TOKYO FM 少年合唱団
                         (ビクター少年合唱隊)

         
 ビクター少年合唱隊の個人的な思い出

  ビクター少年合唱隊について記憶を頼りに、1975年~1977年のことを書いてみた。データーに基づいたものではないので間違いがあるかもしれないがその点は悪しからず。先ずは1975年のことである。

 ビクター少年合唱隊を知ったのは1975年の6月ごろだったと思う。朝日新聞のレコード評に『天使のハーモニー2 てんとう虫のサンバ』が掲載されていたのを読んだのがきっかけだ。日本の少年合唱団は珍しく、たまたま入った店でレコードを見つけたので購入した。聴いてみるとポピュラーな曲を明るく歌っていて好感がもてた。2があるのなら1もあるはずと近所の店に注文して、こちら(天使のハーモニー おお牧場はみどり)も購入した。レコードジャケットの中に定期演奏会の様子が写真で紹介されているのを見て機会があれば聴いてみたいと思った。今ならネットで調べればわかるが当時はそのようなものはない。それがたまたま翌1976年の早春に定期演奏会があることを知った。当時、朝日新聞夕刊に小さな演奏会を紹介する欄があったのだ。目立つものではないので関心がなければ見過ごしてしまうような扱いだった。

 当日、東京千代田区の都市センターホールへ赴いた。当日券を手に入れプログラムを見ると4部構成で1部は児童合唱組曲『地球よ』、2部が児童合唱組曲『祭りと子ども』、3部が『流浪の民』など外国の名曲、4部が『天使のハーモニー』だった。

 開演になり本科のメンバー(具体的数字は記憶していないがかなり多かった)が整列した。団員の制服が鮮やかな緑色の上下だったので客席から「おー」とどよめきが起きた。指揮者(多分木村先生)が譜面台の前で頭を下げた状態でざわめきが静まるのを待っていたのが印象に残っている。1曲目は『かもめは海の鳥だから』。前奏に続いてボリュームのあるきれいな声が流れ(わめいてはいない)、客席から一瞬「おー」という声が漏れた。強弱合わせた歌声に自分自身も「すごい」と思った。今にして思えばこの日は絶好調だったのだろう。「おまえの勇気 わたしの勇気 海は試していたんだよ」という歌詞の通り、海でたくましく生きるカモメたちを表現した。この組曲は確か5曲から構成されていた。その2曲目か3曲目の捨て犬の様子を歌った曲(題名は忘れた)はソロの子と合唱が交互に入る出だしだった。「もしもきのうの場所で子犬が待ってたら」という歌詞で『カモメ』と違って素朴な歌い方だった。「ワン、ワン」と合いの手を入れる子も加わりほのぼのとした感じだったが最後は問題提起をするように短調で終わった。ここまで聴き表現力が幅広いと思った。組曲の最後『地球よ』は強い前奏で始まりそれに合わせた歌声が流れた。そのまま続くのではなく間にピアニッシモが入り、最後は強く歌って終わる。当時の児童合唱ではよく歌われた曲だが、普通の小学生の合唱クラブとはレベルが違った。他にレベルの違いを感じたのは『祭りと子ども』の中の『秋祭り』だった。曲の最後のほうで太鼓の音を表現する「どどんがどん、どどんがどん・・・」をピアニッシモから次第にフォルテにもっていきながら祭りの盛り上がりを出すのは難しい。少女が主流の合唱団ではこの盛り上がりは出せないだろう。合唱だけではなくソロも良かった。中でも『流浪の民』のソプラノとアルトのソロが良かった。マイク使用を差し引いても力のあるきれいな声(客席からどよめき)だった。普段、正しい練習をしていないとこうはならないだろう。このソロが光ったのはそれを支える合唱団の力が大きい。結束力の結果だ。休憩時間に一人のお父さんが幼い息子に「あれだけ歌ったら普通、声がでなくなるけれど、ちゃんと練習しているから大丈夫なんだよ」と教えていた。これには同感と思った。4部の『天使のハーモニー』はレコードになった曲を振付入りで歌うものだった。ここには元気いっぱいの予科も加わり躍動感のあるステージになった。3部までが「静」の合唱だったから余計それを感じた。これは前年まで行っていたミュージカルに代わるものとプログラムに解説があった。

  演奏会の最後は、今の演奏会と同じ『今日の日はさようなら』でこちらはしっとりとした歌い方だった。指導の先生方が一緒に歌うのも今と同じである。違うのはOBが目につかなかったことだ。この演奏会でビクター少年合唱隊が強烈に印象付けられた。ここまでが1975年度である。

 1976年は少年合唱隊のテレビ出演を3回見た。1回目、2回目は夏休み期間中だった。某民間テレビ局のモーニングショーで教科書から消える文部省唱歌を紹介する企画が2日間あった。1日目は『海(松原遠く~)』を小形君(司会者が名前を紹介した。)がソロで歌った。ボーイソプラノの美しさとともにあらためて良い曲だなと思ったことを覚えている。名曲は良い歌い手にうたわれてこそ名曲になると実感した。小形君はもう一曲歌ったが曲名は残念ながら覚えていない。淡々とした表情で歌う姿が印象に残った。後から考えると、この時間に歌うためには朝早くから準備をしたはずだ。リハーサルで指導を受け、伴奏も普段とは違うから精神的にきつかっただろう。本番ではそれを感じさせない歌唱をしなければならないから強い精神力が必要だろう。ソロに必要な要素は想像以上のものがありそうだ。2日目は合唱隊の選抜メンバーが『村のかじや』などを合唱した。ここで話題にすることではないがこれらの歌は時代にそぐわないから教科書から消えることになった。このことに関しては今でも反対意見を出す人が周囲にたくさんいる。自分も同様だ。それはともかく数ある児童合唱団の中から少年合唱隊が選ばれたのは実力の表れと考えた。

この年の天使のハーモニーシリーズのレコードのテーマは『ビューティフル サンデー』だった。この曲は日本で流行中だったのでタイミングが良かった。レコードの中で小形君は自分の知る範囲で『ビューティフル サンデー』の出だしをソロで歌っている。ここで3回目のテレビ出演のことを書こう。12月放送のNHKテレビ『歌はともだち』で少年合唱隊は『ビューティフル サンデー』を元気に歌った。この番組は毎週土曜日の6時台に40分枠で放送されていた公開番組だ。司会のペギー葉山さんがレギュラー、これに男声ボーカルカルテット、児童合唱団、弦楽団が軸となり、ゲストが加わる高品質な音楽番組だった。この番組では児童合唱団の出番は前の方が多かった。しかし、この日の出番はトリのペギー葉山さんの前だった。ペギー葉山さんが「お待ちかねビクター少年合唱隊のみなさんです」と紹介したのは実力の証明だろう。出だしのソロはもちろん小形君で夏と同様、淡々とした表情で歌っていた。もう少し表情豊かに歌えばと思うが本人の特徴なのだろう。

 3月の定期演奏会は前年と同じ都市センターホールだった。覚えていることは、前回予科にいた子たちが本科に入り、堂々と歌っていたこと、特に『大脱走マーチ』がよかった。ソロに関しては小形君以外にも良い声のメンバーがいて『砂山』や『おお、マリヤーナ』を自信満々に歌っていた。前年の演奏会の印象が強かったせいでこの年のことは細かく覚えていない。それでも一人ひとりが輝いていたことは覚えている。

今回は1977年度のテレビ出演と1976年の新聞記事を紹介する。

先ずはテレビ出演についてだ。5月か6月にNHKの『歌はともだち』(時間帯が前年度までの土曜日夕方の放送だったのが日曜日の朝1020分からの40分間になり、司会は田中星児さんに変わった)に出演し番組前半で聖歌687番(メロディは、たぬきの~)を歌った。これは清らかな歌声だったが、前年度に比べてスケールが小さくなったように感じた。しかし聖歌は『ビューティフルサンデー』とは違うのだから当然のことで元気に歌う曲ではない。記憶があやふやだが番組には、海外の少年合唱団も出演していてビクター少年合唱隊のメンバーの家庭にホームステイしたことが紹介されたような気がする。もう一つ、テレビ出演の話題で、この年(定かではない)、『8時だよ 全員集合』の聖歌隊コーナーに3名か4名が出演した。この日の曲目は『おお ブレネリ』。出だしを少年たちが歌い、その後を郷ひろみさんが歌った。いかりや長介さんが「どうですか?」と少年たちに質問すると一人の隊員がだめだしをして歌い方のレクチャーを始めた。話が長くなりそうになると、いかりやさんが間に入って「君はきびしいね」と笑顔で言ったことを覚えている。いかりやさんもコントには厳しい人だと聞いていたので相通じるものがあったのかもしれない。その場面を見て合唱隊の練習がどういう感じか察することができた。参考までに1976年の朝日新聞記事『夏休みがなかった少年たち』を紹介しよう。 

ビクター少年合唱隊は1961年に結成され、満15年になる。現在約100人の隊員がいる。全員が小学生だ。演奏会などに出演できる本科生は上級の40人。残りの予科性は1,2年生がほとんど。彼らの今年の夏休みのスケジュールを紹介する。

夏休みにはいって、725日、81日の日曜日は午前10時から午後4時まで特別訓練。毎週水、土曜日は夕方から定期訓練。84日から7日まで午前10時から午後4時まで特別訓練。9日から12日まで長野県戸隠で合宿訓練、14日から18日まで東京のスタジオでレコーディング。18曲、約6時間かかる。2021日は演奏旅行のための特別訓練を午前10時から午後4時まで。22日から26日まで演奏旅行で長野県飯山市とその周辺の小中学校を回る。

このスケジュールでは家族旅行にも林間、臨海学校へも行けない。塾通いも無理だ。練習の厳しさも相当なものだ。罰は、裸にされたり、ズボンをぬがされたり、部屋の外へ立たされたり、時にはおシリ手がとぶ。合唱隊のチームワークを乱したときが罰の対象となる。子どもたちは苦渋の夏休みを送っているのかと思うと意外な答えがかえってくる。「ほかの学校の友だちとも会えるし、練習にゆくのが楽しい。」

