広島少年合唱隊

骨太な合唱 広島少年合唱隊卒業演奏会


 無事空港に到着し広島駅へ向かうバスの中でボーイズ・エコー宝塚の定期演奏会のレポートを書き終えTOKYO FM 少年合唱団の定期演奏会のレポートを開始した。書き出しは順調。没頭しているうち広島駅到着。「お客さん 着きましたよ」の声に促されて下車。そこから徒歩10分ほどの広島東ホールへ行き13時30分開演を確認した。次に広島電鉄の電車で廿日市に行き広島少年合唱隊のビデオを作っているというABCスタジオを訪ねたが店ではなく個人の家のようなので訪問は見合わせ。再び電車で広島市内へ戻ったら開演時間近くになった。昼食をあきらめ販売機でヨーグルトドリンクを求めて取りあえずお腹に入れる。朝食をしっかり食べておいて正解。旅では昼食を食べる時間が取れないことがあるので朝食をしっかり食べないといけない。
 客席を見渡すと定期演奏会と違い座席に余裕があった。この日のプログラムは以下の通り。
1, 少年合唱の響き
 同声合唱組曲「しずかにしてね」より
● かたつむり
● おんなじくまでも
● くきのみ
  同声合唱組曲「ぼくだけの歌」
● あいつ
● ぼくのおうえんか
● なにかいいことありそうな
● 一千億のゆめ
2, 縁の下の力持ち(研究科)
● さとうきび畑
● 夜空の向こう
3, 平和と祈りの歌
● Laudate Dominum
● 折り鶴の飛ぶ日
4, 卒業証書授与及び卒隊員の歌
● Do my best
● 世界に一つだけの花 
5, 僕たちのレパートリー
● 若い翼は
● マイバラード
● ぼくたちの広島
● 歌はともだち
6, みなさんと一緒に
● さようなら

  最初は小学生42名と研究科1名の合唱だ。42名中卒業する6年生は11名。約1/4だ。出だしは声が今一つだったが2部の「ぼくたちのうた」から調子がでてきた。定期演奏会と同じく首にバンダナを巻いて気合いの入った合唱だ。この曲はTFBCのために作曲されたそうで少年合唱によく似合う曲である。広島少年合唱隊にも馴染んできてレパートリーになりそうだ。一部のメンバーによると「がんばれ がんばれ ぼく」という詩の「ぼくのおうえんか」は落ち込んだときに歌いたくなる歌だそうでこの曲を好きな子が多いのだろう。このあたりが気合いの入った合唱になる要因だ。
次の研究科の合唱はいつも通りバランスの取れた落ち着いた歌声だ。縁の下の力持ちなどと言わず人数を増やして活躍して欲しい。男子中高生の声は大学や大人のグリークラブの声と違い初々しい。研究科独特の合唱を多くの人に知ってもらえればと思う。
  続いての平和と祈りの歌は言うまでもなくこの合唱団が力を入れている分野で聞き応えがある。最初の「Laudate Dominum」での6年生3名の重唱が曲を引き立たせていた。「折り鶴の飛ぶ日」はいつもながら自分の心を洗ってくれる。この歌を聴いて以来、時間があるときは平和公園を訪れている。そのような気持ちにさせられる演奏だ。終わって客席が静かな雰囲気になると卒業証書の授与だ。証書が卒隊生一人一人に手渡されていくのはいいものだ。証書に番号がついていて1000号が出た。45年の歴史ある合唱隊ならではだ。1500号、2000号…と続くことを祈る。授与が終わると6年生11名による合唱だ。卒隊生が主役で一人一人が大切にされているなという雰囲気が伝わってくる。力強く合唱するメンバーは実にいい表情をしていて卒業公演ならではだ。
  「僕たちのレパートリー」は歌い慣れているにもかかわらず手抜きのない安定した演奏だ。「平和と祈りの歌」同様、この合唱団ならでの骨太な合唱だ。中で自分の好きな曲は「雨の広島」だ。しっとりと歌い上げるこの曲は心に染み込んでくるようで広島少年合唱隊によく似合う曲の一つだ。これからも歌い続けられるだろう。「歌はともだち」は手話を交えての合唱だ。この曲が最近少しずつ復活してきたと考えるのは自分だけだろうか。「歌はともだち」は1974年4月から1977年3月までNHKで放送された同名の番組の主題歌である。子ども向け音楽番組とされていたが大人が見ても楽しめるレベルの高い内容で自分が少年合唱団やオペラに関心をもち、生演奏を聴きに行くようになるきっかけを作ってくれた貴重な番組だ。この番組を見ていなかったらこのサイトに来ることはなかったはずだ。もしかしたら広島少年合唱隊も出演したことがあるかもしれない。
  最後の「さようなら」で隊員が順番に退場していくのはいつもの風景だ。終了後、OBの保護者Oさんに挨拶すると隊長の林先生の所へ連れて行ってくれた。林先生によると今年は小学生7名、研究科4名が入ったので全体として人数は変わらないそうだ。「よい演奏をして隊員を集めることが大切です」という言葉にまっすぐなお人柄を感じた。会場を出て併設の図書館の書物を見ていると制服姿の隊員が次々と出てきた。舞台で被っていた白いベレー帽がなぜかワインレッドに変わっていた。どの子も仕事を無事成し遂げた明るい表情だった。これからも真っ直ぐで骨太な演奏を期待したい。


第18回 少年少女合唱全国大会


                                        2004年8月8日(日)

