桃太郎少年合唱団                                                                        
りっぱなオリジナルの合唱
     桃太郎少年合唱団第42回定期演奏会 
2004年11月28日


 「本日、日本列島は高気圧に覆われ安定した飛行になりそうです。到着地岡山の天候は晴れ。気温は摂氏7℃との報告を受けております」岡山に向かうANAのキャプテンのスピーチ通り今日は気持ちよく晴れている。こういう日はいわゆるルンルン気分(古いフレーズだ)というやつだ。左手に小豆島が見えると右へ旋回し高度を下げて無事着陸。バスで岡山駅に向かう。摂氏7℃ということだが寒さは感じない。「ようこそ。晴れの国、岡山へ」の看板通りだ。岡山駅前地下商店街でモーニングコーヒーを飲み市内電車を城下で下車。電車に乗るほどの距離ではないが鉄道ファンとして増収に協力した。まだ十分時間があるので近くのオリエント美術館を見学。「まねる」というテーマのイスラーム陶器の展示は想像以上に充実していた。展示パンフレット『特別企画展 まねる イスラーム陶器と中国磁器』(四角隆二氏 執筆)の前文を抜粋してみよう。「前略―あこがれの対象に少しでも近づきたい。自己の理想を実現したいと願う気持ち。人間として素直な、この感情をもったとき私たちは、『まねる』行為を行うのではないでしょうか。あこがれの中国磁器へ一歩でも近づこうと切磋琢磨したイスラームの陶工達は、いわゆる『コピー』を作ろうとしたわけではないようです。磁器を産しない圧倒的に不利な条件にもかかわらず、作り出されたイスラーム陶器からはオリジナリティーを感じさせます。そこには理想を形にしようとする、強い意志が読みとれるのです。『学ぶ=まねる』純粋な努力とあこがれと努力を伴います。つまり、重要なのは『コピー』という結果ではなく『まね』ようとする努力ではないでしょうか。ー後略」 美術館を出て歩いていくとギャラリーがあり絵の個展をやっていたので入ってみる。桜島を赤で表現した大きな絵をしばらくの間、眺めた。一見すると同じ赤だが濃淡様々な赤を使い分けてある。それゆえ長い時間、鑑賞していると絵が語りかけてくる、それが楽しいのだ。また近くの別のギャラリー(ギャラリーが多い地区なので)では年輩の女性画家の絵が展示されていた。作者が小さな色紙に2005年の干支である酉の絵を次々に描いておりせっかく来たのだからと1枚進呈してくれた。「一つとして同じ物は描けません」という言葉。50枚近くある絵は一見似ているがよく見ると少しずつ違っている。演奏会を前にして思いもよらぬ充実した時間だった。ここまでお読みいただいたみなさんも感じることが多々あると思う。前置きが長くなった。本題に入ろう。演奏会の開場は通常30分前だが桃太郎少年合唱団の演奏会は1時間前だ。1時前に開場に着くと30人弱が並んでいた。案内していた保護者らしき女性によると昨年より少ないそうだ。入りが悪いのではと思ったが開演時間が近づくとおおよそ席が埋まったので一安心。プログラムは以下の通り。

1. 僕らの愛唱歌
① 離陸準備完了
② カリブ夢の旅
③ 少年の日はいま
④ ゆかいに歩けば
⑤ マイ バラード
⑥ 歌よ ありがとう
⑦ 翼を抱いて
2. 賛助出演 コール・ゆうぶんげん
 「アイする女の墓に流す恋人の涙」
3.宗教曲            賛助出演    岡山トロンボーン協会
            コール・ゆーぶんげん
  「トロンボーンのためのエクアール」   アントン・ブルックナー作曲
  「4つのモテット」
① アヴェ マリア
② 乙女たちは王の前に招き入れられる
③ マリアよ、あなたはことごとく美しく
④ 見よ 大司教          
4.少年少女 女声のための合唱組
 「あしたの灯」
① 出会い、そして深めあい
② 声
③ 地球の歌
④ 祈り
⑤ 今 始まる
 5.OBとともに
   ハレルヤコーラス
 
