呉少年合唱団

少年らしい生真面目な演奏
     第43回呉少年合唱団定期演奏会 
2004年11月23日   呉市文化ホール
 


 広島空港に到着後、呉に向かうバスの発車時刻まで時間があったので電話予約したJALの帰りのチケットを引き取ろうとカウンターに行った。本当はANAにしたいのだが夜の東京便は満席で、2日前に残り2席というJAL1620便の空席をキャッチしたのだ。1620便はすでに満席の表示が出ていたからタッチの差だろう。係りの女性に便名と予約番号を告げると女性はコンピューターを操作して「予約が入っていません」と答えた。「空席があるからもう一度入れましょう」と言うが変な話だ。「手荷物を預けますか」と聞くので「これから呉に行くのでその必要なし」と答えると、はっとした顔をした。「1602便じゃないんですか」「1620便です」と答えると「申しわけありません」とコンピューターを操作し「ああ。こちらに入っています」と発券してくれた。この時間ロスでバスに間に合わなかった。次は55分後となり空港で待っていても仕方がないので広島駅行きのバスに乗りJR呉線で呉駅に到着。電車内では自閉症とおぼしき男の子が風景を見たり車掌に話しかけたりと落ち着きなく動きまわっていた。鉄道ファンでもある自分とやっていることにあまり差はないなと思いつつ「一歩間違えればおまえも自閉症になったかもしれない」という母の言葉を思い出した。人生とはほんの紙一重の差でどうころぶかわからない。少年合唱行脚など冷静に考えればやらなくても生きていけるし他にもやるべきことはたくさんある。しかしやってみたいと思うことが実行できるうちは無理をしてでもやろうというのが自分の考えだ。怪我や病気があればできなくなる。億劫になったときはそう自分に言い聞かせ行脚に出る日もある。さて時間に余裕があるので気分を落ち着けるために絵を見ようと案内所で美術館の場所を尋ね10分ほど歩いていくと工事のため休館中だった。休館の美術館など教えるなと思ったが(障害によってはここでパニックを起こすだろう)隣に入船山記念館というのがあるのでそちらを見学。旧鎮守府司令長官舎がある他、旧海軍の資料が展示されている。もう少しゆっくりしたかったが時間のことがあり会場へと向かった。
 会場の呉市文化ホール近くのカフェレストランで食べた600円のサラダ、みそ汁付きのチキンライスは味、量とも充実していてうれしくなる。昨年も呉での昼食はチキンライスだったがこちらは量が少なかったことを思い出す。最近物忘れが多くなったがこんなことだけはよく覚えている。12時40頃にホールへ行くと50名ほどの列ができていた。「呉で会いましょう」とメールをくださったボーイソプラノの館長さんの姿が見えないので新幹線に事故でもあったかなと思ううち開場になった。昨年同様OBの中学生が「こんにちは」と挨拶してくれるのは気持ちがいい。もちろん自分も挨拶を返す。前方右の通路側の席を確保してビデオカメラを担当しているOBのごろごろさんに挨拶してロビーを散歩しつつ会場の雰囲気を味わった。
 プログラム
 1 オープニング
   呉少年合唱団団歌
   音戸の船頭歌
   藤井清水メドレー
2 地球の鼓動
  アリラン
  ラサ サヤンゲ
  SHYAHAMBA
  WAになっておどろう
3 『胡弓の調べとともに』
  紫竹調
 花と少年
 シルクロード
 宵待草
 (草競馬)賽馬
 涙そうそう
 世界に一つだけの花
 川の流れのように
4『大陸の宙へ』
 いのちの歌
 島唄
 ジュピター
5童声合唱とピアノのための組曲
 『わらべうた』より
 わるくちうた      けんかならこい
 うそつき        きりなしうた
 すりむきうた      あきかんうた
6フィナーレ
 ハレルヤ
 さようなら
 司会をする地元放送局の女性アナウンサーとおぼしき人の挨拶で始まった。団歌は静かだが明るい雰囲気の曲だ。流れるような清らかな合唱にうまくマッチしている。1部は呉合唱団のレパートリーで歌い慣れている感じで言葉がはっきりしていて聴き取りやすい。合唱を聴きながらこれが呉少年合唱団らしさなのだろうと思う。
 2部は3,4年生による合唱だ。3年生2名、4年生10名で呉の団員は3年生が一番年下だ。この人数にしては声も出ていてやさしく語りかけてくるような合唱だった。上級生の団員が曲に合った民族楽器をたたいてよい雰囲気を創っていた。『アリラン』は聴き慣れているものより幾分ゆっくりしたテンポだが地方によって歌詞や曲調が違うとのことで今回歌われているのが一番ポピュラーだそうだ。『ラサ サヤンゲ』は日本では『川で歌おう』という題名がついていて元気に歌われることが多いが本来の意味は『いとしく思う気持ち』で「あの山に見える赤い物は何?」「おみやげに赤いリボンを買ってきて」とおねだりするかわいい歌だそうだ。残念だったのはソロを歌った子が歌い終わると軽く礼をするのだがすぐに拍手が起こり後の合唱が一部聴き取りにくくなることだ。このあたり観客は拍手に関してのマナーを知るべきである。ただ礼をした子にすぐ拍手をしたくなるのも人情だから指揮者は1曲歌い終えた後でソロを歌った子を前に出し、礼をするよう指示すべきだ。後半の2曲は元気さも前に出た合唱で前半2曲との対照がよい。また昨年は幼く感じた現4年生が昨年よりしっかりした感じに成長しているのは頼もしい限りだ。
 3部に出演した医学博士であると同時に胡弓奏者でもある妾 暁艶さんは雑誌等で知っているが実際に演奏を聴くのは初めてだ。ピアノとフルートといっしょに聴く胡弓はいかにも中国的音楽を流れるように奏でていた。3曲目が終わると「特別ゲストに呼んでいただきうれしいです。合唱団のみなさんの歌に感動しました。」という旨の心のこもった挨拶があり好感をもてた。続いての尺八との『宵待草』は曲の雰囲気を捕らえた見事な演奏で違う文化を受け入れる度量を感じた。3部の中では『涙そうそう』『川の流れのように』を5,6年生の合唱と一緒に演奏した。前者はソプラノのソロを歌った子が、後者は大きな川が流れるようなゆったりした合唱がよかった。鍛えられていると感じる少年合唱特有の澄んだ歌声を前面に出し、間奏で胡弓をしっかり聴かせるのでバランスのよい演奏が楽しめた。終わると3年生の団員がゲストへ花束贈呈となる。普通なら花を持ってきた子どもと握手して終わりだが妾さんは引き上げようとした子どもを客席に向かって立たせ一緒に手を振って謝意をあらわした。一流の人はまわりにしっかり気配りができると感じ妾さんにますます好感をもった。
 4部は全員による合唱で50名以上が歌うと静かな曲でもパワーを感じる。ここで特に際だったのは『ジュピター』だ。低声部がしっかり支えそこに高音部がうまくのっている感じで進んでいく。それはきびきびとした組体操を見るようだった。
 5部は4、5,6年と研究科による合唱だ。谷川俊太郎作の詩は言葉遊びのようで楽しい。この詩をエコーのような響きで聴かせてくれた。時に高音部と低声部でキャッチボールのようにやり取りする部分が楽しい。ただ団員はとても真面目な表情で歌っていた。もう少し楽しそうな顔で歌えると曲の雰囲気が伝わるが真面目な表情も少年らしい純粋さの表れで自然だ。
フィナーレの『ハレルヤ』を男声だけで歌うのは迫力があり最後を飾るのにふさわしい。OBの人数が多いのは合唱団に対する愛着だろう。このようにOBが陰で支えているのはいいことだ。指導者への花束贈呈があり『さようなら』で幕。客席でしばらく余韻に浸りたいがすぐロビーへ出る。ロビーでは団員全員が整列しもう一度『さようなら』を歌うからだ。ロビーでの合唱を聴き終えてから館長さんを捜すが見あたらない。(帰宅してから体調不良で行くのを断念したことを知った。)
 今年は昨年に比べしっかりした合唱になったように感じた。昨年も声はしっかり出ていたが一部の団員の服装がだらっとしているように感じ、それがマイナス要因になったからだ。その一因はジャケット、ベストを脱いだ時、ズボンにベルトをしていなかったことで「なぜだ」と思った。きちっとするためにはベルトかサスペンダーをするべきだが今年はベストを脱がなかったのでそれを感じなかったのかもしれない。服装でマイナス要因を感じさせるのはもったいないので指導する特に男性の方々は少年たちに正しい服装を教えて欲しい。そんなことを考えていると母親と一緒に来ていた2年生ぐらいの男の子が団員募集についてスタッフに聞いていた。それを見て自分もうれしくなった。この子も何かを感じたのだろう。
 外へ出てゆっくり歩きながらどうやって空港へ向かうかを考えた。バスの発車には時間があるしまた呉線に乗るかと思っていたら港が近いのを思い出し、行ってみると15分ほど待てば広島行きのフェリーがあることを知った。これに乗船して売店でジョッキ入りの生ビールを買い、後部デッキに行くとテーブルのある椅子があったので座り、夕日を眺めながらのクルーズを楽しんだ。ビールを口にしつつ呉少年合唱団の余韻をゆっくりと味わった。

