組
  ぼくらのともだちアンパンマン
   ドレミファ アンパンマン     アンパンマンたいそう
3部 A組
楽しい童謡を集めて
 犬のおまわりさん    サッちゃん  歌のメリーゴーランドのテーマ
 青い地球はだれのもの  ちいさい秋みつけた  気球にのってどこまでも
 4部 OB S組 A組
    「ありがとう 先生」 初代指揮者 磯部 俶 生誕100年記念
   風になりたい  ふるさと  びわ  遥かな友に
 5部  S組 A組 OB
     みんなでうたう ぼくらのみらい  信長貴富 作品集
     いまだよ   ありがとう野菜  群青
     「ゆずり葉の木」に寄せるバラード



 ユースクラスがデビュー
第58回フレーベル少年合唱団第58回定期演奏会

                                                 平成30(2018)年8月22日


  会場受付でチケットを出し、2階後方の席を希望したら「家族席だからだめです」とのことで「任せます」と伝えたら右側ブロックの中央前方寄りの席を指定された。一階の後方も考えたが、2年前にカメラマンのシャッター音(観客の迷惑などどこ吹く風)に悩まされたことを思い出した。この合唱団の演奏会の観客はマナーに問題がある人たちが目立つので、あまり人が座らない2階後方席が良いと自分では考えている。しかし今回は、小さな子ども連れのために2階を家族席としているので自分の願いはかなわなかった。
 さて、開幕すると先ずはS組のメンバーがオペラ『魔笛』の中で童子たちが歌うメロディを使って、歓迎の旨と歌を静かに聴くよう観客に伝えた。工夫していると思う反面、当たり前のことを伝えなければいけないことを情けなく思った。これと話は違うがこの夏は気温が高かった。観客に涼しい気分になってもらうため、服装は半袖ポロシャツやTシャツでよかった。
 今回のレポートは今年新しくできたユースクラスについて述べることにする。おおよその察しはつくと思うが変声後の少年たちのクラスである。声が変わっても歌い続けたい少年たちにとってうれしいことだろう。この種のクラスは新潟少年合唱団のOBによる『グロースエコー』があり、男声合唱ならではの魅力を披露していて、少年合唱で歌い続けてきたメンバーならではの声がある。そのようなわけでユースクラスの成長を楽しみにしたい。では、舞台の様子をレポートしよう。
 メンバーは、小学生、中学生、高校生9名で四つのパートに分かれている。先ずは団歌『ぼくらの歌』だ。変声前のメンバーが元気に歌うのに対し、こちらは声を抑えた落ち着いた歌だった。同じ歌でも雰囲気が変わるのは面白い。終わると指導者からユースクラスについての紹介があり、2曲目の『小さなカシの木』が演奏された。こちらも声を抑えた合唱だったが一人ひとりが同じトーンで歌っているのは評価できる。ボリューム的に「少し物足りないかな」と思ったが、昔、ボニージャックスがこのような雰囲気で歌っていたことを思い出した。この歌は、高らかに歌う曲ではないのだろう。前回も書いたが弱音で丁寧に歌うのは難しいことだ。この歌い方を聴く限り、良い雰囲気のある合唱団になりそうで楽しみだ。、
ここでバリトン歌手の折江忠道さんの文章を引用する。折江さんは『トスカ』のスカルピアやドン・ジョヴァンニなど数々のバリトンの役演じてきた方だ。その折江さんが「ドイツ歌曲を弱音で息長く歌う訓練をやっていたので、自然と繊細な表現力が身についたのだろう」と書いている。それを考えると、ユースクラスは音量を上げるのではなく、今回のような歌い方を続けて欲しい。そして次回は現役メンバーとの混声合唱も楽しみだ。
  最後に言いたいこと。合唱団の音楽的レベルはどのクラスも上がってきている。それに反して観客のマナーは「・・・・」。残念なことだ。

