呉少年合唱団
少年らしい生真面目な演奏 第43回呉少年合唱団定期演奏会 2004年11月23日 |
広島空港に到着後、呉に向かうバスの発車時刻まで時間があったので電話予約したJALの帰りのチケットを引き取ろうとカウンターに行った。本当はANAにしたいのだが夜の東京便は満席で、2日前に残り2席というJAL1620便の空席をキャッチしたのだ。1620便はすでに満席の表示が出ていたからタッチの差だろう。係りの女性に便名と予約番号を告げると女性はコンピューターを操作して「予約が入っていません」と答えた。「空席があるからもう一度入れましょう」と言うが変な話だ。「手荷物を預けますか」と聞くので「これから呉に行くのでその必要なし」と答えると、はっとした顔をした。「1602便じゃないんですか」「1620便です」と答えると「申しわけありません」とコンピューターを操作し「ああ。こちらに入っています」と発券してくれた。この時間ロスでバスに間に合わなかった。次は55分後となり空港で待っていても仕方がないので広島駅行きのバスに乗りJR呉線で呉駅に到着。電車内では自閉症とおぼしき男の子が風景を見たり車掌に話しかけたりと落ち着きなく動きまわっていた。鉄道ファンでもある自分とやっていることにあまり差はないなと思いつつ「一歩間違えればおまえも自閉症になったかもしれない」という母の言葉を思い出した。人生とはほんの紙一重の差でどうころぶかわからない。少年合唱行脚など冷静に考えればやらなくても生きていけるし他にもやるべきことはたくさんある。しかしやってみたいと思うことが実行できるうちは無理をしてでもやろうというのが自分の考えだ。怪我や病気があればできなくなる。億劫になったときはそう自分に言い聞かせ行脚に出る日もある。さて時間に余裕があるので気分を落ち着けるために絵を見ようと案内所で美術館の場所を尋ね10分ほど歩いていくと工事のため休館中だった。休館の美術館など教えるなと思ったが(障害によってはここでパニックを起こすだろう)隣に入船山記念館というのがあるのでそちらを見学。旧鎮守府司令長官舎がある他、旧海軍の資料が展示されている。もう少しゆっくりしたかったが時間のことがあり会場へと向かった。
会場の呉市文化ホール近くのカフェレストランで食べた600円のサラダ、みそ汁付きのチキンライスは味、量とも充実していてうれしくなる。昨年も呉での昼食はチキンライスだったがこちらは量が少なかったことを思い出す。最近物忘れが多くなったがこんなことだけはよく覚えている。12時40頃にホールへ行くと50名ほどの列ができていた。「呉で会いましょう」とメールをくださったボーイソプラノの館長さんの姿が見えないので新幹線に事故でもあったかなと思ううち開場になった。昨年同様OBの中学生が「こんにちは」と挨拶してくれるのは気持ちがいい。もちろん自分も挨拶を返す。前方右の通路側の席を確保してビデオカメラを担当しているOBのごろごろさんに挨拶してロビーを散歩しつつ会場の雰囲気を味わった。
プログラム
1 オープニング
呉少年合唱団団歌
音戸の船頭歌
藤井清水メドレー
2 地球の鼓動
アリラン
ラサ サヤンゲ
SHYAHAMBA
WAになっておどろう
3 『胡弓の調べとともに』
紫竹調
花と少年
シルクロード
宵待草
(草競馬)賽馬
涙そうそう
世界に一つだけの花
川の流れのように
4『大陸の宙へ』
いのちの歌
島唄
ジュピター
5童声合唱とピアノのための組曲
『わらべうた』より
わるくちうた けんかならこい
うそつき きりなしうた
すりむきうた あきかんうた
6フィナーレ
ハレルヤ
さようなら