二期会の専属指揮者でこの合唱隊の指揮者・指導者の北村協一さんは「どこかに温かさを残しておけばどんなに厳しくしかっても子どもたちはついてくる。子どもにおもねった現在の学校教育法にないものがここにある。子どもたちにおもねったり、甘えさせたりすることに子どもらはささやかな抵抗を示しますよ」と、現在の子ども気質を語る。

しかし、母親の思惑は複雑だ。
「6年生になって進学のことが心配でやめさせようと何度も考えた」という母親は「男の子だけの集団で鍛えられるというのがとても大切なことに思える」と奨励派だ。

合唱練習日のあい間にピアノ、書道、絵画の塾に通わせている母親。中にはステージに照らされるわが子の姿に満足する〝ステージママ〞もいないわけではない。いずれにしろ、いろいろな思いで子どもを合唱隊に送っている母親たちだ。そうした母親たちの横の連絡機関である「親睦会」が、最近、機関紙「天使のハーモニー」を発刊、さまざまな悩みに対処しようという。

8月下旬、長野県飯山市やその周辺の村の小、中学校で開かれた移動演奏会では、山の子と都会の子のつかの間ではあるが温かい交流があった。「このまま山の学校を回って演奏旅行をしていたいな」。村の道を走るマイクロバスの中でほとんどの子どもたちがこうつぶやいていた。演奏旅行で知り合った土地の子どもと文通している隊員もいる。

夏休みが終わり、二学期になると急に体格が伸びる子が多い。変声期もやってくる。変声は同合唱隊の退団を意味する。変声期までの半年間が、最もきれいなボーイソプラノが発声できる期間だ。4年も5年も厳しく鍛えられるのも、この半年間のためにあるようだ。先輩たちが出たあと下級生たちが上がってきて、また厳しい訓練が続く。

ソプラノのすばらしい声に鍛えられた彼らも変声期を過ぎるともう何も残らない。プロの歌手になるひともまれだ。少年の日々を、長い夏休みの間をただひたすら歌うことにかけている。海にも家族旅行にも行けなかったが、子どもたちは鍛えられた夏の期間に確かな「何か」をつかんだに違いない。  

この記事を読んでみて、北村先生をはじめとする指導者のみなさんの情熱、指導力、愛情そして家族の支えがあったからこそ少年合唱隊が活動できたとあらためて感じた


 2月の『カルミナブラーナ』までは気分よく鑑賞することができた。ところが3月の定期演奏会で一転した。この日、会場の都市センターホール受付では『天使のハーモニー4 カントリーロード』を販売していた。『カントリーロード』と聞くと『ジブリ』と考える人が多いだろうがこの時代はアメリカのカントリー歌手ジョン・デンバーさんが歌ってヒットした曲だ。当然歌詞も違う。この曲は前の年の1976年によく聴いたように思う。日本でも何名かの歌手が日本語版をレコードに吹き込んでいるはずだ。受付をしていた保護者の方々に「今年は出ないのかと思っていました」と話したら「そんなことありません。どうですか?」と勧められた。その時は現金の持ち合わせがなかったこととLPレコードは荷物になるので購入しなかった。ここで買わなくても行きつけの店で購入すればスタンプがもらえるとも考えた。現在ならポイントがもらえるが、この時代はレコード屋がLP1枚につきスタンプを1個押してくれた。20個貯めるとLP1枚プレゼントの特典があったように思う。自分もこの特典を利用した記憶がある。後日購入した『カントリーロード』を聴くとソプラノソロで始まり、それにコーラスが続いたと思う。ジョン・デンバーさんの曲調とは違い、合唱用に編曲されていた。また、このレコードの中には小形君がソロで歌う『二人の天使』が含まれていた。北村先生によると難曲ということだが小形君の歌唱はそれを感じさせない素晴らしいものだった。この曲はソプラノ歌手の島田祐子さんのテーマ曲でコーヒーか何かのCMにも使われていたように思う。

 話を定期演奏会に戻そう。この演奏会はひどいものだった。だが少年たちには一切責任がないことを断っておく。

演奏中、脚立を持って歩き回る男(合唱隊に依頼されたカメラマン?)がなんの遠慮もなく手当たり次第にストロボ撮影を行ったおかげで演奏会の雰囲気がくずれストレスが溜まった。歌を聴ける雰囲気ではなかった。きちんとした演奏会ではあってはならぬことだ。写真が必要ならゲネプロ中に高感度フィルム(この時代はあったはず)を使ってストロボなしで行うべきで常識では考えられないことだった。しかも開演前に「ビデオ撮影を行うので、ストロボ撮影はご遠慮ください」のアナウンスがあったのもかかわらずだ。厳しい練習を行ってきた合唱隊の晴れの舞台を台無しにするもので少年たちがかわいそうになった。演奏会は関係者や保護者が支援するはずだが「何やってるんだ」と言いたかった。帰りに受付で演奏会ビデオの販売を受け付けていたが「誰が買うか」の心境で通り過ぎた。もっともこの当時は再生用デッキを持っていなかったから購入しても見ることはできなかったが。でも、今にして思えば惜しいような気がする。資料にはなったはずで「若かったな」と思う。ついでに言うと、この時代、ビデオカメラは家庭に普及していなかった。この演奏会がきっかけで「二度と演奏会には来ない」と決意した。

  ということで、定期演奏会には行かなかったが1978年度の『天使のハーモニー5 野ばら(シューベルト)』は購入した。定期演奏会には行かなくても合唱隊が出演するオペラは観に行った。ビクター少年合唱隊時代のものだと1980年の小澤征爾指揮の二期会『カルメン(東京文化会館 規律正しい町の子供たち)、1982年の東京室内歌劇場『アマールと夜の訪問者』(児童会館ホール、3日間の公演でアマールは少年合唱隊メンバーがトリプルキャストで他の役は大人、自分が観たのは飄々とした感じのアマール)、1983年の藤原歌劇団『トスカ』(東京文化会館)の牧童と聖歌隊だ。牧童は大人のソプラノ歌手にはない純粋な声だった。余計なことだがこのオペラは、主役を東 敦子さんが歌うことで話題になった。『題名のない音楽界』でも取り上げられ、東 敦子さん,五十嵐喜芳さん、栗林義信さんが出演してそれぞれのアリアを歌い、解説をした。本番の時、最後にトスカが城壁から飛び降りた後、普通なら後奏が流れるうちに幕が閉まるが、この時は、人形を使ってトスカが落ちていく様子を表現する演出(一瞬何を意味するのかがわからず、しばらくして意図が分かった)だった。これが不評でそちらが話題になった。これがなければボーイソプラノも話題になったかもしれない。

時代は流れ、1990年代後半のクリスマスシーズン、品川駅近くのウイングというビルの広場でTOKYO FM少年合唱団がクリスマスコンサートをやることを新聞に入っていたチラシで知った。初めて聞く名前だったのでどんな合唱団だろうと行ってみた。場所は屋外で寒い風が吹き、典礼服を着た合唱中の一部の子が大人に抱かれて次々と退場していくのを見た。寒いための体調不良かな? かわいそうと思っていたら北村協一先生の姿が見えた。これで元ビクター少年合唱隊と知った。「こんな場所で歌うようになったのか」と気の毒に思うと同時に応援しようという気持ちが芽生えた。この数年後、20023月の定期演奏会に出かけた。この演奏会ではジブリの『君を乗せて』と合唱組曲『ぼくだけの歌』が印象に残ったと同時に70年代とは何かが違う(うまく説明できない)と思った。

 ここまで書いてみて、70年代の演奏会を、タイムスリップして聴いてみたらどう感じるだろうと興味をもった。


  
期待する分、注文もあります
  
第20回TOKYO FM 少年合唱団定期演奏会


 TOKYO FM 少年合唱団の定期演奏会は珍しく女性同伴で出かけた。この女性に2年前の定期演奏会のビデオを見せたら興味をもち「生で聴いてみたい」ということでチケットを送り会場で待ち合わせとした。今回はこの女性をKさんと名付けてレポートを進めていく。
 当日の会場である第一生命ホールはほぼ満席だった。先に着いた自分が前方右側の席を確保しKさんを迎えた。ホールが立派なことと満席の客席を見て「すごいですね。」と感心していた。いつものようにプログラムから紹介しよう。

第1ステージ ぼくらのレパートリー
1. おお牧場はみどり
2. 汐の匂いのする町で
3. つるつるとざらざら
4. さかさま
5. 翼をください
6. ビリーブ
7. 世界に一つだけの花
    指揮 太刀川悦代 ピアノ 安東陽子
第2ステージ 佐藤 宏作曲『少年合唱のためのミサ曲』
1. Kyrie
2. In memoria ?terna 
3. Lacrimosa
4. Hostias
5. Dies illa
6. Libera me
7. In Paradisum
       指揮 佐藤 宏  ピアノ 安東陽子
第3ステージ 『おぺら・オペラ・OPERA』
以上から構成されている。

 「おお牧場はみどり」が今年も最初の曲になった。ウォームアップに適した曲なのだろう。この日の合唱は期待を抱かせるものだった。その通り第1ステージは力強さと繊細さを織り交ぜたすばらしい演奏になった。なかでもよかったのは「つるつるとざらざら」で谷川俊太郎による楽しい詩を明るく表現していた。どの曲も太刀川先生の指揮の下、伸び伸びと歌っていた。メンバーが折り目正しく曲の紹介をするのも清々しい。

 第2ステージは悪くはないが印象が少々薄い。一昨年の北村協一先生による「キャロルの祭典」があまりに強烈だからだ。Kさんは佐藤先生を「厳しそうなかたですね」と評した。厳しさと同時に暖かさが必要なのが少年合唱団の指揮者だが北村先生を超えられるだろうか。

