北九州少年合唱隊

  北九州少年合唱隊は、平成2(1990)年創立のわが国で2番目に新しい少年合唱団です。メンバーは小学生から中学1年生まで。隊員数は、40人ぐらいの時期もあったそうですが、最近は10数人で、定期演奏会ではOBも10人ぐらい加わって歌っています。小倉南区にある神理幼稚園を練習会場としています。なお、この練習開場では北九州市小倉少年少女合唱団も練習している関係もあって、定期演奏会では共演しています。毎秋に行われる定期演奏会では、おなじみの児童合唱曲だけでなく、「モーツァルトの百面相」と題したモーツアルトの作品をちりばめた伝記仕立てのステージや、「よろこびのハーモニー」と題したベートーベンの曲をアレンジしたステージ、「ピーターパン」などの合唱ミュージカルに挑戦するなど、意欲的な活動をしています。歌詞がよく聞き取れることもも一つの持ち味です。
  毎回採り上げられる合唱ミュージカルは、この合唱隊の最大の特色で、歌だけでなく振り付けや衣装、大道具小道具に至るまで、本格的です。とりわけ、「白雪姫と七人の小人たち」「ながぐつねこ」「ヘンゼルとグレーテル」「ブレーメンの音楽隊」「シンデレラ」「ピーターパン」などは、数年ごとに繰り返し上演されています。幼い時端役だった隊員が、成長して主役級になることもこの合唱隊だからこそ味わえることでしょう。また、OBが主要な役を歌い演じることもあります。
 また、下記のような成文化された北九州少年合唱隊憲章を作って、指導にあたっているところも特色の一つといえましょう。

1、 美しいものを大切にします。
2、 いつも明るく集中して練習します。
3、 隊員としてはずかしくない態度で行動します。
4、 歌をとおして、みんな仲よくします。
5、 歌う喜びを深めすばらしい合唱隊にします。

  
             制服はセーラー服           ミュージカル「「ヘンゼルとグレーテル」より

北九州少年合唱隊第23回定期演奏会
平成21年11月23日(月) 北九州芸術劇場中劇場


 北九州少年合唱隊のコンサートに接するのは今回が初めて。諸般の事情とはいえ、存在を知ってからコンサートに行くまでがあまりにも時間がかかり過ぎました。その最大の理由は、いつコンサートをしているのかがほとんどわからなかったこと。時々、道楽さんがコンサートの直前になって教えてくれることもありましたが、北九州まで行ったものの、「当日券はありません。」ということでは空しいので、まだ見ぬ少年合唱団になっていました。ところが、出会いは意外なことからやってきました。10月17日の広島少年合唱隊創立50周年定期演奏会で、北九州少年合唱隊の指導者 井上博子先生と隊員の飯干歩君と出会ったことがきっかけです。職場に招待状が来た以上、呉少年合唱団の定期演奏会とのバッティングを乗り越えて新幹線のキップを博多まで買いました。

   骨太の合唱曲
 幼稚園が練習開場の合唱団だから、小さい子どもが多いことは予測していましたが、言って聞かせてもわからない赤ちゃんを含む観客役700人で会場はいっぱいとなりました。オープニングはいきなり、合唱組曲「北九州」より「筑紫なる北のわが街」。これには驚きました。北九州少年合唱隊が、元気のよい力強い少年合唱団だということは聞いていましたが、いきなり、フィナーレにもってくるような曲をオープニングにもってくるとは。確かに、のどはまだ充分あたたまっていませんでした。しかし、その心意気は確実に伝わってきます。小倉駅前の「無法松の一生」にも出てくる太鼓の響きと共通するものをそこに感じました。第2ステージの宗教曲でも同じものを感じました。僕は、5年前に秋山直輝の宗教曲を聴いて以来、日本の少年でもヨーロッパの透明度の高い繊細な響きを表現できると思っていました。しかし、ここで演奏された歌は、それとは全く違う骨太なものでした。しかし、それは決して曲の生命を覆すような違和感のあるものではありませんでした。むしろ、この少年たちには最も似つかわしい歌声でした。OBと共に歌われた第3ステージの歌も、その延長線上にある混声合唱曲でした。ヨーロッパのまねをするのではない。日本の、北九州の風土が育んだ少年の感性にあった歌声を届けるんだというメッセージをそこからは感じることができました。