意欲に満ちたプログラム 第44回呉少年合唱団定期演奏会
        〜平和への祈りを込めて〜                2005年11月23日
    呉市文化ホール

  広島空港からのANA最終便は無事、羽田空港に到着した。ターミナルビルに入り今朝の始発で出発したことを思い出した。1泊ぐらいしたと錯覚するような充実感があった。「なんで?」と思う方々はこの後の文章をお読みください。
 広島空港から呉に向かうバスはのんびりと走っていた。「こういうのをローカル風景というのかな」とぼくは景色に見入っていた。そんな景色が消え町中に入ると呉は近い。少々渋滞したが大きな遅れはなく呉駅に到着。居眠りしている道楽さんを起こして駅前に降り立った。「演奏会まで時間があるよ。どうするの?」「美術館に行ってみよう」「つまらなそう。それよりどこかから海を見ようよ」「薫君は美術館に行ったことないだろう。海は帰りにしよう」半ば強引に決められた感じがしないでもないが付き合ってあげることにした。線路沿いにしばらく歩きガードをくぐった所で道楽さんは立ち止まった。「どうしたの?」「もうすぐ臨時列車の『瀬戸内マリンビュー』が来るから見ていこう」ほどなく2両編成の電車(じゃなくてディーゼルカーだそうだ。どっちでもいいけど)が通過していった。「だからどうした?」と思ったけれど道楽さんは満足そうに「一人で大きくなったような いくつになっても少年のよう」と愛唱歌の一つを口ずさんでいた。そうこうしているうちに呉市立美術館に到着。山中雪人、水谷愛子二人展を見学することになった。ぼくは最初、絵に興味はなかったけれど「崖」という絵を離れた所から振り返って見たら「えっ」と思った。近くで見たのとは違い、立体的に見えたからだ。試しにいろいろな角度から離れたり近づいたりして見たら変化することがわかりたちまち楽しくなった。そんな様子を見ていた道楽さんが「君の好きなように鑑賞するといい。11時30分に迎えに来るから」と言ってくれたので一人でいろいろな絵を好きなように見た。そうしていたら時間はあっという間に過ぎた。
 美術館の食堂でツナクリームスパゲティと海軍コーヒーで昼ご飯を食べて演奏会場である呉市文化ホールへ向かう途中、海上自衛隊の制服を着た人がたくさん歩いているのを見かけた。呉という町の特性だろう。もっと書きたいけれど本題に入ろう。道楽さんにバトンタッチ。
 当日のプログラム
1オープンニング
 呉少年合唱団団歌 藤井清水メドレー 反核の玉 U&I
2祈る
 映画「コーラス」より
 IN MEMORIAL A CAPPERA(亡き人への想い)
 CARESSE SURL‘OCEAN(海への想い)
 VOIS SUR TON CHEMIN(途中でみてごらん)
 CERF−VORANT(凧)
3生きる
 (1年生〜3年生)
 グリーングリーン 世界中の子どもたちが だれかが星を見ていた
 LOVE&PEACE 〜私たちは歌い続ける〜
(4年生〜研究科生)
WE ARE THE WORLD     AMAZING GRACE
(全団員)
太陽のマーチ
4 大地の響き〜アフリカジェンベのリズム〜
 ディダディ(心身浄化のためのリズム)  クク(女性を称えるリズム)
 ティリバ(大きな木の下で皆で集まって歌って踊って楽しむリズム) 
コンドルは飛んでいく  合同演目「SIYAHAMBA(シヤハンバ)」
5願う
 少年少女のための合唱組曲『私が呼吸するとき』より
 星は流れる  耳を澄ませば  私が呼吸するとき
6フィナーレ
 ハレルヤ さようなら

 パンフレットを見て今年から小学1年生、2年生が加わったことを知った。年少者を育てる意味で方針変更は評価できるし楽しみなことだ。「こんにちは」と今年もロビーにいるOBの中高生が元気に声をかけてくるなど良い雰囲気だ。「お客様がお席にお座りになるまでにサービスの勝負が決まります」という旅客機のキャビンアテンダントの言葉を思い出した。
今年も女性アナウンサーとおぼしき司会者の挨拶で開演した。舞台には1年生から中学生まで約50名が3列に並んでいた。最初の団歌と藤井清水の曲は呉に来ないと聴けない曲だ。合唱団独自の歌があるのは良いことでこれからも歌い継がれていくだろう。朝、昼、晩の挨拶で始まる『団歌』はいつ聴いてもさわやかな気分になる。『藤井メドレー』(「足柄山」「雲雀の子」)は素朴なメロディーで歌詞も聴き取りやすい。『反核の玉』も呉出身の人による作品だそうだ。広島と長崎の声をテーマにしたアカペラの曲は宗教曲のように心に染みわたってきた。こういう曲も少年合唱団にはよく似合う。次の『U&I』は空気が流れていくような仕上がりだった。この曲は少年合唱団の定番になりつつある曲で数団体の合唱を聴いてきたがそれぞれの個性が出てくるのがおもしろい。
 続いての2部は4年生以上によるフランス映画『コーラス』からである。これらの曲を日本の合唱団が歌うのは初めてではなかろうかと思っていたら、楽譜は未出版だが子どもたちに歌って欲しい。そこで育成会長や通訳の尽力でこの日の演奏が実現したことが紹介された。これは大変なことで強い意欲の表れだろう。これに応えるかのように少年たちはフランス語の歌詞で合唱した。最初の曲は引き締まった声、2曲目は3曲目は伸びやかに、4曲目は明るくとメリハリのあるプログラムだった。生で聴く少年合唱団はサウンドトラックとはひと味違う。そんな印象をもった。今年だけで終わらず次回は、映画同様ソロを入れてグレードアップし、レパートリーに加えて欲しいものだ。拍手に送られて4年生以上は引き上げ、替わって1,2,3年生12名が登場だ。声はまだ幼くパワーは乏しいがソロあり、振り付けあり、ペンライトを有効に使ったりと見せ場がたくさんあった。低学年でもステージでソロを歌わせて育てていこうという指導者の気持ちも感じ取られ、中には近い将来が楽しみという子もいた。今の5年生が2年前の演奏会でソロを与えられていたことを思い出した。その時、印象に残った子が育っているのが心強い。低学年の子どもたちも先輩に続くよう願おう。低学年の子どもたちが引き上げると4年生以上のメンバーが再登場し、『WE ARE THE WORLD』と『AMAZING GRACE』だ。前者はオーソドックスに、後者はジャズ風にアレンジされた合唱だった。アメイジングもあちこちで聴く機会は多く合唱団によりいろいろな歌い方がある。ジャズ風に歌うのは男声合唱団に合うと思っていたが少年合唱でもいい味が出ると認識した。先に歌った曲がオーソドックスだった分、ジャズ風が新鮮だった。前半最後は有名なラデッキー行進曲のメロディで歌う『太陽のマーチ』だ。パーカッションに賛助出演の女子中学生2名を迎え、にぎやかに始まった。観客からも自然に手拍子が起き良い雰囲気だが指揮者の表情が乏しいのは残念。指揮者自身がもっと楽しむ余裕がないと観客にそれが伝わってしまう。観客が楽しめれば舞台を盛り上げることができ、相乗効果となるはずである。ここで休憩。