 会場の江戸川区総合文化センターに着いたのは1時15分頃。みどりが多くせせらぎもある公園の中に建つ静かな場所だ。会場の外では制服姿の児童合唱団が練習していた。会場内でも別の合唱団が練習中で本番よりこちらを見ている方が楽しい気がする。昼食がまだなので3階のレストランに行って腹ごしらえ。公営施設のレストランにしてはきれいで広くメニューも充実している。食事を終えて会場に入ると広島BCが整列して客席に入るところだった。林先生の指示に従い整然と着席していけるのは日頃の指導の表れだ。自分も後方右側の団員たちの後に席を取り林先生に挨拶した。
 14時に午後の部が開始された。トップの福井少年少女合唱団は男子の数が34名中12名と多い。パンフレットによると元気のよい男の子が多いのが特徴とある。曲目は「福井のわらべうた」から「伊勢伊勢」「おじゃみじゃ」「さあ、さっと」の3曲。方言を使った詩がおもしろくその中一部分、アルトの男の子3人がお化けの声を出すのが印象に残った。男の子の数が多いと合唱の幅が広がると感じるのは自分だけだろうか。3番目の府中少年少女合唱団の演奏が終わったところで広島BCが準備のため客席を離れた。出番は9番目だからかなり早い準備だがここでも静かに出ていくのはさすがだ。この後もいろいろな合唱団が歌ったが印象に残ったのは岡山少年少女合唱団だ。男の子は25名中に中学生らしき子が一人。派手さのない静かでオーソドックスな合唱だがはっきりした言葉で聴く人を惹きつけていく感じだ。
 午後の休憩時間に入ったところでグロリア少年合唱団のGさんが来たので林先生に紹介する。Gさんは暑いのにジャケットにネクタイ着用で礼儀正しい。初対面の人に会うのを意識してのことだろうと感心する。
 お目当ての広島BCは、小学生21名と研究科13名がステージに並んだ。曲目は「花はなぜ咲く」「Tant qui vivrai(花咲く日々に生きるかぎり)」「白い船のように」の3曲。最初の曲は広島BCのレパートリーで伸び伸びと歌っていたが最初に聴いた頃に比べ心に訴えかけてくるものが少なかった。(自分が暑さで感性が鈍っているせいだろう。)2曲目は少年合唱ならではの清らかな感じが出ていた。こういう曲は少年合唱団が歌うことで引き立ってくる。最後の曲は研究科との混声が広島BCらしいバランスのとれた仕上がりになった。
 今回特筆すべきは台湾から来た台北メール成功ジュニア合唱団だ。男子高校生(多分)40名の編成で「Kyrie」「O Happy Day」「安童哥買菜」(台湾歌謡曲)「見上げてごらん、夜の星を」を合唱した。これだけでもレパートリーの広さがわかるだろう。陽気な曲、静かな曲をそれぞれの雰囲気で歌うのはすばらしい。圧巻は「見上げてごらん、夜の星を」をきれいな日本語で歌ったことで大きな拍手とともに「ブラボー」の声があがり観客全員の注目を集めた。
 休憩時間になり広島BCが戻ったところで林先生が自分とGさんを隊員たちに紹介してくださった。Gさんは隊員でサイトを開いている研究科のN君を紹介され楽しそうに話していた。これをきっかけに交流を深めてくれればと思う。
 すべてのプログラムが終わりロビーで待機する広島BCが帰るところを見送ろうとGさんと一緒に待っていると林先生がもう一度、隊員全員に紹介してくださりあらためて挨拶した。きちんと話を聞ける子どもたちに再度感心する。Gさんによるとグロリアとよく似た雰囲気だそうだ。まだしばらく待機しているようなので先に失礼した。 
新小岩駅へ行く路線バスで岡山少年少女合唱団と一緒になった。先生が「静かにするように」と注意していたが非常識なことなく楽しげに岡山弁で話していた。一人だけの男の子もごく自然に会話に加わっていた。「歌、よかったよ」と声をかけようかと思ったが「変なおじさん」に間違われると困るので黙っていた。全員で一つのことを成し遂げた仲間同士は見ていて気持ちがよい。
バスを降りてからGさんと乾杯し1日をしめくくった。

オペレッタは大成功
     
第45回広島少年合唱隊定期演奏会


 2004年10月31日(土)、広島少年合唱隊定期演奏会を聴きに広島を訪れた。今年で3回目である。交通機関に事故が発生したら困るので早めに到着し紙屋町までぶらぶら歩きながら町並みを観察。そこから市電に乗って中電前下車。会場のアステールプラザ1階の市民ギャラリーで当地の経済誌を読んで時間をつぶした後、開場を待つ列に加わった。館長さんが自分より前に並んでいたので取りあえず会釈。館長さんのそばに行くのは割り込むことになるので自粛した。時間になり入場すると隊長の林先生が保護者やOBと一緒に入場してくる人たちを迎えていた。館長さんと一緒に挨拶し前方右側の席を確保した。
 当日のプログラム
1. 世界に届け!
 ・SIYAHAMBA        南アフリカ民謡
・ Let’s search for Tomorrow
・ Tant que vivai
・ 世界に一つだけの花
2. 同声合唱組曲「しずかにしてね」
・ なみは てかな
・ かたつむり
・ おんなじ くまでも
・ くさのみ
・ ちらちら ゆき
3. 縁の下の力持ち
・ 見上げてごらん夜の星を
・ 荒城の月
・ 夜空の向こう
4. 平和と祈りの歌
・ Wait for the Load
・ Surrexit Christus
・ AveVerumCorpus
・ 折り鶴の飛ぶ日
4. 日本の名作童話から
 モノドラマ合唱「ごんぎつね」
・ いたずら ごん
・ ひがん花
・ ひとりぼっちの兵十
・ つぐないたかった
・ 青いけむり
5. 指導者のステージ
・ すべての人の心に花を
・ ふるさと
6. ぼくたちのレパートリー
・ 夢は大空を駆ける
・ 地球の歌
・ 若い翼は
・ 白い船のように
・ Hymn to Freedom