司会をする地元放送局の女性アナウンサーとおぼしき人の挨拶で始まった。団歌は静かだが明るい雰囲気の曲だ。流れるような清らかな合唱にうまくマッチしている。1部は呉合唱団のレパートリーで歌い慣れている感じで言葉がはっきりしていて聴き取りやすい。合唱を聴きながらこれが呉少年合唱団らしさなのだろうと思う。
2部は3,4年生による合唱だ。3年生2名、4年生10名で呉の団員は3年生が一番年下だ。この人数にしては声も出ていてやさしく語りかけてくるような合唱だった。上級生の団員が曲に合った民族楽器をたたいてよい雰囲気を創っていた。『アリラン』は聴き慣れているものより幾分ゆっくりしたテンポだが地方によって歌詞や曲調が違うとのことで今回歌われているのが一番ポピュラーだそうだ。『ラサ サヤンゲ』は日本では『川で歌おう』という題名がついていて元気に歌われることが多いが本来の意味は『いとしく思う気持ち』で「あの山に見える赤い物は何?」「おみやげに赤いリボンを買ってきて」とおねだりするかわいい歌だそうだ。残念だったのはソロを歌った子が歌い終わると軽く礼をするのだがすぐに拍手が起こり後の合唱が一部聴き取りにくくなることだ。このあたり観客は拍手に関してのマナーを知るべきである。ただ礼をした子にすぐ拍手をしたくなるのも人情だから指揮者は1曲歌い終えた後でソロを歌った子を前に出し、礼をするよう指示すべきだ。後半の2曲は元気さも前に出た合唱で前半2曲との対照がよい。また昨年は幼く感じた現4年生が昨年よりしっかりした感じに成長しているのは頼もしい限りだ。
3部に出演した医学博士であると同時に胡弓奏者でもある妾 暁艶さんは雑誌等で知っているが実際に演奏を聴くのは初めてだ。ピアノとフルートといっしょに聴く胡弓はいかにも中国的音楽を流れるように奏でていた。3曲目が終わると「特別ゲストに呼んでいただきうれしいです。合唱団のみなさんの歌に感動しました。」という旨の心のこもった挨拶があり好感をもてた。続いての尺八との『宵待草』は曲の雰囲気を捕らえた見事な演奏で違う文化を受け入れる度量を感じた。3部の中では『涙そうそう』『川の流れのように』を5,6年生の合唱と一緒に演奏した。前者はソプラノのソロを歌った子が、後者は大きな川が流れるようなゆったりした合唱がよかった。鍛えられていると感じる少年合唱特有の澄んだ歌声を前面に出し、間奏で胡弓をしっかり聴かせるのでバランスのよい演奏が楽しめた。終わると3年生の団員がゲストへ花束贈呈となる。普通なら花を持ってきた子どもと握手して終わりだが妾さんは引き上げようとした子どもを客席に向かって立たせ一緒に手を振って謝意をあらわした。一流の人はまわりにしっかり気配りができると感じ妾さんにますます好感をもった。
4部は全員による合唱で50名以上が歌うと静かな曲でもパワーを感じる。ここで特に際だったのは『ジュピター』だ。低声部がしっかり支えそこに高音部がうまくのっている感じで進んでいく。それはきびきびとした組体操を見るようだった。
5部は4、5,6年と研究科による合唱だ。谷川俊太郎作の詩は言葉遊びのようで楽しい。この詩をエコーのような響きで聴かせてくれた。時に高音部と低声部でキャッチボールのようにやり取りする部分が楽しい。ただ団員はとても真面目な表情で歌っていた。もう少し楽しそうな顔で歌えると曲の雰囲気が伝わるが真面目な表情も少年らしい純粋さの表れで自然だ。
フィナーレの『ハレルヤ』を男声だけで歌うのは迫力があり最後を飾るのにふさわしい。OBの人数が多いのは合唱団に対する愛着だろう。このようにOBが陰で支えているのはいいことだ。指導者への花束贈呈があり『さようなら』で幕。客席でしばらく余韻に浸りたいがすぐロビーへ出る。ロビーでは団員全員が整列しもう一度『さようなら』を歌うからだ。ロビーでの合唱を聴き終えてから館長さんを捜すが見あたらない。(帰宅してから体調不良で行くのを断念したことを知った。)