  いつものように団歌でスタート。サトウハチロー作詞、中田喜直作曲というのが合唱団の歴史を物語っている。桃太郎少年合唱団の歌声は「気高さ」「きれいな川のながれ」と自分は感じている。1部の愛唱歌はすべてそのような雰囲気があり心地よく耳に入ってくる。ウィーン少年合唱団のような合唱団を創りたいという発足の理念を再認識した。60名近い団員の声は耳を澄ませば様々だ。これがバラバラでなく一つに調和しているのを聴き先ほどの「桜島」を思い出した。①~③はゆったりとした合唱、④は鳥笛とハイソプラノを入れたテンポのよい合唱、⑤~⑦はこの合唱団ならではのハーモニーという風にメリハリの効いたプログラムだった。
  2部と3部は原語による合唱だが対訳がパンフレットに入っていて親切だ。コール・ゆうぶんげんは約25名の混声合唱団。岡山トロンボーン協会は約10名の編成だ。2部はアカペラで声そのものを楽しめた。3部はトロンボーン主体の伴奏だ。宗教曲の合唱とトロンボーンがこれほど調和するのかと驚き、貴重な演奏が味わえた。宗教曲に馴染みがなくてもいい演奏は敬虔な気持ちにさせてくれる。宗教曲のもつ意味がほんの一部だけわかったような気がした。
  4部の『あしたの灯り』は2年前には混声合唱で聴いたが今回は同声合唱版が作られたとのことで桃太郎だけの合唱だ。人と出会うことのすばらしさ、文明の発達と引き替えに自然が破壊されることへの警告、破壊された自然と疲れた地球への応援歌、平和への願い、たくましく進んでいこうという決意を歌ったこの組曲は少年だけで歌うことにより輝きを増したように感じた。特に最後の部分はベートーベンの第9を聴き終えたときのような崇高な気分を味わえた。プログラムの最初にもってくると観客により強い感銘を与えたかもしれない。パンフレットに歌詞を載せておくと、よりインパクトが強くなっただろう。歌詞だけ読んでもつまらないと考える人もいるだろうが合唱を聴いた後で歌詞を読むと曲への思いがより深められる、これはそういう曲だ。これからも歌い継がれ進化していきそうだしそうなって欲しい曲だ。
  フィナーレは『ハレルヤ』。けちをつけるつもりはないが出来れば男声だけで歌うこだわりがあってもと思う。アンコール曲を歌わず『さようなら みなさま』で終えたので『あしたの灯り』はメインとしての輝きを保つことができた。
終演後、しばらく待ち、浦池先生に初対面のご挨拶をすると棚田先生へもご紹介頂いた。お二人とも溌剌としていてこのエネルギーが桃太郎少年合唱団を支えているのだと感じた。ウィーン少年合唱団のような合唱団を作ることが始まりだそうだが「コピー」ではない「オリジナル」の合唱団に成長していると思う。
  会場を出て飛行機の時間まで余裕があるので近くの商店街を歩いているとよい雰囲気の和菓子屋があったので入ってみる。土産用にお勧めの菓子を購入。帰京して知人に進呈すると「おいしかった」と喜んでもらえた。店に「武蔵、お通」と書かれた色紙が貼ってあったので由来を尋ねるとご主人が昔から武蔵のファンなのでと熊本県で撮影してきた写真を見せてくれた。武蔵ゆかりの地を旅行するのが好きだそうで対象は違っても自分と共通点がある。自分が後楽園と県立美術館を見ていないとわかると「ぜひいらしてください。ここは大都会ではなく住むにはすごく良い所です」と誇らしげに話してくれたのが印象に残った。桃太郎少年合唱団もこの町といっしょに発展して欲しいものだ。駅にもどり空港行きのバスを終点で降りると「気をつけてお帰りください」と年輩の係員が声をかけてくれた。それを聞き充実した1日だったと満足した。

