フレーベル少年合唱団

  
プロフィール

 フレーベル少年合唱団は、
「キンダーブック」や「アンパンマン」などの幼児向けの保育図書の出版や保育用品でおなじみのフレーベル館が運営する少年合唱団です。 昭和34(1959)年、企業の社会的還元という視点 より文化活動として、情操豊かな子供達を育むために我が国ではユニークな男子だけの合唱団をつくろうという理念で誕生しました。歴史的にみてもグロリア少年合唱団と並んで日本で一番長い歴史を持つ少年合唱団です。
 創立当初は、著名な作曲家・合唱指揮者であり、また、早稲田大学グリークラブの顧問・先輩でもある磯部俶先生が指導者でした。また、現在も美しい日本の歌の普及のために精力的に活動されている山本健二先生などが指導者であった時期もあります。その後、指導者も代わり、北島三郎の「与作」や、Kinki Kidsの「硝子の少年」などそのとき流行している歌を大胆にプログラムに採りいれたり、幼稚園児から団員を採るなど、時代の流れを読んだ活動をしています。また、合唱を家庭にも広めようという理念から、ファミリーコーラスに力を入れるなど音楽普及にも力を入れています。最近では、かなり実力をアップしていろいろなジャンルの曲に挑戦しています。
  フレーベル少年合唱団については、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』にその歴史的経緯が詳しく描かれています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E5%B0%91%E5%B9%B4%E5%90%88%E5%94%B1%E5%9B%A3

 私が、この少年合唱団を知ったのは、昭和30年代後半「みんなのうた」で、「おなかのへる歌」などを通してでしたが、「遥かな友に」の作詞・作曲者の磯部俶先生が指導者であったことを知ったのは最近です。また、アニメ「星の王子様」のテーマソングは、日本のボーイ・ソプラノのソロの名唱として今も話題にのぼりますが、この歌を歌ったのは、当時フレーベル少年合唱団員だった鈴木賢三郎(録音時は中1 放映時は中2)です。私は平成18(2006)年、野外コンサートで初めてその生の歌声に接することができ、平成25(2013)年定期演奏会を鑑賞することができましたが、かなり以前より録音によってその歌声に接することはできました。また、OB会と親交をもつことによって過去の録音に接し、また、最近ではビデオやDVDによってそのコンサートの様子を知ることができます。

  
   レコードを録音した頃の旧制服                新制服            ステージによってはこんな制服も

かな心は美しい歌から

 まとまって、フレーベル少年合唱団の歌声を聴く機会をもったのは、磯部俶先生が指導されていた昭和42(1967)年に発売された「ぼくたちの演奏会」の録音でした。このレコード評を通して、当時の様子を振り返ってみましょう。
                                
 『ロバの会』解散の新聞記事を目にしてから時を経ずして中田喜直の訃報が入った。日本の子どもの歌にとって、一つの時代が終わったという感がした。 『ロバの会』ともつながりが深いフレーベル少年合唱団が歌うレコードのタイトルは、「ぼくたちの演奏会から」・・・少年たちがこれらの歌を歌わされて歌うのではなく、本当に「ぼくたちの歌」と感じて歌っているなら何と幸せなことだろう。このレコードが発売された1967年(昭和42年)、日本は高度成長の急な坂を駆け上っていた。それは同時に、ものの豊かさと引き換えに自然破壊や心の貧しさが問題になり始めた頃でもある。大都市では遊び場は狭められ、塾通いも目に付いてきたが、それでも、子どもの世界ではまだ群れて遊ぶ姿があった。してよいこと・悪いことについてもまだ一定のルールが生きていたように思う。音楽の世界ではビートルズやフォークソングが若者の心を捉えていたが、その余波は当然子どもにも及んでいたであろう。しかし、子どもの歌番組もけっこう盛んな頃だった。前置きが長くなってしまったが、そんな時代背景を知ってこのレコードを聴くとまた違ったものが聞こえてくるだろう。
 このレコードは、二部構成になっている。第一部はわらべうた、あそびうた。第二部は日本の四季や子どもの生活を歌った新しい童謡を中心とした選曲。それにしても、これらの歌は何とのどかで、ノスタルジックに聞こえることだろう。その頃、少年の時は今よりもゆっくりと経っていたにちがいない。例えば友達の家に「○○君、遊ぼう」と言って誘う声にもわらべうたと共通する独特のメロディがあった。そのような生活の土壌が15曲の小さなわらべうたの花々を咲かせたのだ。15曲ある曲はどれも短く、いわゆる聴かせどころがある歌ではないが、それだけに15曲続けて聴くことで、少年達の遊んでいるときの息づかいまでが聞こえてきそうである。
 日本の四季の情景を歌った童謡では、その季節の色が目に浮かんでくるではないか。合唱の合間に効果的にソロやデュエットがちりばめられているが、その色彩感のある歌声が、季節の色を想像させるのだろうか。しかも、これらの歌は日本の子どもだからこそ歌える歌と言えよう。
 美しい日本語とメロディを持ち味とする抒情歌の系譜は、平成になって日本から途絶えてしまったのではないかとさえ思うことがある。また、世代を超えて歌える歌も少なくなってきており、これが世代の断絶を深めているようにも思える。そのような意味でも、豊かな心は美しい歌からということをこのレコードは静かに語りかけているようである。