 後半はゲストであるアフリカ民族楽器のジェンベ奏者チームと地元の尺八奏者との合同演奏だ。ジェンベについて簡単に述べよう。発祥は西アフリカ地域でボンゴに似た太鼓の仲間で手の平やバチを使って叩く。音楽を楽しむ以外に通信手段としても使われていたとのことだ。ジェンベの語源をたどっていくと調和の太鼓という意味になるそうで、現在でも踊りや婚礼、埋葬の伴奏として人々の和に密着しているとのことだ。このジェンベのリズムと音が尺八、少年の声と合わさるとこんなにも調和するのかと驚いた。室内ではなく晴れ渡った広場で聴いたらなお新鮮だろう。しかし惜しいことにジェンベの数が増えてしまうと選抜された少人数の少年の声が消されてしまう。この場は少年たちにマイクを準備するべきだった。やや不満は感じたものの最後の「SIYAHAMBA(シヤハンバ)」は4年生以上の団員が勢揃いして踊りたくなるような楽しい合唱を聴かせてくれた。人数が増えれば楽器に負けない声になる。間奏の間、団員が好き勝手に体を動かす演出があればなおよかったろう。祝電紹介とゲストへの花束贈呈で盛り上がった所で後半のメインである合唱組曲に入る。この曲について作詞者のメッセージを一部紹介しよう。「人間とは、もともと争い合う生き物なのだろうか。また、いつのどこにいる子どもでも、その悲しみや溢れる希望は、大人の大きな力の前では掻き消され、あるいは語る言葉を持たずに発せられない弱いものかも知れません。毎日を楽しんでほしい。子どもたちが『もっと楽しい世界をつくろうよ』って、愛と平和を呼びかけられたらどんなにすてきだろう。私が望めば本当にできるのではないか。おずおずと、でもはっきりそうに違いないという想いを込めてこれらの詩を書きました。平和への想いを多くの子どもたちと共有できることを願っています」 『願う』というテーマがついている所以である。星のことを静かに歌う『星は流れる』で始まり、地雷で手足を失った子どもたちの訴えを伝える『耳を澄ませば』につながる。重みのある詩を情感を込めて合唱する少年たちの声は観客の心に様々なことを訴えたことと思う。最後の『わたしが呼吸するとき』は未来への希望へつながる合唱だ。この曲は静かに始まり徐々に気持ちを盛り上げなければいけない難しそうな曲だ。特に最後をしっかり歌わないと他の2曲がかすんでしまいそうだが余韻を残して歌い終え『願う』という大きなテーマを観客に印象付けた。無事歌い終えた少年たちはフィナーレの2曲をノビノビと合唱した。少年たちも「やりきった」という成就感に満足しているのだろう。そんな声だった。幕が閉まってからロビーに行くと少年たちが勢揃いしてもう一度『さようなら』を歌っていた。間近で見る少年たちは、良い表情をしていた。 

 ホールを出てから「約束だよ。海はどこから見るの?」と道楽さんに聞くと「広島まで船で行こう。海が間近で見られるから」と答えが返ってきた。というわけで呉港から高速船に乗り込んだ。「一般のフェリーならデッキで外の景色が楽しめるんだけど」と道楽さんは残念そうな顔をしたが客席はゆったりしていて電車や飛行機より快適だ。メモをまとめる道楽さんに話しかけるのをやめ外の景色を眺めた。初めて見る自衛艦や陸地の風景は新鮮だった。船内は空いていて静かだったのでのんびり過ごせたのはなによりだった。薄暗くなった頃に広島宇品港へ到着し路面電車に乗車。電車に興味はないけれど路面電車は別だ。町の風景が歩いているときと同じように見えるので身近に感じるのだ。「夕食を市内で食べてから空港バスに乗ろう。おいしい店があるから」と言う道楽さんに従って袋町で下車して路地を歩き、着いたところは「P」というカウンターだけの洋食屋さんだった。「いらっしゃいませ。お久しぶりです」カウンターの中で調理をしていたおばさんが声をかけてきた。「呉から広島空港に行く途中ですけど、夕食はここでと思ったものですから」と道楽さんは調子よく答えた。「ありがとうございます。何からいきますか?」笑顔で注文を尋ねられた道楽さんは「広島に来たら加茂泉ですね」と地元のお酒を注文。お酒と一緒にソーセージや酢キャベツがつまみで出てきた。カレーライスを食べていた若いカップルが「おいしいですね」と楽しそうにしていた。「汗が止まらない」という男性へ「汗拭きです」とおばさんがタオルを差し出した。それを見て、道楽さんがこの店を好きな理由が理解できた。メニューを検討していた道楽さんが2本目のお酒とポークカツを注文するとおばさんは冷蔵庫から肉の固まりを取り出して包丁で切り入念に叩いて下ごしらえを始めた。その肉に衣をつけて油で揚げ、包丁で切ると出来上がりだ。すごくいい匂いでぼくは満足した。食べ終わる頃、隣にすわっていたおじさんが注文したカキとトマトのスープが出来上がった。「おいしそうだね。あれも頼もうよ」「了解」ということで最後の締めはスープとなった。「体が温まるね」ぼくたちの感想だ。お金を払ってバスセンターまで歩き19時15分の空港行き最終便に乗車した。「きょうは、飛行機、バス、船、路面電車に乗った。そして絵を見て少年合唱団を聴いておいしい食事で締めくくり。楽しかったな」ぼくは満足した。「その言葉は家に帰ってからにしなさい」道楽さんは戒めるように言ったけれど顔は笑っていた。「OK」ぼくたちは拳タッチをした。