 第60回フレーベル少年合唱団定期演奏会
2022年8月31日(水)            東京芸術劇場

   会場に入り、先ずは舞台を眺めた。下手(向かって左側)の手前にグラウンドピアノが置かれ、中央にはひな壇が8台×5段設置されていた。このことから合唱団のメンバーはかなりの人数がいることが推測できた。あらためてプログラムを見ると新しくできたSS組(小5〜中学生)25名、以前からあるS組(小3、小4)18名、A組(小2)14名 B組(年長、小1)11名、ユースクラス(中高生)20名で現代の少年合唱団としては大人数だ。コロナの影響で合唱をする人数が減っていることを考えれば立派な数字だ。

プログラムは以下の通り
・ぼくらの歌(団歌)  まど みちお作詞 磯部 俶作曲
・グローリア・フェスティーバ  Eクロッカー作詞 作曲
・永遠の花  ラター 作詞 作曲 訳詞 ヘルビック貴子
 以上SSクラス
・ハッピーチルドレン  新沢としひこ作詞 中川ひろたか作曲 B組
・ハミング  新沢としひこ作詞 中川ひろたか作曲 A組 B組
・宝島  岩谷時子作詞 羽田健太郎作曲   A組
金子みすずの詩による6つの歌
「葉っぱの赤ちゃん」より  S組
・子どもの時計  岩崎 貴文作曲
・私と小鳥と鈴と  高須 克彦作曲
・桃  小杉 保夫作曲
・菜っぱの赤ちゃん  榊原 まさとし作曲

休憩

・カイト  米津 玄師作詞作曲 田中 達也編曲  A組・S組・SS組
・いざ起て戦人よ  藤井泰郎作詞 J.ブラナハム作曲  ユースクラス OB
・しあわせよ カタツムリにのって  やなせ たかし作詞 信長 貴富作曲 ユースクラス
60回記念ステージ
・いちぢく  小林 純一作詞 磯部 俶作曲 OB
・ハレルヤ・コーラス  GF.ヘンデル作曲 SS組・ユースクラス・OB

休憩

第60回記念定期演奏会委嘱作品初演
同声合唱とピアノのための組曲
 『ドラゴンソング』  覚 和歌子作詞 信長 貴富作曲
1 だから からだ なのだ  S組・SS組
2 より道 まわり道 帰り道  A組・S組・SS組
3 これは棒っきれじゃなくて  A組・S組
4 相棒  SS組
5 ドラゴンソング  S組・SS組
 