磯部俶先生の自伝「遙かな友に」
 
 フレーベル少年合唱団の指導者として創立から22年間関わられ、日本の少年合唱の発展に貢献された磯部俶(とし)先生の自伝「遙かな友に」の中にもフレーベル少年合唱団は登場します。「フレーベル少年合唱団のこと」と題して書かれた4ページほどの文ですが、磯部先生がこの合唱団の指導に精魂を傾けてこられたことがわかります。
 前半は、創立8年目に作曲家の清水脩先生から贈られた一文がそのまま載っています。清水先生によると、フレーベル少年合唱団のよさは「いつまでも音楽に対して純粋さを失わない。」最高のお言葉ではありませんか。
 後半は、磯部先生が取り組まれたことの一端が述べられています。発表会のために無報酬で書かれたオペレッタ「ありときりぎりす」「粉屋とロバ」「三匹のこうもり」「孫悟空」等のこと。父母の会ファミリーコーラスを結成されたこと。どれ一つとっても、大きな情熱なくしてはできない仕事です。
 また、「まどみちお作詞の団歌を聴くと教えても教えても直ぐに変声してしまうあの少年合唱団の育成の難しさが懐かしく想い出されるのである。」と結んでおられますが、これこそ、少年の声の魅力の根源でもありましょう。

創立20周年記念演奏会       昭和53(1978)年8月27日

    
挑戦する少年合唱団

 フレーベル少年合唱団OB会が、過去の録音を復刻してその足跡を温(たず)ねるという企画を開始されました。すばらしい試みだと思います。日本では少年合唱団のライブレコード・CDが発売されることが希であるだけでなく、たとえ発売されても、コンサート会場でしか入手できないことが多く、購入者はそのコンサートを鑑賞した人(多くは団員関係者)に限られているからです。
 フレーベル少年合唱団に今も変わらず流れているもの、それは「挑戦する心」でしょう。
それは、初期の指導者の磯部俶先生が作曲家であったから可能だったことでもありますが、有名なプロの作詞家だけでなく、無名の大人・子どもの詩に自ら作曲して、それをコンサートで発表されたことです。それは、挑戦の連続であったと同時に、指導者が代わったりすると繰り返し演奏して定番化する機会を少なくしたと言えましょう。そのようなフレーベル少年合唱団の精神は、いろんなジャンルの曲に挑んだり、異質な楽器との合同演奏をするという形で現在に引き継がれています。
 
 コンサートは、4部構成で、第1部 小学生と大人の詩による合唱組曲「優しい愛の歌」、第2部 児童・女声のための合唱組曲「日本のわらべ唄」、第3部 フレーベル少年合唱団創立20周年記念公募作品より小学生の詩による合唱組曲「お父さんお母さん」、第4部 ポピュラーソング・メドレー「フレーベルうたの日記」からなっていますが、有名な曲はもちろん、今では全く聴かれなくなってしまった曲の中にも、深い感動を与えてくれるものがあります。
 例えば、第1部の「優しい愛の歌」の最後を飾る「片耳の大鹿よ」は、椋鳩十の物語を読んで感動した子どもの詩に磯部俶先生が作曲したものですが、大河ドラマのような山あり谷ありの名曲で、狩人と大鹿の心の絆を歌い上げたラストに向かう部分など合唱の醍醐味を味わうことができます。また、「日本のわらべ唄」は、清水脩先生が、ボーイ・ソプラノを意識して編曲されたため、オブリガードの響きの美しさは絶妙で、語りの部分など子どもたちの息づかいまでが伝わってきます。第3部は、少年合唱団が公募作品を募集して、作品が集まるというところに、当時の少年合唱団の人気を推測することができますが、自然な親子の愛を感じる作品群は、組曲としてのまとまりには欠けるにせよ、このような企画をしたことに感動を覚えます。第4部は、団員が入団テストから現在までを日記で綴るという縦糸と、A組(年長)・B組(年少)だけでなくファミリーコーラス、OB会という多様な歌声を育んできた合唱団の広がりという横糸を編んでいった名ステージで、変化に富んだ選曲が見られ、当時のフレーベル少年合唱団のよさが確実に伝わってきました。

