広島少年合唱隊

骨太な合唱 広島少年合唱隊卒業演奏会


 無事空港に到着し広島駅へ向かうバスの中でボーイズ・エコー宝塚の定期演奏会のレポートを書き終えTOKYO FM 少年合唱団の定期演奏会のレポートを開始した。書き出しは順調。没頭しているうち広島駅到着。「お客さん 着きましたよ」の声に促されて下車。そこから徒歩10分ほどの広島東ホールへ行き13時30分開演を確認した。次に広島電鉄の電車で廿日市に行き広島少年合唱隊のビデオを作っているというABCスタジオを訪ねたが店ではなく個人の家のようなので訪問は見合わせ。再び電車で広島市内へ戻ったら開演時間近くになった。昼食をあきらめ販売機でヨーグルトドリンクを求めて取りあえずお腹に入れる。朝食をしっかり食べておいて正解。旅では昼食を食べる時間が取れないことがあるので朝食をしっかり食べないといけない。
 客席を見渡すと定期演奏会と違い座席に余裕があった。この日のプログラムは以下の通り。
1, 少年合唱の響き
 同声合唱組曲「しずかにしてね」より
● かたつむり
● おんなじくまでも
● くきのみ
  同声合唱組曲「ぼくだけの歌」
● あいつ
● ぼくのおうえんか
● なにかいいことありそうな
● 一千億のゆめ
2, 縁の下の力持ち(研究科)
● さとうきび畑
● 夜空の向こう
3, 平和と祈りの歌
● Laudate Dominum
● 折り鶴の飛ぶ日
4, 卒業証書授与及び卒隊員の歌
● Do my best
● 世界に一つだけの花 
5, 僕たちのレパートリー
● 若い翼は
● マイバラード
● ぼくたちの広島
● 歌はともだち
6, みなさんと一緒に
● さようなら

  最初は小学生42名と研究科1名の合唱だ。42名中卒業する6年生は11名。約1/4だ。出だしは声が今一つだったが2部の「ぼくたちのうた」から調子がでてきた。定期演奏会と同じく首にバンダナを巻いて気合いの入った合唱だ。この曲はTFBCのために作曲されたそうで少年合唱によく似合う曲である。広島少年合唱隊にも馴染んできてレパートリーになりそうだ。一部のメンバーによると「がんばれ がんばれ ぼく」という詩の「ぼくのおうえんか」は落ち込んだときに歌いたくなる歌だそうでこの曲を好きな子が多いのだろう。このあたりが気合いの入った合唱になる要因だ。
次の研究科の合唱はいつも通りバランスの取れた落ち着いた歌声だ。縁の下の力持ちなどと言わず人数を増やして活躍して欲しい。男子中高生の声は大学や大人のグリークラブの声と違い初々しい。研究科独特の合唱を多くの人に知ってもらえればと思う。
  続いての平和と祈りの歌は言うまでもなくこの合唱団が力を入れている分野で聞き応えがある。最初の「Laudate Dominum」での6年生3名の重唱が曲を引き立たせていた。「折り鶴の飛ぶ日」はいつもながら自分の心を洗ってくれる。この歌を聴いて以来、時間があるときは平和公園を訪れている。そのような気持ちにさせられる演奏だ。終わって客席が静かな雰囲気になると卒業証書の授与だ。証書が卒隊生一人一人に手渡されていくのはいいものだ。証書に番号がついていて1000号が出た。45年の歴史ある合唱隊ならではだ。1500号、2000号…と続くことを祈る。授与が終わると6年生11名による合唱だ。卒隊生が主役で一人一人が大切にされているなという雰囲気が伝わってくる。力強く合唱するメンバーは実にいい表情をしていて卒業公演ならではだ。
  「僕たちのレパートリー」は歌い慣れているにもかかわらず手抜きのない安定した演奏だ。「平和と祈りの歌」同様、この合唱団ならでの骨太な合唱だ。中で自分の好きな曲は「雨の広島」だ。しっとりと歌い上げるこの曲は心に染み込んでくるようで広島少年合唱隊によく似合う曲の一つだ。これからも歌い続けられるだろう。「歌はともだち」は手話を交えての合唱だ。この曲が最近少しずつ復活してきたと考えるのは自分だけだろうか。「歌はともだち」は1974年4月から1977年3月までNHKで放送された同名の番組の主題歌である。子ども向け音楽番組とされていたが大人が見ても楽しめるレベルの高い内容で自分が少年合唱団やオペラに関心をもち、生演奏を聴きに行くようになるきっかけを作ってくれた貴重な番組だ。この番組を見ていなかったらこのサイトに来ることはなかったはずだ。もしかしたら広島少年合唱隊も出演したことがあるかもしれない。
  最後の「さようなら」で隊員が順番に退場していくのはいつもの風景だ。終了後、OBの保護者Oさんに挨拶すると隊長の林先生の所へ連れて行ってくれた。林先生によると今年は小学生7名、研究科4名が入ったので全体として人数は変わらないそうだ。「よい演奏をして隊員を集めることが大切です」という言葉にまっすぐなお人柄を感じた。会場を出て併設の図書館の書物を見ていると制服姿の隊員が次々と出てきた。舞台で被っていた白いベレー帽がなぜかワインレッドに変わっていた。どの子も仕事を無事成し遂げた明るい表情だった。これからも真っ直ぐで骨太な演奏を期待したい。


第18回 少年少女合唱全国大会


                                        2004年8月8日(日)

 会場の江戸川区総合文化センターに着いたのは1時15分頃。みどりが多くせせらぎもある公園の中に建つ静かな場所だ。会場の外では制服姿の児童合唱団が練習していた。会場内でも別の合唱団が練習中で本番よりこちらを見ている方が楽しい気がする。昼食がまだなので3階のレストランに行って腹ごしらえ。公営施設のレストランにしてはきれいで広くメニューも充実している。食事を終えて会場に入ると広島BCが整列して客席に入るところだった。林先生の指示に従い整然と着席していけるのは日頃の指導の表れだ。自分も後方右側の団員たちの後に席を取り林先生に挨拶した。
 14時に午後の部が開始された。トップの福井少年少女合唱団は男子の数が34名中12名と多い。パンフレットによると元気のよい男の子が多いのが特徴とある。曲目は「福井のわらべうた」から「伊勢伊勢」「おじゃみじゃ」「さあ、さっと」の3曲。方言を使った詩がおもしろくその中一部分、アルトの男の子3人がお化けの声を出すのが印象に残った。男の子の数が多いと合唱の幅が広がると感じるのは自分だけだろうか。3番目の府中少年少女合唱団の演奏が終わったところで広島BCが準備のため客席を離れた。出番は9番目だからかなり早い準備だがここでも静かに出ていくのはさすがだ。この後もいろいろな合唱団が歌ったが印象に残ったのは岡山少年少女合唱団だ。男の子は25名中に中学生らしき子が一人。派手さのない静かでオーソドックスな合唱だがはっきりした言葉で聴く人を惹きつけていく感じだ。
 午後の休憩時間に入ったところでグロリア少年合唱団のGさんが来たので林先生に紹介する。Gさんは暑いのにジャケットにネクタイ着用で礼儀正しい。初対面の人に会うのを意識してのことだろうと感心する。
 お目当ての広島BCは、小学生21名と研究科13名がステージに並んだ。曲目は「花はなぜ咲く」「Tant qui vivrai(花咲く日々に生きるかぎり)」「白い船のように」の3曲。最初の曲は広島BCのレパートリーで伸び伸びと歌っていたが最初に聴いた頃に比べ心に訴えかけてくるものが少なかった。(自分が暑さで感性が鈍っているせいだろう。)2曲目は少年合唱ならではの清らかな感じが出ていた。こういう曲は少年合唱団が歌うことで引き立ってくる。最後の曲は研究科との混声が広島BCらしいバランスのとれた仕上がりになった。
 今回特筆すべきは台湾から来た台北メール成功ジュニア合唱団だ。男子高校生(多分)40名の編成で「Kyrie」「O Happy Day」「安童哥買菜」(台湾歌謡曲)「見上げてごらん、夜の星を」を合唱した。これだけでもレパートリーの広さがわかるだろう。陽気な曲、静かな曲をそれぞれの雰囲気で歌うのはすばらしい。圧巻は「見上げてごらん、夜の星を」をきれいな日本語で歌ったことで大きな拍手とともに「ブラボー」の声があがり観客全員の注目を集めた。
 休憩時間になり広島BCが戻ったところで林先生が自分とGさんを隊員たちに紹介してくださった。Gさんは隊員でサイトを開いている研究科のN君を紹介され楽しそうに話していた。これをきっかけに交流を深めてくれればと思う。
 すべてのプログラムが終わりロビーで待機する広島BCが帰るところを見送ろうとGさんと一緒に待っていると林先生がもう一度、隊員全員に紹介してくださりあらためて挨拶した。きちんと話を聞ける子どもたちに再度感心する。Gさんによるとグロリアとよく似た雰囲気だそうだ。まだしばらく待機しているようなので先に失礼した。 
新小岩駅へ行く路線バスで岡山少年少女合唱団と一緒になった。先生が「静かにするように」と注意していたが非常識なことなく楽しげに岡山弁で話していた。一人だけの男の子もごく自然に会話に加わっていた。「歌、よかったよ」と声をかけようかと思ったが「変なおじさん」に間違われると困るので黙っていた。全員で一つのことを成し遂げた仲間同士は見ていて気持ちがよい。
バスを降りてからGさんと乾杯し1日をしめくくった。