 第3ステージは、合唱団が出演したオペラの合唱で先ずは「トスカ」から教会内での合唱だ。堂守り役の新保堯司さんと一緒に演技をつけた歌は本番さながらで一昨年来日した二つのオペラ団体に出演した実績を見せてくれた。子どもたちは普段通りに動き回れるこのオペラが好きだそうだ。終幕の「羊飼い」のソロが聴けるとさらによかったのだが残念。次の「アマールと夜の訪問者」は王様3人の歌を全員で歌う。太刀川先生の母親と共にアマールを歌った子がソプラノのいい声を聴かせてくれた。王様の衣装は保護者が作ってくれたそうで後輩へ引き継がれていくのだろう。このあたりは伝統ある合唱団ならではだ。続いては「魔笛」。本来で3人で重唱するのだが今日は全員で合唱だ。本番でも3人の童子にこだわらず大勢で歌う演出もおもしろいのではと思った。最後は「トゥーランドット」。数年前、エジンバラでも公演したこのオペラは、二つの演出を経験したとのことで団員たちは詳しいそうだ。合唱しながら独自の歩きをするのが大変だったとかで説明がなければわからないことだ。自分も日本公演を渋谷の文化村で観ており、井上道義指揮の引き締まった演奏は今でも印象に残っている。6年生3人が幕開けの男性3重唱を歌った。仮面をつけて歌うのは本番と同じで気合いが入っていた。一度歌ってみたい曲だったそうで少年によって演奏されると当然雰囲気が違いこれはこれで興味深い。歌ってみたい曲があるというのはいいことだ。この歌が始まると少年合唱団はスタンバイするそうでこういう舞台裏の話しも楽しい。群衆の合唱で締めくくられたがここまでやるのなら有名な「泣くな、リュー」や「誰も寝てはならぬ」「氷のような姫君の心を」を抜粋でよいから紹介し、メンバーがこのオペラに詳しいことをもっとアピールできるとよかった。

 最後は6年生から先生方への花束贈呈だがこれは舞台裏でやればよい。それより6年生に一言ずつ話してもらい、更に6年生だけで思い出の曲をなにか1曲合唱して観客にも「卒団おめでとう」と祝える雰囲気を出して欲しい。全員で歌う最後の曲も「一千億の夢」のような力のこもった曲が聴きたかった。後半はなんだかんだ書いたが日本の少年合唱団のトップクラスにあるTFBCにはいろいろ注文したくなる。Kさんは「今日はとてもよかったです」と感動した様子。「観客はほとんど関係者のようだけど道楽さんみたいな固定のお客さんを増やしたいですね」と一言。同感である。話の続きはゆったりとくつろげる店へ案内し互いの感想を話した。TFBCファンになってもらえそうである。 


 今だからこそできる演奏
   意欲を感じたTFBCのウィンターコンサート 2004年12月27日

  暮れも押し詰まった12月27日(月)新居への引っ越しを完了し、荷物整理を途中で切り上げてTOKYO FM HALLに5時35分に到着。約25人が列を作っていた。休日ならもっと列ができてるはずだが平日はこんなものだろう。6時に開場になりいつもならアルト側の席を取るところをきょうは気分を変えソプラノ側の通路席を確保。開演時間が近づくと席はほぼ埋まりこの合唱団の人気は根強いことを物語っている。

プログラム
 第1部 クリスマスキャロル  Part1
   もろびとこぞりて
   おうまれだイエスさまが
   いざうたえいざいわえ
   マリヤは歩みぬ
   ノエルノエル
   もみの木
     クリスマスキャロル  Part2
   赤鼻のトナカイ
   ママがサンタにキッスした
   サンタが町にやってくる
   ジングルベル
   きよしこの夜
第2部   ヴァイオリン独奏
            ヴァイオリン  鍵富弦太郎
   カブリスNO.24  (ハガニーニ作曲)
   無伴奏ソナタ第6番 (イザイ作曲)
   オペラ『魔笛』より NO.21 Finale(抜粋)(モーツァルト作曲) 
第3部   宗教曲 他
   アメジング・グレイス
   モーツァルトの子守歌(フリース作曲)
   マリアの子守歌(M.レーガー作曲)
   エサイの根より(クリスマス古謡)
   ピエイエズ(A.Lウェーバー作曲)
   We Wishu You A Merry Chirisumas(イギリス民謡)

 時間になり会場が暗くなる。待つことしばし。後方から『キャロルの祭典』の歌声とともに赤い聖歌隊の衣装に白いロゼッタをつけた団員が二手に分かれて入場してきた。自分の横をソプラノのグループが歩いていく。よく聴いていると一人一人の声が違うのがよくわかる。合唱はこれらの声が一つにまとまり個性ある絵のようになるのだから不思議だ。
 第1部はクリスマスの定番でいつもの通りきれいにまとまった合唱を聴けた。パート1はドイツ語を入れての合唱で今回の目玉の一つだ。予科生もいっしょでいつものクリスマスコンサートに比べ意欲を感じた。パート2も定番だがこちらは聴く方も肩の力を抜いて楽しめた。この合唱団は一人一人の声はどちらかというと細い子が多いのだが合唱になると厚みのあるハーモニーになるのが良いところだ。
 休憩の前に8名の6年生が観客全員というわけにはいかないがお菓子のプレゼントを配る。運のいいことに小さな手作りの袋にキャンデーが入ったプレゼントをもらえた。休憩でロビーに行き保護者の手作りの菓子などを販売しているコーナーへ行くと7月に来日したレーゲンブルグ大聖堂合唱団との合同演奏を録音したというCDの予約販売を受け付けていたので申し込んだ。別の場所ではユニホームの古いトレーナーを利用して製作したという団員のそっくりさん人形を見つけ一つ購入した。たくさん並んだ人形の顔は全部違うのが特徴で「よく見て選んでください」とアドバイスがある。その言葉で一つ一つ見たが最初に「これ」と思ったものを選んだ。この人形は今のところ自宅の玄関に置いてある。「行ってらっしゃい」「おかえんなさい」とでも言ってくれると面白いし『一千億の夢』でも歌ってくれるとなおいいのだが残念ながら無言。それでも明るい顔をした人形は元気づけてくれるような気がする。
 2部は18歳のヴァイオリニスト鍵富弦太郎さんの演奏だ。5歳でお父さんと親しくしていた先生についてヴァイオリンを始め現在高校3年生。1年前日本音楽コンクールで1位になった新進気鋭のヴァイオリニストである。合唱団の指導者である米谷先生の進行で話が始まり最初の『カブリスNO.24』について「作曲者のハガニーニはその時代に悪魔と呼ばれた鬼才で、この曲は後世に残る名曲です。この後のブラームスの世代が編曲して交響曲を作りました」と解説。2曲目について「どういう曲ですか」と聞かれしばらく沈黙し「昨日は言えたんですけど」(客席から笑い声)としばらく間があき米谷先生からヒントをもらい「そうだ。作曲者のイザイはある日家族が夕食を取ろうとした時、自分はいらないからと部屋に籠もり翌朝に6曲を一気に完成させました。イザイ自身もクリスマスに演奏したそうなので自分もやってみようと思いました」演奏が始まると勢いのあるきれいな音色で驚いた。ヴァイオリンについてはまったくの門外漢で演奏に関してはどうこういえないが若いエネルギーを感じ、その音色にひきこまれた。これは18歳の今だからできる演奏だろう。2部の最後は合唱団の選抜メンバーと『魔笛』の一場面を演奏する。オペラファンの方はご存じだろうが自殺しようとする王女パミーナを少年たちが止める場面だ。オペラでは少年役は3名だが今回は7名がドイツ語で合唱し、パミーナのパートをヴァイオリンが行った。抜擢された7名だけに歌唱力は抜群で、団員たちの合唱とヴァイオリンのアンサンブルは今この時しかできない者同士の美しい調べでこの日最高のプログラムだった。この演奏に日々成長していく少年だけがもっているエネルギーを感じた。
 第3部は本科生の合唱で今回は外国語、特にドイツ語を多く勉強したそうだ。最初の『アメイジング・グレイス』は心に染み込んでくるような合唱、『子守歌』は心地よくさせてもらえる合唱、アカペラの『エサイの根』は信者でなくても敬虔な気持ちにしなる合唱、『ピエイエズ』はソロ、重唱、合唱をバランスよく取り入れて少年合唱ならではの美しさを表現するというようにこの合唱団ならではのハーモニーが楽しめた。
 最後の『We Wishu You A Merry Chirisumas』は、一番を合唱団が歌い終わると抽選に当たった人たちが立ち上がってクラッカーを鳴らし会場を盛り上げ観客も一緒に歌う趣向だ。これは成功で明るいリズムに観客も楽しく声を出しており年末の1日を気持ちよく過ごすことができた。また今回は新しい試みがあったこと、会場の保護者の方々が昨年より前向きに見えるなど合唱団の意欲を肌で感じることができた。ただ今日の演奏会を聴き困ったことが一つできた。2005年3月13日はボーイズ・エコー宝塚の定期演奏会へ行くつもりでいたのが今日の演奏で同じ日に定期演奏会を行うTOKYO FM 少年合唱団も聴きたくなったからだ。しばらくの間、迷うことになるだろう。


 そっくりさん人形  後日「薫」と命名

 
レベルの高い合唱で幸せなクリスマス気分
TOKYO FM 少年合唱団のクリスマスコンサート
                        2005年12月17日(土)


  「早く行こうよ」ぼくは道楽さんを急かした。「いいよ。そんなに急がなくても」「いいから行こうよ」「わかった。そうしよう」というわけでTOKYO FM ホールには一番乗りとなった。「やっぱり早過ぎた」と道楽さんはぶつぶつ言いながら日本経済新聞を読み始めた。きょうは、TOKYO FM 少年合唱団のクリスマスコンサートだ。そっくりさん人形のぼくが「早く行きたい」と思うのも無理はないでしょう。立ちっぱなしで1時間ぐらい待つのは大変だったけれど道楽さんは黙って新聞を読んでいた。「最近、デイリースポーツ読んでないね」「野球シーズンじゃないからね。経済のことも興味あるからオフシーズンは日経なんだ」とわかったようなわからないような話をした。その時、ブリテン作曲『キャロルの祭典』の「入場」の部分が流れてきた。リハーサルのため歌っているのだろう。きれいな歌声はさすがだ。「ほら、早く来てよかったろう」ぼくが勢い込んで話すと道楽さんは笑いながらぼくのおでこを人差し指でつついた。やがて時間になり通路側の座席を確保。この先は、いつものようにバトンタッチしよう。

 当日のプログラム
第1部 クリスマスキャロル
 もろびとぞこりて いざうたえいざいわえ 神の御子は今宵しも
 おうまれだイエス様が お部屋をかざろうよ マリヤは歩みぬ もみの木
第2部 ピアノデュオ
第3部 クリスマスキャロル
 Still,Still,Still マリアの子守歌 ノエルノエル
 エサイの根より ピエイエズ サンタが町にやってくる
 ピエイエズ(A.L.ウェーバー) サンタが町にやってくる 赤鼻のトナカイ 
 ママがサンタにキッスした ジングルベル きよしこの夜
 We Wish You A Merry Christmas

