桃太郎少年合唱団                                                                        
りっぱなオリジナルの合唱
     桃太郎少年合唱団第42回定期演奏会 
2004年11月28日


 「本日、日本列島は高気圧に覆われ安定した飛行になりそうです。到着地岡山の天候は晴れ。気温は摂氏7℃との報告を受けております」岡山に向かうANAのキャプテンのスピーチ通り今日は気持ちよく晴れている。こういう日はいわゆるルンルン気分(古いフレーズだ)というやつだ。左手に小豆島が見えると右へ旋回し高度を下げて無事着陸。バスで岡山駅に向かう。摂氏7℃ということだが寒さは感じない。「ようこそ。晴れの国、岡山へ」の看板通りだ。岡山駅前地下商店街でモーニングコーヒーを飲み市内電車を城下で下車。電車に乗るほどの距離ではないが鉄道ファンとして増収に協力した。まだ十分時間があるので近くのオリエント美術館を見学。「まねる」というテーマのイスラーム陶器の展示は想像以上に充実していた。展示パンフレット『特別企画展 まねる イスラーム陶器と中国磁器』(四角隆二氏 執筆)の前文を抜粋してみよう。「前略―あこがれの対象に少しでも近づきたい。自己の理想を実現したいと願う気持ち。人間として素直な、この感情をもったとき私たちは、『まねる』行為を行うのではないでしょうか。あこがれの中国磁器へ一歩でも近づこうと切磋琢磨したイスラームの陶工達は、いわゆる『コピー』を作ろうとしたわけではないようです。磁器を産しない圧倒的に不利な条件にもかかわらず、作り出されたイスラーム陶器からはオリジナリティーを感じさせます。そこには理想を形にしようとする、強い意志が読みとれるのです。『学ぶ=まねる』純粋な努力とあこがれと努力を伴います。つまり、重要なのは『コピー』という結果ではなく『まね』ようとする努力ではないでしょうか。ー後略」 美術館を出て歩いていくとギャラリーがあり絵の個展をやっていたので入ってみる。桜島を赤で表現した大きな絵をしばらくの間、眺めた。一見すると同じ赤だが濃淡様々な赤を使い分けてある。それゆえ長い時間、鑑賞していると絵が語りかけてくる、それが楽しいのだ。また近くの別のギャラリー(ギャラリーが多い地区なので)では年輩の女性画家の絵が展示されていた。作者が小さな色紙に2005年の干支である酉の絵を次々に描いておりせっかく来たのだからと1枚進呈してくれた。「一つとして同じ物は描けません」という言葉。50枚近くある絵は一見似ているがよく見ると少しずつ違っている。演奏会を前にして思いもよらぬ充実した時間だった。ここまでお読みいただいたみなさんも感じることが多々あると思う。前置きが長くなった。本題に入ろう。演奏会の開場は通常30分前だが桃太郎少年合唱団の演奏会は1時間前だ。1時前に開場に着くと30人弱が並んでいた。案内していた保護者らしき女性によると昨年より少ないそうだ。入りが悪いのではと思ったが開演時間が近づくとおおよそ席が埋まったので一安心。プログラムは以下の通り。

1. 僕らの愛唱歌
① 離陸準備完了
② カリブ夢の旅
③ 少年の日はいま
④ ゆかいに歩けば
⑤ マイ バラード
⑥ 歌よ ありがとう
⑦ 翼を抱いて
2. 賛助出演 コール・ゆうぶんげん
 「アイする女の墓に流す恋人の涙」
3.宗教曲            賛助出演    岡山トロンボーン協会
            コール・ゆーぶんげん
  「トロンボーンのためのエクアール」   アントン・ブルックナー作曲
  「4つのモテット」
① アヴェ マリア
② 乙女たちは王の前に招き入れられる
③ マリアよ、あなたはことごとく美しく
④ 見よ 大司教          
4.少年少女 女声のための合唱組
 「あしたの灯」
① 出会い、そして深めあい
② 声
③ 地球の歌
④ 祈り
⑤ 今 始まる
 5.OBとともに
   ハレルヤコーラス
 