今年は昨年に比べしっかりした合唱になったように感じた。昨年も声はしっかり出ていたが一部の団員の服装がだらっとしているように感じ、それがマイナス要因になったからだ。その一因はジャケット、ベストを脱いだ時、ズボンにベルトをしていなかったことで「なぜだ」と思った。きちっとするためにはベルトかサスペンダーをするべきだが今年はベストを脱がなかったのでそれを感じなかったのかもしれない。服装でマイナス要因を感じさせるのはもったいないので指導する特に男性の方々は少年たちに正しい服装を教えて欲しい。そんなことを考えていると母親と一緒に来ていた2年生ぐらいの男の子が団員募集についてスタッフに聞いていた。それを見て自分もうれしくなった。この子も何かを感じたのだろう。
外へ出てゆっくり歩きながらどうやって空港へ向かうかを考えた。バスの発車には時間があるしまた呉線に乗るかと思っていたら港が近いのを思い出し、行ってみると15分ほど待てば広島行きのフェリーがあることを知った。これに乗船して売店でジョッキ入りの生ビールを買い、後部デッキに行くとテーブルのある椅子があったので座り、夕日を眺めながらのクルーズを楽しんだ。ビールを口にしつつ呉少年合唱団の余韻をゆっくりと味わった。
意欲に満ちたプログラム 第44回呉少年合唱団定期演奏会
〜平和への祈りを込めて〜 2005年11月23日 |
広島空港からのANA最終便は無事、羽田空港に到着した。ターミナルビルに入り今朝の始発で出発したことを思い出した。1泊ぐらいしたと錯覚するような充実感があった。「なんで?」と思う方々はこの後の文章をお読みください。
広島空港から呉に向かうバスはのんびりと走っていた。「こういうのをローカル風景というのかな」とぼくは景色に見入っていた。そんな景色が消え町中に入ると呉は近い。少々渋滞したが大きな遅れはなく呉駅に到着。居眠りしている道楽さんを起こして駅前に降り立った。「演奏会まで時間があるよ。どうするの?」「美術館に行ってみよう」「つまらなそう。それよりどこかから海を見ようよ」「薫君は美術館に行ったことないだろう。海は帰りにしよう」半ば強引に決められた感じがしないでもないが付き合ってあげることにした。線路沿いにしばらく歩きガードをくぐった所で道楽さんは立ち止まった。「どうしたの?」「もうすぐ臨時列車の『瀬戸内マリンビュー』が来るから見ていこう」ほどなく2両編成の電車(じゃなくてディーゼルカーだそうだ。どっちでもいいけど)が通過していった。「だからどうした?」と思ったけれど道楽さんは満足そうに「一人で大きくなったような いくつになっても少年のよう」と愛唱歌の一つを口ずさんでいた。そうこうしているうちに呉市立美術館に到着。山中雪人、水谷愛子二人展を見学することになった。ぼくは最初、絵に興味はなかったけれど「崖」という絵を離れた所から振り返って見たら「えっ」と思った。近くで見たのとは違い、立体的に見えたからだ。試しにいろいろな角度から離れたり近づいたりして見たら変化することがわかりたちまち楽しくなった。そんな様子を見ていた道楽さんが「君の好きなように鑑賞するといい。11時30分に迎えに来るから」と言ってくれたので一人でいろいろな絵を好きなように見た。そうしていたら時間はあっという間に過ぎた。
美術館の食堂でツナクリームスパゲティと海軍コーヒーで昼ご飯を食べて演奏会場である呉市文化ホールへ向かう途中、海上自衛隊の制服を着た人がたくさん歩いているのを見かけた。呉という町の特性だろう。もっと書きたいけれど本題に入ろう。道楽さんにバトンタッチ。
当日のプログラム
1オープンニング
呉少年合唱団団歌 藤井清水メドレー 反核の玉 U&I
2祈る
映画「コーラス」より
IN MEMORIAL A CAPPERA(亡き人への想い)