桃太郎少年合唱団第45回定期演奏会
      ~翔べ 広い世界へ~ 2007年12月2日
 
      
  いつもならわくわくした気分で演奏会場へ来るのだが、今回は気分が重かった。受付で浦池和彦先生からの招待状を示すとスタッフの方が来賓席へ案内してくださった。普段は自分の好きな席へ座るが「浦池先生の気持ちを無にしてはならない」と考え直し、好意に甘えることにした。いつもなら開演までロビーで過ごすのだがこの日は席に座り浦池先生を回想することにした。初めてお会いしたときのこと、メールでお願いした音楽的なアドバイスに丁寧な返事をくださったことや団員達とスキーに行くのが楽しみなこと、栃木と岡山の少年合唱大会でお話ししたことなどが次々に思い浮かんだ。そういったやり取りを通して合唱団の指導に情熱を傾けていらっしゃるのがよくわかった。2週間前に届いた案内状に添えられた「今回は指揮をやります」という手紙から考えると先生はさぞかし無念だったことだろう。浦池先生の心はいつまでも桃太郎少年合唱団の中で生き続けることを願いたい。 
では演奏会の様子を紹介していこう。プログラムは次の通りだ。
 
1.僕らの愛唱歌
①マイバラード ②希望の岡山 ③少年の日は今 ④ゆかいに歩けば
⑤小さな秋みつけた ⑥歌よありがとう ⑦ひろい世界へ
2. OBソリストのステージ
 サクソフォン独奏     西本 淳        
  9つのエチュードよりタージ         
 テノール独唱       柾木和敬
  歌劇「ウェルテル」より
  春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか(オシアンの詩)
  マティナータ(朝の歌)           
ホルン演奏        宮武良平
  ボエム
3. 少年合唱のための宗教曲
 「キャロルの祭典」からProcession(入堂)
 Lennék bár kis harang(小さな鐘になれたら)
Ave Maria(アヴェマリア)  作曲 Z.Kodály
 Ave Maria          作曲 W.Andrissen
 The Lord bless you and keep you
 (主があなたをまもれますように)
4. OB・公募団員とともに
 40周年記念委嘱作品混声合唱組曲(あしたの灯り)から
 ①今 始まる ②ハレルヤコーラス

 演奏会はいつものように団歌から始まった。曲が終わると指揮者の棚田先生がマイクを持ち浦池先生が亡くなったこと、本日は追悼演奏会になることを話され「その場で結構ですので黙祷をおねがいします」と述べた。この話を聞いた観客の方々も神妙な表情で黙祷を捧げた。終わると気分を変えるように1曲目が始まった。少年たちの声はよく出ているしいつも通りきれいなハーモニーだ。しかし心の中に?マークが灯った。この日は会場の中心と言える場所に座っていた。そのせいかどうか少年たちの声は左右の壁にぶつかってから自分の両耳へ届いているような感覚だった。舞台から声がストレートに飛んでこない。これに違和感を覚えたのだ。この感覚は『小さな秋みつけた』まで続いた。「曲は違うけど歌い方が似ていますね」「そう、金太郎飴みたいだね。どこを切っても同じ、これが桃太郎流なのかもしれない」「でもそれは技術が要りますよ」。風と薫の会話を聞き「そうか」と納得した。しかし『歌よありがとう』、『広い世界』は一転して歌声が自分の席まで直線に飛んでくるような感覚になった。特に『広い世界』は力強さと発音の明瞭さが加わり1部を締めくくるにふさわしい合唱となった。演奏には満足したが、観客のことで気になったこと挙げよう。先ずは指揮者が完全に振り終わらないうちに拍手が出てしまうことだ。指揮者が振り終わり一呼吸置いて拍手をするのが観客のマナーである。もう一つ、小さな子どもの泣き声がうるさいことだ。演奏者にとっても心ある観客にとっても迷惑なことだ。
 2部のOBソリストのステージはミラノ在住であるテノール歌手の端正で強い歌声が印象的で久しぶりに本格的なテノールを楽しめた。また伴奏ピアニストが歌を引き立たせていることに感心した。この感覚は次のホルン奏者の演奏でも同様に感じた。伴奏者の技量は主役の出来を左右するとあらためて認識した。
 3部の宗教曲は小学3年生以上40名による合唱だ。この部は桃太郎流が消え違和感なく楽しむことができた。どの曲も聴かせどころをしっかり押さえた合唱で1曲目はゆっくりと訴えかけるように、2曲目はやや速いテンポで力強い合唱だった。オブリガードを歌った小学生2名の清らかな声もよかった。3曲目は低音部の深い声が高音部を支えることで厚味のある合唱だった。4曲目は中高生14名に小学生3名を加えた団員が1列に整列して歌った。中央にいる団員が合図で始まった合唱は気持ちが一つになり、この日一番の合唱となった。これら4曲はアカペラで少年合唱ならではの美しさを堪能することができた。5曲目は小学生3名の歌で始まり合唱がそれに続いた。高音、低音がきめ細かく重なり合い教会にいるような敬虔な気持ちになった。いつも感じるが宗教曲は少年合唱によく似合う。
 4部は公募した女声とOB男声を加えた約90名の合唱で人数が多い分、ボリュームがあった。1曲目は味のある合唱、2曲目の『ハレルヤ』は現役メンバーの小学生ソプラノが普段以上に大きな声を出していたのが印象に残った。終わると大きな拍手が起き花束贈呈が行われた。拍手がやむと棚田先生がマイクを握り「浦池先生が子どもたちによく歌わせていた『歌よありがとう』を歌ってよろしいでしょうか」と問いかけると客席からはもちろん拍手が起きた。「では、心をこめて歌います」の言葉通り、なんとも言えないすばらしい合唱が聴けた。続けて『さようなら みなさま』を歌いすべてのプログラムが終わった。座席でしばらく余韻に浸りアンケートを記入して席を立った。今回に限っては演奏会に来ることにあまり気が進まなかったが「やはり来てよかった」と思った。浦池先生も喜んでおられるだろう。「もし悲しんでおられるなら雨になっているはずだよ」「そう、きょうはきれいに晴れてました」。薫風コンビの言葉を聞き、少し気分が軽くなった。