   くせになりそうな魅力
 これまでも、「子どもミュージカル」に挑戦した少年(少女)合唱団の演奏にいくつか触れてきました。しかし、どこか背伸びしたところや、演技力において学芸会の延長線上にあるものを感じてきました。それは、少なくとも主演級の一人一人に確かな力量がないとそう感じさせてしまうのです。北九州少年合唱隊の「ヘンゼルとグレーテル」、原曲がしっかりしているだけでなく、主演級だけでなく脇役も歌だけでなく振付けの基礎をしっかり身につけているから、視覚的・聴覚的に楽しむことができました。軽やかにステップを踏む美しさは、決してにわか作りではありません。セーラー服と長ズボンの制服を着ているときに、あんな美しい少年はいたかな?と思わせることもありました。グレーテルの吉田君、眠りの精の上田君・・・これは、お化粧によるもの?宝塚歌劇とは逆の倒錯の美を見事に演じてくれました。しかし、芸における圧巻は中尾君の魔女でした。こわ〜いお兄さん?それともおばあさん?こういうものを一度見てしまうと、くせになりそうです。

 それにしても、人数的な厳しさはどこも同じ。発足当初は40名いた北九州少年合唱隊も、最近は20名前後で推移しているようです。今年度は卒団者が抜けるとわずか12名。OBに頼らなくても維持できる少年合唱隊をと願ったものです。

北九州少年合唱隊第24回定期演奏会
平成22年11月23日(火) 北九州芸術劇場中劇場


   男声合唱につながるような歌声

 昨年に続いて、北九州少年合唱隊のコンサートに行ってきました。合唱そのものよりもくせになりそうな魅力のミュージカルに接してしまったからです。
 今年も、力強い「北九州市歌」でオープニングした合唱は、「ヨーロッパの響き」へとつながっていきます。しかも、並んでいる曲は、「狩りの歌」「森に響く歌声」とむしろ男声合唱曲が似つかわしいような曲が続きます。このような選曲も北九州少年合唱隊らしさです。4本のスタンドマイクで増幅されたその歌声は、あたかも繊細さを拒否するかのように力強く聴く人の耳にその歌声を刻み付けました。この少年合唱団がシューマンの「くるみの木」やメンデルスゾーンの「歌の翼に」などを歌ったらどんな感じになるのでしょう。そう思っていると、「おお牧場はみどり」が始まり、こちらはさわやかな歌になっていましたが、「ホイ」という掛け声に粘っこいあくの強さが気になって今一つ好きになれませんでした。しかし、このステージの本当の聴きどころは最後にやってきました。「流浪の民」は、合唱とソロのバランスもよく、最後まで息もつかせぬ一曲となりました。吉田君の独唱はほれぼれするようなできばえで、オペラのアリアではないのですから本当はあってはいけないのですが、歌の途中で拍手が起きてしまいました。
 OBと共に歌われた第3ステージでは、完全に混声合唱として「With you smile」や「この星に生まれて」といった力強い盛り上がりが期待できる曲を期待通りに聴かせてくれました。中尾政也君の「オロンテア」のアリア「私の偶像である人の周りに」はイタリア古典歌曲集の曲です。まだ声は出来上がっていませんがドラマティックな表現力で歌い上げました。これで前半の憧れに満ちた部分の繊細な表現が身につくとさらによい歌になりそうです。劇では悪役が回ってきて、それが堂に入っていますが、ベニアミーノ・ジーリの歌に耳を慣らされていた私には、粗く聞こえるところもありました。男声合唱の「Stand by me」では、この少年たちの等身大の歌を聴くことができました。

   演劇として楽しめた「ながくつねこ」

 これまで、この話は「長靴をはいた猫」として知っていました。ミュージカルの「ながくつねこ」になっても基本的にストーリーは同じ。ただ、フランス語の先生などは、子どもの頃に読んだ絵本には出てこなかったような・・・まさか上田君の美しい女装を見たいためこの役をつくったのではないと思いますが。騎士のスタイルをしたナレーターが狂言回しとしてストーリーを先導する流れは、去年の「ヘンゼルとグレーテル」と同じですが、ここでは、飯干望君のながぐつ猫と吉田真洋君のハンスのやりとりを核にして話は展開していきます。演劇的にはねこが主役ですが、歌そのものではハンスに美しい旋律の曲が与えられています。ただ、長丁場のために声に疲れが見えたところもありましたが、演劇的には、最後まで楽しませることができました。それは、友情出演で登場した小倉少年少女合唱団の振り付けの力に負うところが大きいと思います。それぞれの役の舞台の中での立ち位置もよく考えられており、視覚と聴覚の両方から迫ってくる演出は、いつも満足感をもたらしてくれます。