充実したプログラム
第45回呉少年合唱団定期演奏会
                2006年11月23日       呉市文化ホール

  「去年の呉少年合唱団のレポートを書いてください」。風が言った。「もうすぐ定期演奏会です。また復習と予習をやりましょう」「賛成。やろうよ。あの時はイチョウの葉がきれいだった。あの時のことはぼくが思い出させてあげるよ」。薫風コンビに言われてはやるしかない。メモとプログラムを用意しパソコンに向かった。
広島行きのANA671便ジャンボジェットはほぼ満席だった。祝日の早朝便、しかもジャンボが満席というのは珍しい。「連休でもないのにどうしたんだろう」道楽さんはまわりを見回しながら言った。空港に到着すると「バスが出るには時間がある」と展望デッキに行き、搭乗したジャンボを撮影し、バス乗り場に行くと広島市内行きは積み残しが出ていた。「臨時を出さないんだ。ひどいな」「飛行機が満席の時は要注意だね。早めに行動しないといけないんだ」 幸いなことに、ぼくたちの乗る呉行きは余裕があった。でも去年は10人も乗っていなかったのに今回は20名以上が乗っていた。「イベントでもあるのかな?」「呉少年合唱団の定期演奏会が目的だったりして」「あるわけないよ。でも、そうだったらうれしいね」
 呉駅に到着し、美術館を見学しようとしたらお休みだったので造船所を見下ろせる高台に登った。建造中の船を見て「大きいなあ」と驚いた。付近を歩くと戦争に行き、亡くなった学校の先生の碑があった。それを見て道楽さんが「平和を当たり前と思ってたらいけないな」と真剣な顔をして手を合わせたのでぼくもそれに倣った。ここから呉市文化ホールに近い商店街まで歩き、旧い建物の洋食屋さんに入った。道楽さんはメニューを見てチキンライスとさつま汁を注文。「呉はあちこちでチキンライスが食べられるな」とうれしそうだ。運ばれた料理は食いしん坊の道楽さんを満足させた。ぼくは具がたくさん入っているさつま汁の香りを楽しんだ。これなら良い気分で合唱を聴けるだろう。店を出てホールの前の通りまで来るとイチョウ並木がきれいな黄色になっていたのでますます気分をよくした。
 入場するといつものようにOBの中高生が気持ちよく迎えてくれた。席を確保してゴロゴロさんとアッキーさんに挨拶し、ロビーでリラックスタイム。ではプログラムを紹介して本題に入ろう。
 1 オープニング
  ◆呉少年合唱団団歌  ◆音戸の船頭歌  
◆反核の玉      ◆With You Smile
 2 世界の音楽
  ◆ホ!ホ!ホ!    ◆ロンドン橋の聖歌隊
  ◆Kum ba yah  ◆カリンカ  ◆コンドルは飛んで行く
 3 アカペラ特集 (4年生〜研究科生)
  ◆ドナ ノービス パーチェム  ◆夜  ◆けだものがきた
  ◆赤とんぼ  ◆箱根八里  ◆ふるさと
 4 モーツアルト特集
  ◆アレルヤ  ◆おかあさん、きいてちょうだい  ◆そり遊び
  ◆パ・パ・パ  ◆春への憧れ
 5 ゲストステージ
  広島ジュニアマリンバアンサンブル
  銀河鉄道999 他5曲
  ◆合同曲目  宇宙戦艦ヤマト
 6 読み語りと「ことわざうた」
   よみかたり 「ゆうくんだいすき」
   少年少女のための合唱組曲「ことわざうた」より
    ◆さる  ◆カラス  ◆うそ
 7 フィナーレ
    ◆ハレルヤ  ◆さようなら

 時間になると女性司会者が登場し「くらもと通りのイチョウがほほを染め、呉のシンボルレンガとの組み合わせが美しい季節になりました」などと歓迎の挨拶を述べた。挨拶が終わるといつものように団歌でスタートだ。舞台には51名の団員が3列体形で整列していた。昨年は小学1,2年生の団員はVネックのセーターだったが今年は上級生と同じジャケットを着ていた。ただ1年生がいないのは気になるところだ。あれこれ考えていると軽やかなピアノの伴奏が始まり恒例の『団歌』だ。「おはよう おはよう おはよう おはよう。(間奏)小鳥のさえずる 声の音も…」という歌詞は頭の中に入ってきた。そよかぜのようなこの曲を聴くと呉に来たことを実感する。次の『音戸の船頭歌』も呉少年合唱団の演奏会でしか聴く機会はない。波の音や舟を漕ぐ音を入れた曲を聴く度に音戸に行ってみたいと想うのだが時間の関係で未だに行っていない。すっかりレパートリーになった3曲目は、最初の2曲のほのぼのとした歌い方から一転して平和への強い想いが込められた歌い方となる。声に響きも加わり言葉の一つ一つが心に訴えかけてくるような合唱で、アカペラなのが効果的だった。続いての『With You Smile』は約50名の団員が心を合わせて歌い、少年がもつ内に秘めた強い心を感じる仕上がりだった。

  2部は2年生、3年生14名による合唱だ。1曲目は軽快な曲でリズムに乗って歌った。2曲目はアカペラで最後の「落ちた」という箇所が観客の笑いを誘った。3曲目は「神様、ここへ来てください」という意味だそうで原語で歌った。前に出て歌った2名の声は細いがきれいで他の子との歌声とマッチしていた。4曲目と5曲目は2,3年生にとっては「難しいのでは?」と思ったがその心配はなくもてる力を出すことができた。5曲目は研究科1名がジャンベをたたいて雰囲気を作ったが耳障りな気がした。思い切ってピアノをやめジャンベだけの方が合唱そのものを楽しめるのではと感じた。2,3年生たちは成長途中だが一人一人の声がしっかりしていた。地声ではなくきちんとした発声なのが良く2,3年後が楽しみだ。
 3部は4年生から中学生までのメンバー36名によるアカペラだ。先ずは4つのグループに分かれ通路を歩きながら舞台に上がった。最初は単調に歌い、次第に声をハモらせながらボリュームを上げていく歌い方でこのプログラムへの期待が高まった。2曲目は映画『コーラス』の中の1曲である(歌詞は日本語)。2名が出だしを歌い合唱へと続いていく。この2名は声質、声量を兼ね備えていて広い会場でもボーイソプラノの魅力を伝えることができた。もちろん他の団員とのアンサンブルもよく映画を思い出すことができた。前年にも感じたが『コーラス』は呉少年合唱団のレパートリーにして欲しい曲だ。3曲目は『ノアの箱船』を題材にした黒人霊歌である。けものが集まってくる様子を歌う曲は同じようなメロディだが難しそうだ。しかしそれを感じさせない団員の技術は高い。4曲目は秋の情景を思い起こさせるような歌い方、5曲目は高音部と低音部の声が厚味を出し、険しい山々に響くような歌い方、6曲目は強い意志をもって故郷を出てきた人々が歌うようなパワーある歌い方だった。
 4部のモーツアルト特集では、団員たちはジャケットを脱ぎ。その時代を象徴する白いマフラーのようなものをつけて登場した(当時の作曲家の絵を見ればわかるだろう)。伴奏楽器にチェンバロも加わりその時代の雰囲気を創りだした。最初の曲はさわりの部分だけだが繊細な歌声を披露した。終わるとモーツアルトに関する団員のスピーチがありチェンバロによる『メヌエット』が流れた。続いては『きらきら星』のメロディである。低い声で始まり中盤が高音のハーモニーになり最後は低音で終わるという合唱が楽しかった。3曲目はそり遊びを楽しもうという気持ちを元気に表現した。4曲目は高音部と低音部のかけあいをゆったりと行った。オペラではバリトンとソプラノが行う楽しい二重唱をそれとは違う微笑ましい合唱に仕上げた。演出を工夫すると更に楽しめただろうが少年たちは歌に徹した方がよいだろう。最後の『春への憧れ』は1番と2番の間に『早春賦』と『知床旅情』を入れる楽しい演出があった。「音楽のそっくりさん同士だね」。薫がおもしろそうな顔をした。
 次のゲストステージはマリンバ、ドラム、パーカッションによる演奏でカーネギーホールなど海外での公演も経験しているそうだ。うまいのはわかるがくたびれている時に聴きたくない演奏だった。「くたびれたんだろ。合唱団の歌に集中してたんから。休んでろよ」薫が言うので仰せに従った。最後の合同演奏は予想通り水と油だった。繊細な少年合唱と力強い打楽器集団が合うわけはない。
 6部は、もう一人のゲスト、朝川照雄さんのことわざの語りの後に「猿も木から落ちる」、言葉遊びの語りの後に「カーと鳴いたカラス」、鼻をほじっちゃ駄目という語りの後に「うそ」というように合唱と語りのあわせ方が面白かった。曲は盛り上がりをつけにくいがハーモニーがしっかりとカバーし、合唱そのものは6部が一番充実していた。最後は恒例の『ハレルヤ』と『さようなら』である。ここではOB約20名も加えて華やかな合唱となった。次の『さようなら』が終わるとすぐに席を立ってロビーに向かった。「余韻に浸ろうよ」と言う薫をせきたててロビーに行くと合唱団全員が整列し『さようなら』を披露した。「そうか。思い出した」と納得した顔をした薫にうなずいて見せ、少年たちの歌を楽しんだ。