 
このコンサートを通してフレーベル少年合唱団の原点を知ることができました。「温故知新」という言葉を実感するコンサートでした。

第21回定期演奏会 マレーシア公演報告を兼ねて 昭和56(1981)年10月18日

 これは、フレーベル少年合唱団の一つの頂点をなすコンサートと言うことができましょう。この年の夏、山本健二先生に率いられたフレーベル少年合唱団は、初めての海外公演としてマレーシア公演を行いますが、その報告を兼ねて行われたこの定期演奏会は、曲の多様性や編曲の工夫だけでなく、演奏水準の高さにおいても傑出したものになっています。

   
編曲によって活かされた繊細なボーイ・ソプラノの美

 第1部は「愛唱歌集」で、「みんなの歌」で採り上げられたような曲が並んでいます。どれもおなじみの曲なのですが、編曲がボーイ・ソプラノの繊細さを活かすようになされていて、「禁じられた遊び」や「荒城の月」のような叙情的な歌はもとより、「おお牧場はみどり」や「元気に笑え」のような元気な歌でもただ勢いに任せて歌うのではなく、美しい聴かせどころをつくっているのが心に残ります。編曲の妙は、「四季の歌」のような有節歌曲を、合唱曲に編曲する中で発揮されています。「夕方のおかあさん」は、こんなに慈しみ深い曲だったのかというのも驚きの一つです。「ちいさい秋みつけた」は、繊細なソロを包み込むような合唱で魅せてくれます。最後を締めくくる「ちいさな旅の思い出」は、初めて聴く曲ですが、その陶酔的な美しさはどうでしょう。「〜ね」で終わる一つ一つの思い出を形作る言葉がこんなにやさしいとは。
 第2部は、「名曲を訪ねて」と題して「太陽のマーチ(ラデツキー行進曲)」「グノーのアヴェ・マリア」「美しく青きドナウ」「ハレルヤ・コーラス」の4曲が採り上げられています。一言で言えば、どの曲も抒情的なのです。「太陽のマーチ」は、にぎにぎしい行進曲なのですが、決して喧騒な歌ではないのです。この歌の歌詞をこれほどはっきり聴き取れたことはありません。「美しく青きドナウ」は、緩急自在な演奏で、歌わせる部分とたたみ込む部分の対比が見事です。「ハレルヤ・コーラス」は、各声部の聴かせどころを際だたせる演奏です。とりわけ、変声期に入りかけたアルトがよく活かされているのが心に残ります。
 第3部は、フレーベル少年合唱団ならではのファミリーコーラスによる合唱組曲「旅」。保護者コーラスも、この時期はたいへん盛んだったようで、質の高い混声合唱を聴くことができます。旅のわくわくするような想いが綴られています。
 第4部では、日本民謡メドレーが団員の太鼓、ピッコロ、フルートを伴って披露されます。日本民謡を合唱曲化したものは、何となくあざとさを感じるものもあるのですが、今回のフレーベル少年合唱団によるものは、そのような違和感を全く感じません。それどころか、斬新な挑戦に心からの喝采を送りたいと思います。
 「筑波山麓少年合唱団」・・・この一曲だけでも、フレーベル少年合唱団日本の少年合唱史に新しいページを書き加えたと言えましょう。デューク・エイセスの4重唱でおなじみの「筑波山麓男声合唱団」を少年合唱で歌えばどうなるだろうかということは、下手をすると、声帯模写的な興味本位のものになる危険性をはらんでいます。しかし、しかし、フレーベル少年合唱団は、変声期に入ったパートを「バリトンのガマガエル」とすることで活かし、4部合唱曲にしているのです。これは、実に見事な合唱曲です。北島三郎の「与作」も、合唱曲になりにくい曲ですが、ちゃんと合唱曲になっています。だから、比較的よく演奏される「八木節」や「ソーラン節」のような民謡さえも、新しい生命を吹き込まれたかのように生き生きと現代に甦っています。
 今でも、フレーベル少年合唱団は、いろいろな楽器との共演をしていますが、ときには楽器が少年合唱の繊細さをつぶしてしまうことがあります。しかし、このコンサートでは、楽器との共演が活きているのです。そういう意味からも、この定期演奏会は、フレーベル少年合唱団の一つの頂点をなすコンサートであったと思うのです。