北九州少年合唱隊第25回定期演奏会
平成23(2011)年10月23日
(日) 北九州芸術劇場中劇場


   ボーイ・ソプラノがもつ悲しい宿命

 今年度は、コンサートが1か月前倒しで、呉少年合唱団のコンサートとバッティングしなかったので、迷うことなく北九州少年合唱隊のコンサートに行ってきました。3年連続行くと、また違ったものが見えてきます。それは、少年たちの成長であると同時に、変声期という壁とぶつかる姿でもありました。
 今年は、日独交流150周年にあたりますが、この間、音楽の世界においても日本はドイツの影響を受けてきました。今回の定期演奏会のプログラムでは各所にドイツの曲が盛り込まれていましたが。第1部では。ウェルナーの「野ばら」とシューマンの「流浪の民」が採り上げられていました。「野ばら」はア・カペラで歌われましたが、有節歌曲の単調さを防ぐためにも、2番をデュエットで歌うなどの工夫がみられました。このデュエットは、声質の清純さとハーモニーの美しさが聴かせどころを作ってくれました。しかし、「流浪の民」は昨年の演奏会でボーイ・ソプラノの頂点にあった吉田君が変声期に入り、突き抜けるような響きを聴くことができませんでした。それは、ボーイ・ソプラノがもつ悲しい宿命のようなもの。むしろ、次々とこのパートを歌える後継者を育てていくことこそが課題かなと思いました。男声部は人が入れ替わりましたが、昨年とは違った響きを聴かせてくれました。OBと共に歌われた第3ステージでは、完全に混声合唱として「With you smile」や「この星に生まれて」といった力強い盛り上がりが期待できる曲を期待通りに聴かせてくれました。むしろ、シニア隊員だけのステージでもOBにまだ変声前の少年がいて輝かしい声を響かせてくれました。このステージの曲が定番化されているのは、ミュージカルのほうに練習時間の多くを割いているためでもありましょう。 
 
   「白雪姫と七人のこびとたち」

 グリム童話を下敷きにしたこの作品を北九州少年合唱隊が採り上げるのは3回目で、初代・2代目の白雪姫も客席に来られているとのこと。しかも、初代の白雪姫様は近々ご結婚されるとか。まさかお相手はかつての王子様ではないでしょうね。(笑)この白雪姫には長いソロだけでなく、コロラトゥーラの技法が求められるところもありましたが、西田君は過不足なくこの役を演じてくれました。小人たちには技量の差がありますが、7人合わせて一つのものをつくリあげるという感じが伝わってきました。役者として面白かったのは、おきさき(2役)、鏡の精や、侍女が性格俳優のような演技と歌を見せてくれたことです。脇役が固まると芝居は面白くなってきます。しかも、狂言回しをするナレーターの吉田君は、かつての主役から脇を固める役として案内役以上のものを示していました。また、やっと女装から解放された上田君は美しい王子様を演じていました。いつものことながら、それぞれの役の舞台の中での立ち位置もよく考えられており、視覚と聴覚の両方から迫ってくる演出は、理屈抜きで楽しめます。しかも、この舞台が終わった後の高山保材隊長先生の愛に満ちた隊員の紹介はどうでしょう。たとえボーイ・ソプラノを失っても合唱隊を続けたいと少年たちに思わせる何かを感じました。しかし、隊員の絶対数が少ないことは大きな課題です。「子ぎつね」を歌った少年の中から隊員が入ってくれることを祈りながら帰途につきました。

北九州少年合唱隊第26回定期演奏会
平成24(2012)年10月28日
(日) 北九州芸術劇場中劇場


   器楽曲が原曲の合唱曲は

 今年も、力強い「北九州市歌」でオープニングした合唱は、「ヨーロッパの響き」へとつながっていきます。今年度採り上げた作品は、ヴィヴァルディの「四季」。もともと器楽曲の作品に日本語の歌詞をつけて合唱曲として歌うわけですから、隊員の歌唱力とはまた違った課題があります。北九州少年合唱隊の美質は、歌詞が非常にはっきりと聞き取れることです。ところが、この合唱曲では、その美質があまり生かされていませんでした。特に、スキャットと重なる部分ではそのように感じました。いろいろな曲に挑んでいくことは大切なことですが、今回の選曲については、そのような感をもちました。長年やわらかな美声で合唱隊を支えてきた西田君のソロも、今年は変声期の壁にぶつかって、今年は突き抜ける声を聞くことはできませんでした。中3だもん、仕方ないよ。誰もが通った道なんだから。むしろ、ソリストは、常に後継者を育てる必要があります。そうしないと、往年の名ソリストが辛い思いをするのではないでしょうか。逆に、OBと共に歌われた第3ステージでは、完全に定番化した「With you smile」や「この星に生まれて」が、よく歌い込まれており、期待通りの大きく盛り上がるできばえになっていました。 