 外は雨が降っていた。「大丈夫だよ。カサはある」。道楽さんはカバンの中から折りたたみ傘を取り出した。雨に濡れたイチョウの葉を見ながらぼくたちは楽しく歩いた。「広島まで船で行こうか」と提案した道楽さんに賛成し港へ向かった。
 「どう、風君。イメージついた?」「わかったような気はします。でも実際に見たり聴いたりしないとわかりません。でも一つだけ言います。材料は新鮮なうちに料理しましょう」と風君はにっこりした。「きつい一言だ。さぼってたわけじゃないけど」「ぼくは ぼくなり がんばった?」。ぼくも笑いながら道楽さんの肩をたたいた。


 第59回呉少年合唱団定期演奏会
〜きみに伝えたい〜
2020年11月23日 呉信用金庫ホール


 2020年11月23日に行われた呉少年合唱団定期演奏会のDVDが送られてきたので早速鑑賞した。会場の呉市文化ホールは映像を見る限り、ガランとしていた。そのせいかどうか、少年たちはマスクを着用していなかった。やはり表情がはっきり見えると歌の雰囲気が伝わりやすい。パンフレットに掲載されていた文章によると練習中はフェイスガードをしていたそうだ。このため、歌い辛かったと思う。それだけにマスクなしでの演奏会はうれしいことだっただろう。

プログラム
T、 オープニング
・呉少年合唱団団歌    ・音戸の船頭歌
U、低学年ステージ
 ・行こう どこまでも    ・雨ふり水族館   ・あしたははれる  
V、呉少年合唱団OBステージ
 ・箱根八里
W、高学年ステージ
 ・彼方の光  ・もののけ姫  ・山のむこうへ  ・生きてる生きてく
X・エンディング
・よろこびのうたwith呉氏2020   ・さようなら

   オープニング 
最初の団歌は、「ぼくたちは、この歌が好きだ」という雰囲があふれ、声が良く出ていた。いつもは3番まで歌うが、2番までしか歌わなかったのは時間短縮のためだろう。
次の曲に移る前に下級生が一人ずつ前に出て「みなさん、こんにちは」「ぼくたちは歌が大好きです」「今日も一生懸命歌います」「最後までお聴きください」と挨拶した。いつもは何気なく聴いているが、今回は演奏会ができる喜びが込められているような気がした。
 次の音戸の船頭歌は毎回歌っている曲なので安定したハーモニーだった。船を漕ぐ擬音を入れて雰囲気を出すのはいつも通りだ。全員での合唱はもちろん良いが途中でソプラノ、アルトから代表が出て歌う箇所はいつ聴いてもさわやかだ。この日はそれぞれ3名ずつがきれいなハーモニーで歌った。数年前、この歌の雰囲気を知ろうと音戸へ行った。地形を見て「狭い水路なので潮の流れは速そう、櫓(約4,5m)を漕ぐ時は力の入れ方にコツがいるだろう、船をまっすぐ進めるには経験と勘が頼り、歌の内容から推測すると音戸から宮島へ、またその逆で荷物を運ぶ伝馬船の船頭の労働歌だろう、曲はゆっくりと櫓を漕ぐリズムからできているらしい。しかし櫓を漕いでいる時は歌う余裕はないだろうから、仕事を終えた仲間同士の場で歌われたのではないかと思う。少年合唱団が歌っているのは、歌い継がれてきたものを現代風に編曲したもの」と想像した。毎年歌うのは、ゆっくりしたリズムの歌は次の曲のために喉や体を慣らすのに適しているからだろう。

    低学年ステージ 
 今回の下級生は4名と少人数だが臆することなく堂々と歌っていた。1曲目は元気を出せるような歌い方、2曲目は「雨が降っていても楽しいことはある」ことを静かな歌い方で披露した。この曲はワンフレーズずつ4名がソロを歌った。どの子も練習の成果が表れていて翌年以降が楽しみな歌声だった。3曲目は希望をもって進んで行こうという気持ちが伝わってきた。曲によって表現の方法が違うのがよかった。

   OBステージ
 例年は数曲歌うが今回は一曲だった。『箱根八里』を聴き、男声合唱に似合うとあらためて思った。急な山道を登っていく勇壮さがあるからだ。OB合唱団については毎回思うが少年の頃から培ってきた音楽センスがある。歌い続けることで後輩たちにも良い影響があるだろう。

   高学年ステージ
 『彼方の光』は、ソプラノと男声による2部合唱にきれいなオブリガードが入り厚みのある合唱が聴けた。静かに語りかけるような感じで、音量が物足りないと思われた方もおられるかもしれないが歌は大きな声を出す方が歌いやすい。ただ声が大きくなると歌の質が低下し自分以外の声が聴こえなくなる。この曲は、聴く人たちの心には大きな声では伝わりにくい。静かに語りかけるように歌う方が伝わる。そのためには歌詞の意味を理解し、他のパートの声もよく聴いて歌わなければならないから高いレベルが必要だ。この合唱は、自分の心に温かい気持ちが伝わった。『もののけ姫』はOB1名が透明感のあるテノールで主旋律を歌った。これは少年合唱のコーラスとよく合っていて幻想的な雰囲気に仕上がった。『山のむこうへ』は生きていく上で大切なことを静かに語ろうという想いが伝わってきた。歌詞に出てくる一つひとつの言葉は簡単だが全体の意味は、原作を読まないと深まりそうもない。近いうちに読んでみるつもりだ。『生きてる 生きてく』は低学年も加わって歌った。楽しい雰囲気の曲だが歌詞にはメッセージが込められている。ぼくの人生のいいことやだめなことを100年先で頑張っている遺伝子に伝えたい。だから困難はあっても失敗を恐れずに生きていく、それは自分のためだけではないということなのだろう。今回の演奏会の曲は、「大変な時だけれど希望をもって進んでいこう」を伝えるメッセージが込められていた。それは今回の演奏会のテーマである「きみに伝えたい」を意味するのだろう。

 エンディングの『よろこびのうたwith呉氏2020』は、OBがベートーベンの『よろこびのうた』を、少年合唱団が『君くれハート』を一緒に歌う形だった。最初にOBが、次に少年合唱団が歌い、最後は一緒に歌った。二つの曲を一緒に歌うことはミスマッチではなかったが少年合唱団は静かな感じ、OBは勇壮な感じでそれぞれのトーンが違うことが気になった。OBがもう少し音量を抑えると良い感じになっただろう。この2曲は相性が良さそうだ。曲が始まる前、「呉氏とは何?」と思っていたら司会者が、呉氏は登場して4年目の市のマスコットキャラクターと紹介した。その時期、呉には毎年来ていたが存在を初めて知った。
歌い終わると団長の木村先生へのインタビューがあったので要約を紹介する。
 3月から6月まで練習ができなかった。7月から再開したが零からの出発で4か月間の休止は大きかった。再開しても感染予防のため長時間の練習はできず、練習場所の消毒や換気が必要だった。消毒と換気は保護者の皆さんが協力してくださった。9月になり定期演奏会をどうしようかと考えていたらOBが「やりましょう」と背中を押してくれたので開催することになった。これを聞き様々な方々の支えがあって定期演奏会ができたとあらためて認識した。加えてハンディを乗り越えて練習した少年合唱団員にも拍手を送りたい。少年合唱団は呉に根付いていることも窺われた。
 最後は例年通り『さようなら』を歌った。一番を歌った後に代表3名がスピーチしたので紹介しよう。
「たくさんのみなさんのおかげで定期演奏会を開くことができました。遠くで応援しているみなさんも本当にありがとうございました」。「ぼくたちは歌が大好きです。だから今日も楽しく一生懸命歌いました」。「ぼくたちは歌う時、つながっています。来年は是非このホールへ見に来てください。最後まで聴いていただきありがとうございました」。どの団員の表情にも「定期演奏会で歌うことができてよかった」という喜びが表れていた。次の60回目の定期演奏会が無事開催できることを祈りたい。