 この日の見所はオペレッタ『ごんぎつね』と司会の女性が紹介した通り少年らしいさわやかな雰囲気で観客の注目を集めた。女性による朗読と少年合唱をベースにした舞台でのごん、兵十、弥助の3名の演技は微笑ましくお涙頂戴になりかねないこの物語を秋晴れのような澄んだ作品に仕上げた。ごん役の小学5年生は着ぐるみにキャップをかぶりいたずらな小ぎつねの身軽な動きを表現していた。台詞のない時の演技も工夫されていて楽しい。兵十を演じた体格のよい高校1年生は適役で雰囲気が出ていた。兵十の友人弥助役の中学3年生も出番が少ないにもかかわらず印象に残った。時間にして約20分の舞台は中身が濃く観客を飽きさせなかった。ごんが死んで物語が終わった後、主役の3人が客席に挨拶する時、キャップで顔が見えないごん役の子のキャップを兵十が脱がして顔がわかるようにしてあげると更に拍手が起きただろう。オペレッタは最後のカーテンコールの演出次第でもっと楽しくなるものだ。司会者により、打ち合わせにないというインタビューが行われ、ごん役の子は楽しく、ちゃんとできたこと、兵十役の高校生は緊張で前の晩眠れなかったこと、弥助役の中学生は難しかったけど達成感があったことなどが紹介された。インタビューの間、指揮をした平田先生を始めとする大人たちが大道具や小道具を次のプログラムに備えて片付けているのを見て「ご苦労様です」と言葉をかけたくなった。聞けばお地蔵さんや兵十の家といった大道具は平田先生が日曜大工で、小道具類は保護者の方々が作ったとのことで文字通り手作りの舞台だ。インタビューが終わり次の「指導者のステージ」に入る前に客席の子どもたちから「いも、いも」という声があがった。舞台に小道具のいもが一つだけ残っていてそのことを言っているのだ。直ちに片付けられたがこういう声が出るのもオペレッタの内容がよかったからだろう。他のプログラムも広島BCらしい凛とした合唱だった。気づいたことをあげてみよう。
 1部の最初の曲は幕開けにふさわしい明るいメロディで声がよく出ていた。これを聴いて当夜の演奏会の期待が高まった。
 2部の変声期前の隊員による『静かにしてね』は4月の卒隊演奏会で聴いている。この時は『かたつむり』『おんなじくまでも』『くさのみ』の3曲でこの後、演奏された『ぼくだけの歌』に隠れてしまった感じで印象が薄かった。今日あらためて聴いてみてそれぞれの曲は、静か、軽快、明るさと変化に富んでいるが一つ一つの曲は短い。この点が印象の薄い原因だが、演奏自体は曲の特徴をとらえたきれいな合唱で4月からの進歩は明らかだった。この曲は譜面で歌詞と音符を読むことでその良さがわかりそうだ。
 3部の変声後の団員による合唱は昨年に比べ声に落ち着きが出てきた感じだ。今回は『荒城の月』が新たに加わった。日本の歌曲も中高生の男声合唱で行うと魅力がある。男声合唱にふさわしい曲はたくさんあるのでレパートリーを少しずつ増やして欲しい。
 4部はいうまでもなく広島BCの毎年のテーマで、観客に対し平和を訴えかける説得力のある合唱だった。最初の3曲は静かな合唱で教会の聖堂で聴いたらどういう雰囲気になるか興味をもった。最後の『折り鶴の飛ぶ日』は一転強いトーンになり大きなホールに向けの合唱になった。こういうメリハリを表現して平和を訴えるのが広島BCの真骨頂で一番聴き応えがあるプログラムだ。
 5部は、今週の木曜日に30分ほどの練習をしただけとは思えない演奏で専門家ならではだ。うまくできて当たり前だからプレッシャーがあると思うがそれを感じさせないハーモニーはきれいで、こういう歌を聴けば隊員たちも真剣になるだろう。
 最後のぼくたちの「レパートリー」はメンバーの誰かが歌い出すと自然に合唱になるそうで全員が伸び伸びと歌っていた。夏の全日本ジュニアコーラスで聴いた曲も数段よくなっている。やはり本拠地で聴くのが一番だ。アンコールに応えドラマ「白い巨塔」でお馴染みになった『アメイジング グレイス』で終了。今年も充実したプログラムで最後まで楽しめた。ここで注文を一つ。観客にとってあまり馴染みのない原語で歌う曲に関してはどういう内容かを司会者が紹介してくれるとわかりやすくなるのでお願いしたい。ロビーに出て館長さんと話していると顔なじみでOBの保護者であるOさんを見かけたので挨拶。「毎年楽しみにしています」と言うと「わたしもなんです」と言葉が返ってきた。こういう人たちが他にもっといないかなと思う。「先生たちに挨拶して帰りましょう」と館長さんに誘われ舞台裏の楽屋へ行って林先生、平田先生に挨拶。楽屋にお邪魔するのは初めてで思わずキョロキョロしてしまう。演奏を終えた隊員たちが落ち着いて行動しているのを見て躾が行き届いていると感じた。心地よい思いを味わい会場を後にした。