オペレッタは大成功
     
第45回広島少年合唱隊定期演奏会


 2004年10月31日(土)、広島少年合唱隊定期演奏会を聴きに広島を訪れた。今年で3回目である。交通機関に事故が発生したら困るので早めに到着し紙屋町までぶらぶら歩きながら町並みを観察。そこから市電に乗って中電前下車。会場のアステールプラザ1階の市民ギャラリーで当地の経済誌を読んで時間をつぶした後、開場を待つ列に加わった。館長さんが自分より前に並んでいたので取りあえず会釈。館長さんのそばに行くのは割り込むことになるので自粛した。時間になり入場すると隊長の林先生が保護者やOBと一緒に入場してくる人たちを迎えていた。館長さんと一緒に挨拶し前方右側の席を確保した。
 当日のプログラム
1. 世界に届け!
 ・SIYAHAMBA        南アフリカ民謡
・ Let’s search for Tomorrow
・ Tant que vivai
・ 世界に一つだけの花
2. 同声合唱組曲「しずかにしてね」
・ なみは てかな
・ かたつむり
・ おんなじ くまでも
・ くさのみ
・ ちらちら ゆき
3. 縁の下の力持ち
・ 見上げてごらん夜の星を
・ 荒城の月
・ 夜空の向こう
4. 平和と祈りの歌
・ Wait for the Load
・ Surrexit Christus
・ AveVerumCorpus
・ 折り鶴の飛ぶ日
4. 日本の名作童話から
 モノドラマ合唱「ごんぎつね」
・ いたずら ごん
・ ひがん花
・ ひとりぼっちの兵十
・ つぐないたかった
・ 青いけむり
5. 指導者のステージ
・ すべての人の心に花を
・ ふるさと
6. ぼくたちのレパートリー
・ 夢は大空を駆ける
・ 地球の歌
・ 若い翼は
・ 白い船のように
・ Hymn to Freedom

 この日の見所はオペレッタ『ごんぎつね』と司会の女性が紹介した通り少年らしいさわやかな雰囲気で観客の注目を集めた。女性による朗読と少年合唱をベースにした舞台でのごん、兵十、弥助の3名の演技は微笑ましくお涙頂戴になりかねないこの物語を秋晴れのような澄んだ作品に仕上げた。ごん役の小学5年生は着ぐるみにキャップをかぶりいたずらな小ぎつねの身軽な動きを表現していた。台詞のない時の演技も工夫されていて楽しい。兵十を演じた体格のよい高校1年生は適役で雰囲気が出ていた。兵十の友人弥助役の中学3年生も出番が少ないにもかかわらず印象に残った。時間にして約20分の舞台は中身が濃く観客を飽きさせなかった。ごんが死んで物語が終わった後、主役の3人が客席に挨拶する時、キャップで顔が見えないごん役の子のキャップを兵十が脱がして顔がわかるようにしてあげると更に拍手が起きただろう。オペレッタは最後のカーテンコールの演出次第でもっと楽しくなるものだ。司会者により、打ち合わせにないというインタビューが行われ、ごん役の子は楽しく、ちゃんとできたこと、兵十役の高校生は緊張で前の晩眠れなかったこと、弥助役の中学生は難しかったけど達成感があったことなどが紹介された。インタビューの間、指揮をした平田先生を始めとする大人たちが大道具や小道具を次のプログラムに備えて片付けているのを見て「ご苦労様です」と言葉をかけたくなった。聞けばお地蔵さんや兵十の家といった大道具は平田先生が日曜大工で、小道具類は保護者の方々が作ったとのことで文字通り手作りの舞台だ。インタビューが終わり次の「指導者のステージ」に入る前に客席の子どもたちから「いも、いも」という声があがった。舞台に小道具のいもが一つだけ残っていてそのことを言っているのだ。直ちに片付けられたがこういう声が出るのもオペレッタの内容がよかったからだろう。他のプログラムも広島BCらしい凛とした合唱だった。気づいたことをあげてみよう。
 1部の最初の曲は幕開けにふさわしい明るいメロディで声がよく出ていた。これを聴いて当夜の演奏会の期待が高まった。
 2部の変声期前の隊員による『静かにしてね』は4月の卒隊演奏会で聴いている。この時は『かたつむり』『おんなじくまでも』『くさのみ』の3曲でこの後、演奏された『ぼくだけの歌』に隠れてしまった感じで印象が薄かった。今日あらためて聴いてみてそれぞれの曲は、静か、軽快、明るさと変化に富んでいるが一つ一つの曲は短い。この点が印象の薄い原因だが、演奏自体は曲の特徴をとらえたきれいな合唱で4月からの進歩は明らかだった。この曲は譜面で歌詞と音符を読むことでその良さがわかりそうだ。
 3部の変声後の団員による合唱は昨年に比べ声に落ち着きが出てきた感じだ。今回は『荒城の月』が新たに加わった。日本の歌曲も中高生の男声合唱で行うと魅力がある。男声合唱にふさわしい曲はたくさんあるのでレパートリーを少しずつ増やして欲しい。
 4部はいうまでもなく広島BCの毎年のテーマで、観客に対し平和を訴えかける説得力のある合唱だった。最初の3曲は静かな合唱で教会の聖堂で聴いたらどういう雰囲気になるか興味をもった。最後の『折り鶴の飛ぶ日』は一転強いトーンになり大きなホールに向けの合唱になった。こういうメリハリを表現して平和を訴えるのが広島BCの真骨頂で一番聴き応えがあるプログラムだ。
 5部は、今週の木曜日に30分ほどの練習をしただけとは思えない演奏で専門家ならではだ。うまくできて当たり前だからプレッシャーがあると思うがそれを感じさせないハーモニーはきれいで、こういう歌を聴けば隊員たちも真剣になるだろう。
 最後のぼくたちの「レパートリー」はメンバーの誰かが歌い出すと自然に合唱になるそうで全員が伸び伸びと歌っていた。夏の全日本ジュニアコーラスで聴いた曲も数段よくなっている。やはり本拠地で聴くのが一番だ。アンコールに応えドラマ「白い巨塔」でお馴染みになった『アメイジング グレイス』で終了。今年も充実したプログラムで最後まで楽しめた。ここで注文を一つ。観客にとってあまり馴染みのない原語で歌う曲に関してはどういう内容かを司会者が紹介してくれるとわかりやすくなるのでお願いしたい。ロビーに出て館長さんと話していると顔なじみでOBの保護者であるOさんを見かけたので挨拶。「毎年楽しみにしています」と言うと「わたしもなんです」と言葉が返ってきた。こういう人たちが他にもっといないかなと思う。「先生たちに挨拶して帰りましょう」と館長さんに誘われ舞台裏の楽屋へ行って林先生、平田先生に挨拶。楽屋にお邪魔するのは初めてで思わずキョロキョロしてしまう。演奏を終えた隊員たちが落ち着いて行動しているのを見て躾が行き届いていると感じた。心地よい思いを味わい会場を後にした。

広島少年合唱隊第43期生卒業演奏会
思い出を歌にのせて    〜アメリカ演奏会旅行報告〜

                                                               2006年4月29日

 会場のアステールプラザ多目的スタジオは、練習所として使われることが多いようだ。ここにパイプイスを並べての演奏会は肩肘張らずアットホームな雰囲気だった。

 当日のプログラム
1. ぼくたちのレパートリー
 ・マイバラード     ・怪獣のバラード
・ こどものための合唱組曲「チコタン」
2. 縁の下の力持ち(研究科)
・ 荒城の月
3. 平和と祈りの歌
 ・Pie Jesu     ・O Lord hear Prayer
4. 卒業証書授与及び卒隊員の歌
・ Panis Angelicus
5. アメリカ演奏会旅行報告
・ 写真スライド映写
6. 日本の歌
 ・ソーラン節    ・日本古謡集
 混声合唱組曲『いつの日か』
・ シャボン玉 ・揺りかごの歌 ・証城寺の狸囃子 ・汽車 
・ みかんの花咲く丘 ・どんぐりころころ ・赤とんぼ
7. みなさんと一緒に
・ さようなら

 開場となり客席に入ると隊員たちが座席で待機中だった。集合がかかるまで静かに座っていられるのは心構えの違いだろう。開演5分前に林先生が歓迎の挨拶。その中で看板や衣装、照明などは指導者、保護者、OBが担当していることが紹介された。終わると隊員たちが整然と体形を作り指揮の平田先生が登場して演奏会が始まった。自分はいつも舞台から離れた席を取るが今回は前から2列目を確保した。ここだと隊員の表情や指揮者の動きをはっきり捉えることができ視覚的な楽しみが加わる。平田先生の指揮は動きと表情で少年たちを引っ張っていく感じ。これはわかりやすそうだ。1部はレパートリーというだけに伸び伸びと安定した合唱が聴けた。『怪獣のバラード』は着ぐるみを着た2名の隊員が恐竜の動きを表現するのが面白く会場から手拍子が起きる楽しい演出だ。

 研究科による『荒城の月』は4名の隊員が袴姿で刀を持ち舞台を降りて雄々しい踊りを披露した。歌は平田先生と5名の隊員が朗々とした声を響かせ、引き締まったステージとなった。この歌はボーイソプラノやボーイアルト、テノールといった男声に似合う曲だ。 

  3部の『Pie Jesu』は式典服に着替えた小学生による合唱で3名の重唱でスタート。少年合唱定番のこの曲はいつ聴いても敬虔な気持ちになる。心を込めて歌っているので尚更それを感じた。次の『O Lord hear Prayer』は研究科が加わり厚みのある合唱を聴かせてくれた。いつの日か広島少年合唱隊が歌う宗教曲を教会で聴いてみたいと思う。アメリカの演奏旅行は教会でも歌ったそうでそのおもいが強まった。続いて小学6年生を終えた8名の隊員に卒業証書が授与された。一番長い隊員は1年生の終わりに入隊し約5年間を過ごしたことになる。証書をもらう8名はしっかりした態度で好感がもてた。これも日頃の家庭や合唱隊での指導の成果だ。この8名と研究科による『Panis Angelicus』はこの日、一番の合唱だった。