   画面を見ていて気が付いたこと
 舞台背後のカーテンの形がきれいにデザインされていて照明が当たるときれいだった。これは客席にいて気持ちが歌に集中していると気がつかない。『彼方の光』は青い十字架が映っていた。

アー ドッコイー ドッコイ
ヤーレー 船頭可愛や 音戸の瀬戸でヨー
アー ドッコイー ドッコイ
一丈五尺の ヤーレノ 艪(ろ)がしわるヨー
アー ドッコイー ドッコイ
(以下、囃子ことば省略)
船頭可愛いと 沖行く船に
瀬戸のあの娘の 袖濡らす
泣いてくれるな 出船の時にゃ
沖で艪櫂(ろかい)の手が渋る
浮いた鴎(かもめ)の 夫婦(めおと)の仲を
情け知らずの伝馬船(てんません)
安芸(あき)の宮島 廻れば七里
浦は七浦 七恵比寿
ここは音戸の瀬戸 清盛塚の
岩に渦潮 ドンとぶち当たる
一丈五尺(いちじょうごしゃく)とは、尺貫法における長さの単位。1丈は10尺。1尺は明治以降の日本では、メートルの33分の10の長さ。一丈五尺はつまり15尺であり、約4.545メートルとなる。
「艪(ろ)」および「艪櫂(ろかい)」とは、和船を漕こぐための木製の道具。
伝馬船(てんません)とは、本船と岸との間を往復して荷などの積み降ろしを行う木造の小型和船。  
スピード上げ 坂道下る
目の前に広がる蒼い海
あの時、君と見た 紅に
そまるみなもを思い出すでしょう
くれば くれば くれはいいのに
ふりむいてくれ カムバックトゥ カムバックトゥ
もう一度 キミユア キミユア ハート
くれば くれば くれば くれはいいの
くれゆく 町は いまも きみのむねに
あれば あれば あれば いいのに
くればくれば くればわかる

夜になった カラス
空になれぬ うさぎ
水になりたかったのに
野に咲く花たちよ
あの山のむこうになにが
あるのだというのだろう
野山駆けるわたし
まだ見ぬ世界の丘に
誰とともに向かう
あの海の向こうきっと
大事な人がいる
ともに生きる人に
何処にゆけば会える
上る坂をはねのけて
下る坂を笑う
あの空のむこうどこか
二人の家がある

不思議なものだ
子どものころは大人になんてなれないのに
大人になれば「ときめく」だけで
いつでも子どもになれる
今まで生きてきて出した答えは
正解よりも間違いの方が多いよ
僕は間違いながら
大人になってきたんだ
こんなぼくの人生のいいことやだめなことが
100年先で頑張っている遺伝子に
役に立てますように
今を生きてる
いままで人を好きになって
傷つけたことをよく覚えてる
「伝える」ことや「わかり合う」って
好きになるほど難しい
こんな僕の青春の傷跡や甘酸っぱさが
100年先で恋をしている遺伝子に
勇気になれますように
今日も生きてく
失敗とか後悔から
「覚悟すること」を学んだ
逃げられない苦しみに
悲しみに勝つために
大きな夢をひとつ持ってた
恥ずかしいぐらいバカげた夢を
そしたらなぜか小さな夢が
いつのまにか叶っていた
そうだ僕は僕だけでできてるわけじゃない
この声明でいまを生きてる
今日も生きてく        2017年8月公開


第60回呉少年合唱団定期演奏会
2021年11月23日
(火・祝)呉信用金庫ホール

   呉少年合唱団の定期演奏会を訪れるのは2年ぶりだ。町歩きをしているといくつかの商店のガラス窓に定期演奏会のポスターが貼ってあることに気が付いた。例年は見かけない(気付かないのかもしれない)から力を入れているのだろう。12時前に会場に着くとスタッフの方々が準備に余念がなかった。60回目の定期演奏会、併せて2年ぶりの観客を入れての演奏会なのでこちらも力が入っていることがわかる。自分はといえば力が入っていて早く来たわけではない。くたびれていたのでロビーの椅子で休憩したかったのだ。当日のプログラムは以下の通り。
T.オープニングステージ
1 呉少年合唱団団歌
2 おもいでのうた
 まきばのこうし  汽車ポッポ
3 音戸の船頭歌
U.低学年ステージ NHK「みんなのうた」から
1 パンのマーチ
2 おお牧場は緑 
3 北風小僧の寒太郎
4 てのひらを太陽に
5 なぜ
6 ひとつの明かり
V.高学年ステージ
1 広い河の岸辺
2 Nella Fantasia
3 カイト
4 威風堂々
5 Siyahamba
W.呉少年合唱団OBステージ
1 箱根八里
2 ほらね
3 キューティーハニー
X.OBとともに  つなぐ未来へ
児童合唱とピアノのための『うたうとき』
第1章 そのときぼくは   第2章 つなぐ未来へ
Y.エンディングステージ
さようなら

   オープニングステージ
 
例年通り団歌で始まった。きれいな水が流れるような歌声はさわやかだった。団員はマスク着用で何処も同じだ。コロナ前までは3番まで歌っていたが2番までだった。次の「おもいでのうた」は団長が子どもの頃に呉少年合唱団で歌っていた曲だそうだ。『まきばのこうし』は初めて聴く曲だった。ゆったりした歌で部分2部合唱だった。歌詞の内容もおっとりしていた。この手の歌詞は現在では稀だ。次の『汽車ポッポ』は一番をゆっくりしたテンポ、二番を速いテンポで歌い機関車が加速する様子が出ていた。機関車が前引き後押していた箇所はいくつもあったが、呉の近くでは山陽本線の瀬野⇔八本松の間が有名だ。近年、この区間を電車で通過した際は軽々と走行する感じだったが蒸気機関車の時代は違ったはずで隔世の感があると思った。少年合唱団の歌う曲も時代によって変化をしていると実感した。次の『音戸の船頭歌』は時代による変化はないだろう。この曲を聴くと呉に来たことを実感する。代表で前に出て歌った少年たちの声はきれいだった。今回気が付いたことで、波の音(長い筒を左右に上下させて音を出す)を担当する少年は何気なくやっているように見えるが、リズムに合わせるのは難しいのではと思った。

   低学年ステージ

 NHKの「みんなのうた」は昭和36年(1961年)、呉少年合唱団創立の年に始まったと紹介があった。この時代の子供向けの歌は自分が知る限り、童謡か教科書に出てくる曲だった。当時の自分はこれらが物足りなかったので「みんなのうた」で歌われる曲はどれも新鮮だった。
『おお牧場はみどり』と『手のひらを太陽に』は60年代初めの曲、『パンのマーチ』は69年の歌、『北風小僧の寒太郎』は70年代半ばの曲だ。60年代初めの曲は誰にでも歌いやすい曲が多く、後半になると何回か聴かないと覚えられない曲になっていると同時にテンポが速まる傾向にある。そのような中で『北風小僧の寒太郎』はゆっくりしたテンポの曲だ。聴いていて『パンのマーチ』のような曲が現代の子どもたちには受け入れやすいのかな?と思った。『なぜ』はNHKラジオ『子ども電話相談室』のような質問が歌詞になっていて面白かった。この番組は大人にとっても勉強になる。『ひとつの明かり』も初めて聴く曲だ。この曲は、東日本大震災を機に小中学生が作詞しミマスさんが一緒に作曲したそうだ。低学年にはやや難しいかな?と思う曲だが一生懸命歌う姿は「いいな」と思った。歌い終わった時、「よくやった」の思いを込めて拍手をした。低学年には体でリズムを取りながら表現する子がいて気持ちが和んだ。