広島少年合唱隊第43期生卒業演奏会
思い出を歌にのせて    〜アメリカ演奏会旅行報告〜

                                                               2006年4月29日

 会場のアステールプラザ多目的スタジオは、練習所として使われることが多いようだ。ここにパイプイスを並べての演奏会は肩肘張らずアットホームな雰囲気だった。

 当日のプログラム
1. ぼくたちのレパートリー
 ・マイバラード     ・怪獣のバラード
・ こどものための合唱組曲「チコタン」
2. 縁の下の力持ち(研究科)
・ 荒城の月
3. 平和と祈りの歌
 ・Pie Jesu     ・O Lord hear Prayer
4. 卒業証書授与及び卒隊員の歌
・ Panis Angelicus
5. アメリカ演奏会旅行報告
・ 写真スライド映写
6. 日本の歌
 ・ソーラン節    ・日本古謡集
 混声合唱組曲『いつの日か』
・ シャボン玉 ・揺りかごの歌 ・証城寺の狸囃子 ・汽車 
・ みかんの花咲く丘 ・どんぐりころころ ・赤とんぼ
7. みなさんと一緒に
・ さようなら

 開場となり客席に入ると隊員たちが座席で待機中だった。集合がかかるまで静かに座っていられるのは心構えの違いだろう。開演5分前に林先生が歓迎の挨拶。その中で看板や衣装、照明などは指導者、保護者、OBが担当していることが紹介された。終わると隊員たちが整然と体形を作り指揮の平田先生が登場して演奏会が始まった。自分はいつも舞台から離れた席を取るが今回は前から2列目を確保した。ここだと隊員の表情や指揮者の動きをはっきり捉えることができ視覚的な楽しみが加わる。平田先生の指揮は動きと表情で少年たちを引っ張っていく感じ。これはわかりやすそうだ。1部はレパートリーというだけに伸び伸びと安定した合唱が聴けた。『怪獣のバラード』は着ぐるみを着た2名の隊員が恐竜の動きを表現するのが面白く会場から手拍子が起きる楽しい演出だ。

 研究科による『荒城の月』は4名の隊員が袴姿で刀を持ち舞台を降りて雄々しい踊りを披露した。歌は平田先生と5名の隊員が朗々とした声を響かせ、引き締まったステージとなった。この歌はボーイソプラノやボーイアルト、テノールといった男声に似合う曲だ。 

  3部の『Pie Jesu』は式典服に着替えた小学生による合唱で3名の重唱でスタート。少年合唱定番のこの曲はいつ聴いても敬虔な気持ちになる。心を込めて歌っているので尚更それを感じた。次の『O Lord hear Prayer』は研究科が加わり厚みのある合唱を聴かせてくれた。いつの日か広島少年合唱隊が歌う宗教曲を教会で聴いてみたいと思う。アメリカの演奏旅行は教会でも歌ったそうでそのおもいが強まった。続いて小学6年生を終えた8名の隊員に卒業証書が授与された。一番長い隊員は1年生の終わりに入隊し約5年間を過ごしたことになる。証書をもらう8名はしっかりした態度で好感がもてた。これも日頃の家庭や合唱隊での指導の成果だ。この8名と研究科による『Panis Angelicus』はこの日、一番の合唱だった。

  5部は会場の照明を落としアメリカ演奏旅行のスライド映写だ。今回はペンシルバニア州フィラデルフィア、ワシントンDC テネシー州オークリッジを9日間でまわりその間、教会や小中学校、日本大使館で演奏会を開いたそうだ。演奏会のエピソードやホームステイの様子も紹介された。話を聞きこの種の演奏旅行に同行し、レポートを書きたいが今の自分にはできない相談だ。

  6部の日本の歌はアメリカで演奏された曲で小学生は浴衣、研究科はハッピ姿で登場。勇壮な踊りを入れた『ソーラン節』、日本情緒を表現した『さくら さくら』『お江戸日本橋』、童歌の『とおりゃんせ』は普段はそれほど関心はないがこうして聴くといいものだ。日本人に生まれてよかったと思うのは年齢を重ねたせいだろう。アメリカの演奏会ではどのような反応があったのだろうか。アメリカでは質問コーナーを設ける日があったそうだ。活発な意見交換ができたようで具体的な内容を知りたくなった。『いつの日か』はシャボン玉を飛ばす、赤ちゃんを背負いあやしながら歩く仕草、狸の着ぐるみの踊り、二人一組の手遊びなどの楽しい演出があった。平和な光景と昔の日本を視覚化してアメリカの観客に訴えようという姿勢は評価できる。しかし曲によっては編曲のため、本来のイメージと離れていると感じるものもあった。曲をよく知っている日本人にとってはこれも面白く受け止められるがそうでない人はどのように受け止めたかは疑問だ。思い切って本来の楽譜で歌った方が『日本』の音楽が伝わると自分は思った。

  最後に『さようなら』を歌いながら卒隊生一人一人が花束を受け取り、客席中央通路を歩いて退場していく。この光景を見るたび隊員一人一人が大切にされているなと感じる。これとは別に転校のため辞める隊員が紹介された。きょうのためにわざわざ横浜から駆けつけてくれたことも合わせて紹介された。指導者の心遣いを全ての隊員が受け止めきょうのようなすばらしい演奏ができるのだろう。新隊員8名も紹介され今シーズンも楽しみな広島少年合唱隊だ。