  5部は会場の照明を落としアメリカ演奏旅行のスライド映写だ。今回はペンシルバニア州フィラデルフィア、ワシントンDC テネシー州オークリッジを9日間でまわりその間、教会や小中学校、日本大使館で演奏会を開いたそうだ。演奏会のエピソードやホームステイの様子も紹介された。話を聞きこの種の演奏旅行に同行し、レポートを書きたいが今の自分にはできない相談だ。

  6部の日本の歌はアメリカで演奏された曲で小学生は浴衣、研究科はハッピ姿で登場。勇壮な踊りを入れた『ソーラン節』、日本情緒を表現した『さくら さくら』『お江戸日本橋』、童歌の『とおりゃんせ』は普段はそれほど関心はないがこうして聴くといいものだ。日本人に生まれてよかったと思うのは年齢を重ねたせいだろう。アメリカの演奏会ではどのような反応があったのだろうか。アメリカでは質問コーナーを設ける日があったそうだ。活発な意見交換ができたようで具体的な内容を知りたくなった。『いつの日か』はシャボン玉を飛ばす、赤ちゃんを背負いあやしながら歩く仕草、狸の着ぐるみの踊り、二人一組の手遊びなどの楽しい演出があった。平和な光景と昔の日本を視覚化してアメリカの観客に訴えようという姿勢は評価できる。しかし曲によっては編曲のため、本来のイメージと離れていると感じるものもあった。曲をよく知っている日本人にとってはこれも面白く受け止められるがそうでない人はどのように受け止めたかは疑問だ。思い切って本来の楽譜で歌った方が『日本』の音楽が伝わると自分は思った。

  最後に『さようなら』を歌いながら卒隊生一人一人が花束を受け取り、客席中央通路を歩いて退場していく。この光景を見るたび隊員一人一人が大切にされているなと感じる。これとは別に転校のため辞める隊員が紹介された。きょうのためにわざわざ横浜から駆けつけてくれたことも合わせて紹介された。指導者の心遣いを全ての隊員が受け止めきょうのようなすばらしい演奏ができるのだろう。新隊員8名も紹介され今シーズンも楽しみな広島少年合唱隊だ。

人の心に訴えかける合唱
第47回広島少年合唱隊定期演奏会

                            2006年10月28日


  3日間の出張を終えて戻ってきた道楽さんは豆腐と野菜の煮物と焼きたてのサンマでビールを飲みながら疲れを癒していた。ぼくたちも久しぶりに温かい食事の香りを吸い込めてうれしかった。「いよいよ秋のシーズンだ。グロリアの聖堂コンサート、フレーベルの六義園コンサート、広島少年合唱隊の定期演奏会。10月だけでもたくさんあるよ」ぼくが言うと「去年の広島の定期演奏会レポートがないですよ」風君が不満そうな顔をした。「ほら、言われた。あんたの怠慢のせいだ」「そう言うなよ。ついついタイミングを逃した」「今から書いたらどうですか? 今年の定演の予習を兼ねて」「そうしようよ。メモを見れば書けるだろ」「できるかな? あの日のことは覚えてないし」「思い出させてあげるよ。あの日は10月28日の土曜日だった。始発のANAで出発した。市内は晴れで暑かった。あんたはヤマハで『火の国』の楽譜を探したけれど置いてなかった。お昼ごはんを食べに入ったいつものキッチンで牡蠣フライを頼んだら海水温度が高くて牡蠣が入荷していないと断られた。替わりにレバーの炒め物で食事を済ませて早めにホテルにチェックインした、夕方まで部屋にこもって仕事をした。そして演奏会に出かけた。会場はホテルから歩いて行けるアステールプラザだ。客席で演奏中も出入りする子がいた。その上、鈴のついたアクセサリーを持っていたから余計耳障りだった」「先輩。よく覚えていますね」風君が感心した顔をした。「ぼくは記憶力がいいんだ。さあ、道楽さん。思い出してきたろう。このままいこうよ」「わかった。プログラムは覚えているかい?」「そこまでは無理だ。去年のプログラムを見よう」「了解」道楽さんは本棚からプログラムを持ってきて中身を開いた。

1. 世界に届く!(アメリカ演奏旅行より)  
・荒城の月  ・マイバラード ・見上げてごらん空の星を 
・怪獣のバラード ・カンタール
2. 懐かしき日本の歌
混声合唱のための童謡メドレー
『いつの日か』より
・ シャボン玉 ・ゆりかごのうた ・証城寺の狸囃子 ・汽車のうた
・ どんぐりころころ ・赤とんぼ 
3.ティチャーズステージ
  ・千の風になって
4. とどけ愛のメッセージ
 ・時をください  ・青い鳥   ・一本の樹

 「以上が前半だ。あんたはくたびれているだろうから先ずは前半を片付けよう」「了解」。
 ではレポートに入ろう。「いよっ」と言う声を合図に太鼓が鳴るとハッピを着た年上のメンバーが舞台に登場し、きびきびとした踊りを披露しつつ『ソーラン節』を歌った。ピアノは使わず太鼓だけを鳴らすので勇ましい歌となった。終わると舞台が暗くなり女性司会者のスピーチの後、舞台が明るくなると林先生、平田先生と研究科4名の合計6名が『荒城の月』を歌った。これは男声合唱ならではの深い声だった。歌っている6名の前では研究科4名が袴姿で刀と扇子を手にきびきびとした踊りを披露した。再度舞台が暗くなり『マイバラード』の伴奏が流れた。舞台は明るくなり全員による合唱だ。いつも思うことだがこの合唱団は質実剛健な雰囲気があり、合唱にもそれが表れている。『マイバラード』は聴く機会が多い曲だが広島少年合唱隊の歌うそれが一番気に入っている。続いては林先生、平田先生と研究科で『見上げてごらん夜の星を』だ。これはアカペラでの合唱で声を十分に堪能できた。この歌も男声合唱が歌うと深みが出る。テノールパートの声が心に響いた。次は再び全員体勢になり『怪獣のバラード』だ。この曲も広島で何度も聴いている。この日も声が一つにまとまり、ぐいぐいと歌に引きこまれていく感じだ。2番に入ると恐竜の着ぐるみを身につけた二人の小学生が登場し、けんかをして最後は肩を組んで踊るパフォーマンスを披露した。このパフォーマンスも自分にとって楽しみの一つだ。そう考える人が多い証拠に恐竜が出てくると客席から一斉に手拍子が起きた。一部の最後は初めて聴く『カンタール』だ。靴音が響くぐらいに床を踏みならし大きく手を動かしながらの合唱はゴスペルのような感じがした。この曲について作曲者や曲名で調べてみたが未だにわからないでいる。これに関しては資料館に行って調べるつもりだ。さて、歌が終わるとパワーポイントを使ってこの年の春に行ったアメリカで演奏旅行の様子が紹介された。
 2部に入ると「わー」という歓声とともに団員が舞台に整列した。研究科はハッピ、小学生は着物に白足袋を着用していた。『シャボン玉』は小学生4名が前に出て実際にシャボン玉を飛ばし雰囲気を出した。『ゆりかごのうた』は小学生1名がねんねこ姿で人形をおぶい、あやしながら歩いて見せた。これはアメリカの人々にもおおよその雰囲気が伝わっただろう。人形は一部の隊員と同じ柄の着物を着ていて思わず頬がゆるんだ。『証城寺の狸囃子』は狸の着ぐるみを身につけた中学1年生が曲に合わせたユーモラスな振り付けを披露した。合わせて研究科2名が鳴らす和尚さんの鐘の音とのやり取りがあり楽しめた。「あの人は、2年前にごんぎつねをやったよね」「あの時もよかったけど、これもおもしろい。センスがあるんだな」と感心した。『汽車のうた』は『汽車』、『汽車ぽっぽ』(おやまの なか ゆく きしゃぽっぽ)、『汽車ぽっぽ』(きしゃ きしゃ しゅっぽ しゅっぽ)を混ぜ合わせた歌だ。蒸気機関車のシリンダが動く様子を表現しながらの軽やかな合唱だった。『どんぐりころころ』は波打つようなかわいい振り付けで軽快に歌い、最後に「エーン」と鳴いて見せるのがおもしろかった。最後の『あかとんぼ』は一転、直立姿勢で静かな歌い方になった。研究科の低い声が秋の情景を思い起こさせた。メリハリを効かせた童謡は十分に楽しめたが「どうかな?」と思ったことを書いておく。一部の曲は編曲された結果、本来の曲とは差ができていた。本来の曲をよく知っていれば楽しめるがそれを知らないアメリカの人たちに聴かせるのはどうかということだ。「本来のものを伝えた方がよかったのではと」と思ったので書き添えておく。
 3部は指導者8名(女声4名、男声4名)による『千の風になって』は少年の声と違い大人のもつ深い味が楽しめた。
 4部は筒井雅子先生の曲だ。『時をください』はアメリカの9・11テロの犠牲者へ思いを馳せた曲だそうで切々と訴えるような仕上がりだった。中学生1名と小学生3名が前に出てオブリガードを歌った。「愛をください」「慈しみをください」と静かに歌う部分は特に訴えるものがあった。『青い鳥』は環境問題をテーマにした曲だそうで最初は「青い鳥」のことを静かに歌い中間の「汚れ空、汚れた海、おまえの翼は鉛色」を強く歌う。そして再び「青い鳥」のことを静かに歌って終わりになる。なんとなく余韻が残る曲だった。『1本の樹』は前の2曲と違って明るいメロディだ。校庭の楠へのいろいろな気持ちが込められた詩は自然への感謝の表れだ。この合唱を聴き身のまわりの自然に感心をもつ人も多いだろう。途中「樹はわたしたちを静かに見守っています」という内容の長い台詞があり4名の小学生が順番にマイクの前に立った。さわやかな声は合唱で鍛えられた成果だろう。さて、筒井先生は小学校で音楽の専科を担当しており自分で作曲した曲を授業に取り入れているそうだ。曲に関しては学級や学年で歌える歌をという方針があるようだ。『1本の樹』は筒井さんのお嬢さんが小学生の時に校庭の木を見て詩を作った。それを土台にしてこの曲はできたそうだ。3曲に共通して言えることは人の心に訴えかけてくることだ。休憩時間になったがしばらく席で余韻に浸った。
ここまで話したら道楽さんの食事が終わった。食器を洗い終えた道楽さんはお茶を準備し、だんらんの体勢になった。「やっぱり我が家の食事はおいしいな。ホッとするよ」と言う道楽さんに「幸せなんだね」とぼくは返した。「おいしいものがあるからちゃんと家に帰ってくるんですよね」と言う風君に「そうだけど、君たちがいてくれるのもあるな。早く帰って顔を見たいから」。ぼくは風君と顔を見合わせうれしい気分を味わった。