     高学年ステージ

『広い川の岸辺』はピアノ伴奏にフルートが加わり、ゆったりとした演奏に厚みが加わった。ゆったりした曲なので、少年たちのきれいな声をじっくり聴けた。 
『Nella Fantasia』は出だしを4名の代表が前に出て歌った。この4名が列に戻る時、お辞儀をするのはいいとして客席から拍手が出たのは良くなかった。これにより次のフレーズの歌が聴き取りにくくなり歌への集中力が途絶えた。代表の挨拶は全曲終わってからでも十分間に合うので一考して欲しい。この歌の途中で一瞬の間、意識が幻想の世界に入ってしまった。この曲もフルート伴奏があり、幻想の世界に入る効果があった。次の曲で「カイトって何?」と思ったら凧のことだった。先の東京オリンピックで流れたそうだが関心をもたなかった自分にとっては初めての曲だ。歌詞を聴いていて時代と共に考え方が変わっていくと思った。歌詞を語りかけるように歌うのが良かった。『威風堂々』はオーケストラで聴く機会が多いが歌で聴くのは初めてだった。こちらの曲も語りかけるような歌声で気持ちが和んだ。『Siyahamba』は広島少年合唱隊でしばしば演奏される曲だ。広島が弾けるように歌うのに対し呉が歌うと優雅な感じになる。どちらが良いと比較するつもりはないので指導者による解釈の違いと考えよう。このような違いは興味がある。

      OB ステージ

 自分にとっては『箱根八里』がよかった。男声ならではの力強さが険しい山道を歩いていく姿を表現していた。OBの皆さんにとって、この曲は歌い慣れているだけに磨きがかかっていた。この曲があるから『キューティーハニー』の軽やかさが生きてくる。これとは別にOBのバンド演奏もよかった。子どもの頃からの合唱での交流がこのような形に発展するのは羨ましい限りだ。またOBの存在が現在の少年たちを支えているのは喜ばしい。OBの合唱団時代のインタビューは良い話だけでなく、合唱団をやめようと思ったけれど続けてよかった、落ち込んだけれどこうして立ち直ったなどという話が聞けるとよかった。

      OBとともに

 今回のメインのプログラムなのだろう。60回記念の委嘱作品ということで合唱団としては力が入るところなのだろう。ゲストで来ていた作曲者本人のお話を聞けたのがよかった。『そのときぼくは』は高学年のコーラスに小太鼓が加わっていた。軽快なテンポで始まった。「飛んでいく」という歌詞が現状に留まらず未来へ向かう気持ちが表れていた。「みおの世界」の部分でテンポが遅くなると代表が舞台前方で歌い、それが終わると元のテンポに戻る形式だ。ゆっくりの部分をじっくり聴いて欲しいのかもしれない。ただこの時も代表が列に戻る時に拍手が出たのは残念だった。繰り返しになるが拍手は曲が終わり指揮者の様子を見た上で出して欲しい。『つなぐ未来へ』は低学年とOBによる全体合唱だ。これにバイオリン、サックス、パーカッションが厚みを加え60周年にふさわしい合唱になった。派手な演出がなくゆったりと歌う姿がよかった。この歌が後輩たちに受け継がれていくことを望みたい。

       さようなら

 歌の間奏の時、代表がスピーチするのはいつもの通りだ。「皆様のおかげで定期演奏会を開くことができました」「歌を歌い継いでいきます」はいつも以上に心がこもっているなと思った。観客を入れて開催できることは合唱団にとってうれしいことだろう。コロナが早く収まることを祈りたい。

「今から港に行けば宇品行きのフェリーに間に合うよ。」
「天気がいいからサンセットクルーズとしゃれよう。」
というわけでぼくたちは港へ急いだ。船に乗るのは呉から帰京する時の楽しみだ。うれしいことに今回は新造船にあたった。一番前の席が空いていたので風景を楽しめた。約40分の船旅だけれど電車と違ってゆったりしているのがいい。ゆったり気分でぼくたちは演奏会の振り返りをした。パンフレットの『そのときぼくは』の歌詞を見ていた空君が
「みおのせかいって何?」と言った。
「深青の世界には明るい光が心のボールになって照らされているの部分だね。」
「海のこと? 海中でなくて海面に太陽の光が照らされている?」
「海中かもしれません。」
外を見ると夕日が海を照らしていた。
「こういう風景のこと?」
「作詞は少年合唱団です。呉は海の町だからこういう連想ができるんじゃないですか?」
「どこか特定の場所のことを指すのかな?」
「深青は普段聞かない言葉だね。」
「待って、前の歌詞が銀河に向かってだから宇宙の青さじゃないかな?」
「宇宙は暗くない?」
「地球は青いというから宇宙から見た地球じゃないかな?」
「心のボールは地球のことかもしれない。」
「正解はありません、みなさんの想像に任せますよ、と言っていることも考えられます。」 
歌詞が印刷されているからこういう想像ができるのは楽しいことだ。もっといろいろな意見が出たけれどここまでにします。


 呉少年合唱団第61回定期演奏会
                      〜ひびけ 世界の空へ〜
          2022年11月23日(水・祝)  呉信用金庫ホール

  宇品港で呉行きの乗船券を購入したのは出港5分前の8時10分だった。売り場の人は何も言わなかったけれど桟橋までは距離がある。
五月「道楽さん、走ろう。」
 風「だめ!地面が濡れているから危ないです。」
 薫「大丈夫。売り場から船に連絡が入っているはずだから普通に歩こう。」
 空「チーフは落ち着いているね。」
ぼくの言う通り、定刻前に無事乗船できた。船室に入ると空いていたので前の席に座り朝のクルージングを楽しんだ。雨模様で視界が悪いのは残念だったけれど揺れることはなく、呉港には定刻に到着した。下船してターミナルビルに入ると呉市政120周年の横断幕が掲示されていた。それを見て「明治時代から続いているんだ。歴史あるな。」と思った。知っての通り呉は旧海軍の工廠として栄え、戦後は海上自衛隊の基地としての地位を保っている。ターミナル内で自衛艦を間近に見ることができる船の乗客を募っているのを見つけた。時間があるのでその船に乗り停泊しているコンテナ船や自衛艦、潜水艦を眺めた。間近で見ると思っていたより大きいことがわかった。呉が舞台のこうの史代原作『この世界の片隅に』の中で絵を描くのが好きな主人公が停泊している軍艦を姪のためにスケッチしているところを憲兵に見つかり、取り調べを受ける部分を思い出した。この間に、潜水艦が出港していくのを見た。めったに見られない光景だそうで「ラッキー!」と思った。何か良いことがあるかもしれない。前置きはここまでにして呉少年合唱団の演奏会のことを書いてもらおう。

プログラム
オープニングステージ
・団歌
・ピクニック
・汽車ポッポ
・音戸の船頭歌
低学年ステージ
・たいようのサンバ
・だれかが口笛ふいた
・楽しいね
・さくら
高学年と中高生ステージ
・キーウの鳥の歌 ウクライナ民謡
・いのちの歌  オユンナ作曲
・Stand Alone  久石 譲作曲
・O SOLE MIO
・SING
スペシャルステージ 〜呉の子どもたちとともに〜
・もみじ
・君クレハート
呉少年合唱団OBステージ
・箱根八里
・夕焼け  信長 貴富作曲
・アンパンマンのマーチ
OBとともに
・時の彼方へ  冨澤 裕作曲
エンディングステージ
・ハレルヤ  ヘンデル作曲
・さようなら