人の心に訴えかける合唱
第47回広島少年合唱隊定期演奏会

                            2006年10月28日


  3日間の出張を終えて戻ってきた道楽さんは豆腐と野菜の煮物と焼きたてのサンマでビールを飲みながら疲れを癒していた。ぼくたちも久しぶりに温かい食事の香りを吸い込めてうれしかった。「いよいよ秋のシーズンだ。グロリアの聖堂コンサート、フレーベルの六義園コンサート、広島少年合唱隊の定期演奏会。10月だけでもたくさんあるよ」ぼくが言うと「去年の広島の定期演奏会レポートがないですよ」風君が不満そうな顔をした。「ほら、言われた。あんたの怠慢のせいだ」「そう言うなよ。ついついタイミングを逃した」「今から書いたらどうですか? 今年の定演の予習を兼ねて」「そうしようよ。メモを見れば書けるだろ」「できるかな? あの日のことは覚えてないし」「思い出させてあげるよ。あの日は10月28日の土曜日だった。始発のANAで出発した。市内は晴れで暑かった。あんたはヤマハで『火の国』の楽譜を探したけれど置いてなかった。お昼ごはんを食べに入ったいつものキッチンで牡蠣フライを頼んだら海水温度が高くて牡蠣が入荷していないと断られた。替わりにレバーの炒め物で食事を済ませて早めにホテルにチェックインした、夕方まで部屋にこもって仕事をした。そして演奏会に出かけた。会場はホテルから歩いて行けるアステールプラザだ。客席で演奏中も出入りする子がいた。その上、鈴のついたアクセサリーを持っていたから余計耳障りだった」「先輩。よく覚えていますね」風君が感心した顔をした。「ぼくは記憶力がいいんだ。さあ、道楽さん。思い出してきたろう。このままいこうよ」「わかった。プログラムは覚えているかい?」「そこまでは無理だ。去年のプログラムを見よう」「了解」道楽さんは本棚からプログラムを持ってきて中身を開いた。

1. 世界に届く!(アメリカ演奏旅行より)  
・荒城の月  ・マイバラード ・見上げてごらん空の星を 
・怪獣のバラード ・カンタール
2. 懐かしき日本の歌
混声合唱のための童謡メドレー
『いつの日か』より
・ シャボン玉 ・ゆりかごのうた ・証城寺の狸囃子 ・汽車のうた
・ どんぐりころころ ・赤とんぼ 
3.ティチャーズステージ
  ・千の風になって
4. とどけ愛のメッセージ
 ・時をください  ・青い鳥   ・一本の樹