 第57回桃太郎少年合唱団定期演奏会
                                           2019年 11月2日

      第1ステージ 愛唱歌ー地球を歌おう・未来を歌おう 
指揮/上月 明 ピアノ/矢木裕子
桃太郎少年合唱団 団歌 (作詞/サトウハチロー 作曲/中田喜直)
空がこんなに青いとは  (作詞/岩谷時子 作曲/野田暉行) 
地球の子ども      (作詞/まど・みちお 作曲/山本直純)
気球にのってどこまでも (作詞/東 龍男 作曲/平吉毅州) 
おーい 海!      (作詞/山川啓介 作曲/山本直純) 
未知という名の船に乗り (作詞/阿久 悠・小林亜星 作曲/若林正司)

      第2ステージ 児童合唱組曲≪空にかいた12の童話≫
指揮/髙野 敦 ピアノ/岡﨑ひかり
作詞/村田さち子 作曲/池辺晋一郎
もし、アフリカ象の耳よりもっと大きな耳になれたら
もし、国民の休日をきめる係になれたら
もし、太陽になれたら
もし、魔法使いになれたら
もし、空になれたら
もし、ぼくのパパになれたら
もし、りんごの木になれたら
もし、物語の主人公のともだちになれたら
もし、天気をきめる一番えらい係になれたら
もし、透明人間になれたら
もし、どうぶつ語がしゃべれるようになったら
あこがれーいつかそんな人になりたい

      第3ステージ 四宮貴久さんと楽しく歌おう&ア・カペラアンサンブル
歌と演出/四宮貴久 賛助出演/公募のみなさん
指揮/髙野 敦 ピアノ/岡﨑ひかり 振付/岸本由有

パプリカ〔Nコンバージョン〕(作詞・作曲・編曲/米津玄師 合唱編曲/加藤昌則)
ミュージカル≪メリー・ポピンズ≫より
 スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
 (作曲/Richard M.Sherman and Robert B.Sherman 日本語詞/片桐和子)
SupperTime

      ア・カペラアンサンブル
浜辺の歌  (作詞/林 古渓 作曲/成田為三 編曲/信長貴富)
Regina Cæli (作曲/濱崎 晋)
知るや君  (作詞/島崎藤村 作曲/相澤直人)
村の鍛冶屋 (作詞・作曲/不詳 編曲/信長貴富)