CARESSE SURL‘OCEAN(海への想い)
VOIS SUR TON CHEMIN(途中でみてごらん)
CERF−VORANT(凧)
3生きる
(1年生〜3年生)
グリーングリーン 世界中の子どもたちが だれかが星を見ていた
LOVE&PEACE 〜私たちは歌い続ける〜
(4年生〜研究科生)
WE ARE THE WORLD AMAZING GRACE
(全団員)
太陽のマーチ
4 大地の響き〜アフリカジェンベのリズム〜
ディダディ(心身浄化のためのリズム) クク(女性を称えるリズム)
ティリバ(大きな木の下で皆で集まって歌って踊って楽しむリズム)
コンドルは飛んでいく 合同演目「SIYAHAMBA(シヤハンバ)」
5願う
少年少女のための合唱組曲『私が呼吸するとき』より
星は流れる 耳を澄ませば 私が呼吸するとき
6フィナーレ
ハレルヤ さようなら
パンフレットを見て今年から小学1年生、2年生が加わったことを知った。年少者を育てる意味で方針変更は評価できるし楽しみなことだ。「こんにちは」と今年もロビーにいるOBの中高生が元気に声をかけてくるなど良い雰囲気だ。「お客様がお席にお座りになるまでにサービスの勝負が決まります」という旅客機のキャビンアテンダントの言葉を思い出した。
今年も女性アナウンサーとおぼしき司会者の挨拶で開演した。舞台には1年生から中学生まで約50名が3列に並んでいた。最初の団歌と藤井清水の曲は呉に来ないと聴けない曲だ。合唱団独自の歌があるのは良いことでこれからも歌い継がれていくだろう。朝、昼、晩の挨拶で始まる『団歌』はいつ聴いてもさわやかな気分になる。『藤井メドレー』(「足柄山」「雲雀の子」)は素朴なメロディーで歌詞も聴き取りやすい。『反逆の玉』も呉出身の人による作品だそうだ。広島と長崎の声をテーマにしたアカペラの曲は宗教曲のように心に染みわたってきた。こういう曲も少年合唱団にはよく似合う。次の『U&I』は空気が流れていくような仕上がりだった。この曲は少年合唱団の定番になりつつある曲で数団体の合唱を聴いてきたがそれぞれの個性が出てくるのがおもしろい。
続いての2部は4年生以上によるフランス映画『コーラス』からである。これらの曲を日本の合唱団が歌うのは初めてではなかろうかと思っていたら、楽譜は未出版だが子どもたちに歌って欲しい。そこで育成会長や通訳の尽力でこの日の演奏が実現したことが紹介された。これは大変なことで強い意欲の表れだろう。これに応えるかのように少年たちはフランス語の歌詞で合唱した。最初の曲は引き締まった声、2曲目は3曲目は伸びやかに、4曲目は明るくとメリハリのあるプログラムだった。生で聴く少年合唱団はサウンドトラックとはひと味違う。そんな印象をもった。今年だけで終わらず次回は、映画同様ソロを入れてグレードアップし、レパートリーに加えて欲しいものだ。拍手に送られて4年生以上は引き上げ、替わって1,2,3年生12名が登場だ。声はまだ幼くパワーは乏しいがソロあり、振り付けあり、ペンライトを有効に使ったりと見せ場がたくさんあった。低学年でもステージでソロを歌わせて育てていこうという指導者の気持ちも感じ取られ、中には近い将来が楽しみという子もいた。今の5年生が2年前の演奏会でソロを与えられていたことを思い出した。その時、印象に残った子が育っているのが心強い。低学年の子どもたちも先輩に続くよう願おう。低学年の子どもたちが引き上げると4年生以上のメンバーが再登場し、『WE ARE THE WORLD』と『AMAZING GRACE』だ。前者はオーソドックスに、後者はジャズ風にアレンジされた合唱だった。アメイジングもあちこちで聴く機会は多く合唱団によりいろいろな歌い方がある。ジャズ風に歌うのは男声合唱団に合うと思っていたが少年合唱でもいい味が出ると認識した。先に歌った曲がオーソドックスだった分、ジャズ風が新鮮だった。前半最後は有名なラデッキー行進曲のメロディで歌う『太陽のマーチ』だ。パーカッションに賛助出演の女子中学生2名を迎え、にぎやかに始まった。観客からも自然に手拍子が起き良い雰囲気だが指揮者の表情が乏しいのは残念。指揮者自身がもっと楽しむ余裕がないと観客にそれが伝わってしまう。観客が楽しめれば舞台を盛り上げることができ、相乗効果となるはずである。ここで休憩。