 「以上が前半だ。あんたはくたびれているだろうから先ずは前半を片付けよう」「了解」。
 ではレポートに入ろう。「いよっ」と言う声を合図に太鼓が鳴るとハッピを着た年上のメンバーが舞台に登場し、きびきびとした踊りを披露しつつ『ソーラン節』を歌った。ピアノは使わず太鼓だけを鳴らすので勇ましい歌となった。終わると舞台が暗くなり女性司会者のスピーチの後、舞台が明るくなると林先生、平田先生と研究科4名の合計6名が『荒城の月』を歌った。これは男声合唱ならではの深い声だった。歌っている6名の前では研究科4名が袴姿で刀と扇子を手にきびきびとした踊りを披露した。再度舞台が暗くなり『マイバラード』の伴奏が流れた。舞台は明るくなり全員による合唱だ。いつも思うことだがこの合唱団は質実剛健な雰囲気があり、合唱にもそれが表れている。『マイバラード』は聴く機会が多い曲だが広島少年合唱隊の歌うそれが一番気に入っている。続いては林先生、平田先生と研究科で『見上げてごらん夜の星を』だ。これはアカペラでの合唱で声を十分に堪能できた。この歌も男声合唱が歌うと深みが出る。テノールパートの声が心に響いた。次は再び全員体勢になり『怪獣のバラード』だ。この曲も広島で何度も聴いている。この日も声が一つにまとまり、ぐいぐいと歌に引きこまれていく感じだ。2番に入ると恐竜の着ぐるみを身につけた二人の小学生が登場し、けんかをして最後は肩を組んで踊るパフォーマンスを披露した。このパフォーマンスも自分にとって楽しみの一つだ。そう考える人が多い証拠に恐竜が出てくると客席から一斉に手拍子が起きた。一部の最後は初めて聴く『カンタール』だ。靴音が響くぐらいに床を踏みならし大きく手を動かしながらの合唱はゴスペルのような感じがした。この曲について作曲者や曲名で調べてみたが未だにわからないでいる。これに関しては資料館に行って調べるつもりだ。さて、歌が終わるとパワーポイントを使ってこの年の春に行ったアメリカで演奏旅行の様子が紹介された。
 2部に入ると「わー」という歓声とともに団員が舞台に整列した。研究科はハッピ、小学生は着物に白足袋を着用していた。『シャボン玉』は小学生4名が前に出て実際にシャボン玉を飛ばし雰囲気を出した。『ゆりかごのうた』は小学生1名がねんねこ姿で人形をおぶい、あやしながら歩いて見せた。これはアメリカの人々にもおおよその雰囲気が伝わっただろう。人形は一部の隊員と同じ柄の着物を着ていて思わず頬がゆるんだ。『証城寺の狸囃子』は狸の着ぐるみを身につけた中学1年生が曲に合わせたユーモラスな振り付けを披露した。合わせて研究科2名が鳴らす和尚さんの鐘の音とのやり取りがあり楽しめた。「あの人は、2年前にごんぎつねをやったよね」「あの時もよかったけど、これもおもしろい。センスがあるんだな」と感心した。『汽車のうた』は『汽車』、『汽車ぽっぽ』(おやまの なか ゆく きしゃぽっぽ)、『汽車ぽっぽ』(きしゃ きしゃ しゅっぽ しゅっぽ)を混ぜ合わせた歌だ。蒸気機関車のシリンダが動く様子を表現しながらの軽やかな合唱だった。『どんぐりころころ』は波打つようなかわいい振り付けで軽快に歌い、最後に「エーン」と鳴いて見せるのがおもしろかった。最後の『あかとんぼ』は一転、直立姿勢で静かな歌い方になった。研究科の低い声が秋の情景を思い起こさせた。メリハリを効かせた童謡は十分に楽しめたが「どうかな?」と思ったことを書いておく。一部の曲は編曲された結果、本来の曲とは差ができていた。本来の曲をよく知っていれば楽しめるがそれを知らないアメリカの人たちに聴かせるのはどうかということだ。「本来のものを伝えた方がよかったのではと」と思ったので書き添えておく。
 3部は指導者8名(女声4名、男声4名)による『千の風になって』は少年の声と違い大人のもつ深い味が楽しめた。
 4部は筒井雅子先生の曲だ。『時をください』はアメリカの9・11テロの犠牲者へ思いを馳せた曲だそうで切々と訴えるような仕上がりだった。中学生1名と小学生3名が前に出てオブリガードを歌った。「愛をください」「慈しみをください」と静かに歌う部分は特に訴えるものがあった。『青い鳥』は環境問題をテーマにした曲だそうで最初は「青い鳥」のことを静かに歌い中間の「汚れ空、汚れた海、おまえの翼は鉛色」を強く歌う。そして再び「青い鳥」のことを静かに歌って終わりになる。なんとなく余韻が残る曲だった。『1本の樹』は前の2曲と違って明るいメロディだ。校庭の楠へのいろいろな気持ちが込められた詩は自然への感謝の表れだ。この合唱を聴き身のまわりの自然に感心をもつ人も多いだろう。途中「樹はわたしたちを静かに見守っています」という内容の長い台詞があり4名の小学生が順番にマイクの前に立った。さわやかな声は合唱で鍛えられた成果だろう。さて、筒井先生は小学校で音楽の専科を担当しており自分で作曲した曲を授業に取り入れているそうだ。曲に関しては学級や学年で歌える歌をという方針があるようだ。『1本の樹』は筒井さんのお嬢さんが小学生の時に校庭の木を見て詩を作った。それを土台にしてこの曲はできたそうだ。3曲に共通して言えることは人の心に訴えかけてくることだ。休憩時間になったがしばらく席で余韻に浸った。
ここまで話したら道楽さんの食事が終わった。食器を洗い終えた道楽さんはお茶を準備し、だんらんの体勢になった。「やっぱり我が家の食事はおいしいな。ホッとするよ」と言う道楽さんに「幸せなんだね」とぼくは返した。「おいしいものがあるからちゃんと家に帰ってくるんですよね」と言う風君に「そうだけど、君たちがいてくれるのもあるな。早く帰って顔を見たいから」。ぼくは風君と顔を見合わせうれしい気分を味わった。

「では後半をやろうか。薫君、覚えていることがあったら言ってくれ」「鈴の音がうるさかったこととむずかる子どもの声以外は何も覚えていない。あんたのメモを読んで書いてくれ」「OK」。というわけでプログラムから書いていこう。
4. みんなで歌おう
 ・さんぽ  ・カントリーロード  ・君をのせて
5. OBとお母さんの歌  
 ・遙かな友に   ・ふるさと
6. とどけ平和のメッセージ
 ・折り鶴の飛ぶ日  ・「レクイエム」より ・ピエイエズ ・インパラディズム
7. ぼくたちのレパートリー
 ・深い河 ・地球の詩  ・Let‘s search for Tomorrow
みなさんと一緒に
 ・さようなら