  会場が暗くなり待つことしばし。客席後方から先程聞いた『キャロルの祭典』を歌いながら、メンバーがソプラノ、アルトの二手に分かれて客席通路を歩いてきた。自分の横を通っていくのはアルトで一人一人の声がよく聞こえる。通路側の席に座る者の特権だ。約50名のメンバーが整列し終わると進行役の米屋先生が「今年は、学年の若いソリストも多くいます。上級生に比べて未熟ですが歌いたいという気持ちを大切にしました」と挨拶した。指揮の太刀川先生と伴奏の瀬田先生が登場して演奏開始。曲が始まる前に「もろびとこぞりて」というようにメンバーの一人が曲目をスピーチする。どの曲もクリスマスコンサートの定番で目新しさはないが、この合唱団ならではのきれいな歌声だ。ソロを歌うメンバーもしっかりした声を聴かせてくれるし不満はない。強いて言えばどの曲も同じようなトーンになっていることが気になった。賛美歌の『神の御子は今宵しも』はもう少しゆっくりとしたテンポの方が合いそうだ。

  二部のピアノ演奏が終わると6年生11名がプレゼントのお菓子を客席に配って歩く。例年は全員に行き渡らないが、今年は数を多くして全員に配られた。これはうれしい配慮で評価したい。休憩でロビーに出ると、合唱団の20周年の写真集を売っていたので購入。これはカラー写真を多用した豪華なもので価値がある。他にお菓子やクリスマスの飾りに混ざり小さなマスコット人形も並んでいた。それを見て、わが家に薫が来てから1年が過ぎたのだと思った。あの時、購入するつもりはなかったのだが薫と目が合い「連れて行って」と言われたような気がしたことを思い出した。そんなことを考えながら人形を眺めていると「いかがですか?」と店番の保護者の方に声をかけられたのでカバンの中の薫を取り出すと、サンタクロースの帽子をプレゼントしてくださった。

 第3部は本科生、約40名の合唱で始まった。1部と違い、ゆったりとした声、アカペラならではの声の響きなどそれぞれの曲のイメージを感じる合唱が聴けた。こういう所は本科生ならではだ。特に『ピエイエズ』がよく、透明感のある3名のソロと重唱、更に合唱が見事に調和しており少年合唱ならではの美しさがあった。これなら海外の有名な少年合唱団に勝るとも劣らないだろう。終わると再び予科が加わり元気のよい合唱となる。ここでは『ママがサンタにキッスした』の素直に伸びるソロ、『きよしこの夜』の清らかなオブリガードがよかった。最後の 『We Wish You A Merry Christmas』はクラッカーを鳴らしたり、会場全体で歌うなどして盛り上がり、クリスマスが近づいていることを実感した。英語の発音がきれいなので流れるような合唱になったのもよかった。今年もレベルの高い合唱にとても満足した。

  終演後、なんとなくロビーにたたずんでいると、メンバーが次々と出てきて学年別に整列した。太刀川先生がメンバーと保護者に向かって「演奏会で汗をかいているので処理をお願いします。テンションが上がっていて眠れないかもしれないけれどしっかり休んで明日に備えてください。きょう、十分でない所もあったので明日はそうならないようにしましょう」とまとめをした。整然として話を聞いているメンバーから多くのことを感じた。
「どうだい。TFBCはすごいだろ」薫が誇らしげに話しかけてきた。 

少年特有のきれいなハーモニーを堪能
TOKYO FM少年合唱団 第23回定期演奏会

                             2007年3月18日

 この日のプログラムを見て「柱になる曲はなんだろう?」と思った。終演後も考えは同じだった。しかし、この文章を書き終え、見えない柱の存在に気がついた。現代の日本家屋は昔と違い柱が目立たない。それでもしっかりした構造で快適な空間を提供している。今年の演奏会はそれに似た感覚である。目立たない柱を具体的に説明できないがそう感じている。「TFBCの歌は、後からゆっくりと効いてくるんだぞ。すごいだろう」薫が得意気に言った。では前置きはこれぐらいにして本文に入ろう。
鏡の前で、ヘアブラシを使っていると薫が「道楽さん、ぼくを忘れないでくれ」と声をかけてきた。「OK」と答え、自分の準備を終えてから薫の所へ行き、人形用のブラシをあてかけると「鏡の前でやってよ」と注文が出た。「洒落っ気が出てきたね」と鏡の前へ連れて行きブラシをかけた。鏡に映った薫の顔を見て「いつもよりうれしそうだね」と言うと「当たり前だ。初めてTOKYO FM少年合唱団の定演に行くんだぞ。2年間辛抱したんだぞ」と答えた。2年前はボーイズ・エコー宝塚と、1年前は栃木少年合唱団の定演と重なったため、TFBCの定演には2年間ご無沙汰なのだ。「ほら、ここが立ってるぞ。丁寧にやってくれ」薫の注文に応えてブラシを当て外出用のマフラーをつけてあげると準備は完了だ。「いざ、第一生命ホールへ」というわけで電車を乗り継いだ。
 会場へ着いたのは開場時間の40分前。この時点で並んでいたのは60名ぐらいで意外と少なかった。それでも開演する頃には客席はほぼ埋まった。ではこの日のプログラムを紹介しよう。
第1ステージ「ぼくらのレパートリー」
 おお牧場はみどり  転校生は宇宙人  お兄ちゃんずるい
 シンコペーテッド・クロック   私と小鳥と鈴と
 ビリーブ   トゥモロー  少年時代  トライアングル
第2ステージ「僕の詩が歌声に」
 思うこと      大切なトモダチ
 ランドセル     きょうりゅう
第3ステージ「おぺら・オペラ・OPERA パート2」
 ラ・ボエーム        魔笛
 トスカ           トゥーランドット

  予科を含めた約55名の団員が舞台に整列すると代表の子が歓迎の言葉を述べ「きょうも元気で歌います」と挨拶した。団員が着ている緑色のトレーナーを見た薫が「ぼくが着ているのと、どこが変わったんだろう?」と首をかしげた。そう言われて、よく見ると材質とデザインに違いがあることがわかった。何も知らなければ変わったことに気づかないだろう。「さりげない変化はお洒落な男性がやることだよ」と言うと薫が納得顔になった。
  「では第1ステージはぼくらのテーマ曲『おお牧場はみどり』から始めます。どうぞお聴きください」というスピーチが終わると指揮の太刀川先生が登場し合唱が始まった。ご案内の通り、TFBCの定演ではいつもこの曲がトップだ。観客がこの日の演奏会に期待をもてるかどうかを判断する大切な1曲だ。幸いにしてこの日は耳に、スーっという感じで入ってきた。「聴き慣れた曲もこの合唱団が歌うとひと味違う」そんな感想だ。2曲目はNHKの「みんなの歌」で歌われた曲で先輩達がおもしろがって楽しく歌っていたことが紹介された。「隣の人をよく見てください。もしかしたら宇宙人かもしれませんよ」と話すのを聞いた薫が「地球人だって、宇宙人に含まれるじゃないか」と言うので「確かにそうだね。でもここでは難しい話はやめよう」と答えておく。さて自分はこの曲を聴くのは初めてだ。ややアップテンポの前奏で始まるSF番組の主題歌のような曲で緊張感のある合唱だった。放映された当時、どんな背景を映したのか知りたくなった。3曲目は自分の記憶が正しければ「開け、ポンキッキ」の挿入歌だ。こちらは手拍子を入れたゆったり目の歌だ。弟の立場から兄を見た詩は実感がこもっていて微笑ましい。歌い終え「お兄ちゃんって本当にずるいんですよね」という話しに客席からクスクス笑いが漏れた。この日のメンバーは兄弟の下の子が多いのかもしれない。4曲目は『こわれた鳩時計』と言った方がわかるだろう。指導者によるパーカッションやトライアングルを入れた合唱はリズミカルで聴いていて楽しい。時計の時を刻むような感じと針がすーっとまわっていくような感じが絶妙に混じり合い少年合唱ならではの美しさだった。5曲目は金子みすずの作詞で「みんなちがって みんないい」という内容の詩だ。ゆったりとした明るい曲がこの詩を引き立たせていた。「今、聴いてもすごく新鮮だね。生きていてこの詩を発表したら時の人だね」「でもこの詩が書けるかどうかはわからない。人はその時代でこそ感じることがあるから」「そうかな? でもホッとする歌だね。あんたに『君にしかできないこともある』と言われたことを思い出した」「そんなこと言ったけ?」 閑話休題。6曲目は歌い継がれてきた曲だそうでデュエットで始まる。1番と2番でデュエットを歌う子は変わるがどちらも鍛えられた美しさだ。もちろん合唱の部分も美しく心に染み込んでくる歌い方だ。この歌い方はTFBCだからこそできる。このあたりに、歌い継がれている意味はしっかり現れている。2月に行われた北村協一先生の追悼演奏会でこの歌を歌ったとき、大人の合唱団から褒められたというエピソードも紹介された。観客も感動したようで歌い終わった後の拍手は一番大きかった。7曲目と8曲目は前半が低めのトーン、後者が高めのトーンでその違いを楽しませてくれた。また後者は巧みなハーモニーで曲の美しさを際だたせた。最後の9曲目はスマップが歌った曲だそうだ。私事だがテレビをほとんど見ないのでこの手の曲には疎い。ついでに言うとスマップが歌っているのを見た記憶がない。原曲を知らないので「こういう歌があるんだ」程度の感想しか言えない。合唱曲にすると難しそうでその割に演奏効果がないように感じた。この歌だけ歌詞が十分に聴き取れず、自分の中では浮いてしまった。
 次のプログラムを紹介する前に前述した金子みすずの詩に興味をもちサイトで調べてみたので紹介しよう。自分はこの詩からたくさんのことを感じ取った。