セミと共演 フレーベル少年合唱団サマーコンサート
平成18年8月26日(土)16:00〜16:30 六義園


 やっと、フレーベル少年合唱団の生演奏が聴けるぞ。この日の東京は曇り空。朝方には雨も降ったということで、暑さもかなりましになっていました。六義園の入口の門は、駒込駅からすぐではなく、少し遠回りしなければならない場所にあり、曇天のせいもあって、やや暗くひんやりとした感じがしました。正門の斜め向かいにフレーベル館の社屋があります。3時15分、門を入って受付で入場券を買おうとすると、受付の女性が
「4時からフレーベル少年合唱団のサマーコンサートがありますので、ぜひご覧になってください。」
「いや、それを見るために大阪から新幹線で来ました。」
「そうですか、わざわざ遠くから。それなら手荷物をお預かりしましょうか。」
「いや、たいした荷物じゃありませんから。」
ずいぶんサービスいいなあ。公園としても、来園者増加のために努力しているんだろうなと感じました。コンサート会場のしだれ桜は、入口近くですぐ見つかりましたが、この季節には濃い緑の葉桜になっていて、前には指揮台や機材が。赤い布を張った長椅子が12脚、観客席として並んできましたが、これが、色彩的には周囲の緑と絶妙のコントラストを示していました。観客席を確保して団員が立つ位置の後ろを見ると、しだれ桜の木の下には、蚊取り線香の入れ物が5つ6つ。蚊に刺されたら痒くて気になって演奏どころじゃないよなと思いながら待っていると、園内放送の効果もあってか、開演前には椅子は満席になり、座っている人と同じぐらいの人数が集まってきて椅子席の後ろに立見席ができました。

 夏ということもあってか、服装はベレー帽と上着はなし。白い半そでカッターに紺のリボンネクタイ、紺の半ズボンに白いハイソックス、黒いローファーというスタイルで29名のセレクト団員が2列で入ってきました。「セレクト」といっても、決して高学年というわけではなく身長的には120cmから160cmぐらいの差があり、かなり広い学年の混成であることが伺えました。

 団員による挨拶と曲名の説明の後、1曲目が始まりましたが、いきなりハウリング音が。真ん中にベートーベンのピアノソナタ「悲愴」の第2楽章をアレンジしたきれいな曲でしたが、断続的なハウリング音に消されて紹介された題名さえも忘れてしまいました。そこで、2曲目からは、カラオケ音源をテープレコーダーに変えて、夏の歌曲・唱歌が4曲、「ハレルヤコーラス」「TOMORROW」アンパンマンからおなじみの2曲といった歌が歌われました。

  この日の演奏は、自然な子どもらしい美しい発声ができていることや、30分という時間が、もう少し聴きたいという気持ちにさせるという点でよかったと思います。数年前の定期演奏会のビデオで聴いた歌声と比べると格段に成長が見られました。これは、指導によるところが大きいと考えられます。日本の歌曲・唱歌は、その声の持ち味を活かしたさわやかな演奏でした。とりわけ、「夏は来ぬ」の情景が浮かんでくるような鮮明な歌い方は好感が持てる名唱と言うことができましょう。「アンパンマン」からの2曲は、歌う方も聴く方もリラックスして集まった人たちが一つになることができました。親しみやすい曲を採り上げた選曲のよさもありますが、不特定多数の観客の前で、予習が必要な曲を演奏したのでは、客が逃げてしまいます。そういう意味でも、少年合唱ファンの裾野を広げるためにも、こういう試みはこれからも大いにやるべきだと思います。