 5部の最初は色とりどりのバンダナを首に巻いた小学生による『さんぽ』だ。低学年7名が前に出て行進する姿が観客の笑みを誘うと共に手拍子が起きた。低学年がいる合唱団がスタジオジブリの歌をやる場合、『さんぽ』は欠かせない曲だ。次の『カントリーロード』は研究科も加わっての合唱だ。残念ながら足を左右にステップさせる振りが目障りで合唱が割引きされてしまった。一人一人がステップすれば問題ないが横のメンバーと手をつなぐと動きがぎくしゃくするからだ。これは一人一人のリズムの取り方が微妙に違うせいだろう。振り付けは別のコーナーでも披露したのだからここは合唱に徹した方がよかった。ところでこの曲はジョン・デンバーの歌として自分の頭に入っている。もしオリジナル曲を知らないのなら聴いてみるとよいだろう。ジブリの曲とは違うイメージをもつはずだ。次の『君をのせて』は振り付けなしで合唱に徹したが煮込みが足りないように感じた。この曲は楽譜通りに歌うだけでなくプラスアルファがないと訴えるものが弱くなってしまう。この点に関しては、歌い込むことで次第に味わいが出てくるはずなので次の機会に歌って欲しい。
 6部のことも書こう。最初の『遙かな友に』はアカペラならではの声の輝きを楽しめた。自分も昔、ステージで歌ったことがあるが歌いやすくそれなりの演奏効果があったことを覚えている。2曲目の『ふるさと』は現役団員も加えたアカペラで人数が多い分、厚味があった。ゆっくりしたテンポが重厚さを引き出したのも良かった。
 7部の曲は広島少年合唱隊の演奏会ではぜひ聴きたい曲だ。特に『折り鶴の飛ぶ日』がそうだ。この曲を初めて聴いた後、早速平和公園に赴き、さだこの象を見て歌の内容を噛みしめた。以来、広島を訪れたら出来る限りこの場所に足を運ぶことにしている。広島少年合唱隊の歌には自分をそうさせる力があるのだ。この日の合唱も歌い継がれてきた平和への想いを感じた。次のフォーレの『ピエイエズ』は3名の小学生の声を軸に清らかな少年の声を聴くことができた。続いての『インパラディズム』も自分の心を浄化するような清らかな歌だった。「典礼服でなくて制服のままだね」薫が言った。「あっ、そうだね。どうしたんだろう」。この日は最後まで制服だった。
8部に入ろう。『深い河』は先研究科の合唱で始まった。この声がゆったりとした感じで気持ちよく合唱へ引きこまれた。この声を小学生が追う形が前半で中盤から後半は小学生の高音をうまく使った混声合唱が聴けた。また前に出て歌ったアルト3名の声がさわやかでよかった。『地球の詩』は小学生の声を前面に出し歌詞をじっくり聴かせる合唱だった。続いての『Let‘s search for Tomorrow』は何度も歌っている曲なので安心して聴いていられた。この3曲はしっかりした土台の上に建つ建造物のようで広島BCの良さが味わえた。終わるとプログラムにはない『カンタール』をもう一度合唱した。観客から手拍子が起こりそれに乗って全員楽しそうに歌っていた。この歌は少年たちが一番好きな曲だそうだ。最後は恒例の『さようなら』を観客も一緒に歌って終了した。
「どう? 風君。イメージがつかめたかい?」ぼくが尋ねると「やっぱり実際に見てみないとわかりません。でも何が聴きどころかはわかってきました」と風君は答えた。ぼくは、復習と予習をいっぺんにやったような気になった。

心がふるえた『折り鶴のとぶ日』
第48回広島少年合唱隊定期演奏会

                             2007年10月21日


  ぼくたちが広島バスセンターに到着したのは9時15分頃だった。家の最寄り駅から電車に乗ったのは5時過ぎだったから4時間ちょっとしか経っていない。だから「もう着いちゃった」という感じだ。ここから歩いてホテルに荷物を預け路面電車とフェリーを乗り継いで宮島へ行き厳島神社など島の風景を楽しんだ。名物のあなご丼でお昼ごはんを食べてから午後の遅い時間に市内へ戻り、平和公園のサダコの像やあおぎりの木、原爆資料館を見学した。宮島で、はしゃいでいた風君が真剣な表情になり「生きていてよかった」と言った。「広島少年合唱隊を聴く前にここを見学するのは大切なんだ」と道楽さんも真面目な顔で言った。では定期演奏会の様子を紹介しよう。当日のプログラムは以下の通りだ。 

1.広島ユネスコ活動奨励賞受賞を記念して(海外演奏で学んだ曲)
・ Light the Candle All Around the World
(キャンドルを灯そう)
・ カンタール(歌おう) ・クルルインバダダー
2. 少年合唱の響き
・ 同声合唱組曲「ぼくだけの歌」より
あいつ ぼくのおうえんか なにかいいことありそうな 一千億の夢
3. OBとお母さんの歌(HBCファミリー)
・ 混声合唱組曲「土の歌」より
農夫と土 大地讃頌
4. 平和を願って
・ねがい 坂田江美作詞 吉田峰明作曲  ・折り鶴のとぶ日
5. 僕たちのレパートリー
・ Let’s search for Tomorrow 
・With You Smile  ・昴
6. 広島ジュニアオーケストラをゲストに迎えて
・ 「リュートのための古風な舞曲とアリア」第1組曲より
・ フォーレの「レクイエム」より
サンクトウス  ピエイエズ  インパディズム
・ アヴェヴェルムコルプス
7. みなさんと一緒に
・ さようなら

ピアノの演奏が始まるとペンライトを手にした隊員たちが客席後方から入場し舞台に整列し1曲目が始まった。力強くリズミカルな曲だが、4列体形約40名の声がこの曲をよりボリュームのあるものにした。今年はプログラムにあるように賞を受賞したそうでそれにふさわしい幕開けの曲だった。2曲目の『カンタール』は、ピアノ伴奏にタンバリンが加わりこちらもリズミカルな合唱を楽しめた。途中前に出て歌った5名の声はきれいで、この子たちが歌い終わると客席から拍手が起きた。この曲のもう一つの楽しみは軽快な振り付けだがこの日は昨年に比べ、ぎこちない感じがした。始まったばかりで心身が十分に暖まっていなかったのかもしれない。3曲目はアフリカ民謡でこれもリズミカルな曲だ。研究科、アルト、ソプラノの順で声が次第に重なっていくのがおもしろく自然に体が動きそうになる曲だ。最後に靴を脱ぎ頭の上で「ぱちん」とたたく振り付けがあり、隊員たちはみんな楽しそうで緊張が一気にほぐれた。