 私が両手をひろげても お空はちっとも飛べないが
 飛べる小鳥は私のように 地面(じべた)を速く走れない

 私がからだをゆすっても きれいな音は出ないけど
 あの鳴る鈴は私のやうに たくさんな唄は知らないよ

 鈴と小鳥とそれから私 みんなちがってみんないい 

 第2ステージは「僕の詩が歌声に」と題したもので、団員が作った詩に佐藤 宏先生が曲をつけ、この日が初演となるそうだ。昨年の定期演奏会の後、「感動したこと、心に残ったことを詩に書いてきなさい」という宿題が出たそうだ。時間はかかったが全員が提出できたという旨を団員が紹介した。このうち4つの詩に曲がついた。最初に詩を作った本人が朗読して合唱となる。詩に関してはメモを元にしているので正確さを欠くがおおよその意味が伝わればということで紹介する。なお、このステージは本科だけの合唱だったことを付け加えておく。
 『思うこと』    6年生K君
 ぼくの未来はどんなだろう  病気で苦しむ人を助けるために医者になるかな
 世の中に感動を与える小説家 子どもたちに夢を与える漫画家
 世界中で引っ張り凧のオペラ歌手 それとも普通のサラリーマン
 でも もっと 気になる未来
 それは 明日の給食が何かということ

 これは明るく軽いテンポの出だしだがすぐに「どんな未来があるんだろう?」とあれこれ考える様子を重めの感じで表現する。それが「明日の給食」で天真爛漫な調子に変わり、肩の力が一気に抜ける。そして最後はロングトーンで終わる。その変化がおもしろい。
 
『大切なトモダチ』 6年生M君
 トモダチって不思議だな トモダチと会うと少しうれしくなる 
 トモダチが喜んでいると ぼくも喜びたくなる
 トモダチと別れるとさびしい トモダチが悲しんでいるとぼくも悲しい
 トモダチって不思議だな 
トモダチって素敵だな 辛いときでもがんばれる 
苦しいことも乗り越えられる 怖いことにも勇気を出せる
 一緒にいればさびしくない トモダチって素敵だな

 これはゆっくり目のテンポで詩をじっくり聴かせる歌だ。ハーモニーが良く、言葉の一つ一つを噛みしめることができた。     

 『ランドセル』  4年生O君
 ぼくのランドセル 
1年生 ピカピカ  重たい新品だ
 2年生 ちょっとぼろぼろ ちょっと重たい
 3年生 けっこうぼろぼろ けっこう軽い
 4年生 かなりぼろぼろ  かなり傷だらけ
 5年生 すごくぼろぼろ  すごく軽い
 6年生まで 一緒にいられるかな 
 ちょっと心配 思い出がたくさん詰まっている
 ぼくのランドセル 大好きなランドセル
 いつも 一緒だよ

 この曲は明るい感じで始まり、ランドセルが次第に旧くなっていく様子を短調で表現していた。そうしておいて最後に自分のランドセルに語りかけるように終わる。ここに少年のやさしさがにじみ出ていてほのぼのとした味わいだった。

 『きょうりゅう』  4年生K君
ステゴザウルス ジュラ紀に生きていた
草を食べていた 長くて鋭い棘があるシッポは敵を射す武器
タイムマシンで会いに行けば かけっこ一緒にできるかも
プテラノドン 白亜紀に生きていた
木の実と魚を食べていた。長くて丈夫な羽があり 鋭い爪がある
タイムマシンで会いに行けば 背中に乗せてくれるかも
ティラノザウルス 白亜紀に生きていた 肉を食べていた
特に大きな口は 鋭い歯がぎっしり並ぶよ
タイムマシンで会いに行けば 食べられないよう 気をつけよう

 この曲は低く重い和音で恐竜の出現を表すところから始まる。そしてやや緊張感のある歌の部分へと移っていく。特にティラノザウルスの部分で緊張感が高まり、歌が終わると再び重い和音で恐竜が立ち去って行く様子を表現する。ピアノが鳴りやむと「ふー」という安堵のため息で終わる。これがタイムスリップしてその場に居合わせたような雰囲気を出していた。
 あらためて読み直し、「子どもだからこそ書ける詩だな」と思った。他の団員たちはどんな詩を書いたのだろうかと興味が湧いた。活動の一環として紹介するのは価値があることなので事務局は考えて欲しい。

 最後の第3ステージについて書こう。オペラ出演の時は出られる人数が決まっているため、全員が出演できない。そこでこの日は全員でオペラの経験ができるようにと米屋先生が編曲してくれたことが紹介された。最初は『ラ ボエーム』の広場の場面だ。団員達は制服の半ズボンに厚手のシャツや毛糸の帽子、マフラーなどを着用してパリの冬の様子を表現していた。ステージでの会話も一部紹介しよう。
「ねえ、ねえ、去年の『ボエーム』に出演したんだよね。どうだった?」「すごく楽しかったよ。ぼくたちの出番は町のお祭りの場面だからステージはすごくごったがえしていた」「役柄があってぼくは上流階級の子どもだったから衣装がすごく凝っていたよ」「焼き栗や風船を買ったりするんだよ」「へー おもしろそう」「ぼくは ただの近所の元気な子どもだった。おもちゃをねだるんだけどぼくのおかあさんは買ってくれないんだ」「へー」「でも一人だけが駄々をこねて泣くから買って貰えるんだよ」「へー ずるい」「今回は全員、ただの近所の元気な子どもだよね」というようにオペラを知らない人にもイメージがつくように紹介するのは親切だ。実際のオペラだと出演者が多いので少年たちはそれほど目立たないから「こういう感じなんだ」というのがよくわかる。次回、このオペラを観る時に一層楽しめそうだ。
 「次はモーツアルトの『魔笛』です」と典礼服に羽をつけた衣装を身につけた予科の団員たちが話を始めた。「本当は3人しか出演できません」「でも今回はぼくたち予科生もがんばってドイツ語で歌います」「初めはパミーナさんのアリアからです」「どうぞ、お聴きください」 ここでソプラノ歌手が『愛の喜びはかえらず』を披露した。オペラだとこのアリアは気合いを入れて聴くのだがこの日の主役は少年合唱団なので気楽に聴いた。「ねえ、パミーナさんはどうしてあんなに悲しんでいるんだろう」「恋人のタミーノさんが口をきいてくれなかったからさ」「どんなことがあっても口をきいちゃいけないとザラストロさんが試練を与えたんだよ」「ぼくたちはタミーノさんとパパゲーノになにがあってもがまんするようにとこの歌を歌ったんだ」 ここで全員が登場して3人の少年の歌を披露した。先ず日本語で全曲歌い、続いてドイツ語で繰り返した。ドイツ語の方がきれいな合唱になったのは発見だった。「だからタミーノさんはパミーナさんが来ても試練に耐えたんだね」「だからパミーナさんは自分のことを、もう愛していないと誤解したんだよ」「でも、あの悲しみようじゃあ」「そうだ。ぼくたちが誤解を解いてあげる恋のキューピットにならなくちゃ」「そうだ。歌おうよ」「そうしよう」ということで自殺を止める場面となる。ここでは最初からドイツ語だった。合唱団として歌うのを聴き、3人の少年にこだわらず大勢で歌う演出もおもしろいと思った。少年のパワーが増すし、視覚的にも楽しめそうだ。コンサートでTFBCがこの曲を歌うといつもそう感じる。
「次は、ぼくたちの一番大好きな『トスカ』です。なぜかと言うと」「シー」「これも見てのお楽しみです」「ぼくたちは今夜のミサでソロを歌うトスカさんの大ファンです。今から聖歌隊の練習が始まるのですが」 (舞台袖から)「スタンバイ」 「あっ 急がなくちゃ」「スタンバイ スタンバイ スタンバイ」と団員たちが整列して急ぎ足で退場するとピアノが長い前奏を鳴らす。堂守り役のバス歌手が最初の部分を歌うと団員たちが登場し歌いながら元気に動きまわり、一人が堂守りのハンカチを取り上げおしおきを受ける。やはりこの場面は、少女の合唱団ではなく少年合唱団が演じた方が力を感じる。終わると警視総監の衣装を着た人物が現れ団員たちが身をかくすと「何を騒いでいるの?」と台詞が出る。「あれ? 警視総監のスカルピアかと思ったら太刀川先生だ「えー?」「騒いでないで次のオペラを準備しなさい。このイスも片付けてね」「はあい」「彼らがこのオペラが好きなのをおわかりでしょう。いつものように動き回れますから。中には歌うのを忘れてしまう団員もいます」と太刀川先生が裏話をしてくれた。太刀川先生は登場するだけでスカルピアのもつ高圧的態度が出ていて「さすがプロ」と思った。
「次のオペラは荒川静香さんが金メダルを取ったことで日本中で超有名になった『トゥーランドット』です」「ぼくたちは昨年、このオペラに出演しました」「ぼくたちの先輩はエジンバラに行って1週間の演奏旅行をしたそうです」「詳しくは合唱団の歩み 20年をお読みください」「きょうはその時の演出で、歌を全員で歌えるように編曲したものです」「どうぞ、お楽しみください」
 先ずは最初の部分である。オペラでは役人が一人で歌うが、ここを少年用にアレンジした編曲で仮面をつけた3名が歌う。なかなか引き締まった歌い方で好感がもてた。「今、歌ったのはオペラの始めです」「大人のバリトンが歌うところです」「でも、とっても格好良いので歌ってみたかったです」「ぼくたちが出るのはこの20分後です」「舞台の袖で衣装のチェックを受けてワクワクしながら出番を待ちます」「少年合唱スタンバイ」「さあ、出番です」前奏が流れ腕を前に組み一定の速度で歩きながら合唱するのはなかなか難しいそうだ。緊張感に満ちた『トゥーランドット』でホッとする場面なのだが少年たちは緊張感をもって歌っているのだろう。「このままオペラに移ってくれないかな」そう思わせる合唱で余韻を残して曲が終わった。一瞬の間をおいて、歓声と拍手が起きた。「オペラ パート2の場面はお楽しみいただけましたか?」の問いかけに観客は再び拍手で応えた。「たくさんの拍手をありがとうございました。それではきょうを最後に卒団する6年生をご紹介します」前に整列した6年生に対し客席から再び大きな拍手が起きた。この時、一人一人の名前を呼んで紹介したらどうだろう。団員によっては6年間続けた(紆余曲折もあっただろう)のだから目立たせてあげたいものだ。それと6年生だけの合唱も聴いてみたい。「TOKYO FM 少年合唱団は男の子だけの合唱団です。この時期にしか出ない少年の声の響きを楽しみに活動しています。これからもぼくたちを応援してください。きょうはほんとうにありがとうございました」 挨拶をした団員の声は張りがあり、演奏会を無事に乗り切った充足感があった。この後、OBと一緒に歌う『気球に乗ってどこまでも』と『きょうの日はさようなら』を聴きながら心地よい気分にひたった。