 一方、課題としては、音響にトラブルが起こったから言うわけではありませんが、伴奏はカラオケのテープの演奏よりも移動可能な電子ピアノが望ましいと感じました。曲によっては、歌声に集中させるためにア・カペラもよいのではないでしょうか。また、歌の面では、壮麗さを求められる「ハレルヤコーラス」は、人数的なこともありますが、力強さに欠けるところがありました。定期演奏会では、OB会との合同演奏という道もあるのではないかと思います。最後に、団員によって「へーベルハウスのコマーシャルの『みどりのそよ風』は、ぼくたちが歌っています。」という解説とその一節を歌う紹介がありましたが、それなら、ぜひ全曲歌ってほしかったです。歌ってくれるのかなという期待をもたせておきながら、歌わないのはなぜ?という気にさせられました。

 野外でのセミとの共演という条件の下での演奏ですから、コンサートホールと同じようにはいかないでしょうが、観客は予想以上に真剣に少年たちの歌声に耳を傾けていました。この野外コンサートはよい試みであり、工夫によってさらによりよいものにできる可能性があるように感じました。


題名のない音楽会
平成20年8月24日 テレビ放映

  今年度から指揮者の佐渡裕の司会、久保田直子アナウンサーのアシスタントというコンビで出発した「題名のない音楽会」は、ポップス指向だったこれまでとは少し方向が変わってきたように思います。今回は、少年合唱、高校生の混声合唱、ママさんコーラスという3つの違う合唱団を佐渡裕が指導することによってどう変化するかという試みがテーマでした。

 フレーベル少年合唱団が採り上げた曲は、北海道民謡「そうらん節」を佐藤眞が合唱曲に編曲したもの。手島明子先生が指揮したものは、清純な音色ではありましたが、まるで唱歌という雰囲気。佐渡裕は、手をぶらんと下げることによって重心を低くさせると共に、体でリズムを取ることをつかませました。その結果、全身から元気があふれた歌声が出て、力強い合唱ができるようになりました。しかし、これ、あまりにもよくできすぎているようにも感じました。手島先生は、合唱指導のベテラン。「そうらん節」を唱歌風に歌えばどうなるかはわかっておいでのはず。それをあえてされたのは、佐渡裕の指導前と指導後の差を歴然とさせるためではなかったのかと勘ぐったりします。

 次の國學院大學久我山高等学校音楽部による混声合唱とピアノのためのこいうたより「恋歌・空」は、繊細な合唱曲らしい曲で、指導も微妙なニュアンスを理解させるというものでしたが、指導の効果というものは、フレーベル少年合唱団ほどはっきりと見えてきませんでした。もともとかなり水準の高い演奏であったこともあります。また、セイレーン&翠声会の「花の街」は、はっきり言ってあまり変化が見られませんでした。また、ゲストの錦織健もあまり活躍の場がないようでした。おそらく、30分番組にまとめるためにカットされた部分が多いのではないかと思います。


フレーベル少年合唱団第53回定期演奏会
  平成25(2013)年10月23日(水) 文京シビック大ホール

   団歌で全体が見えてくる

行きたいと思ってから10数年。ビデオやDVDでは見ていても、やっと初めてホンモノを鑑賞できるフレーベル少年合唱団の定期演奏会。この日のコンサート鑑賞は、合計約5時間。開演冒頭の少年たちの団歌に始まって、打ち上げ会のOB会の団歌で終わりました。さて、日本のいろいろな少年合唱団の定期演奏会に行きますと、必ず団歌でスタートする合唱団がいくつかあります。桃太郎少年合唱団、呉少年合唱団、ボーイズ・エコー・宝塚の3団体がありますが、冒頭を飾る団歌の歌唱によってコンサート全体が見えてくることもあります。時々、最初は喉が温まっていなくて低調なのが、だんだんよくなるというケースはありますが、だんだん悪くなるというケースはまずありません。そのような意味では、この日の団歌は、清澄さと活力が適度に交じり合ってよく統制された歌になっていました。