2部は少年合唱団に最も似合う曲の一つである。けんかをして仲良くなった友だちの病気を本気で心配する「あいつ」、何をやってもダメな自分を応援する「ぼくのおうえんか」、     
夕日を見て、明日は何か良いことがありそうだとみんなで思う「なにがいいことありそうな」、友だちとどこまでも夢を忘れないように歩んでいこうという「一千億の夢」の4曲は多くの男性が共感するのではないだろうか。ソプラノ、メゾソプラノ、アルトの3部合唱は余計な飾りつけのないストレートにビンビン飛んでくる声で広島らしさが出ていた。また体中を使って表現しているアルトの少年が印象に残った。4曲の中では入院している友だちを見舞う箇所での悲しい気持ちが伝わってくる「あいつ」がよかった。「バンダナの結び方を工夫すればもっと格好良くなるよ」薫がポツリと言った。この曲を歌う時は赤、緑、黄などのバンダナを首に巻くのでそのことを言っているのだ。前の制服の時は違和感がなかったが新しい制服だと薫の言うとおりなのだ。今年から新しくなった制服はボタンダウンのカッターシャツ、ダークグリーンのネクタイ、チャコールグレイの長ズボン(小学3年生以下は同色の半ズボン)、黒い靴下に短靴である(客席から見ただけなので違っているかもしれません)。カッターシャツはダークブルー系を淡くしたような地(ボキャブラリーが貧弱なのでうまく表現できません)に細いストライブを入れたお洒落なデザインだ。特にネクタイとの調和が独特で良い意味で大胆なコーディネイトだ。話を戻そう。バンダナを巻くのならこの制服にふさわしい巻き方があるはずで工夫するとよいだろう。もう一つ、前の制服と比べての賛否両論はあるが自分は新しい制服の方が好きである。

 3部は難しい曲を選んだなと思った。舞台に立っているお母さん方は合唱の経験が豊富なのだろう。

 4部の最初の曲はチェルノブイリ原発事故をテーマにした曲だそうだ。最初は魚が泳ぎ、氷が張っている海のことを静かに歌い、1986年に起きた事故のことを重く歌う部分に入る。これがしばらく続き後半は静かな調子で「この地球のことを想う」旨を歌って終わる。短いながらも心に沁みる合唱だった。さて、ここまでは野球のピッチャーで言えば伸びのあるストレートで押してくるのと似ていたが『折り鶴のとぶ日』は一転して変化球をまじえコーナーを投げ分けるような感じになった。声が丸くなりドラマ性のあるこの曲を譜面に応じて変えているからだ。ただ歌い継がれてきただけではこうは歌えないだろう。そう思う仕上がりで、曲が終わった時、戦慄のようなものが走った。ここで休憩となり階下のソファーで一休み。「きのう、平和公園を見学しておいてよかっただろう」薫の言葉に風が黙ったままうなずいた。

 5部は『折り鶴のとぶ日』で味わったことで固くなった心をほぐしてくれた。どの曲も少年の混声ならではのさわやかさがあった。特に『昴』はそれぞれの持ち味が混じり合う厚みのある合唱で、たくさんの材料がうまく調和した菓子を食べたような気持ちになった。合唱が終わり、心が落ち着くと後半のメインである6部だ。先ずはジュニアオーケストラ約40名の弦楽器のみの演奏だ。これだけの人数の弦楽を聴くのは初めてで「力強い」と驚いた。始める前にコンサートマスターの少年を中心に音合わせするのも本格的だ。1曲目が終わると後のひな壇にいた年少者約20名が退場し替わって合唱隊のメンバーが2列に並んだ。他に鍵盤楽器1台とフルートとクラリネット奏者が各2名ずつも加わった。ここからオーケストラの伴奏で「レクイエム」となる。下手な奏者だとやたらに音を鳴らし歌声を消してしまうが調和のとれた演奏が聴けた。流れていくような落ち着いた合唱を基調にして時にドラマチックになるのはオーケストラによるところが大きい。また『ピエイエズ』を前に出て歌った3名は積み重ねた練習を通した輝きがあり幸せな気分に浸った。最後のアヴェヴェルムコルプスはオケ、合唱とも重厚な感じになり普段はなかなか聴けない演奏となった。アンコールを期待したが残念ながらなし。締めはOBを含めた全員による『さようなら』ですべてを終えた。ここで紹介しておきたいことがある。会場係のお母さん方だ。遅れてくる観客がかなりの数いて、そういう人たちを受付から客席まで案内していた。せっかくの我が子の晴れ姿を見ることなく裏方に徹している方々のおかげで自分たちは演奏会を楽しめるのだ。少年たちがすばらしい合唱ができるのはお母さん方の影響も大きいのだろう。

 会場を出てから風君に「どうだった?」と聞くと「『折り鶴のとぶ日』がよかったです。体が震えました」と答えた。「予習した成果だね」道楽さんが笑った。道楽さんの時計を見ると4時になっていなかった。「どうする? 早い便で帰ろうか?」。ぼくが言うと「今から帰ると東京の気の利いた食堂は終わっている。ポルトルージェで早めの夕食を食べて最終便にしよう。どうだい?」「じゃあ、そうしよう。でも夕食には早いよ」「ちょっと散歩して一杯やりながら演奏会を振り返ろう」「何を飲む?」「ドライマティーニが欲しい」「なんですか? それ」と尋ねた風君に「道楽さんの気分が高まっている時に飲みたくなるカクテルだよ。行けばわかる」「そうですか?」首をかしげる風君に「2杯までにさせよう」と肩をたたいた。道を歩きながら「生きていてよかった それを感じたくて 広島の町から わたしは あるいてきた」という『折り鶴』の歌を口ずさんだ。

                                                    
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