後半はゲストであるアフリカ民族楽器のジェンベ奏者チームと地元の尺八奏者との合同演奏だ。ジェンベについて簡単に述べよう。発祥は西アフリカ地域でボンゴに似た太鼓の仲間で手の平やバチを使って叩く。音楽を楽しむ以外に通信手段としても使われていたとのことだ。ジェンベの語源をたどっていくと調和の太鼓という意味になるそうで、現在でも踊りや婚礼、埋葬の伴奏として人々の和に密着しているとのことだ。このジェンベのリズムと音が尺八、少年の声と合わさるとこんなにも調和するのかと驚いた。室内ではなく晴れ渡った広場で聴いたらなお新鮮だろう。しかし惜しいことにジェンベの数が増えてしまうと選抜された少人数の少年の声が消されてしまう。この場は少年たちにマイクを準備するべきだった。やや不満は感じたものの最後の「SIYAHAMBA(シヤハンバ)」は4年生以上の団員が勢揃いして踊りたくなるような楽しい合唱を聴かせてくれた。人数が増えれば楽器に負けない声になる。間奏の間、団員が好き勝手に体を動かす演出があればなおよかったろう。祝電紹介とゲストへの花束贈呈で盛り上がった所で後半のメインである合唱組曲に入る。この曲について作詞者のメッセージを一部紹介しよう。「人間とは、もともと争い合う生き物なのだろうか。また、いつのどこにいる子どもでも、その悲しみや溢れる希望は、大人の大きな力の前では掻き消され、あるいは語る言葉を持たずに発せられない弱いものかも知れません。毎日を楽しんでほしい。子どもたちが『もっと楽しい世界をつくろうよ』って、愛と平和を呼びかけられたらどんなにすてきだろう。私が望めば本当にできるのではないか。おずおずと、でもはっきりそうに違いないという想いを込めてこれらの詩を書きました。平和への想いを多くの子どもたちと共有できることを願っています」 『願う』というテーマがついている所以である。星のことを静かに歌う『星は流れる』で始まり、地雷で手足を失った子どもたちの訴えを伝える『耳を澄ませば』につながる。重みのある詩を情感を込めて合唱する少年たちの声は観客の心に様々なことを訴えたことと思う。最後の『わたしが呼吸するとき』は未来への希望へつながる合唱だ。この曲は静かに始まり徐々に気持ちを盛り上げなければいけない難しそうな曲だ。特に最後をしっかり歌わないと他の2曲がかすんでしまいそうだが余韻を残して歌い終え『願う』という大きなテーマを観客に印象付けた。無事歌い終えた少年たちはフィナーレの2曲をノビノビと合唱した。少年たちも「やりきった」という成就感に満足しているのだろう。そんな声だった。幕が閉まってからロビーに行くと少年たちが勢揃いしてもう一度『さようなら』を歌っていた。間近で見る少年たちは、良い表情をしていた。