   歌声の縦糸を聴こう

 挨拶に続いてPart1の「世界の歌」は、S組(セレクト=選抜メンバー)約30名が並んで、この年度のリーダーの栗原一朗君の清澄な独唱で原語(英語)による「ドレミの歌」が始まりましたが、途中から合唱に移っていきました。今回は、全体として独唱の少ない定期演奏会です。続く「虹の彼方に」「オリバーのマーチ」と映画にもなったミュージカルのナンバーが続きます。やはりフレーベル少年合唱団としてテレビ等に登場するのは、このS組でしょう。全体的には流麗で躍動感のある歌唱でした。続くA組は、「回転木馬」と「わんぱくマーチ」を歌いましたが、これらは原曲を和風にアレンジして元気でちょっとおしゃれな歌に仕上がっていましたが、この年齢の子どもに内面的なものまで求めることは難しいだろうなと思いながら聴いていました。さらに、幼稚園児と思えるB組が加わると、雰囲気はかなり変わります。広い舞台で自分の立ち位置がわからないので、並ばせるために指導者の手伝いが必要です。歌の指導だけでなく、ステージマナーを含め、この辺りに年齢幅が下に広いフレーベル少年合唱団の運営と指導の難しさを感じました。A・B組による「おどろう楽しいポーレチケ」「ちびっこカウボーイ」は、これだけ聴くとひたすら元気で可愛い歌なのですが、年齢を縦軸にして聴いていくと、「可愛い」から「活力のある」に、さらに「美しさを求めて」と成長していく人間の成長の姿を見ることができます。

   日本の少年は元気さが主流

 Part2の「ふるさとの四季」は、これまで栃木少年合唱団、広島少年合唱隊、TOKYO FM 少年合唱団の合唱で聴いたことがあります。それぞれの持ち味がありました。フレーベル少年合唱団の歌は、全体的には、青竹のような元気で活力のある仕上がりと感じました。「故郷」で始まって、季節は春から冬へと流れ、「故郷」で終わるという構成の中には、「鯉のぼり」「茶摘」「われは海の子」「村祭り」「雪」といった活力系の歌と「朧月夜」「夏は来ぬ」「紅葉」「冬景色」といった抒情系の歌が混在しています。これらを歌い分け、流麗なピアノ伴奏がそれをつないでいくというのがこの歌の聴きどころです。そして、色濃く耳に残ったのはどちらかというと、前者です。


   幼児だってわかるんです

 休憩をはさんで、武藤英雄団長(フレーベル館 代表取締役社長)より、挨拶がありましたが、それは、やなせたかしさんへの追悼の言葉でもありました。この日の舞台には、やなせさんの写真と代表作「アンパンマン」の絵とセリフが描かれたパネルが飾られました。ところで、東京駒込にあるフレーベル館の社屋の前には「アンパンマン」の銅像が立っています。これは、会社に貢献したという以上のものがあります。「アンパンマン」のテーマ曲を初めて聴いたとき、これが幼児向きのアニメの主題歌かと驚きました。人は何のために生まれて何のために生きるかという哲学的な課題を真正面に採り上げた歌であったからです。最初は、こんな大人でも難しいことが、幼児にわかるわけがないじゃないかとも思いました。しかし、アニメを見て考えは変わりました。おなかがすいて苦しんでいる人に自分の顔の一部を与えることで悪と戦う力が低下するとわかっていても、決してその人を見捨てることはしない。そのようなアンパンマンの姿を見て感じるところから子どもの正義感は育っていくのです。むしろ、利害損得の考えがあまり発達していない幼児だからこそ、そういう行いが人間として至高の行いであるということがわかるんです。核家族化が進み、昔話の伝承が衰退した今の日本において、幼児に「正義」の尊さを自然な形で教えてくれるのは、「アンパンマン」ぐらいかもしれません。このコンサートにやなせたかしさんに会場においでいただくべく、プログラムを組んでいたのに、10日前の10月13日に亡くなられたのは、悔やまれてなりません。なお、やなせたかしさんの遺志を伝えるため、フレーベル少年合唱団は、東北の被災地で歌を披露するそうです。

   フォスターは、少年にとって世界的な大作曲家

 Part3は、OB会による「アメリカン(フォスター)メドレー」でした。フレーベル少年合唱団の定期演奏会におけるOB会の位置づけは、その年によって違います。今回は、その比重の高い年だったと言えましょう。さて、フォスターは、ある世代の子どもたちにとっては、バッハやベートーベンと同じぐらい有名で、というよりもそれ以上に親しみのある作曲家でありましょう。亡くなる直前に作曲されたという「夢路より」の夢見心地で抒情的な歌に始まって、明るく励ましてくれる「Oh スザンナ」までの5曲の間には、美声の独唱もあり、男声合唱だからこそ表現できる世界が現出しました。