 
      第4ステージ ヨーロッパの名曲を訪ねて
小ミサ曲 指揮/髙野 敦 ピアノ/岡﨑ひかり 作曲/Gabriel Urbain Fauré
Kyrie
Sanctus
Benedictus
Agnus Dei

指揮/上月 明 ピアノ/矢木裕子
流浪の民(訳詞/石倉小三郎 作曲/R.A.Schumann)
~OBと共に~
美しく青きドナウ(訳詞/野上 彰 作曲/J.StraussⅡ 編曲/尾高尚忠)

      アンコール
歌よ ありがとう  (作詞 作曲 橋本祥路)

   桃太郎少年合唱団の定演を訪れたのは2014年以来だ。なぜかというと桃太郎少年合唱団の定期演奏会が他の用事と重なっていたためだ。今回は他の用事はなかったので久しぶりの訪問となった。会場の市立美術館ホールについて事前に調べてみたら、定員が200名強だった。これだと当日券が発売されない可能性があると考え予約を入れた。以前は広いシンフォニーホールで開催していたことを考えると時代が変わったと思った。ただ第1ステージのプログラムは昔通りだった、団歌の作詞者、作曲者の名前を見て伝統ある合唱団であることをあらためて認識した。

   舞台に登場した合唱団員は16名。団歌を歌い終えると団員の一人が前に出て「みなさん、こんにちは、最初のステージは地球を歌おう、未来を歌おうがテーマです」と挨拶した。これは好感がもてた。マイクを使わなくても声は十分に聞こえた。合唱の会場としては適切な広さで家族的雰囲気が漂っていた。各曲は発表の時代(70年代初め、中頃、後半、80年代初め)を反映していてこちらも歴史を感じた。団員の人数は少なくなったが、ハーモニーの良さは健在だった。各団員が出過ぎず引くこともなく歌っていたことが質の高い合唱へとつながった。第1ステージが終わり、この人数でこれだけ歌えることは評価できる。良い合唱だけれど以前と比べて何かが違うと思った。思いつくのは音階を半音上げなくなったことだろうがそれだけではない。この場は、最後まで聴けば何かが分かるだろうということにした。

   第2ステージは「夢と憧れを歌った曲です。自分だったらどうするかを考えながら聴いてください」というスピーチで始まった。各曲の題名は、一番年少と思われる団員が発表した。プログラムを見て曲名を確認する必要がないので合唱に集中できたので良かった。この12曲は、曲調の違いはあるがドラマチックな曲はないので淡々とした感じだった。ただ最後の曲は力がこもっていてこのプログラムを盛り上げた。12曲を聴いていて飽きないのは第1ステージ同様、ハーモニーの良さだった。余計な演出を入れずに合唱で勝負することに気概を感じた。

   第3ステージは一般募集した子どもたちが合唱団と一緒に『パブリカ』などを歌った。かなり前に自分は、新潟少年合唱団と一緒に舞台で歌ったことがある。この時、客席で聴くのとは一味違うきれいなハーモニーに驚かされた。この日、一緒に歌った男の子の中に、桃太郎に入ってくれる子がいればいいなと思った。さて、このステージはOBのミュージカル俳優である四宮さんが中心になって進めたがその中で「今のメンバーは空いた時間に宿題をやっていますがぼくらの頃はそんな子はいませでした」という旨のスピーチがあった。それを聞き「これだ」と思った。何かが違うと思った原因が分かった。第1ステージで聴いた曲は、いわゆる良い子の歌だった。姿勢よく真面目な表情で歌っていたからだ。合唱は、上手に歌うことはもちろん大切だが、どこかにやんちゃさというか悪魔的な要素が入らないと観客の心に伝わらない。アンコに塩分を少し加えることで甘さを引き立てるのと似ている。やんちゃさとは違うが、以前の桃太郎には体でリズムを取りながら楽しそうに歌っている子がいた。その姿を見て聴いている自分も楽しくなった。今回はそのような雰囲気を感じなかった。全員、歌は好きなはずだから「ぼくは桃太郎少年合唱団だ。歌うことが好きだ、楽しいんだ」という雰囲気を遠慮せずに出して欲しい。