ホールを出てから「約束だよ。海はどこから見るの?」と道楽さんに聞くと「広島まで船で行こう。海が間近で見られるから」と答えが返ってきた。というわけで呉港から高速船に乗り込んだ。「一般のフェリーならデッキで外の景色が楽しめるんだけど」と道楽さんは残念そうな顔をしたが客席はゆったりしていて電車や飛行機より快適だ。メモをまとめる道楽さんに話しかけるのをやめ外の景色を眺めた。初めて見る自衛艦や陸地の風景は新鮮だった。船内は空いていて静かだったのでのんびり過ごせたのはなによりだった。薄暗くなった頃に広島宇品港へ到着し路面電車に乗車。電車に興味はないけれど路面電車は別だ。町の風景が歩いているときと同じように見えるので身近に感じるのだ。「夕食を市内で食べてから空港バスに乗ろう。おいしい店があるから」と言う道楽さんに従って袋町で下車して路地を歩き、着いたところは「P」というカウンターだけの洋食屋さんだった。「いらっしゃいませ。お久しぶりです」カウンターの中で調理をしていたおばさんが声をかけてきた。「呉から広島空港に行く途中ですけど、夕食はここでと思ったものですから」と道楽さんは調子よく答えた。「ありがとうございます。何からいきますか?」笑顔で注文を尋ねられた道楽さんは「広島に来たら加茂泉ですね」と地元のお酒を注文。お酒と一緒にソーセージや酢キャベツがつまみで出てきた。カレーライスを食べていた若いカップルが「おいしいですね」と楽しそうにしていた。「汗が止まらない」という男性へ「汗拭きです」とおばさんがタオルを差し出した。それを見て、道楽さんがこの店を好きな理由が理解できた。メニューを検討していた道楽さんが2本目のお酒とポークカツを注文するとおばさんは冷蔵庫から肉の固まりを取り出して包丁で切り入念に叩いて下ごしらえを始めた。その肉に衣をつけて油で揚げ、包丁で切ると出来上がりだ。すごくいい匂いでぼくは満足した。食べ終わる頃、隣にすわっていたおじさんが注文したカキとトマトのスープが出来上がった。「おいしそうだね。あれも頼もうよ」「了解」ということで最後の締めはスープとなった。「体が温まるね」ぼくたちの感想だ。お金を払ってバスセンターまで歩き19時15分の空港行き最終便に乗車した。「きょうは、飛行機、バス、船、路面電車に乗った。そして絵を見て少年合唱団を聴いておいしい食事で締めくくり。楽しかったな」ぼくは満足した。「その言葉は家に帰ってからにしなさい」道楽さんは戒めるように言ったけれど顔は笑っていた。「OK」ぼくたちは拳タッチをした。
充実したプログラム
第45回呉少年合唱団定期演奏会
2006年11月23日 |
「去年の呉少年合唱団のレポートを書いてください」。風が言った。「もうすぐ定期演奏会です。また復習と予習をやりましょう」「賛成。やろうよ。あの時はイチョウの葉がきれいだった。あの時のことはぼくが思い出させてあげるよ」。薫風コンビに言われてはやるしかない。メモとプログラムを用意しパソコンに向かった。
広島行きのANA671便ジャンボジェットはほぼ満席だった。祝日の早朝便、しかもジャンボが満席というのは珍しい。「連休でもないのにどうしたんだろう」道楽さんはまわりを見回しながら言った。空港に到着すると「バスが出るには時間がある」と展望デッキに行き、搭乗したジャンボを撮影し、バス乗り場に行くと広島市内行きは積み残しが出ていた。「臨時を出さないんだ。ひどいな」「飛行機が満席の時は要注意だね。早めに行動しないといけないんだ」 幸いなことに、ぼくたちの乗る呉行きは余裕があった。でも去年は10人も乗っていなかったのに今回は20名以上が乗っていた。「イベントでもあるのかな?」「呉少年合唱団の定期演奏会が目的だったりして」「あるわけないよ。でも、そうだったらうれしいね」
呉駅に到着し、美術館を見学しようとしたらお休みだったので造船所を見下ろせる高台に登った。建造中の船を見て「大きいなあ」と驚いた。付近を歩くと戦争に行き、亡くなった学校の先生の碑があった。それを見て道楽さんが「平和を当たり前と思ってたらいけないな」と真剣な顔をして手を合わせたのでぼくもそれに倣った。ここから呉市文化ホールに近い商店街まで歩き、旧い建物の洋食屋さんに入った。道楽さんはメニューを見てチキンライスとさつま汁を注文。「呉はあちこちでチキンライスが食べられるな」とうれしそうだ。運ばれた料理は食いしん坊の道楽さんを満足させた。ぼくは具がたくさん入っているさつま汁の香りを楽しんだ。これなら良い気分で合唱を聴けるだろう。店を出てホールの前の通りまで来るとイチョウ並木がきれいな黄色になっていたのでますます気分をよくした。