   やなせたかしの詩の世界

 Part4は、「やなせたかし」コレクションで、プログラムでは6曲が歌われました。「夕焼けに拍手」以外は、初めて聴く曲ばかりでしたが、詩はどれも味わい深いものでした。「さびしいカシの木」は、さびしい暮らしに次第に慣れてほほえみながら立っているカシの木の姿を描いていました。ここで少年たちは、哀愁を感じさせる歌を歌っていました。「ぼくらは仲間」は、1番ごとに歌い方を変えてその季節感を浮き彫りにしていました。「老眼のおたまじゃくし」は、「かえる」になれないというところがこの歌のミソで、逆に童心をいつまでも持ちつづけているおたまじゃくしの歌だと感じました。「シドロアンドモドロ」は、しどろもどろにもつれる歌ではなく、2匹のカバたちのメルヘンでした。というふうに、初めて聴く曲はまだまだ歌詞を追いかけるだけになってしまいました。童謡は、技巧に走らず、素朴に歌いながらも詩の心を伝えることが必要だなあと思いながら聴いていました。また、昭和20年代の作られたやたらと甘ったるい童謡発声とは全く違うフレーベル少年合唱団の自然な日本の少年らしい発声に好感をもちました。アンコールは、全団員にOB会も加わって「アンパンマン」の大合唱。もしも、やなせたかしさんが会場に来ておられたらどんな感想を述べられたでしょう。

   師友の夢の継承

 コンサートが終わって、10年来親しくしていただいているOB会の打ち上げ会に合流させていただきました。卒団後も異年齢の卒団生が定期的に集まって歌い、今でも夏期合宿までしているというその姿からは、この合唱団の初期の指導者(磯部俶先生や山本健二先生)がどのような人を育てようとしてきたかを伺うことができます。また、OB会のメンバーはその教えに応えるべく努めてきたと言えるでしょう。そこからは、家族みんなで合唱できるような家庭を日本に育て根付かせようという高邁な生涯学習の夢を感じることができました。
・・・少年時代に違う地域に住んで年は多少違っていても、集まってお互い助け合って一つのものを創りあげてきた。たとえ、声が変わっても、そこから得たものは変わるものではない。みんな卒団して違う道に進んでいったからこそ、長年にわたって利害損得のない至純な人間関係が築ける。それは、なんと素晴らしいことだろう。・・・
OB会の方々との会話の中から、そのようなものを感じました。文科系の活動でありながら、少年時代によい意味での縦社会を学んだ少年たちは、この時ばかりと威張った先輩や生意気な後輩になることなく、良識ある社会人になっています。現役の少年たちよ!こんな素晴らしい先輩と一緒に歌いませんか。そんなことを考えながら、終電間近の地下鉄に乗りました。

フレーベル少年合唱団第55回定期演奏会
平成27(2015)年10月28日(水) 文京シビック大ホール


   音楽監督就任でどう変わるか

 フレーベル少年合唱団の定期演奏会は、2回目。今回のメインテーマは「みんなでうたう、いのち・へいわ・ふるさと」ということですが、これらにどこまでアプローチできるのかを期待して出かけました。プログラムのメッセージを見て、今年度から音楽監督をおいたことを知りました。6年前京都市少年合唱団が加藤完二先生を音楽監督に迎えて、躍動感のある声による表現という変容を聴いてきただけに、期待するものがありました。
 オープニングの団歌の段階では、それを感じるところまではいきませんでしたが、第1部のS組による「歌でつづるイタリア旅行!」で、その片鱗を感じることができました。有名なカンツォーネ・ナポリターナを中心としたプログラムでしたが、脇田先生のダイナミックな指揮によって、シンプルでありながら声が前によく出ていることを感じました。それは、歌劇「アイーダ」の大行進曲をもとにした「勝利の行進」で強く感じました。どの曲も歌詞がよく聴き取れることも特筆されます。さらに、「帰れソレントへ」において曲想の変化がもっと前面に浮かび上がれば・・・というのは贅沢な要望でしょうか。このような好調なスタートを切ると、後の期待が高まります。