   続けてのアカペラステージは選抜メンバー8名による合唱だ。こちらは前半とは一味違うコーラスだった。各自が声で主張をする、しかしアンサンブルは良い。主張しているようで他のメンバーの声も聴けているのだろう。自分にとって秀逸だったのは『村の鍛冶屋』だ。自分は、鍛冶屋さんが作業をする現場は実際に見たことはなく、刃物作りの様子を映像で見ただけだ。炎で焼かれ真っ赤になった鋼を手早く工具で打つ作業は腕力と体力そして経験の勝負だ。その様子を少年合唱団ならではの美しく芯のある合唱に仕上げた。

   次は宗教曲についてだ。桃太郎少年合唱団の演奏会では宗教曲を聴くことも多かった。これも伝統の一つと考えてよく毎回力が入っていた。その伝統を受け継いでの全団員による小ミサ曲は清らかでハーモニーもよかった。ソプラノソロをはじめよく練習したことが窺えた。宗教曲は奥が深いのでこれからも練習を重ねて歌い続けて欲しい。なにより少年合唱団によく似合うのだから。

   終盤の『流浪の民』もきれいなハーモニーだった。こういう処にも過去のヨーロッパ公演の経験が活かされており、現在までその歴史は守り継がれていた。OBと一緒に歌った『青きドナウ』も同様だった。老舗合唱団ならではと言える。アンコールの『歌よ ありがとう』を聴くと「桃太郎少年合唱団だなあ」を実感する。この歌は桃太郎少年合唱団に似合うからだ。合唱団を取り巻く環境は変化しているがよき伝統を受け継いでいって欲しい。


 第58回桃太郎少年合唱団定期演奏会
                                       
2020年11月21日    ルネスホール

 今回はアップされている画像を見たうえでレポートをすることになった。そこでぼくたちはパソコンの前に陣取った。
入場してきたメンバーを見て一瞬「ドキッ」とした。口と鼻を布で覆っていたからだ。
「ギャングみたい」
「感染防止です。つけたくて、つけているんじゃないですよ」
「ギャング? なら歌でぼくたちの心を盗ってもらおうよ」
「おもしろい、じっくり聴こう」。 

プログラム
 団歌
 枯れ葉  ピアノ演奏
 秋の歌メドレー
 里の秋      (作詞/斎藤信夫 作曲/海沼 実)
 紅葉       (作詞/高野辰之 作曲/岡野貞一)
 野菊       (作詞/石森延男 作曲/下総皖一)
 村祭       (文部省唱歌)
 虫の声      (文部省唱歌)
だれもいない海  ピアノ演奏
 七つの子     (作詞/野口雨情 作曲/本居長世)
 小さい秋見つけた (作詞/サトウハチロー 作曲/中田喜直)
 赤とんぼ     (作詞/三木露風 作曲/山田耕筰)

少年少女|女声のための合唱組曲「あしたの灯」より
祈り      (作詞/門倉 詇 作曲/吉岡弘行)

きみに伝えたい (作詞/LOVE&英美 作曲/水本 誠 編曲/富澤 裕)

いのちの歌   (作詞/Miyabi 作曲/村松崇継 編曲/富澤 裕)

アカペラ  
里の秋      (作詞/斎藤信夫 作曲/海沼 実)
ロマンチストの豚 (作詞/やなせたかし 作曲/木下牧子)

-前へ-『東日本大震災の被災者の皆様へ』 (作詞・作曲/佐藤賢太郎)
  
マイバラード   (作詞・作曲・編曲/松井孝夫)
  そのままの君で  (作詞・作曲・編曲/松井孝夫)
  未来へのステップ (作詞・作曲・編曲/松井孝夫)
  旅立ちの日に   (作詞/小嶋 登 作曲/坂本浩美 編曲/松井孝夫)
アンコール曲  ビリーブ