TOKYO FM 少年合唱団 クリスマスチャリティコンサート
           2007年12月25日  帝国ホテルロビー

 翌日の25日、帝国ホテルのロビーで行われたTOKYO FM 少年合唱団のクリスマスチャリティコンサートに出かけた。斬新なクリスマスツリーが置いてあるロビーはコンサートホールとは違う雰囲気で歌を楽しめた。内容は、15日と16日に行われたクリスマスコンサートの抜粋だった。当日は29名の選抜メンバーによる合唱で、約30分の演奏会だった。観客はロビーの規模に対してちょうど良い人数で少年たちの歌声を楽しんでいた。プログラムは次の通り。

もろびとこぞりて いざうたえいざいわえ マリアは歩みぬ もみの木
ノエルノエル あわてんぼうのサンタクロース ママがサンタにキッスした
赤鼻のトナカイ ジングルベル きよしこの夜

  ホテルの司会者が「小学生の男の子だけの少年合唱団は大変めずらしくボーイソプラノにこだわり続ける実力と実績は日本だけではなく海外でも高い評価を受けています」と紹介すると団員が左から登場し3列に並んだ。全員姿勢が良く並ぶまでの動きに無駄がなかった。並んでからも微調整はなく、すぐに歌える体勢になるのは見ていて気持ちが良い。二人の少年が前に出て「みなさま、こんにちは。TOKYO FM少年合唱団です、きょうはぼくたちの歌声でたくさんのクリスマスソングをお聴きください」「指揮は太刀川悦代先生、ピアノは頼田 恵先生です。先ず初めは『もろびとこぞりて』です」と挨拶しお辞儀をした。お辞儀もきちんと揃っていて日頃の練習が想像できた。その想像の通り1曲目から鍛えられた歌声を披露した。1番を全員で力強く歌い2番と4番は二重唱、5番を全員で歌って「アーメン」で終了。この1曲で観客は魅了され歌の世界に引き込まれた。2曲目も合唱で始まり間に二重唱が入った。しっかりした合唱を支えにした重唱は聴き応えがあった。このように合唱と重唱をバランスよく取り入れたプログラムはメリハリがありクリスマス気分に浸ることができた。またソロはなかったがアカペラの『ノエルノエル』は少年合唱ならではの元気さと美しさを同時に感じ取ることができた。プログラムを楽しむうち最後の歌、『きよしこの夜』になった。これは3名のオブリガードを入れた合唱でTOKYO FM少年合唱団ならではの美しい歌声だった。指揮の太刀川先生の伸びやかな指揮で少年たちは気持ちよさそうに歌っていた。「あの先生の指揮はいいですね。もしかしたら立川清澄さんのお弟子さんですか?」。合唱団が引き上げていく時、隣に座っていた年配の男性が話しかけてきた。「違うと思いますが」と答えると「私もアメリカで歌っていたことがあるんですよ。失礼しました」とにっこりして出て行かれた。話を聞いてみたかったがそのタイミングを失った。
  「ホテルのロビーコンサートは間近に聴けるからいいね」。ぼくが感じたことを言うと「グロリアもここでやって欲しいです」と風君が答えた。「ここは遠いよ。やるなら横浜グランドホテルだね」「新潟少年合唱団はどこだろう?」「ホテルオークラがいいよ」。そう話しながら実現したら楽しいだろうなと思った。「さあ、どこかでのんびりしようか? 昨日は慌しかったから」「道楽さんに元気が戻ってよかったです」「お酒を飲んでも軽くだよ」。ぼくたちも席を立った。「帰る前に寄付しよう。チャリティコンサートなのを忘れちゃだめだよ」。ぼくは募金箱を指差した。


TOKYO FM 少年合唱団 帝国ホテルオータムコンサート
                           2008年9月21日


  「いつもの場所でクールダウンしよう」という道楽さんに、先輩が「きょうは帝国ホテルに敬意を表そう」と提案すると「それもいいか」となった。1階のコーヒーラウンジに続くバーコーナーでドライマティーニを注文した道楽さんに「きょうは多目に飲んでもいいよ」と先輩は機嫌よく言った。その理由はロビーで行われたTOKYO FM少年合唱団のオータムコンサートが先輩を満足させたからだ。それを見て「意外と単純なんだな」と思った。ではコンサート前の様子と合わせて紹介します。

 帝国ホテルの別館ロビーに入ると合唱団がリハーサルのため整列していた。「ほら、早く来てよかったろう」。先輩は「やったあ」と言う顔をした。お昼ごはんをゆっくり食べようと考えていた道楽さんに「セルフサービスのサンドイッチなら早いよ」と半ば強引に勧めたのは結果として正解だった。リハーサルは歌の紹介スピーチと並び方の確認が中心で「頭を使って動きなさい」「どこを見て歌うの?」などと太刀川先生の厳しい注意が飛ぶ。でも歌に関しての注意がないのはさすがだ。歌っている途中で「ここから2番の歌詞で歌います」という指示にすんなり従えるのは驚きで「レベル高いな」と思った。歌い終わり居合わせたお客様から拍手が出ると太刀川先生が「リハーサルなのにありがとうございます」と笑顔で応えた。この日のプログラムは『おお牧場はみどり』、『トゥモロウ』、『ビリーブ』、『気球に乗ってどこまでも』、『ピエ イエズ』(ウェッパー作曲)、『ヴォルカム ヨール』(ブリテン作曲)、『ほたる来い』、『ふるさとの四季』より『ふるさと』『われは海の子』『もみじ』『冬景色』だ。道楽さんが「TFMの特徴が出せるプログラムだね」と満足そうな顔をした。では2回目の本番の様子を道楽さんに書いてもらいましょう。

 先ずは司会者が「小学生の男の子だけの合唱団は大変珍しく海外でも高く評価されています」と紹介した。続けて団員約40名が整列し前に出た二人が「きょうはこのロビーいっぱいにぼくたちの歌を響かせたいです」と挨拶した。この日の制服はTFMの文字が入った緑色のトレーナー、紺の半ズボン、白いハイソックス、黒の短靴で「リラックスして聴いてください」という雰囲気だ。しかし合唱はしっかりとしていてTFMの実力を証明した。最初の『おお牧場はみどり』は元気に、次の『トゥモロウ』は深みのある歌い方で観客を引きつけた。『ビリーブ』は出だしを3人のソプラノが前に出て歌い、他の団員が手話をつけた。この手話が格好良く見えるのは姿勢が良いことと手がしっかり伸びることだ。合唱はフルパワーではなくやや抑え気味なのが良くやさしい感情がにじみ出ていた。『気球に乗ってどこまでも』は一点に向かって駆けていく男の子たちを思い浮かべるような合唱だった。TFMは手拍子の時、体を右に向けて手をたたき間奏の間にゆっくりと向き直る。大きな舞台ではあまり感じないが近くで見ると舞の動きのようで「おっ」思わせることを発見した。「次はぼくたちボーイソプラノの響きを思い切りお楽しみください」という『ピエ イエズ』はその言葉通りだった。先ず半数のソプラノが高音を響かせそれに続いてアルトがゆったりとした声を聴かせるバランスの取れた合唱に仕上がりだった。歌い終わると予科生が退場し「とても難しい曲ですが一生懸命歌います」という『ヴォルカム ヨール』だ。速いテンポの曲を各パートが存在感を示しながら歌い最後の声をしっかり伸ばしていた。気のせいか団員たちは歌い終わるとほっとしたような表情だった。次の『ほたる来い』はアカペラで少年たちの声を堪能した。無数のほたるが光をはなちながら自在に飛び回る様子もイメージできた。最後の『ふるさとの四季』は予科生も加わり日本の美しい風景を思い浮かべる合唱を聴かせてくれた。この日は4曲だったがTFMで全曲聴いてみたくなった。また『ふるさと』の終わり近くでアルト1名のしっかりした声が印象に残った。観客の感動の拍手が鳴りやむとアンコールとして『気球に乗ってどこまでも』を元気に歌い終了した。

  2杯目のカクテルを飲み終えると「帰ろうか」と道楽さんは立ち上がった。もう一杯ぐらい飲むはずと思っていたからぼくは「えっ」と驚いた。薫先輩を見ると「よし」という顔をして「ここのカクテルは道楽さんの口に合わないよ。作り方を見ていればすぐにわかる」と言った。「そんなことがわかるんですか?」「風君もすぐにわかるようになるよ。ここで多目に飲むことはあり得ないからね」。先輩はしてやったりという顔をした。でも「いつもの場所でもう一杯だけ飲みなおそう」と道楽さんが言うのを聞き、ぼくは「こうなるのか」と思った。「きょうは多目に飲んでもいいんだろ」と言う道楽さんに従うしかなかった。「仕方がない。カクテルの作り方の違いを見ていよう」。先輩は残念そうに笑った。


クリスマス気分を満喫
TOKYO FM少年合唱団クリスマスコンサート
                                               2008年12月14日


  TFMホールの近くに道楽さん顔馴染みの中華料理店がある。ランチを食べようと席へつき、注文を取りにきたウェイトレスさんに「寒いから、とりあえず紹興酒の熱燗を1合ください」と注文した。何を食べようかとメニューを眺めこの店ご自慢の麻婆豆腐に決めると紹興酒が運ばれてきた。「1合ってこんなに量があるんですか?」と風君が首をかしげた。「そんなわけないだろ。これはデカンタだよ。2合以上ある。取り替えてもらおう」。ぼくが言うと「いや、これは神様の思し召しだよ。ありがたく頂戴しよう」と道楽さんはうれしそうに盃に注いだ。「都合良く考える人だなあ」と言ったのは昨日、ぼくたちの仲間に加わった五月(さつき)君だ。「さっき、ワインを6種類試飲したばかりですよ」。風君は不満顔だ。「しょうがないよ。飲んでいいから去年のことも書こうよ。反省を込めてさ」「それいいですね。クリスマスが近いです。真実の告白をしましょう」「なんのこと?」「今後のこともあるから五月君も知らないとね。ぼくらが話すよりもあんたが告白した方が話は早い」と言うと道楽さんは渋々承知した。この話は最後に紹介しよう。運ばれてきた料理にぼくたちは満足した。道楽さんは紹興酒も定食もすべて胃におさめた。「汗びっしょりだ」「それだけ麻婆豆腐が辛いんだよ」「ぼくは卵と海苔のスープがよかったです」。ほろ酔い加減の道楽さんがTFMホールに着くと列のすぐ前に「館」の館長さんがいらしたので挨拶し、少年合唱団の話になった。ではプログラムを紹介し道楽さんにレポートしてもらおう。