   幕開けはSS組が鑑賞マナーについての注意事項を歌で紹介した。メロディーはモーツアルトの歌劇『魔笛』から3人の童子が主役2人に笛と鈴を返す場面での歌だ。「演奏中は静かに。お話ししないでください。」という内容なのだが隣に座った女性2名が終始こそこそと話をしていた。
道楽「うるさいな、一言注意しよう。」
 風「ストップ! 愚か者を注意すると逆恨みされます。かえって不愉快になるからやめましょう。」
 空「そうだよ。無視して歌に集中しよう。」
 彼女らは幼稚園の教員で自分たちが教えた子どものことをあれこれ言っているのだ。うち1名は園長だとわかった。
五月「幼稚園児の子どもだって教えれば静かに聴けるよ。それ以下だ。情けない。」
 薫「歌の内容を理解できていないというか聴いていない。こんな人たちに教わる子どもたちが気の毒だ。注意する価値なんかないよ。」
ぼくたちは、道楽さんをうまく落ち着かせた。話を演奏会に戻そう。
歌は良質でコロナによるブランクは感じなかった。何より良かったのはハーモニーの良さだ。それにマスクを着用していなかったので表情がはっきりわかるのも良かった。それにマスクなしだと歌いやすい。「うまくなったなあ。」後ろの席のおじさん二人の感想だ。このおじさんたちも、なんだかんだと話していたが演奏中は静かだった。歌が終わると社長の挨拶が始まった。
この間に服装について述べる。紺の上下服に赤い蝶ネクタイ、黒いハイソックスは冬場ならいいが夏場にこの服装は辛くないだろうか? 例えば水色系の半そでシャツを着れば歌いやすいし観る方も涼しい気分になる。私事で自分が合唱団員として歌った9月初めの教会コンサートのことを話そう。昼公演で会場は冷房が弱い、しかも天窓から太陽光線が入ってくる。そういう場所で黒の上下服に蝶ネクタイを着用して歌った。演奏時間は休憩を入れて2時間ほど。終了して控室に戻ると服は汗びっしょりで重くなっていた。蛇足だが服をクリーニングに出したら追加料金が必要だった。観客のアンケートには歌に関することではなく「倒れる人がいなくてよかったです。」という感想がほとんどだった。このようなことを少年たちに経験して欲しくない。芸術劇場の空調設備はしっかりしているけれど夏場は服装を工夫してもよいと思う。
 演奏会に話を戻す。フレーベル社の社長の挨拶が終わると再びSS組が登場し団歌を歌った。この団歌は希望に満ちていて力強い。それが少年たちの声に合っている。きちんとした発声でハーモニーも良くこの後の演奏への期待が高まった。
 続けてSS組が「祈りをこめて歌います。」と2曲を歌った。1曲目は速いテンポをフォルテで明るく歌った。原語のため言葉の意味は把握できなかったが「目標に向かって元気に進んで行こう。私たちをお守りください。」と神様に大きな声で祈っているように感じた。2曲目は優しくゆっくりとしたテンポで歌詞を丁寧に表現した。この曲は東日本大震災がきっかけで作曲されたそうで、災害に遭った人たちを優しく包み込むような合唱だった。どちらの曲も際立つ声はなく耳に素直に入ってくるハーモニーだった。 
次はB組だ。こちらは年長組のクラスの元気な歌だった。元気だけれどわめく声ではなく発声の基礎はできていた。SS組と同じように際立つ声はなくバランスが良かった。歌う姿勢も良く成長を楽しみにしよう。
続けて小学2年生のAクラスとの合同だ。二つのクラスは声の質が微妙に違う。この違いが合わさり微笑ましいハーモニーになった。相性の良い飲み物同士をカクテルにしたような味わいだった。終わるとB組が手を振りながら退場した。
 A組だけになるとB組の子たちはこのように成長するのかと実感する。元気に歌うのはB組と同様だが声の質に成長が見られた。2部合唱で歌う部分があるのは先輩としての貫録だ。B組は「自分たちも、先輩のようになりたい。」と思うだろう。A,B組は「大きい声はいいことだ」と突出した声を出す子がいる場合がある。そこを抑えレベルを維持できたのは指導者の根気強い指導があったからだろう。
 次の金子みすゞの詩による歌は合唱組曲と思っていたら勘違いだった。どの曲も違う作曲者だった。金子みすずは生まれた時代がもっと遅ければ健在なうちに世間の注目を集めたかもしれない。歌詞の内容は優しさが表現されているがその中に隠れている真実があるような気がする。これについては自分なりにあれこれ言えるがそれは省略する。もし金子みすゞがこの場にいたら「私の詩の意味を本当に理解するのは難しいですよ。でも考え過ぎないで先ずは楽しんでください。」と仰りそうだ。それはさておき、S組の歌は各々の曲の特徴を生かした合唱だった。『子どもの時計』は元気に、『私と小鳥と鈴と』はゆったりと歌った。この歌のハーモニーは聴いていて特に心地よかった。『桃』は男の子が桃の木に勢いよく飛びつく様子、飛びついてから両手が塞がっているので何もできないことの気付く、仕方なく枝から「えいっ」と手を放す男の子の元気な様子が想像できた。『葉っぱの赤ちゃん』は、みんなで赤ちゃんを慈しむ気持ちをゆったりと表現した。どの曲もハーモニーがきれいだった。4曲とも違う表現で「ぼくたちはいろいろな歌い方ができます。見直しましたか?」と言っているようだった。これとは別に編曲の成果を忘れてはならない。各パートの声のバランスが取れているのは練習の成果と言える。編曲者のアベ タカヒロさんが紹介され拍手が贈られた。
 薫「金子みすゞはあの時代、あの境遇にいたからあの詩が創れたんだよ。」
 風「時代と環境が違ったらあの詩はできないでしょう。」
五月「今だったら違う詩を創ったはずだ。」
 空「そう考えると面白いね。」