入場するといつものようにOBの中高生が気持ちよく迎えてくれた。席を確保してゴロゴロさんとアッキーさんに挨拶し、ロビーでリラックスタイム。ではプログラムを紹介して本題に入ろう。
1 オープニング
◆呉少年合唱団団歌 ◆音戸の船頭歌
◆反核の玉 ◆With You Smile
2 世界の音楽
◆ホ!ホ!ホ! ◆ロンドン橋の聖歌隊
◆Kum ba yah ◆カリンカ ◆コンドルは飛んで行く
3 アカペラ特集 (4年生〜研究科生)
◆ドナ ノービス パーチェム ◆夜 ◆けだものがきた
◆赤とんぼ ◆箱根八里 ◆ふるさと
4 モーツアルト特集
◆アレルヤ ◆おかあさん、きいてちょうだい ◆そり遊び
◆パ・パ・パ ◆春への憧れ
5 ゲストステージ
広島ジュニアマリンバアンサンブル
銀河鉄道999 他5曲
◆合同曲目 宇宙戦艦ヤマト
6 読み語りと「ことわざうた」
よみかたり 「ゆうくんだいすき」
少年少女のための合唱組曲「ことわざうた」より
◆さる ◆カラス ◆うそ
7 フィナーレ
◆ハレルヤ ◆さようなら
時間になると女性司会者が登場し「くらもと通りのイチョウがほほを染め、呉のシンボルレンガとの組み合わせが美しい季節になりました」などと歓迎の挨拶を述べた。挨拶が終わるといつものように団歌でスタートだ。舞台には51名の団員が3列体形で整列していた。昨年は小学1,2年生の団員はVネックのセーターだったが今年は上級生と同じジャケットを着ていた。ただ1年生がいないのは気になるところだ。あれこれ考えていると軽やかなピアノの伴奏が始まり恒例の『団歌』だ。「おはよう おはよう おはよう おはよう。(間奏)小鳥のさえずる 声の音も…」という歌詞は頭の中に入ってきた。そよかぜのようなこの曲を聴くと呉に来たことを実感する。次の『音戸の船頭歌』も呉少年合唱団の演奏会でしか聴く機会はない。波の音や舟を漕ぐ音を入れた曲を聴く度に音戸に行ってみたいと想うのだが時間の関係で未だに行っていない。すっかりレパートリーになった3曲目は、最初の2曲のほのぼのとした歌い方から一転して平和への強い想いが込められた歌い方となる。声に響きも加わり言葉の一つ一つが心に訴えかけてくるような合唱で、アカペラなのが効果的だった。続いての『With You Smile』は約50名の団員が心を合わせて歌い、少年がもつ内に秘めた強い心を感じる仕上がりだった。
2部は2年生、3年生14名による合唱だ。1曲目は軽快な曲でリズムに乗って歌った。2曲目はアカペラで最後の「落ちた」という箇所が観客の笑いを誘った。3曲目は「神様、ここへ来てください」という意味だそうで原語で歌った。前に出て歌った2名の声は細いがきれいで他の子との歌声とマッチしていた。4曲目と5曲目は2,3年生にとっては「難しいのでは?」と思ったがその心配はなくもてる力を出すことができた。5曲目は研究科1名がジャンベをたたいて雰囲気を作ったが耳障りな気がした。思い切ってピアノをやめジャンベだけの方が合唱そのものを楽しめるのではと感じた。2,3年生たちは成長途中だが一人一人の声がしっかりしていた。地声ではなくきちんとした発声なのが良く2,3年後が楽しみだ。