  いつものように団歌でスタート。サトウハチロー作詞、中田喜直作曲というのが合唱団の歴史を物語っている。桃太郎少年合唱団の歌声は「気高さ」「きれいな川のながれ」と自分は感じている。1部の愛唱歌はすべてそのような雰囲気があり心地よく耳に入ってくる。ウィーン少年合唱団のような合唱団を創りたいという発足の理念を再認識した。60名近い団員の声は耳を澄ませば様々だ。これがバラバラでなく一つに調和しているのを聴き先ほどの「桜島」を思い出した。①~③はゆったりとした合唱、④は鳥笛とハイソプラノを入れたテンポのよい合唱、⑤~⑦はこの合唱団ならではのハーモニーという風にメリハリの効いたプログラムだった。
  2部と3部は原語による合唱だが対訳がパンフレットに入っていて親切だ。コール・ゆうぶんげんは約25名の混声合唱団。岡山トロンボーン協会は約10名の編成だ。2部はアカペラで声そのものを楽しめた。3部はトロンボーン主体の伴奏だ。宗教曲の合唱とトロンボーンがこれほど調和するのかと驚き、貴重な演奏が味わえた。宗教曲に馴染みがなくてもいい演奏は敬虔な気持ちにさせてくれる。宗教曲のもつ意味がほんの一部だけわかったような気がした。
  4部の『あしたの灯り』は2年前には混声合唱で聴いたが今回は同声合唱版が作られたとのことで桃太郎だけの合唱だ。人と出会うことのすばらしさ、文明の発達と引き替えに自然が破壊されることへの警告、破壊された自然と疲れた地球への応援歌、平和への願い、たくましく進んでいこうという決意を歌ったこの組曲は少年だけで歌うことにより輝きを増したように感じた。特に最後の部分はベートーベンの第9を聴き終えたときのような崇高な気分を味わえた。プログラムの最初にもってくると観客により強い感銘を与えたかもしれない。パンフレットに歌詞を載せておくと、よりインパクトが強くなっただろう。歌詞だけ読んでもつまらないと考える人もいるだろうが合唱を聴いた後で歌詞を読むと曲への思いがより深められる、これはそういう曲だ。これからも歌い継がれ進化していきそうだしそうなって欲しい曲だ。
  フィナーレは『ハレルヤ』。けちをつけるつもりはないが出来れば男声だけで歌うこだわりがあってもと思う。アンコール曲を歌わず『さようなら みなさま』で終えたので『あしたの灯り』はメインとしての輝きを保つことができた。
終演後、しばらく待ち、浦池先生に初対面のご挨拶をすると棚田先生へもご紹介頂いた。お二人とも溌剌としていてこのエネルギーが桃太郎少年合唱団を支えているのだと感じた。ウィーン少年合唱団のような合唱団を作ることが始まりだそうだが「コピー」ではない「オリジナル」の合唱団に成長していると思う。
  会場を出て飛行機の時間まで余裕があるので近くの商店街を歩いているとよい雰囲気の和菓子屋があったので入ってみる。土産用にお勧めの菓子を購入。帰京して知人に進呈すると「おいしかった」と喜んでもらえた。店に「武蔵、お通」と書かれた色紙が貼ってあったので由来を尋ねるとご主人が昔から武蔵のファンなのでと熊本県で撮影してきた写真を見せてくれた。武蔵ゆかりの地を旅行するのが好きだそうで対象は違っても自分と共通点がある。自分が後楽園と県立美術館を見ていないとわかると「ぜひいらしてください。ここは大都会ではなく住むにはすごく良い所です」と誇らしげに話してくれたのが印象に残った。桃太郎少年合唱団もこの町といっしょに発展して欲しいものだ。駅にもどり空港行きのバスを終点で降りると「気をつけてお帰りください」と年輩の係員が声をかけてくれた。それを聞き充実した1日だったと満足した。

桃太郎少年合唱団第45回定期演奏会
      ~翔べ 広い世界へ~ 2007年12月2日
 
      
  いつもならわくわくした気分で演奏会場へ来るのだが、今回は気分が重かった。受付で浦池和彦先生からの招待状を示すとスタッフの方が来賓席へ案内してくださった。普段は自分の好きな席へ座るが「浦池先生の気持ちを無にしてはならない」と考え直し、好意に甘えることにした。いつもなら開演までロビーで過ごすのだがこの日は席に座り浦池先生を回想することにした。初めてお会いしたときのこと、メールでお願いした音楽的なアドバイスに丁寧な返事をくださったことや団員達とスキーに行くのが楽しみなこと、栃木と岡山の少年合唱大会でお話ししたことなどが次々に思い浮かんだ。そういったやり取りを通して合唱団の指導に情熱を傾けていらっしゃるのがよくわかった。2週間前に届いた案内状に添えられた「今回は指揮をやります」という手紙から考えると先生はさぞかし無念だったことだろう。浦池先生の心はいつまでも桃太郎少年合唱団の中で生き続けることを願いたい。 
では演奏会の様子を紹介していこう。プログラムは次の通りだ。
 