第1部 クリスマスキャロル
もろびとこぞりて  いざうたえいざいわえ  神の御子は今宵しも
おうまれだイエス様が マリアは歩みぬ  もみの木
第2部 フルート演奏
「ミニヨン」の主題によるグランド・ファンタジー 他
休憩
第3部 クリスマスキャロル
Wolcum yole  おおひばり  こよなく美しく鐘は鳴る
マリアの子守歌  ノエルノエル  エサイの根より
アヴェマリア&ホワイトクリスマス  ピエイエズ
あわてんぼうのサンタクロース  ママがサンタにキッスした
赤鼻のトナカイ  ウィンダーワンダーランド
ジングルベル  きよしこの夜  
We Wish You A  Merry Christmas 

 このコンサートには5年前から来ているがプログラムに大きな変化はない。会場が暗くなると客席後方からブリテンの『キャロルの祭典』を歌いながらソプラノ、アルトが二手に分かれて入場してくるのも同じだ。入場して来る時、通路側の席に座るとほんの一瞬だが一人一人の声を聴くことができる。この日は、最前列ソプラノ側に座り声を聴かせてもらった。一人一人の声は個性があり聴いていると楽しくなる。

  第1部のクリスマスキャロルは予科生7名を入れた53名の合唱だ。最初の『もろびとこぞりて』は1番を全員で歌い2番は前に出てきたソプラノ、アルト各々3名が歌った。プログラムトップでこの部分が冴えないと観客の気持に水を差す箇所だが6名は厚みのある合唱を披露して役割を果たした。6名は全員で歌うときは指揮者の方へ体を向け、ソロになると正面を向く。向きを変える時、一斉に変えるのが格好良く見える。2番が終わり3番の全員合唱になった時、心持ちパワーが入ったように感じた。第1部は各曲とも全員合唱と複数以上の団員が前に出て歌う形式で曲によっては10名以上が前に出てきた。この人数なら全員で歌った方が自然だと思うが団員を育てる目的があるのだろう。前に出たメンバーで印象強かったのは『マリアは歩みぬ』を歌った4名だ。ソプラノとアルト2名ずつでソプラノは出だしでソロを歌う。2番の出だしはもう一人のソプラノで二人とも少年ならではの透明感のある声で観客を魅了した。

 2部のフルート演奏が終わり休憩でロビーに出ると人形はまだ売れ残っていた。昨日、道楽さんが今まで購入に踏み切らなかった人形にビーズでできた小さなストラップ用の人形とのセットでサービス価格になっていることを知ると「もう一人、増えてもいいかい?」とぼくたちに聞いた。ぼくも風君も反対する理由はなかったけれどサービス価格だから買うのは「どうかな?」と思った。買うと決まると道楽さんは迷うことなく一つを選んだ。「名前は五月(さつき)にしよう。風薫る五月(ごがつ)だからね」と言った。「この子、前からいたかな? 気がついていたら買ったのに」と道楽さんはうれしそうだ。ぼくたちも仲間が増えたのでうれしかった。人形売り場を離れると道楽さんは小さなコップに入ったシャンペンを購入した。「飲み過ぎです」と風君は言ったけれどTFMの収入になるようなので良しとしておこう。

 3部は本科生のみで始まった。中には難しい曲もあるがそう感じさせないのが本科生の実力だ。最初の『Wolcum yole』がまさにそれで気持ちがこもった強い合唱は観客を圧倒した。逆に『こよなく美しく鐘は鳴る』、『マリアの子守歌』は静かな歌い方で観客を惹きつけた。またアカペラの『ノエルノエル』、『エサイの根より』は少年のもつ透明な声が少しずつ心に沁みこんでくるような合唱だった。やはり少年合唱団はアカペラが似合う。そういう意味で『おお ひばり』は、本来のアカペラで聴いてみたかった。さて宗教曲で気持ちが敬虔になったところで聴いた青木雅也編曲による『アヴェマリア&ホワイトクリスマス』は軽音楽風で気持ちをリラックスできた。そうしておいて本科生による最後の合唱『ピエイエズ』を聴かせるのは効果的だった。各パートが存在感を示し会場の隅々までこれが少年合唱だという気概のようなものを感じさせる仕上がりだった。ソロがあるとなお良かったが欲を言うことはやめよう。この後は予科生を入れてクリスマスならではの楽しい曲を披露した。聴き慣れた曲でもこの合唱団が歌うと一味違った良さがある。『きよしこの夜』でオブリガードを歌った3名の声でその思いを強くした。
 最後は観客も一緒に『We Wish You A  Merry Christmas』を歌う。休憩時間中に団員から手渡されたクリスマスプレゼントのお菓子袋にクラッカーが入っていると歌の最後に鳴らすことができる。2年前にこれが当たり道楽さんと一緒に鳴らした。お菓子袋を手渡してくれた団員はぼくにそっくりで「この子がモデルだ」と確信した。そんなことを思い出しながらぼくは歌った。
 「合唱で感動したからもう一杯」と道楽さんは行きつけのバーのカウンターに座りドライマティーニを注文した。「きょうはこれでおしまいですよ」。風君が念を押した。「昨日より今日の方が歌に固さがなかったな」と言う道楽さんに「アルコールが入っているからだよ」とぼくは応えた。出来上がったドライマティーニを一口飲んだところで「真実の告白タイムだよ」と五月君が促した。ここでみなさまにお断りします。道楽さんが五月君に語った内容は公表いたしません。興味のある方は道楽さんに会った時にお尋ねください。さて話を聞いた五月君は呆れ顔になった。「来週の新潟へのツアーは五月君一人で同行してもらうからよく覚えておくんだよ」「ぼくがぼくだけで道楽さんのお守りをするの?」と五月君はびっくりした顔になった。「そうだよ。ぼくも風君も秋のツアーでくたくただ」「先輩、来たばっかりでそれは荷が重くないですか?」「いいんだよ。ぼくだって長いこと一人で同行したんだ。大丈夫」。冗談抜きでぼくも風君も遠くへ出かける元気がなかった。だから五月君が来てくれて大助かりなのだ。「年末の人間ドックにも同行してドクターの話を聞くと勉強になる」「大変なところに来ちゃったなあ」「おもしろいこともたくさんあるから楽しみにしているといいよ」。風君が安心させるように言った。

   
          トリオになりました

 新しいプログラムに挑戦
TOKYO FM 少年合唱団クリスマスコンサート

                        2013年12月22日

 入場曲 「キャロルの祭典」より第1曲〝入堂〞
 第1部
  ・もろびとこぞりて   ・いざうたえ いざいわえ
  ・生けるものすべて   ・おうまれだイエスさまが
  ・神の御子は今宵しも  ・マリアはあゆみぬ
  ・もみの木

 第2部 アンドレ・カブレ作曲「三声のミサ」より
  1、Kyrie(キリエ)  2、Gloria(グローリア)

第3部 ア・カペラ  キャロル~ミュージックベルとともに~
 ・クリスマスの朝に   ・ノエルノエル
 ・Stile Nacht  ・ホワイトクリスマス
 ・喜びの時は来たり

第4部 楽しいクリスマスソング
 ・あわてんぼうのサンタクロース   ・赤鼻のトナカイ
 ・ママがサンタにキッスした     ・ジングルベル
 ~ご一緒に歌いましょう~
  ・きよしこの夜  ・We wish you a Merry Churistmasu

 チケットが21日、22日とも売り切れということを知り、ホールには12時過ぎに来たがこれは早過ぎだった。まだ誰もいなかったが折角だからと先頭に立ち、筑摩文庫『星の王子様 禅を語る』を読みながら時間を潰した。北九州少年合唱隊の合唱ミュージカル『星の王子様』を見て以来、原作を読み直した以外に、この手の本も読むことになった。読めば読むほど奥が深いと思うようになった。

 開場になり、席を確保してロビーへ行くとTFMのCDを販売していたので迷わず購入した。もう一つ、TFMの赤い典礼服をイメージした人形(携帯ストラップらしい)を見つけてこれも一体購入した。「4人兄弟になったね」「名前を考えないといけません」「星の王子様みたいな子だね」「だったら星にしようか」「ピンときません」。薫、風、五月の3名がうれしそうに話していた。「名前はゆっくり考えよう。客席でスタンバイ」
 新しい指揮者、須藤桂司先生とピアノ伴奏者、小林茉莉花先生で合唱を聴くのは初めてだ。詳しいことは最後に書くことにして合唱を振り返ろう。

 入場して舞台に整列したのは62名(本科48名、予科14名 自分が数えた限り)で昨年より人数が増えた。地方の少年合唱団が人数の減少に悩んでいることを考えればうらやましい限りだろう。しかも小学生男子だけなのだから。
1部は本科生、予科生の合同で聴き慣れた曲の合唱だ。この中で印象に残ったのは『生けるものすべて』を歌ったソロの子だ。ゆったりと丁寧に歌ったのが良く、敬虔な気持ちになれた。大きな声を張り上げないのも練習を積み重ねた成果だろう。もう1曲『神の御子は今宵も』も印象に残った。ゆったりと強弱をつけた歌い方で「そう、この感じです」とグロリア少年合唱団の同じ曲を聴き慣れている風が納得した顔で言った。数年前に、同じ曲を早目のテンポで歌うのに違和感があったからだ。他の曲も長年に渡って歌い継がれてきた曲だけに安定感があり安心して聴いていられた。ソロを歌う少年たちもそうでない少年たちも声のバランスが取れていて日頃から鍛えられていることが窺われた。