「では後半をやろうか。薫君、覚えていることがあったら言ってくれ」「鈴の音がうるさかったこととむずかる子どもの声以外は何も覚えていない。あんたのメモを読んで書いてくれ」「OK」。というわけでプログラムから書いていこう。
4. みんなで歌おう
 ・さんぽ  ・カントリーロード  ・君をのせて
5. OBとお母さんの歌  
 ・遙かな友に   ・ふるさと
6. とどけ平和のメッセージ
 ・折り鶴の飛ぶ日  ・「レクイエム」より ・ピエイエズ ・インパラディズム
7. ぼくたちのレパートリー
 ・深い河 ・地球の詩  ・Let‘s search for Tomorrow
みなさんと一緒に
 ・さようなら

 5部の最初は色とりどりのバンダナを首に巻いた小学生による『さんぽ』だ。低学年7名が前に出て行進する姿が観客の笑みを誘うと共に手拍子が起きた。低学年がいる合唱団がスタジオジブリの歌をやる場合、『さんぽ』は欠かせない曲だ。次の『カントリーロード』は研究科も加わっての合唱だ。残念ながら足を左右にステップさせる振りが目障りで合唱が割引きされてしまった。一人一人がステップすれば問題ないが横のメンバーと手をつなぐと動きがぎくしゃくするからだ。これは一人一人のリズムの取り方が微妙に違うせいだろう。振り付けは別のコーナーでも披露したのだからここは合唱に徹した方がよかった。ところでこの曲はジョン・デンバーの歌として自分の頭に入っている。もしオリジナル曲を知らないのなら聴いてみるとよいだろう。ジブリの曲とは違うイメージをもつはずだ。次の『君をのせて』は振り付けなしで合唱に徹したが煮込みが足りないように感じた。この曲は楽譜通りに歌うだけでなくプラスアルファがないと訴えるものが弱くなってしまう。この点に関しては、歌い込むことで次第に味わいが出てくるはずなので次の機会に歌って欲しい。
 6部のことも書こう。最初の『遙かな友に』はアカペラならではの声の輝きを楽しめた。自分も昔、ステージで歌ったことがあるが歌いやすくそれなりの演奏効果があったことを覚えている。2曲目の『ふるさと』は現役団員も加えたアカペラで人数が多い分、厚味があった。ゆっくりしたテンポが重厚さを引き出したのも良かった。
 7部の曲は広島少年合唱隊の演奏会ではぜひ聴きたい曲だ。特に『折り鶴の飛ぶ日』がそうだ。この曲を初めて聴いた後、早速平和公園に赴き、さだこの象を見て歌の内容を噛みしめた。以来、広島を訪れたら出来る限りこの場所に足を運ぶことにしている。広島少年合唱隊の歌には自分をそうさせる力があるのだ。この日の合唱も歌い継がれてきた平和への想いを感じた。次のフォーレの『ピエイエズ』は3名の小学生の声を軸に清らかな少年の声を聴くことができた。続いての『インパラディズム』も自分の心を浄化するような清らかな歌だった。「典礼服でなくて制服のままだね」薫が言った。「あっ、そうだね。どうしたんだろう」。この日は最後まで制服だった。
8部に入ろう。『深い河』は先研究科の合唱で始まった。この声がゆったりとした感じで気持ちよく合唱へ引きこまれた。この声を小学生が追う形が前半で中盤から後半は小学生の高音をうまく使った混声合唱が聴けた。また前に出て歌ったアルト3名の声がさわやかでよかった。『地球の詩』は小学生の声を前面に出し歌詞をじっくり聴かせる合唱だった。続いての『Let‘s search for Tomorrow』は何度も歌っている曲なので安心して聴いていられた。この3曲はしっかりした土台の上に建つ建造物のようで広島BCの良さが味わえた。終わるとプログラムにはない『カンタール』をもう一度合唱した。観客から手拍子が起こりそれに乗って全員楽しそうに歌っていた。この歌は少年たちが一番好きな曲だそうだ。最後は恒例の『さようなら』を観客も一緒に歌って終了した。
「どう? 風君。イメージがつかめたかい?」ぼくが尋ねると「やっぱり実際に見てみないとわかりません。でも何が聴きどころかはわかってきました」と風君は答えた。ぼくは、復習と予習をいっぺんにやったような気になった。

心がふるえた『折り鶴のとぶ日』
第48回広島少年合唱隊定期演奏会

                             
2007年10月21日


  ぼくたちが広島バスセンターに到着したのは9時15分頃だった。家の最寄り駅から電車に乗ったのは5時過ぎだったから4時間ちょっとしか経っていない。だから「もう着いちゃった」という感じだ。ここから歩いてホテルに荷物を預け路面電車とフェリーを乗り継いで宮島へ行き厳島神社など島の風景を楽しんだ。名物のあなご丼でお昼ごはんを食べてから午後の遅い時間に市内へ戻り、平和公園のサダコの像やあおぎりの木、原爆資料館を見学した。宮島で、はしゃいでいた風君が真剣な表情になり「生きていてよかった」と言った。「広島少年合唱隊を聴く前にここを見学するのは大切なんだ」と道楽さんも真面目な顔で言った。では定期演奏会の様子を紹介しよう。当日のプログラムは以下の通りだ。 

1.広島ユネスコ活動奨励賞受賞を記念して(海外演奏で学んだ曲)
・ Light the Candle All Around the World
(キャンドルを灯そう)
・ カンタール(歌おう) ・クルルインバダダー
2. 少年合唱の響き
・ 同声合唱組曲「ぼくだけの歌」より
あいつ ぼくのおうえんか なにかいいことありそうな 一千億の夢
3. OBとお母さんの歌(HBCファミリー)
・ 混声合唱組曲「土の歌」より
農夫と土 大地讃頌
4. 平和を願って
・ねがい 坂田江美作詞 吉田峰明作曲  ・折り鶴のとぶ日
5. 僕たちのレパートリー
・ Let’s search for Tomorrow 
・With You Smile  ・昴
6. 広島ジュニアオーケストラをゲストに迎えて
・ 「リュートのための古風な舞曲とアリア」第1組曲より
・ フォーレの「レクイエム」より
サンクトウス  ピエイエズ  インパディズム
・ アヴェヴェルムコルプス
7. みなさんと一緒に
・ さようなら

ピアノの演奏が始まるとペンライトを手にした隊員たちが客席後方から入場し舞台に整列し1曲目が始まった。力強くリズミカルな曲だが、4列体形約40名の声がこの曲をよりボリュームのあるものにした。今年はプログラムにあるように賞を受賞したそうでそれにふさわしい幕開けの曲だった。2曲目の『カンタール』は、ピアノ伴奏にタンバリンが加わりこちらもリズミカルな合唱を楽しめた。途中前に出て歌った5名の声はきれいで、この子たちが歌い終わると客席から拍手が起きた。この曲のもう一つの楽しみは軽快な振り付けだがこの日は昨年に比べ、ぎこちない感じがした。始まったばかりで心身が十分に暖まっていなかったのかもしれない。3曲目はアフリカ民謡でこれもリズミカルな曲だ。研究科、アルト、ソプラノの順で声が次第に重なっていくのがおもしろく自然に体が動きそうになる曲だ。最後に靴を脱ぎ頭の上で「ぱちん」とたたく振り付けがあり、隊員たちはみんな楽しそうで緊張が一気にほぐれた。

2部は少年合唱団に最も似合う曲の一つである。けんかをして仲良くなった友だちの病気を本気で心配する「あいつ」、何をやってもダメな自分を応援する「ぼくのおうえんか」、     
夕日を見て、明日は何か良いことがありそうだとみんなで思う「なにがいいことありそうな」、友だちとどこまでも夢を忘れないように歩んでいこうという「一千億の夢」の4曲は多くの男性が共感するのではないだろうか。ソプラノ、メゾソプラノ、アルトの3部合唱は余計な飾りつけのないストレートにビンビン飛んでくる声で広島らしさが出ていた。また体中を使って表現しているアルトの少年が印象に残った。4曲の中では入院している友だちを見舞う箇所での悲しい気持ちが伝わってくる「あいつ」がよかった。「バンダナの結び方を工夫すればもっと格好良くなるよ」薫がポツリと言った。この曲を歌う時は赤、緑、黄などのバンダナを首に巻くのでそのことを言っているのだ。前の制服の時は違和感がなかったが新しい制服だと薫の言うとおりなのだ。今年から新しくなった制服はボタンダウンのカッターシャツ、ダークグリーンのネクタイ、チャコールグレイの長ズボン(小学3年生以下は同色の半ズボン)、黒い靴下に短靴である(客席から見ただけなので違っているかもしれません)。カッターシャツはダークブルー系を淡くしたような地(ボキャブラリーが貧弱なのでうまく表現できません)に細いストライブを入れたお洒落なデザインだ。特にネクタイとの調和が独特で良い意味で大胆なコーディネイトだ。話を戻そう。バンダナを巻くのならこの制服にふさわしい巻き方があるはずで工夫するとよいだろう。もう一つ、前の制服と比べての賛否両論はあるが自分は新しい制服の方が好きである。