  今回は小学校低学年3名、同高学年7名 中学高校生11名の構成だった。最初の団歌はきれいに歌っただけれどパワーを感じなかった。次の『ピクニック』は楽しく歩く様子を動物の鳴き声を入れながら表現した。『汽車ポッポ』は、1番をゆっくりしたテンポ、2番を速いテンポで歌い、汽車が加速していく様子を表現した。この歌もきれいに歌っていた。しかし蒸気機関車の山越えは煙突から黒煙をもうもうと吹き上げながら力強く走る。機関士と助士は煤だらけになりながら懸命に機関車を走らせる。これは決して楽な仕事ではない。それを表現できるような工夫があると良いだろう。話はそれるが昔『裸の太陽』という東映映画があった。そこに機関助士たちが歌う「罐(かま)焚け 罐焚け 罐焚こう」という歌が挿入されていた。ちなみに機関助士は罐焚きと呼ばれていた。この歌はどこかの男声合唱団の吹き替えと思われるが力強い雰囲気が出ていた。映画には機関助士の命がけの仕事の場面がありこれが国鉄魂というものかと思った。少年たちには難しいことを言うつもりはないが昔の蒸気機関車の映像を見て何かを感じて欲しい。話を戻そう。おなじみの『音戸の船頭歌』はいつものように擬音を入れながらの合唱だ。毎回思うことで2番を歌う代表の声は美しい。「いいな。」と思っている時に歌い終えた代表に拍手が起きるのはいただけない。拍手は全曲歌い終えてからするべきだ。良い声を聴いて余韻を楽しみたいのは自分だけでないだろう。ピクニックでのソロも同様で曲の途中の拍手は感心できない。さて、ここまで聴き今回は音量ではなく声の質を重視していると思った。

       低学年ステージ、
 メンバーは3名だが委縮することはなく一生懸命歌う姿に好感をもった。『たいようのサンバ』は子どもたちが考えた振り付けを指揮者が一緒に手を動かしていた。このため、子どもたちは不安なく歌っていた。『楽しいね』は一人一人が順番にソロを歌った。みんなが良い声で聴いていて楽しくなった。これからの成長が楽しみだ。『だれかが口笛弾いた』は下級生には難しいのでは?と思ったがしっかり歌えている姿を見て頼もしいと思った。最後の『さくら』も同様だ。一人ひとりのソロが素朴なのが良かった。以上のことから下級生への指導者の期待が大きいと思った。司会者の「ベレー帽がかわいいです。」の言葉に対しボーイスが反応した。
風「かわいいじゃなくてかっこいいと言ってください。」
空「ぼくたちだってかわいいと言われたくない。」
薫「グロリア少年合唱団のBクラスがそう言っていたね。」
五月「似合います、素敵です、他にもいろいろな言い方があるよ。」

      上級生と中高生ステージ
 前述したが今回は声の質を重視していると感じた。これを生かしたのは『キーウの鳥の歌』、『いのちの歌』、『Stand Alone』の3曲だ。『キーウの鳥の歌』は伝説の鳥を見た人には幸せが訪れるという内容だ。これは静かな歌い方で観客の心に染み込むような歌だった。『いのちの歌』はすべての生き物には命があることを歌った曲だ。この曲も静かな合唱で心が和んだ。これら2曲は心が優しくなる曲だ。『Stand Alone』は司馬遼太郎の「坂の上の雲」の主題歌だ。遠くにある雲に近づこうという希望を歌った曲でコロナ禍に聴くと希望を忘れないという気持ちになる。今のご時世で「優しさ」と「希望」は大切なキーワードと再認識した。これに対し『O SOLE MIO』は選曲ミスと言える。この日の少年たちの歌は良い子の歌だった。強弱をつけて丁寧に歌っていたがこの歌は情熱的なエネルギーがないと映えない。同時に日本人にはないイタリア人の感性も必要だ。それを表現するのは難しいがここは中高生のテノールを生かして欲しかった。今回中高生はファルセットが多かったがこの曲はテノール、バスで本来の声を生かすべきだった。このメンバーでイタリアの歌を歌うなら『サンタルチア』、『はるかなるサンタルチア』など静かな曲が似合うだろう。ステージ最後の『シング』は下級生も入った。中高生が本来の声で歌ったことで厚みが加わり、心の中で一緒にハミングしたくなる雰囲気があった。3名の下級生は歌だけを聴いていると「歌がうまい男の子」としか感じないが先輩たちに混じると良い味が出る。濃いブラック紅茶に少しだけレモン果汁を加えると甘味と酸味が程よく出て紅茶が飲みやすくなる。それを思い出した。同時に前述した通り下級生への指導者の期待が大きいことが窺えた。

        スペシャルステージ
小学4,5年生の地元呉の少女3名を加えて『もみじ』を披露した。輪唱を入れることで厚みが出た結果、紅葉した並木道を歩いているような気持になった。あらためて「昔から歌い継がれてきた曲はいいな」と思った。同時にこれは日本人に合っている曲だと感じた。スペシャルステージは指導者の一人である山下 裕先生の企画だ。ここに出演したことがきっかけで少年合唱団に入った男の子もいる。その山下先生が前の年の12月に亡くなられたとアナウンスがあり驚いた。山下先生とは何度かお話したことがあり合唱についての熱い思いを感じていた。ご冥福をお祈りします。
次の『君クレハート』はダンスをしたくなるリズミカルな曲だ。マスコットキャラクターの呉氏も加わり楽しい雰囲気になりそうだった。指揮者はリズミカルに振っていたが肝心の少年たちのノリがもう一つだった。ここは照れずに楽しく歌おうという気持ちを表現して欲しかった。合唱団であっても曲によっては俳優的な要素も必要だ。

        OBステージ
 OBの人数は22名だった。男声がこの人数だと力の入った歌になる。だが力だけの歌ではなかった。『箱根八里』は聴くたびに良くなっている。こういうのがレパートリーというのだろう。各パートが調和していて、軽やかに箱根路を行く男たちの様子が想像できた。同時に現役の少年たちがおとなしめな分をOBたちが補っているような気がした。『夕焼け』は一転静かな雰囲気だ。「夕焼けの色はどこから見てもバラ色、戦火の色であってはならない。」平和を願う気持ちを伝える歌だ。男声合唱の魅力は強さだけではないことを観客に伝えた。『アンパンマンのマーチ』は観客の皆さんも一緒に楽しんでくださいという気持ちが表れていた。練習時間が少ないにもかかわらずきちんと歌えるのは積み重ねてきた結果だろう。
OBとともに
 言うまでもないが『時の彼方へ』は呉少年合唱団の50周年委嘱曲だ。この曲を歌う時はOBのみなさんは自然に張り切るのだろう。少年たちもそれにつられるように歌いオール男声ならではのパワーを感じた。この曲は呉少年合唱団にとって大切な曲と認識できた。

        エンディングステージ
 このステージは恒例の『ハレルヤ』と『さようなら』だ。『さようなら』の最後での代表2名のスピーチは心が温まり次の年も来ようという気分になる。そのような良い雰囲気で鑑賞を終えることができた。
 空「今回は3年ぶりが多かったね。」
五月「合宿、呉の子どもたちと一緒のステージ、OBとの合同演奏。」
 風「合唱団にとっては大変な時期。よく辛抱しました。」
 薫「これをきっかけに良い方向へ行くといいね。」


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