3部は4年生から中学生までのメンバー36名によるアカペラだ。先ずは4つのグループに分かれ通路を歩きながら舞台に上がった。最初は単調に歌い、次第に声をハモらせながらボリュームを上げていく歌い方でこのプログラムへの期待が高まった。2曲目は映画『コーラス』の中の1曲である(歌詞は日本語)。2名が出だしを歌い合唱へと続いていく。この2名は声質、声量を兼ね備えていて広い会場でもボーイソプラノの魅力を伝えることができた。もちろん他の団員とのアンサンブルもよく映画を思い出すことができた。前年にも感じたが『コーラス』は呉少年合唱団のレパートリーにして欲しい曲だ。3曲目は『ノアの箱船』を題材にした黒人霊歌である。けものが集まってくる様子を歌う曲は同じようなメロディだが難しそうだ。しかしそれを感じさせない団員の技術は高い。4曲目は秋の情景を思い起こさせるような歌い方、5曲目は高音部と低音部の声が厚味を出し、険しい山々に響くような歌い方、6曲目は強い意志をもって故郷を出てきた人々が歌うようなパワーある歌い方だった。
4部のモーツアルト特集では、団員たちはジャケットを脱ぎ。その時代を象徴する白いマフラーのようなものをつけて登場した(当時の作曲家の絵を見ればわかるだろう)。伴奏楽器にチェンバロも加わりその時代の雰囲気を創りだした。最初の曲はさわりの部分だけだが繊細な歌声を披露した。終わるとモーツアルトに関する団員のスピーチがありチェンバロによる『メヌエット』が流れた。続いては『きらきら星』のメロディである。低い声で始まり中盤が高音のハーモニーになり最後は低音で終わるという合唱が楽しかった。3曲目はそり遊びを楽しもうという気持ちを元気に表現した。4曲目は高音部と低音部のかけあいをゆったりと行った。オペラではバリトンとソプラノが行う楽しい二重唱をそれとは違う微笑ましい合唱に仕上げた。演出を工夫すると更に楽しめただろうが少年たちは歌に徹した方がよいだろう。最後の『春への憧れ』は1番と2番の間に『早春賦』と『知床旅情』を入れる楽しい演出があった。「音楽のそっくりさん同士だね」。薫がおもしろそうな顔をした。
次のゲストステージはマリンバ、ドラム、パーカッションによる演奏でカーネギーホールなど海外での公演も経験しているそうだ。うまいのはわかるがくたびれている時に聴きたくない演奏だった。「くたびれたんだろ。合唱団の歌に集中してたんから。休んでろよ」薫が言うので仰せに従った。最後の合同演奏は予想通り水と油だった。繊細な少年合唱と力強い打楽器集団が合うわけはない。
6部は、もう一人のゲスト、朝川照雄さんのことわざの語りの後に「猿も木から落ちる」、言葉遊びの語りの後に「カーと鳴いたカラス」、鼻をほじっちゃ駄目という語りの後に「うそ」というように合唱と語りのあわせ方が面白かった。曲は盛り上がりをつけにくいがハーモニーがしっかりとカバーし、合唱そのものは6部が一番充実していた。最後は恒例の『ハレルヤ』と『さようなら』である。ここではOB約20名も加えて華やかな合唱となった。次の『さようなら』が終わるとすぐに席を立ってロビーに向かった。「余韻に浸ろうよ」と言う薫をせきたててロビーに行くと合唱団全員が整列し『さようなら』を披露した。「そうか。思い出した」と納得した顔をした薫にうなずいて見せ、少年たちの歌を楽しんだ。
外は雨が降っていた。「大丈夫だよ。カサはある」。道楽さんはカバンの中から折りたたみ傘を取り出した。雨に濡れたイチョウの葉を見ながらぼくたちは楽しく歩いた。「広島まで船で行こうか」と提案した道楽さんに賛成し港へ向かった。
「どう、風君。イメージついた?」「わかったような気はします。でも実際に見たり聴いたりしないとわかりません。でも一つだけ言います。材料は新鮮なうちに料理しましょう」と風君はにっこりした。「きつい一言だ。さぼってたわけじゃないけど」「ぼくは ぼくなり がんばった?」。ぼくも笑いながら道楽さんの肩をたたいた。
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