 3部は難しい曲を選んだなと思った。舞台に立っているお母さん方は合唱の経験が豊富なのだろう。

 4部の最初の曲はチェルノブイリ原発事故をテーマにした曲だそうだ。最初は魚が泳ぎ、氷が張っている海のことを静かに歌い、1986年に起きた事故のことを重く歌う部分に入る。これがしばらく続き後半は静かな調子で「この地球のことを想う」旨を歌って終わる。短いながらも心に沁みる合唱だった。さて、ここまでは野球のピッチャーで言えば伸びのあるストレートで押してくるのと似ていたが『折り鶴のとぶ日』は一転して変化球をまじえコーナーを投げ分けるような感じになった。声が丸くなりドラマ性のあるこの曲を譜面に応じて変えているからだ。ただ歌い継がれてきただけではこうは歌えないだろう。そう思う仕上がりで、曲が終わった時、戦慄のようなものが走った。ここで休憩となり階下のソファーで一休み。「きのう、平和公園を見学しておいてよかっただろう」薫の言葉に風が黙ったままうなずいた。

 5部は『折り鶴のとぶ日』で味わったことで固くなった心をほぐしてくれた。どの曲も少年の混声ならではのさわやかさがあった。特に『昴』はそれぞれの持ち味が混じり合う厚みのある合唱で、たくさんの材料がうまく調和した菓子を食べたような気持ちになった。合唱が終わり、心が落ち着くと後半のメインである6部だ。先ずはジュニアオーケストラ約40名の弦楽器のみの演奏だ。これだけの人数の弦楽を聴くのは初めてで「力強い」と驚いた。始める前にコンサートマスターの少年を中心に音合わせするのも本格的だ。1曲目が終わると後のひな壇にいた年少者約20名が退場し替わって合唱隊のメンバーが2列に並んだ。他に鍵盤楽器1台とフルートとクラリネット奏者が各2名ずつも加わった。ここからオーケストラの伴奏で「レクイエム」となる。下手な奏者だとやたらに音を鳴らし歌声を消してしまうが調和のとれた演奏が聴けた。流れていくような落ち着いた合唱を基調にして時にドラマチックになるのはオーケストラによるところが大きい。また『ピエイエズ』を前に出て歌った3名は積み重ねた練習を通した輝きがあり幸せな気分に浸った。最後のアヴェヴェルムコルプスはオケ、合唱とも重厚な感じになり普段はなかなか聴けない演奏となった。アンコールを期待したが残念ながらなし。締めはOBを含めた全員による『さようなら』ですべてを終えた。ここで紹介しておきたいことがある。会場係のお母さん方だ。遅れてくる観客がかなりの数いて、そういう人たちを受付から客席まで案内していた。せっかくの我が子の晴れ姿を見ることなく裏方に徹している方々のおかげで自分たちは演奏会を楽しめるのだ。少年たちがすばらしい合唱ができるのはお母さん方の影響も大きいのだろう。

 会場を出てから風君に「どうだった?」と聞くと「『折り鶴のとぶ日』がよかったです。体が震えました」と答えた。「予習した成果だね」道楽さんが笑った。道楽さんの時計を見ると4時になっていなかった。「どうする? 早い便で帰ろうか?」。ぼくが言うと「今から帰ると東京の気の利いた食堂は終わっている。ポルトルージェで早めの夕食を食べて最終便にしよう。どうだい?」「じゃあ、そうしよう。でも夕食には早いよ」「ちょっと散歩して一杯やりながら演奏会を振り返ろう」「何を飲む?」「ドライマティーニが欲しい」「なんですか? それ」と尋ねた風君に「道楽さんの気分が高まっている時に飲みたくなるカクテルだよ。行けばわかる」「そうですか?」首をかしげる風君に「2杯までにさせよう」と肩をたたいた。道を歩きながら「生きていてよかった それを感じたくて 広島の町から わたしは あるいてきた」という『折り鶴』の歌を口ずさんだ。


 合唱を聴けたことに感謝
広島少年合唱隊第61回定期演奏会 〜届け 愛と平和のメッセージ〜      
                              2020年 11月23日


   広島少年合唱隊と同じ時期に定期演奏会を行う桃太郎少年合唱団と呉少年合唱団は関係者だけを対象にして開催することになった。広島少年合唱隊の定期演奏会はどうなるか、果たして行っていいものかと迷っていたらドールボーイズが出てきた。「案内状に書いてある来場の条件は満たしているから大丈夫」「11月で切れるANAの優待券もある」「演奏会場に入れなくても宮島の紅葉は見れます」「宮島のシカを見たい」、ということで衆議が一決。旅立つことになった。会場の広島市西区文化センターでは、検温と手の消毒、連絡先の記入をするよう案内していた。それをクリアして無事入場できた。入り口でプログラムをセルフサービスで取り、中へ入った。客席は、市松模様で、舞台近くの席は空けてあったから定員の半分弱の席数だ。しかし席は埋まらず余裕があった。例年、席はほぼ埋まるから自粛ムードが行き渡っているのだろう。この日のプログラムは以下の通りだ。

            
予科・本科・研究科ステージ
1、あなたに会えて  2、大切なもの  3、明日という日が 
4、折り鶴のとぶ日  5、いのちの歌  6、世界が一つになるまで
予科ステージ
7、世界中の子どもたちが  8、にじ
研究科・OBのステージ
9、平和という果実  10、ほらね
合同ステージ
混声合唱のためのための「碑」より
11、船の中で  12、終章

  ステージに出てきたメンバーは全員マスクを着用していた。整列している姿を見て、合唱は密に近いとあらためて認識した。この時はそこまでやらなくてもと思ったが、数日後、ある地域で集団クラスターが発生し、合唱コンクールが原因らしいと報じられた。それを知り、少年合唱隊の対応は正しかったと考え直した。さて曲数は例年より少なかったが、映像による自己紹介があり親しみがもてた。音楽を聴くと気分が高揚したり落ち着いたりと様々な効果がある。今回の演奏会は後者だった。どの曲も適度な音量で静かに、はっきりと語りかけてくるようだった。体でリズムを取っている少年もいてその姿に「いいな」と思うと同時に聴いている自分も心がなごんだ。この日は宗教曲で培ってきたセンスが生きていた。宗教曲は上手に歌うだけでは人の心に伝わらない。そうならないよう日頃の練習が大切だ。この点は指導者がきちんと教えたのだろう。その成果で聴く者の心に伝わってきた。全体の声のバランスが良いことも一因だ。今回の選曲は、コロナ渦で落ち込んでいる社会のことを考えてのことだろう。「大切なことは元気に生きていこと」、「大切なことに気が付かないことがある」「明日は来る」「一生懸命生きる」という当たり前のことを伝えてくれた。心が疲弊してくるとこの「当たり前」が見えなくなる。今回の合唱はその「当たり前」に気付かせてもらった。

  休憩後の予科のステージでは、8名が気持ちを合わせて一生懸命歌う姿にほのぼのとした気持ちになった。2曲とも振付があり、練習を重ねたことが窺えた。もう少し楽しそうな表情になればと思ったが真面目な表情で歌うのはこの年代の男の子たちの特性だろう。

  次に、OBと研究科合同のステージについて述べる。コロナのため、練習を休止する期間はあったにもかかわらず、この日のために練習してきたことが紹介された。卒隊すると他の地域へ進学や就職をする人が多いだろし、地元に残っても時間的制約があるから毎回練習に参加することは難しい。そのようなハンディを乗り越えての発表は価値がある。合唱は静かに訴えかけてくる感じで、僧侶の有意義な話を聞くような気持ちになった。。メンバーの中には年配の方々の姿も見られ、深い声に味わいがあった。少年の頃に培われたセンスは今も生きている。現役の少年たちにも良い影響があるだろう。

   この日最後のプログラムである合唱組曲『碑』は当初、全曲(9曲)を観音高校の合唱部OB、OGのみなさんと合同で演奏する予定だったそうだ。今回はこのうちの2曲を歌った。本科と研究科、OBのみなさんは静かに、時に強く歌っていた。聴いていて、かなり歯ごたえのありそうな曲だと思った。全曲を次回の演奏会で歌うとのことでコロナが収まっていることを祈るばかりだ。

   演奏会最後は、少年たちの「マスクなしで歌いたい」の希望を受け、リモートで歌う様子が映像で紹介された。やはりマスクなしの方が良い表情で歌っていた。マスクをすると歌うための呼吸が十分できないから辛いと思う。自分もマスクを着用したら長時間歌い続けることは難しい。だから少年たちに「よくやった」と称賛を贈りたい。

  これを書いて気が付いた。演奏会の曲数が少ないのは練習時間の不足とマスクが原因だと。合唱だけを聴いていればマスク着用には気が付かなかっただろう。くぐもった声ではなかったからだ。
演奏会後は、3月に行う予定だった卒隊式が行われた。例年通り、卒隊生は白い典礼服を着用し平田先生から証書と記念の盾を受け取った。
この演奏会で隊長が平田先生から今田先生に引き継がれることが紹介された。最後は全員で『大地讃頌』を歌った。普段はそれほど意識していない「無事に生きていること」に感謝した。少年のもつ清らかさをあらためて感じた演奏会だった。