休憩

 A組、S組、SS組で歌った『カイト』は人数の分だけ厚みと強さがあった。また全員が気持ちを一つにした歌だった。3組合同だと対抗心から張り切る子がいるものだがそれがなかったので良い結果につながった。3組それぞれの微妙に違う声が一緒になるのは聴いていて面白い、歌い終わると編曲をした田中達也さんが紹介され拍手が起きた。
 ユースクラスとOBの合唱はこれぞ男声合唱団と思わせる迫力があった。テナーとバスのハーモニーが良く、迫力があった。それだけでなく強弱があり丁寧な歌い方だった。弱音をきれいに歌えるのはさすが合唱経験者だと思った。
 ユースクラスだけの歌は一転して優しいハーモニーだった。中高生独特の若い声はOBとは違った良さがある。やなせたかしの詞は聴いていてほっこりする。メゾフォルテのゆったりした歌は詩を味わうことができた。このような曲を聴くとフレーベル少年合唱団らしい感じる。
OBによる『いちぢく』を聴き、ボニージャックスの歌と似ていると思った。考えてみればボニージャックスは初代の指揮者である磯部 俶先生と関りがあったと聞いている。OBも磯部先生の指導を受けているから共通点があるのだろう。男声合唱は勇壮なだけでなく静かな歌でも魅力が伝わる。今回は両方を聴けてよかった。
   『ハレルヤ』の前奏が始まった時、風君が「ぼくたちも歌おう」と誘った。「もちろん」とぼくたちも態勢を整えた。風君と五月がソプラノ、空君とぼくがアルトだ。「道楽さんはテナーをお願いします。心の中で歌ってください。」しばらく歌ってなかったけれど歌詞も音程もすいすい出てきた。道楽さんも同様だ。歌っているうちに気分が良くなってきた。最後の休符が入った瞬間に気持ちが最高潮に達した。締めくくりの「ハレルヤ」を歌うとうれしい気分になりぼくたちはグータッチした。
風「この歌は聴くよりも歌っているほうがいいです。」
五月「ぼくも同感だ。それとオール男声は力があるよ。」
薫「グロリア少年合唱団とご無沙汰だから久しぶりに聴けた。」
空「A組もソプラノパートの歌えるところだけでいいから舞台に出て欲しかったなあ。」

休憩

   ドラゴンソングは男の子の活発さ、後先を考えない行動、孤独感、想像力の豊かさが表現されていた。作詞者は女性だ。それ故に男の子を客観的に見ることができたのだろう。この少し前に図書館で読んだコミック『小学生男子は本日も晴天なり』を思い出した。それぞれの曲には明るいものあり、静かなものありと詩の特徴を生かしていた。この曲は少年合唱団に相応しい曲だ。曲を聴き、少年たちは楽しく練習してきたことが窺えた。
 全体を聴いてみての感想を述べると、どのグループもハーモニーが良く一生懸命歌っていた。オンライン練習が多かったにもかかわらずこれだけ歌うことができたことに拍手だ。曲によってはごつごつした感じ、はじけている感じのものがあった。しかしこれが少年合唱団の良いところで少女主体の合唱団にはない魅力があった。「少年合唱団はいいな。」そう思える演奏会だった。




                                                           
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