   演奏会は団歌で始まった。サトウハチロー作詞、中田喜直作曲の団歌を聴くと創設者の方々の桃太郎少年合唱団への意気込みを感じる。少年合唱団の団歌は指導者による作詞作曲が多い。にもかかわらず、一流のお二人にお願いしたことにそれが表れているからだ。
   団歌が終わると、ピアノによる『枯葉』の演奏が季節の雰囲気を作り出した。続いて『里の秋』が始まった。シャンソンで始まり、童謡・唱歌に移るのは違和感だが秋の気分は味わえた。童謡・唱歌は年配の方々にはおなじみだが少年たちにとっては目新しい曲だろう。若い人がこの手の歌を聴いて「日本にも良い曲があるんだ」と言うのを聞いたことがある。良い曲は歌い継がれて欲しい。それはさておき、少年たちはごく自然に歌っていた。『里の秋』は、深い呼吸を使ってゆったりと、『紅葉』は輪唱を入れて伸びやかに、『野菊』は風に揺れる野菊の様子が頭の中に浮かぶような歌い方、『村祭り』は掛け声を入れて祭囃子が響く様子を歌い、『虫の声』は虫が鳴く様子を丁寧に表現した。終わるとピアノが『だれもいない海』を演奏し、再び秋の雰囲気を演出した。『七つの子』はオブリガードを入れてきれいに歌い、『小さな秋見つけた』と『赤とんぼ』は各パートがバランス良く歌った。曲を聴きながら普段忘れている日本の風景を思い起こした。
   『祈り』、『きみに伝えたい』、『いのちの歌』はコロナ禍の時に聴くと日常で少々の不満はあっても、それに囚われることなく今できるはこといくつもあると再認識できる。同時にちょっとしたことにも感謝しようとの気持ちになれた。少年たちの歌声には派手さはないがバランスの良い合唱だった。観客の心に伝わるように歌おうとの思いも感じた。最初の唱歌に比べ少年たちにとって歌い慣れている曲だと思った。

 アカペラは5名による合唱だった。少年合唱のアカペラは声そのものを楽しめるのが良い。『里の秋』は、プログラムの最初に歌った同じ曲とは違い、声楽家が集まって歌っているのと似た雰囲気だった。一生懸命歌っているのはわかるが硬い感じがした。気持ちに余裕をもち情景を思い浮かべながら歌うとなお良かっただろう。『ロマンチストな豚』は変声後のメンバーで聴くことが多いので新鮮な感じだったが急いでいるようにも感じた。息をゆっくりと吐くようなイメージで歌うとよいのではと思った。ただ指揮者がいない状態で歌い切ったことに拍手を送りたい。
 『東日本大震災の被災者の皆様へ』は「様々な良いことを思い出しながら一歩ずつ前へ進んで行こうと」のメッセージを伝える曲だった。程よい音量での歌だったのでしっかり聴こうという気持ちになった。このような歌は今の時勢に聴くと「同感」と思う。

 『マイバラード』と『そのままの君で』はよく聴く合唱曲だが作曲者の名前を初めて知った。少年たちは歌い慣れているのだろう。安心して聴いていられた。『未来へのステップ』は初めて聴く曲だった。これはその前に歌った2曲と違いテンポは速めで元気に表現する曲だった。少年たちも抑えていた気持ちを発散するように声を出していた。仲間と一緒に悩まずに前向きに進んでいこうという旨の歌詞に勇気づけられた。『旅立ちの日に』は、卒業シーズンの歌だが秋に聴くのもよい。最後の「この広い大空に」を伸びやかに歌う声は希望に向かって飛び立っていく少年たちをイメージできた。

 アンコールは『ビリーブ』。お互いを信じて支えあいながら進んで行こうという歌詞を聴くと頷いてしまう。今回の演奏会は世の中の状況を配慮しての選曲だった。全体を通してアンサンブルが良く、歌だけで勝負する姿に少年らしいひたむきさがあった。
 
 演奏が終わりコーヒーで一服しながら、ぼくが
「どうだった?」
と聴くと
「心がだんだんと歌に集中していった」
「ギャングは武器を出して強引に奪っていくけれどそういう感じはしなかった」
「終わってしばらくしていいなあという感じになりました」
「・・・それって心を盗られたってこと?」
「知らないうちに怪盗が大切なものを盗っていくのと似ているんじゃない?」
「そうか、やりますね」
「怪盗じゃなくて快盗だ。やるね、桃太郎少年合唱団」
ぼくたちは頷きあった。 



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