 演奏会の翌日、ユーチューブによる画像を見た。生の演奏を聴いたうえで見ているとあらためて「いいな」と思った。そう思うのは生の演奏を聴いたからであって画像だけを見たならどう感じるかは疑問だ。音楽はやはり生で聞いた方がよい。演奏会を開催した広島少年合唱隊に感謝します。

  後日、『碑』について調べてみた。この曲は被爆して亡くなった旧制広島二中の生徒のみなさんと先生を鎮魂する曲だそうだ。このことについて4、5年前、平和公園で修学旅行中の小学生から質問されたことがある。「広島二中の○○さんのことを知っていますか?」「(現在の市立広島二中のことだと思った)残念ですけどわかりません」「学徒動員で被爆して亡くなったことが資料館に展示されていますが見ましたか?」「(これで質問の意図が分かった。ただ、その日は資料館に行かなかった)気が付きませんでした」「原爆をどう思いますか?」「そうですね。・・・とにかく戦争をやってはいけません」「ありがとうございました」というようなやり取りをした。おそらくいろいろな人に質問した結果を資料にまとめるのだろう。質問が終わりその子がいなくなると、校長先生が出てきて「ご協力ありがとうございました。どうでしたか?」と聞かれた。「子どもたちはよく勉強していますね」と本音で答えた。後になって名刺を渡し、結果を送ってもらえないか相談すればよかったと悔やんだ。このことで、広島二中のことが頭の片隅に残った。その時は掘り下げようとは思わなかったが今回の演奏会を機に詳しく調べてみなければと思った。『碑』全曲を聴くためには予習が必要だと思ったからだ。

 広島少年合唱隊第59期生卒業演奏会
広島ルーテル教会  2021年3月20日

プログラム
●祈りを込めて   
 しあわせになあれ    弓削田健介 作詞・作曲
 大切なもの       山崎朋子 作詞・作曲
●研究科・OB合同演奏   
 はる          谷川俊太郎 作詞 信長貴富 作曲
 ほらね         いとうけいし 作詞 まつしたこうたろう 作曲
●卒業に寄せて
 あなたに会えて     山崎朋子 作詞・作曲  
 旅たちの日に      小嶋 登 作詞 坂本 浩美 作曲  
●卒業証書授与・卒隊生の歌
 Pie Jesu G.Faure 作曲
●ぼくらのレパートリー
 カンタール!    
 大地讃頌        大木惇夫 作詞 佐藤眞 作曲
●みなさんと一緒に
 さようなら      倉品正二 作詞・作曲  

 小雨の中、ルーテル教会に到着すると保護者の方に「こちらからどうぞ」と案内された。コロナ以来の約束事である手指の消毒をし、受付に置いてあるプログラムを自分で取り会場に入ると、卒隊証書を受け取る練習が行われていた。会場内は卒隊を祝おうという雰囲気が漂っていた。自分の気分もリラックスし、良い演奏会になりそうだと思ったらその通りになった。
●祈りを込めて
祈りを込めては、小学生と中学・高校生との合同演奏だった。歌詞の内容がよく聴き取れ気持ちが優しくなる歌い方だった。11月の定期演奏会時同様、この日も全員マスク着用だったが声が籠ることはなかった。定期演奏会後、練習休止期間があったそうだがそれを感じなかった。各隊員の真面目な取り組みがあったからだろう。
●研究科・OB合同演奏
 男声合唱は勇壮さと重厚感が持ち味だと思う。しかしそれだけではないと感じた。この日の合唱は穏やかで心にスッと入ってくる心地よさがあった。それでいて芯はしっかりしている。歌詞の内容を観客に伝えようという気持ちが表れていた。
●卒業に寄せて
 『あなたに会えて』は歌いこんできた成果が表れていた。はっきりと歌詞の内容が伝わり、強弱のメリハリがあった。練習だけでなく演奏会の会場で観客を前にして歌った曲はグレードが上がるとあらためて思った。
 『旅たちの日』は、合唱隊だけでなく学校でも歌う機会があるからだろう。歌詞の意味もよく理解して歌っていた。歌い慣れているが手慣れた感じではなく気持ちが入っていて卒隊式に相応しい合唱だった。
●卒業証書授与・卒隊生の歌
 今年度の卒隊生は6年生3名と高校3年生2名だった。6年生は3名ともソプラノパート。『Pie Jesu』は3名が一緒に歌い始め、合間にワンフレーズずつソロを歌った。危うい箇所もあったが堂々と歌い切ったことがよかった。これは6年生の実力の証明でこの日の白眉だった。隊長の今井先生によると、6年生は変声が始まり、この曲はリスクが高いかなと思ったが3名が歌いたいと希望したのでこの曲に決めたそうだ。自分たちの希望した曲を歌うのだから気持ちが入っていた。
●ぼくらのレパートリー
 『カンタール』 
 これを聴くと広島少年合唱隊の演奏会に来たと思う。いつものように力強い合唱だった。6年生トリオだけで歌う箇所も良かった。定期演奏会では全般に語りかけるような静かな歌声が似合う選曲だったから、溜まっていたエネルギーが噴出されたように感じた。やはり少年たちは元気に歌いたいのだろう。しかしコロナ禍で静かに歌う方法を覚えたことは財産になるはずだ。
 『大地讃頌』
 変声前の少年と変声後の少年の混声合唱は男女混声合唱にはない良さがある。この日は変声後のメンバーを声の支えにして変声前の少年が安心して歌っていると感じた。聴きながら合唱隊は一つになっていると思った。
●みなさんと一緒に
 合唱隊が『さようなら』を歌い、卒隊生が退場を始めると客席から自然に拍手が起きた。居合わせた人たち全員がお祝するのは心が温まった。自分も良い演奏会に出会えて幸福感を味わった。   

 少ない練習時間でも健闘〜とどけ愛と平和のメッセージ〜
広島少年合唱隊第62回定期演奏会

2021年11月24日
(日)西区民文化センターホール


 当日のプログラム
Proguram1 メッセージソング
1、 しあわせになあれ
2、 あすという日が
3、 いのちの歌
4、 群青
Proguram2 予科ステージ
1, 青い空に絵をかこう
2, 今日はバナナの日
Proguram3 研究科・OBステージ
1, 空のキャンパス
2, 日曜日よりの使者
Proguram4 レパートリー
1, あなたに会えて
2, SIYAHAMBA
Proguram5 平和を願って
   混声合唱のためのレクイエム
   「碑」より川の中で・時間割・終章
Proguram6 レパートリー2
1, 大切なもの
2, 少年のための5つのソング
君がいるから・ぼくたちのひろしま
3, こどもみゅーじかる
「ピースチャイルド」より
Sing!
アンコール曲
大地讃頌

 コロナ対策の一環で会場に入る前に住所を記入した。手指を消毒し、検温するのも昨年と同様だ。 客席も同じく市松模様だが昨年より観客は多い気がした。舞台に整列した少年合唱隊も昨年に続いてマスク着用だった。

Program1
 幕開け『しあわせになあれ』は合唱隊が二手に別れて左右に整列し、中央スクリーンに 作曲者の弓削田健介作、松成真理子絵による絵本を映す演出だった。伴奏はスピーカーから流れた。それが心からの音というように感じた。絵を見ながらの曲の鑑賞は肩の力が抜け歌声が体内に染みわたった。
 2曲目からは通常の合唱体形になった。2曲目は東日本大震災をきっかけにできた曲だ。静かなトーンの中にも力強さのある歌い方でポジティブな気分になれる仕上がりだった。
 3曲目も静かなトーンで、ゆったりと歌詞を噛みしめているように感じた。各パートのバランスが良く、じっくりと聴けた。
 4曲目も静かながら力強い気持ちがこもっていた。日常の何気ない風景や友だちとの交流が当たり前のことでなく感謝して受け入れなければならないことを実感した。各パートのバランスが良いのはいうまでもない。

Program2
 予科生6名による発表だった。先ずはピアノに合わせて6名が行進しながら入場した。このクラスは元気があるのが良い。1曲目は空に力強いタッチで絵を描く雰囲気だった。「エイヤー」と歌いながらの振りが効果的だった。
 2曲目は軽快なリズムにのって楽しい感じで歌っていた。6名とも元気で間に短いソロがあり声で存在感を示した。この先の成長を期待したい。蛇足だがこの歌を聴き翌朝にバナナを食べた。

Program3
 1曲目は静かな曲調で始まり、途中に短調の激しい曲調になり最後に再び静かな曲調になるABAの形だ。空に少年の夢を描くという平和な世界から一転、真っ赤な空に泣き叫ぶ少年は何を描くだろうかと戦禍の世界が描かれる。この部分、「泣き叫ぶ少年」と「何を描くのだろうか」が重なるように繰り返されることで強いメッセージを感じた。最後は「天使が描かれる」「白い雲に未来が描かれる」という希望で終わる。男声合唱で歌われると平和の重さをより感じる。
 2曲目は体を動かしたくなるリズムで男声コーラスならではの力強さが良かった。ハーモニーも調和は取れていて強弱をつける変化で曲に集中できた。観客も同様で一緒に手拍子を打っていた。