 2部は初めて聴く曲だ。本科だけの合唱はレベルが高いとあらためて感じた。それに相応しい選曲で『キリエ』と『グロリア』の曲想の違いがメリハリをつけるのに効果があった。同時によくこれだけ歌えると感心した。大人の合唱団でもこれだけ歌うのは大変だろう。

 ここで休憩となるがその前に6年生からキャンディの入った手製の袋が観客全員に配られた。運が良いと当たり券が出るのだが残念ながらはずれた。それを確かめてロビーに出てスパークリングワインを2杯飲んだ。1杯500円、2杯目から300円になる。クリームの挟まったクラッカーが2枚つくのでお値打ちだ。このクラッカーがワインに良く合うのもうれしかった。

 第3部はミュージックベルを取り入れたア・カペラ合唱で自分にとっては初めてだ。少年合唱団はア・カペラで歌うと透き通った声がより効果的に聴こえる。ここでは『ホワイトクリスマス』が印象に残った。静かな場所でおいしいウィスキーをストレートでゆっくり味わうのに似ている。ミュージックベルとア・カペラは良く合うのも発見だった。そうだ。ウィスキーグラスに水を一滴入れるとまた違った味わいになる。これと似た感覚だ。ただ、それを味わうにはウィスキーと合唱団には一定以上のレベルが必要なことも付け加えておく。(未成年の方は成人になるまで待ってください)

 第4部は再び予科生も加わって元気な合唱となった。4部のプログラムは予科生が入ることで楽しくなる。観客も3部のア・カペラから解放され楽しい気分を味わっているようだった。『あわてんぼうのサンタクロース』はパーカッションが入ることでのびのびした気分になれた。『ママがサンタにキッスした』は毎年出だしのソロを聴くのが楽しみだ。この曲で、現在成長中の団員の声を聴くのが好きである。このソロの人選も難しいだろう。

  最後は、『きよしこの夜』で恒例のオブリガードを聴いてしっとりした気持ちになり、『We wish you a Merry Churistmasu』でクリスマス気分を味わって終わる。毎年ほぼ同じパターンだがほっとした気分で会場を後にした。

 「久しぶりに浅草に行って天丼が食べたくなった。」
という道楽さんの提案に従って大黒屋に行った。運ばれてきた地酒をゆっくり飲みながら
「なんかくたびれた。人数が多くなったとはいえ、声が大きかった。」
「道楽さんもそう思いますか?」
「ぼくもそれは感じた。」
「大半がフォルテとメゾフォルテでピアノとメゾピアノがなかった。」
「宗教曲は観客を包み込むような優しさも必要ですがそれを感じなかったです。」
「元気に神様を讃えている感じだった」
「優しさが出せる合唱団なのにそれがなかったのがさびしいです。」
ぼくたちは声が強過ぎたことを話題にした。さて運ばれてきた天丼はこってりとしたてんぷらが載っていた。多分ごま油だけで揚げたのだろう。
「つけものと吸い物があるからまあバランスが取れてるね。味噌汁だとくどくなるなあ。.」
と道楽さんは言った。
「さっきの合唱はてんぷらだけ食べた感覚に近いです。」
「でもきょうの合唱を聴いたからこの天丼が食べたくなったんだろう。」
と五月君が言った。
「なるほど。そうか。」
道楽さんは笑った。
「定期演奏会がどんな合唱になるか楽しみにしましょう。」

 ぼくたちの新しい仲間の名前は「空(そら)」になった。星、昴(すばる、)、銀河など候補はあったが「星の王子様は果てしない空から来たんだから、空にしよう」という五月君の一言で決まった。トリオがカルテットになりました。



新しい仲間 空君です。ぼく五月が名前を決めました。よろしくお願いします。


 短い時間で示した存在感
読売日響コンサートに出演した少年合唱団
2022年5月24日(火)サントリーホール

 ぼくたちは、上岡敏之指揮の読売日響の演奏会を鑑賞することになった。お目当てはTOKYO FM少年合唱団だ。演目はウェーベルン作曲『六つの小品』、ベルク作曲『ヴオツェック』から『三つの断章』、ツェムリンスキー作曲交響詩『人魚姫』だ。どれも初めて聴く曲目なので、道楽さんと一緒にユーチューブを見た。けれど、どの曲にもボーイソプラノは出てこなかった。この点に関しては当日のプログラムを読み、ユーチューブで見た『ヴオツェック』と『三つの断章』は同じものでないこと、少年合唱団は『三つの断章』に出演することが分かった。
 さて演奏会当日、2階客席に入ると1階は空席が目立ったけれど2階は程よく埋まっていた。「オケを聴くのは上の席が良いことを知っている。聴き慣れている人が多いな。」道楽さんは言った。やがてオケのメンバーが入ってくると拍手が始まった。その人たちが着席しコンサートマスターが出てくるとまた大きな拍手が起きた。更に指揮者が登場するとより大きな拍手が起きた。見慣れない光景だけれど演奏への期待が高まった。最初の『六つの小品』の演奏中、興味を持ったのは大太鼓と銅鑼が最弱音で音を出す時だった。その時の奏者と指揮者、それに観客はこの一点に集中しているのがわかった。最弱音でこれができるのは「すごい」と思った。この場面に限らず指揮者の動きに注目するうち、この指揮者ならメンバーも演奏しやすいだろうと思った。
 お目当ての『三つの断章』はⅢ場構成である。これは道楽さんにお願いしよう。
Ⅰ場を演奏中にマリー役の森谷真理が舞台最後部の壇上下手から登場して中央に進み歌い始めた。演奏会形式のオペラでは歌手は指揮者と一緒に登場し指揮台の傍で待機することが多い。その意味で今回はオペラに準じていた。歌詞は原語だが字幕スーパーはなかった。その分、パンフレットに訳詞が載っていた。ページの最後に「ページをめくる音にご注意ください」と注意書きがあった。歌詞を追っていると集中力がなくなるので開演前におおよその意味を把握しておいた。森谷真理は体全体でマリーを表現した。ソプラノということだが低音部の表現もしっかりしていた。Ⅱ場で殺害(演技はなし)されて退場後Ⅲ場へ進む。ここではマリーの息子と友達の役で少年合唱団6名がマリーと同じく舞台最後部に下手から一列になって出てきた。一番上手側にマリーの息子役が紺のポロシャツ、他の4名が水色のポロシャツ、1名が白のポロシャツ姿だ。歌いだしで「おや?」と思った。それは日本語の歌詞だったからだ。プログラムに載っている訳詞を紹介すると
マリーの子ども(春駒でお馬ごっこをしながら)
ぐーるぐーるまーわれ
遊んでいる子どもたち
ぐーるぐーるまーわれ
(ほかの子どもたちが駆け込んでくる)
その中のひとり(語りで)
おい、知ってるかい?マリーが・・・
第2の子ども
なんだい?
第1の子ども
知らないんだ。もう大騒ぎだよ。
第3の子ども(マリーの子どもに)
ねえ、君のママが死んでるよ!
マリーの子ども
はいよー!はいよー!はいよー!
第2の子ども
どこで死んでるのさ?
第1の子ども
あっちだよ、沼のそばの道ばたさ。
第3の子ども
行こう!見に行こう!
すべての子ども(駆け去る)
マリーの子ども
はいよー!はいよー!はいよー!
(ひとり残され、しばらく躊躇ってお馬ごっこをしているが、やがてみんなのあとを追いかけていく)
(舞台はからになる)
ということだ。少年たちは大声を出すことなく丁寧に歌っていた。オーケストラと調和が取れていて存在感があった。6名の声の大きさが揃っているので聴いていて心地よかった。事情を掴むことができないマリーの息子が舞台に残り遊んでいるがやがて退場する。この時、数歩進んで止まってうつむく仕草を繰り返すことで心境を表現した。この時、私は哀れに思った。少年合唱団の演奏時間は短かったがしっかりと印象に残った。
カーテンコールでは少年合唱団を先頭にして出演者が一列で出てきて舞台前方に並び大きな拍手を受けた。拍手がやまず3度舞台に出てきて観客に応えた。

休憩でロビーに出ると、日本語で歌ったことについて「分かりやすくてよかった。」と話すグループがいた。それを聞きこれはこれでよかったのだと思った。
道楽「目的は果たしたから帰ろうか?」
風 「せっかく来たから最後まで聴きましょう。」
五月「そうだよ、ぼくは聴きたい」
空 「指揮者の動きがかっこいいから最後まで観賞しよう。」
薫 「きょうこれからの予定はない。それに最後まで聴くのはオーケストラへのエチケットだよ。」
 ぼくたちの意見が通り『人魚姫』も鑑賞した。前の月、北九州小倉少年少女合唱団のミュージカル『リトルマーメイド』を鑑賞したから何かの縁だ。その時の曲とは違うけれど聴いていて海の中をイメージできた。この演奏を聴き、プロは違うと思った。
十分に音楽を楽しみ終演になった。事前に分散退場のアナウンスがあったけれど、全曲が終わると出口に向かう人は多かった。
薫 「まだ9時になっていない。最後まで拍手をしよう。」
風、五月、空「賛成、そうしよう。」
というわけで、オケのメンバーが退場するまでぼくたちは拍手を続けた。更に分散退場にも協力した。会場を出て1階への階段へ向かうと少年合唱団と一緒になった。
風 「最後まで聴いていたんですね。」
五月「礼儀正しいね。さすがだ。」
空 「ぼくたちもルールを守ってよかったね。」
 会場を出た少年合唱団のメンバーは迎えに来ていた保護者と一緒に米屋先生の話を聞いていた。そばを通る観客は暖かい視線を向けていた。ぼくたちが見ている範囲ではスマホを向ける人はいなかった。「常識をわきまえている。本物のファンは違うね。」道楽さんは満足そうだった。
五月「サントリーホールでオーケストラと一緒に歌えるのは羨ましいな。」
空 「わくわくしそうな舞台だね。立つだけで歌いたくなりそう。」
道楽「本番より直前のリハーサルの方が勉強になるよ。その方が面白いかもしれない。」
風 「道楽さんも合唱団員としてオケと共演したことありましたね。確かにリハーサルでのやり取りは面白かったです。」
薫 「プロの歌手の声を間近に聴けるのもいいよ。歌っている時は別の世界の人と感じるからね。」







                                                          戻る