1.僕らの愛唱歌
①マイバラード ②希望の岡山 ③少年の日は今 ④ゆかいに歩けば
⑤小さな秋みつけた ⑥歌よありがとう ⑦ひろい世界へ
2. OBソリストのステージ
 サクソフォン独奏     西本 淳        
  9つのエチュードよりタージ         
 テノール独唱       柾木和敬
  歌劇「ウェルテル」より
  春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか(オシアンの詩)
  マティナータ(朝の歌)           
ホルン演奏        宮武良平
  ボエム
3. 少年合唱のための宗教曲
 「キャロルの祭典」からProcession(入堂)
 Lennék bár kis harang(小さな鐘になれたら)
Ave Maria(アヴェマリア)  作曲 Z.Kodály
 Ave Maria          作曲 W.Andrissen
 The Lord bless you and keep you
 (主があなたをまもれますように)
4. OB・公募団員とともに
 40周年記念委嘱作品混声合唱組曲(あしたの灯り)から
 ①今 始まる ②ハレルヤコーラス

 演奏会はいつものように団歌から始まった。曲が終わると指揮者の棚田先生がマイクを持ち浦池先生が亡くなったこと、本日は追悼演奏会になることを話され「その場で結構ですので黙祷をおねがいします」と述べた。この話を聞いた観客の方々も神妙な表情で黙祷を捧げた。終わると気分を変えるように1曲目が始まった。少年たちの声はよく出ているしいつも通りきれいなハーモニーだ。しかし心の中に?マークが灯った。この日は会場の中心と言える場所に座っていた。そのせいかどうか少年たちの声は左右の壁にぶつかってから自分の両耳へ届いているような感覚だった。舞台から声がストレートに飛んでこない。これに違和感を覚えたのだ。この感覚は『小さな秋みつけた』まで続いた。「曲は違うけど歌い方が似ていますね」「そう、金太郎飴みたいだね。どこを切っても同じ、これが桃太郎流なのかもしれない」「でもそれは技術が要りますよ」。風と薫の会話を聞き「そうか」と納得した。しかし『歌よありがとう』、『広い世界』は一転して歌声が自分の席まで直線に飛んでくるような感覚になった。特に『広い世界』は力強さと発音の明瞭さが加わり1部を締めくくるにふさわしい合唱となった。演奏には満足したが、観客のことで気になったこと挙げよう。先ずは指揮者が完全に振り終わらないうちに拍手が出てしまうことだ。指揮者が振り終わり一呼吸置いて拍手をするのが観客のマナーである。もう一つ、小さな子どもの泣き声がうるさいことだ。演奏者にとっても心ある観客にとっても迷惑なことだ。
 2部のOBソリストのステージはミラノ在住であるテノール歌手の端正で強い歌声が印象的で久しぶりに本格的なテノールを楽しめた。また伴奏ピアニストが歌を引き立たせていることに感心した。この感覚は次のホルン奏者の演奏でも同様に感じた。伴奏者の技量は主役の出来を左右するとあらためて認識した。
 3部の宗教曲は小学3年生以上40名による合唱だ。この部は桃太郎流が消え違和感なく楽しむことができた。どの曲も聴かせどころをしっかり押さえた合唱で1曲目はゆっくりと訴えかけるように、2曲目はやや速いテンポで力強い合唱だった。オブリガードを歌った小学生2名の清らかな声もよかった。3曲目は低音部の深い声が高音部を支えることで厚味のある合唱だった。4曲目は中高生14名に小学生3名を加えた団員が1列に整列して歌った。中央にいる団員が合図で始まった合唱は気持ちが一つになり、この日一番の合唱となった。これら4曲はアカペラで少年合唱ならではの美しさを堪能することができた。5曲目は小学生3名の歌で始まり合唱がそれに続いた。高音、低音がきめ細かく重なり合い教会にいるような敬虔な気持ちになった。いつも感じるが宗教曲は少年合唱によく似合う。
 4部は公募した女声とOB男声を加えた約90名の合唱で人数が多い分、ボリュームがあった。1曲目は味のある合唱、2曲目の『ハレルヤ』は現役メンバーの小学生ソプラノが普段以上に大きな声を出していたのが印象に残った。終わると大きな拍手が起き花束贈呈が行われた。拍手がやむと棚田先生がマイクを握り「浦池先生が子どもたちによく歌わせていた『歌よありがとう』を歌ってよろしいでしょうか」と問いかけると客席からはもちろん拍手が起きた。「では、心をこめて歌います」の言葉通り、なんとも言えないすばらしい合唱が聴けた。続けて『さようなら みなさま』を歌いすべてのプログラムが終わった。座席でしばらく余韻に浸りアンケートを記入して席を立った。今回に限っては演奏会に来ることにあまり気が進まなかったが「やはり来てよかった」と思った。浦池先生も喜んでおられるだろう。「もし悲しんでおられるなら雨になっているはずだよ」「そう、きょうはきれいに晴れてました」。薫風コンビの言葉を聞き、少し気分が軽くなった。

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