Programu4
 1曲目は、静かに始まり次第に力を帯びてくる。「人との出会いにより人は成長していく」というメッセージを優しく教えてくれる曲だ。優しくなる曲だが少年合唱だと強い力がこめられることを実感した。
 2曲目は以前にも聴いたことがある。讃美歌ということで国によってはこの曲のようにリズミカルで踊りたくなるものがあるのだと思った。元気になる楽しい曲で振り付けと合わせて楽しめた。
 ここで15分間の休憩時間になった。「道楽さん、コーヒーを飲もう」「コーヒーどこかにあったけ?」「自販機があります」ということで紙コップ入りのブラックコーヒーを味わった。なにせ今朝は4時起きして一番機で岩国空港に到着。その後、宮島を散策して広島少年合唱隊の定期演奏会会場にやってきたのだ。ランチ後に暗い会場できれいな歌声を聴けば睡魔に襲われるのは当然だ。ぼくたちはロビーの椅子に座り、コーヒーを味わいながら睡魔を退散させた。

Program5
 重いテーマだ。少年だけで表現するのは難しいだろうから観音高校(前身は旧制広島二中)のOB,OGが加わった。それによりで表現力が増した。最初の『時間割』の明るさとこの後の『川の中で』の悲惨さとが対照的だ。何気ない日常が壊されて悲惨さにつながる、現実は『川の中で』で歌われる以上の苦しみがあっただろう。いや、苦しみなんて生易しいものではなかったはずだ。このような歌を聴くと今を一生懸命生きることが犠牲になった方々へのせめてもの報いと肝に銘じなければならない。核の使用は絶対に許されてはならないことだ。高校時代に当時の教頭先生から聞いた話が忘れられない。その先生は広島の出身で8月6日に勤労奉仕に行くため寮を出た。その日に限り普段奉仕に行かない友だちが「今日は行こう」と参加した。逆に普段奉仕を休まない友だちがその日に限り「今日は行きたくない」と寮に残った。結果、寮に残った友だちは原爆で亡くなったそうだ。授業で聞いた肝心の話は忘れたがこの話だけはしっかり記憶している。運命なのだろうがそれだけで割り切ることはできないと今でも思っている。日常を無事に過ごせることに感謝しなければならない。

Program6
 少年たちの5つのソング、『君がいるから』と『ぼくたちのひろしま』は久しぶりに聴いた。『君がいるから』は軽快なテンポで勇気付けられる。『ぼくたちのひろしま』はゆったりしたテンポで故郷はいいなと広島に生まれたことをうれしく思う曲だ。この歌は、広島少年合唱隊が歌うと気持ちがこもる。どちらも気持ちが落ち着く曲で歌い継いでいって欲しい曲だ。『Sing』は歌の前に「みなさんが元気になるよう気持ちを込めて歌います」とスピーチがあった。その通りで力強さのある合唱だった。プログラムの最後ということもあって安心感が漂っていた。
 アンコールは観音高校OB、OGのみなさん、合唱隊のOBのみなさんも加わっての厚みのある『大地讃頌』だった。ゆったりと歌う合唱を聴き演奏会が無事終わったと安堵した。

 以下は童子たちの会話だ。
「いい感じの演奏会だったね。愛と平和が伝わってきたね。」
「でも、歌うことに一生懸命でハーモニーがおや?と感じる曲があった。」
「そう。一部の声が飛び出す箇所があって、もう少し抑えてと言いたくなった。」
「それは練習時間が不足したから大目に見ましょう。」
「振付があっていない子がいた。」
「でも最後まで続けたから偉いよ。一生懸命なのが良かった。」
「そういうことがあるのが少年合唱団ならではです。」
「だよね、AIじゃないんだから。」
ぼくたちも良い合唱が聴けて気分が良かった。
 帰京して合唱隊のホームページを見て残念なことを知った。それは保護者の転勤で合唱隊をやめる子がいたからだ。その子は、歌いながら体で表現しているので観ていて楽しかった。「元気に過ごしてください」。ぼくたちからのメッセージだ。

 広島少年合唱隊第60期生卒業演奏会
                                                   2022年4月10日
(日)


   教会である。ぼくたちは4月9日(土)夕方、広島に到着した。鯉城通りに面したホテルにチェックイン後、道楽さんはルーテル教会の場所を再確認しようと言い出した。何度か行ったことがあるけれど散歩がてらぼくたちも付き合うことにした。鯉城通りと平和大通りの交差点から歩いてみたら予想外に遠かった。教会に着き、掲示板を見ると日曜日の10時45分からのミサについてお知らせが出ていた。誰でも参加できるとのことで道楽さんは教会の雰囲気を知ろうとミサに参加すると言った。
空「気まぐれかな?」
五月「道楽さんは3年に1回ぐらいミサに参加しているよ。不思議ではない。」
風「道楽さんは、信者ではないけれど合唱団で宗教曲を歌っていたから無縁じゃないです。」
薫「これは神様のお導きと考えよう。」
 4月10日当日、道楽さんは受付で「信者ではないけれど参加できますか?」と尋ねると「どうぞ、どうぞ」と二つ返事でOKが出た。ミサの詳しい内容は省くけれどオルガンとチェロの生演奏が聴けたのはラッキーだった。演奏を聴き音響は良いな、これなら歌いやすそうと思った。もう一つ、ミサ終了後には気持ちが落ち着いたので参加したことは正解だった。
 では、あらためて少年隊の演奏会について紹介しよう。

 当日のプログラム
 弓削田健介 合唱曲より
 ・MUSIC
 ・しあわせになあれ
 ・Orizuru
ぼくらのレパートリー
 ・君がいるから
 ・あすという日が
 ・African Alleluia
予科から感謝を込めて
 ・にじ
研究科・OBステージ
 ・夢をあきらめないで
 ・出発
卒業証書授与・卒業に寄せて
 ・世界がひとつになるまで
 ・大切なもの
 ・旅立の日に
みなさんと一緒に
 ・さようなら

 今回、卒隊するメンバーは中学1年生になったばかりの4名だ。コロナの影響でオンラインの練習が続いたそうだ。それがひとまず治まり3月27日、28日に福岡県直方市での全日本合唱連盟の演奏会に参加してきたことが分かった。
 最初の『MUSIC』は開演に相応しい元気な歌声だった。次の『しあわせになあれ』は一転静かな合唱だった。「さあ、みなさん聴いてください」という感じだった。『Orizuru』は折り鶴に願いを込めて平和を願う広島ならではの歌だ。その願いを力強く表現した。立ち上がりの3曲を聴き、悪くはないけれど粗削りになっているように感じた。
薫「広島らしいハーモニーじゃない。声をもう少し抑えた方がきれいになる。ここは音響が良いから大きな声を意識しない方がいいよ。」
空「オンライン練習の影響かな?」
五月「でも直方で歌っているから違うと思う。」
風「直方のホールとここは違うはずです。この会場でのリハーサルが十分でなかったと思います。ミサが終わったのは12時前。それから準備したとしてリハーサルが始まるのは早くても1時過ぎ、午前中別の場所で練習したかもしれないけれど会場が変わると雰囲気も変わります。そのせいじゃないかですか?」
 次の“ぼくたちのレパートリー”の一曲目『君がいるから』は落ち込んでいたぼくが君の助けで強くなれた、今度はぼくの出番だよという内容だ。これは微妙な音の強弱を出すことで観客の心に伝わる曲だ。残念ながらそれを感じないままに終わってしまった。歌い慣れている曲を無難に歌っている気がした。しかし、次の『明日という日が』では雰囲気が変わり細やかな表現ができた。高音と低声のバランスもきれいに取れていた。いつもの合唱隊になったと安心した。『African areruya』はOBがカホンを担当し軽快なリズムを作った。それに合わせて一部に相撲の四股のたような振り付けを入れての合唱だった。この曲は生き生きと歌っており少年たちが好きな曲と窺えた。ゆったりとしたテンポなので声が出しやすいのだろう。
 予科による『にじ』は心が和むプログラムだった。小さい男の子たちは二つのことを同時にやるのは難しいことがある。思い切って振り付けをなくし歌だけで勝負してはどうかと思った。
“研究科・OB“による男声合唱は指揮者がOBに代わった。伴奏者も代わり強いタッチになった。歌はハーモニーがきれいで落ちついた感じで伴奏と合っていた。若者と年長者の世代が違う男声合唱ならではの魅力もあった。この歌を後輩たちが聴き、目標にすることを望みたい。

 卒業証書授与
 証書(1086号〜1089号)と時計についた盾、それにペナントが贈られた。続いて卒隊生の歌となる。その歌は4人で相談して決めたという『世界が一つになるまで』だ。1番を4人で歌い2番をワンフレーズずつ交代でソロを歌った。歌声はきれいで卒隊生の貫録を示した。3番以降は合唱隊全員で手拍子をしながら歌った。それは卒隊生を祝っているように感じた。最後は高音部と低音部が力強いハーモニーを創り上げた。普段は何気なく聴く曲だがこのご時世で聴くと平和の大切さが胸に沁みた。
  『大切なもの』は盛り上がった雰囲気をクールダウンさせる落ち着いた雰囲気だった。次の『旅たちの日に』は心に伝わるような歌い方だった。良い雰囲気のまま『さようなら』が歌われる中、卒隊生が今田先生の先導でゆっくりと退場した。観客も拍手をして会場全体が静かに祝う雰囲気になった。卒隊生が着用している典礼服(というのかな?)を近くで見てあらためて良いデザインだと思った。

 終演後、会場でしばらく余韻に浸りたかったが帰京する都合があり叶わなかったのは残念だった。

 第63回広島少年合唱隊定期演奏会
              〜とどけ愛と平和のメッセージ〜
                2022年10月30日(日)広島県民ホール