   先輩に手をひかれて

 第2部は、「フレーベル・ニューフェイス」という名のもと、初登場の幼稚園児のB組が小学1・2年生のA組の先輩に手をひかれて登場。この演出は、やさしい先輩というイメージを伝えるとともに、練習会場とは違う慣れない場所で幼い団員が立ち位置を間違えないという意味でもよい演出でした。「ことりのうた」は、かわいらしさが伝わってくる歌であり、「よろこびのうた(交響曲第九番より)」は、テーブルにのせて運ばれてきた鍵盤ハーモニカの演奏と階名唱を組み合わせるところが、工夫点と言えましょう。

   歌の大冒険

 第3部はA組が登場し、選曲も「夢の宇宙船」「いるかの旅」「歌よひびけ」「未知という名の船に乗り」と明るい元気さを前面に出した曲が続きます。まだ、声質やハーモニーが完全に揃っていなくても、学校の音楽の授業で習う曲よりも2〜3歩上の曲に挑むことで、元気さや歌のメッセージは確実に伝わってきました。


   第55回定期演奏会の記念曲は

 第4部は、OB会の男声合唱による「四季の風景」より「わかば」「蛍」「冬景色」「スキーの歌」「朧月夜」「みどりのそよ風」と、少年合唱でよく演奏される「ふるさとのの四季」とはまた違う曲で、約半世紀ぶりに聴く懐かしい歌が重厚なハーモニーで歌われました。そこで想い出すのは、半世紀以上前に受けた小学校の音楽の授業風景。先ず「この歌は何調でしょう。」という楽譜の知的理解で始まり、階名唱ばかりさせられて面白くなかったこと。「学校音楽校門を出でず」という言葉は、こんな授業もその原因の一つでしょう。音楽の授業は先ずよい演奏(範唱)を聴いて憧れを抱くところから始めるべきであると改めて感じました。特に、今では範唱のCDもあるのですから。
 これらの歌の後、舞台下手から野本監督が登場して、太原OB会長との会話に発展。フレーベル少年合唱団創立期の指導者である磯部淑先生の“団員が将来音楽家になることよりも、一家で合唱できる家庭を創ること”をめざされた育成理念の話が交わされました。そして、第55回定期演奏会記念として、12名のOB会員とS組から12名の選抜された団員による「遥かな友に」が混声合唱で歌われました。NHKの「みんなのうた」でボニー・ジャックスがこの歌を歌ったことを思い出しながら、1960〜70年代にはもっと自然な形で子どもの周りに合唱音楽があったことに思いを馳せました。週2回45分の学校音楽よりも毎日5分の「みんなのうた」の方が魅力的であったわけもその辺りにあるのでしょう。なお、ビクター少年合唱隊のLPには、この歌が歌われているのに、フレーベル少年合唱団にはこの録音盤がないことにも気付きました。ぜひ、フレーベル少年合唱団の少年合唱とOB会も交えた混声合唱や男声合唱でこの歌がCD化されてほしいと願ったものです。

  メインテーマ

 この日のテーマは、「みんなでうたう、いのち・へいわ・ふるさと」ということで、S組による「故郷」に始まりました。クワイアーチャイムの音叉のような神秘な音色を伴ったア・カペラで、清澄な歌声が浮かび上がってきます。続いて、A組の「手のひらを太陽に」は、いのちの讃歌。さらにS組・A組合同による「Bilieve」「地球の仲間」「地球をつつむ歌声」と本格的な合唱曲が続きます。さらに、「信じる」「いのちの歌」「ふるさと」と、NHKの全国学校音楽コンクールから誕生した名曲が続き、大きな盛り上がりを創りました。歌は数人のキーマンに引っ張られるところはあっても、同時にハーモニーを大切にしようとする意思も感じました。この日のステージは、S・A・Bの各組に同じように光を当てるのではなく、S組に強い光を当てることによって全体が輝くように構成されていました。時間的にも長いステージのため、B組は、第2部だけの登場というのも、新しい試みです。「ソレアード」を会場のみんなと共に歌うことや、最後は出演者みんなで「アンパンマン」を歌えばよいという発想ではないところが、野本監督の理念でしょうか。合唱団創立の理念を引き継ぐことや、指導者間の連携ということもフレーベル少年合唱団の大切な課題ですが、その辺りは、次年度以後よりはっきりすることでしょう。

 終了後は、OB会の打ち上げ会に参加しました。平日の定期演奏会には次はいつ行けるかわからないので、このような機会を大切にしたいと思いました。




                                              
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