 10月30日は朝から良い天気だった。そのため安芸の宮島も賑わっていた。いつもなら紅葉谷へ行くけれど時間がないのでやめにした。代わりに厳島神社の鳥居をじっくり眺めた。この鳥居は数年間、改修工事のため、覆いがかけられていたけれどこの日は取れていた。姿の見えた鳥居は青空に映えきれいだった。文化財に限らず、一つのものをきちんと修復するのは職人魂そのものだ。無事完成した時、関わった方々は達成感でいっぱいになるだろう。もう少しここにいたかったけれどタイムアップになり後ろ髪を引かれながらフェリーで宮島口に戻り電車で原爆ドームへ行った。周辺を散策しながら戦争をしている国のことを思い浮かべた。一部の木の葉の色が変わっているのを眺めながら「平和はいいなあ。」と思った。散策後、近くの喫茶店でランチを食べ、良い気分で会場の県民ホールへ足を運んだ。

 定期演奏会のプログラム
Stage1 おりずるステージ
 ・Orizuru
 ・折り鶴
 ・折り鶴のとぶ日
Stage2 OBと研究科ステージ
 ・君が君に歌う歌 2014年 Nコン高校
 ・手紙 〜拝啓十五の君へ〜
Stage3 弓削田健介作品
 ・MUSIC
 ・しあわせになあれ
Stage4 予科ステージ
 ・ハッピーチルドレン
 ・わたしと小鳥とすずと
Stage5 レパートリー
 ・SHIYAHANBA
 ・To Live
 ・地球星歌
 ・ヒカリ
 ・AFRICAN ALLEUYA
Stage6 ミュージカル 11匹の猫

 今年も少年隊はマスク着用だった。私事だが前日の舞台鑑賞で以下のような経験をした。3名のアカペラグループが「みなさん、笑顔でハミングをお願いします。」との呼びかけに観客は応じたけれど声は小さかった。私もマスクのため、息苦しく思うようにハミングできなかった。それを考えると少年隊はしっかり歌えているので偉いと思った。練習中もマスクを着用してのことだったはずで余分なエネルギーを使ったことだろう。

 Stage1
 舞台に整列したのは本科14名、研究科11名。最初の『Orizuru』は昨年、広島市立立原小学校の児童のアンケートを基に作詞されたそうだ。この曲はゆったりとしたテンポ、力強い詩で表現されていた。研究科と本科の声がうまく溶け合っておりトップの曲に相応しかった。この曲を聴きこの先も良い合唱が聴けそうと思っていたらその通りに進行した。2曲目の『折り鶴』は何度も聴いた曲だ。出だしを聴き「おや?」と思った。あっさりと歌っているように感じたからだ。その理由はテンポが速いからだ。もちろん極端に速くはない。歌詞をしっかり伝えようとの気持ちもあった。ただ、聴き慣れた曲は心の中で一緒に歌うのでそう感じたのだ。3曲目も何回も聴いた。最初のセリフを毎回どのように語るかに関心をもつが今回も良かった。このセリフは話し手によっては演劇風になるが少年だと淡々となる。それが却って伝えようという気持ちにつながる。合唱は淡々と歌う箇所、強く丁寧に歌う箇所、静かに気持ちを込めて歌う箇所とメリハリがついていた。いつ聴いても広島少年合唱隊ならではの合唱だ。

Stage2
 この2曲はNコンの高校、中学校の課題曲である。混声合唱で聴くことはあっても男声合唱で聴くのは初めてだ。聴いていてカクテルを思い浮かべた。混声合唱がジュースなど甘味を使った口当たりの良いカクテルとすれば研究科の合唱は甘味のないドライなカクテルのようにしっかりした味わいがあった。歌詩の内容は語りかけてくる内容だが男声が歌うと「これは、こうなんだ。」と立ちはだかっている壁のような感じで曖昧さがない。いかにも男声合唱らしい雰囲気が味わえた。

Stage3 
1曲目は本科と研究科の混声で歌詞に出てくるメッセージを明るく伝えた。2曲目は静かに気持ちを伝える合唱だ。この歌は予科生11名が加わった。斉唱だったが強弱をうまくつけたことで厚みが出た。予科生の声は先輩たちの声質と違う。だがバランスは崩れることなく良い味になった。アルコール度数の高いストレートウィスキーのグラスにミネラルウォーターを一滴加えよくかき混ぜると柔らかい味わいになる。そのことを思い出した。
 空「ちょっと待って。それだめだ。」
五月「ウィスキーを例にしても飲まない人にはわからないよ。」
 風「カクテルの話しもそうです。」
 薫「表現を変えよう。」
 要望に従って話を変えよう。先ずカクテルについて。混声合唱が市販のオレンジジュースだとすると今回の男声合唱は天然オレンジを絞ったものだ。それを冷蔵庫でよく冷やして甘味を抑え、キリッとしたジュースに仕上げる。提供する時は冷やしたグラスに氷を入れずに注ぐ。そのような感じだ。ウィスキーについても話を変えよう。用意するのは同じオレンジジュースだがこちらは適度に冷やす。常温のグラスに注ぎ蜂蜜を一滴加えて丁寧に混ぜると柔らかい味になる。『しあわせになあれ』を聴きながら飲むのに似合うはずだ。
道楽「これでどう?」
 空「アルコールよりわかりやすい。」
 風「どっちも手間がかかりますね。手間をかけないといけないのは合唱も同じです。」
五月「蜂蜜入りジュースは素材同士が引き立て合うね。広島BCも研究科と本科と予科が引き立て合っていたよ。」
 薫「いいこと言うね。・・・OK、それでいいよ。」

Stage4 
 予科生はピアノの伴奏に合わせて一列で入場してきた。今年の予科生は11名。この人数だと歌に厚みが出る。歌う前に代表が「弾むように歌います。」と話した通り、1曲目は元気な歌声だった。腕を動かしながら歌うのは隊員によっては難しいかな?と思ったがそこは大丈夫、指揮者が一緒に腕を動かしていたから隊員はそれを見て真似をすればよく安心して歌っているのが分かった。指揮を見ながら歌う効果もあった。2曲目は金子みすゞの詩を隊員が一人ずつ短いフレーズで語り最後の部分を一緒に語った。何度も聞いた詩でもやり方によって新鮮になるものだ。歌は、新隊員が張り切っていた。にもかかわらず全体の調和は取れていた。これは指導の成果だろう。新隊員のこれから成長がの楽しみだ。

Stage5 レパートリー
 1曲目は少年たちが好きな歌というだけあって伸びやかに歌っていた。これは聴く者も一緒に楽しめた。2曲目はアカペラだった。予科生が退場すると本科と研究科の体形がアーチ状に変わった。この曲はコロナ禍の収束を願う曲だそうだ。静かに始まり「何気ない日常生活を送ることが生きること」を伝え後半は一転して強く「がんばろ」と決意を歌う。アカペラで聴くと敬虔な思いが増す。広島BCは平和の歌をテーマにしているがこの種の曲も似合っている。3曲目は「地球に住む人たちのために平和を祈ろう」を静かに伝える歌、だから争わないでとの願いがこもっていた。4曲目は中学3年生の少女が作詞したそうだ。そのため、楽しい歌詞なのかなと思っていたら重い内容だった。出だしは静かに重々しく始まったが中盤で声が強くなった。この時、アルトパートの声が張り切っているように感じた。それに引きずられたわけではないだろうがソプラノの音量も上がり競い合っている印象を受けたが最後は全員で静かに歌い終えた。具体的にこうだとは言えないが広島少年合唱隊の特徴を表現していた。2曲目から4曲目は人々の願いと祈りを表現しているように感じると同時に新境地を開いたような気がした。5曲目は大きな動きをしながら歌った。祈りの歌なのでにぎやかな歌ではない。一生懸命体を動かしながら歌う様子を見て「神様、お守りください。」と祈る姿を見ているようだった。その姿を見て祈り方にも様々な方法があることを再認識した。

Stage6
『十一匹の猫』は広島少年合唱隊ではおなじみのミュージカルだ。「大きな魚に立ち向かうドラ猫の雄志をご覧ください」と紹介があった通り少年たちは一生懸命演じた。内容は分かっているが楽しく鑑賞できた。隊員の衣装は思い思いのシャツにズボン、更に頭に猫の耳をつけ、マスクの真ん中に●を描いて鼻を表し、更に両側にひげをつけて猫らしくなっていた。最初違和感はあったが進行するにつれ猫に見えてきた。短いソロを歌うことや短いセリフを話すことで少年たち一人ひとりの存在感が示された。一部聴き取りにくいセリフもあったがマスク着用なので仕方ないだろう。山場は、「大きな魚をやっつけてやる」と勇ましく出て行ったグループが魚にやっつけられて倒れこんでいると別の猫が「優しくして捕まえましょう」と提案し子守唄で魚を眠らせる場面だ。子守唄をもっと気持ちを込めて歌うと舞台効果があっただろうがそれはハードルが高い。この表現は難しいけれど少なくとも「お腹が空いている、魚を食べたい、食べなければ命にかかわる、魚を何とかして眠らせよう」という気持ちをもてればよい。最後に「ここを野良猫共和国にしましょう。」のセリフは「みんなで一緒に国を創っていこう。」の気持ちが表れていた。猫たちは幸せに暮らすため、みんなで考え実行していくのだろう。フィナーレは希望に満ちた表情だった。しかし魚を犠牲にしたことを忘れないで欲しい。同時に人類もいろいろな生物の犠牲の上に生活していることを忘れてはならない。

 最後はコロナ禍にもかかわらず全員が出口で見送りをしてくれたのはうれしかった。隊員たちの表情には演奏会をやり遂げた達成感が表れていた。早くマスクをはずして演奏会ができるよう祈りたい。
空「楽しかったね。4月の卒隊演奏会の時より感動したよ。」
薫「リモートだけでなくみんなが揃って練習した成果だね。」
五月「大変なこともあったはず、その分、達成感があるだろうな。」
風「お客様を送り出したら、みんなで喜び合うのでしょう。その気持ちわかります。」

                                                    
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