   「ピーターパン」

 「ピーターパン」は、ミュージカルとしては世界的にも有名な作品で、日本のホリプロが制作を手がけるブロードウエイミュージカル「ピーター・パン」では、ワイアーロープで空を飛ぶピーターパンを見ることもできるのでしょうが、北九州少年合唱隊は、全く違う演出で見せてくれます。プログラムを見ると、「ピーターパン」を北九州少年合唱隊が採り上げるのは4年前以来で、年少の頃、違う役をした隊員たちが、主役級を演じ、かつてはボーイ・ソプラノで主役級を演じた隊員が男声の悪役などを演じる姿は、少年の声の成長やこの合唱隊の縦のつながりを感じさせるものでした。
 鶴君のピーターパンは、清潔感のあるアルトの伸びやかな声でこの舞台の骨格を作っていました。ウェンディ役の魚住君は、今ボーイ・ソプラノのピークを迎えており、柔らかな響きで聴かせる歌を歌っていました。演技としては、ティンカーベル役の野村君の小悪魔的な動きが面白く、ジェラシーという複雑な感情をうまく表現していました。また、フック船長の中尾君は、芝居巧者で悪役でありながらどことなく憎めないところもあり、劇全体を盛り上げてくれました。この合唱隊はミュージカルで女装して舞台に立つと、前半のステージでセーラー服と長ズボンの制服を着ているときに、あんな美しい少年はいたかな?といつも思うのです。まだ4歳というマイケル役の松本君は、年齢を感じさせない堂々とした演技で、何かセリフを言って動くたびに観客を楽しませてくれました。
 今年度、新入隊員がかなり入ってくれましたが、全体的にはOBを入れて何とか人数を確保できているという感がします。ミュージカルが主の合唱団は、合唱が主の合唱団とは発声も練習方法も違うと思いますが、特に、北九州少年合唱隊では、隊員本人のやる気と同時に、家族の理解と協力が大きいと感じました。

北九州少年合唱隊第27回定期演奏会
平成25(2013)年10月27日
(日) 北九州芸術劇場 中劇場


   隊形移動の中に、突き抜けるようなボーイ・ソプラノが

 今年も北九州市歌でスタートした北九州少年合唱隊第27回定期演奏会でしたが、オープニングでは、経験の差が、並んでいる隊員の身長差の大きさという形で見えてきました。この辺りに指導者のご苦労もあるだろうなと感じながら第1部を視聴していると、「北九州少年合唱隊の歌」、「天使の羽のマーチ」、「君をのせて」、「宇宙戦艦ヤマト」と曲が続くにつれ、ダイナミックな振り付け、隊形移動の中に、突き抜けるようなボーイ・ソプラノが聞こえてくるではありませんか。あれは、誰だ?プログラムの個人写真と名前を確認すると、昨年ミュージカル「ピーターパン」で、ウェンディ役をやった魚住龍太郎君であることがわかりました。昨年ボーイ・ソプラノのピークを迎えていると思っていましたが、さらにパワーアップして芯のある輝かしい声になっているではありませんか。新入隊員にとっては、振り付けや隊形移動は、それだけで歌に集中できにくいこともあるでしょうが、この少年合唱隊の特質を生かした演出ともいえるでしょう。本来は、第1部で正当な合唱曲を聴かせ、後半のミュージカルで役を演じ歌い踊るのが、北九州合唱隊の持ち味と言えるのでしょうが。

   はつらつとした男声合唱

 第2部の「少年隊OBと共に」では、「With you smile」や「空も飛べるはず」は、持ち歌としてよく歌い込まれており、この合唱団の持つ力強さの中にある抒情性を感じることができました。さらに、プログラムにか書かれていないOB隊員によるミュージカル「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」が歌われました。昨年末から今年にかけて映画が公開され、舞台でも加藤清史郎たちの歌でもこの歌は広く知られるようになってきましたが、この男声合唱は、重厚さこそないもののはつらつとした若者の合唱で好感をもちました。

   「星の王子さま」初演

 オペラには、俗に「プリマドンナオペラ」とか「プリモウォーモオペラ」と呼ばれる主役の比重が非常に高い演目があります。ミュージカル「星の王子さま」は、王子さまは殆ど出ずっぱりでソロもセリフも全体の約半分というもの。この役を演じられる少年がいてこそ上演可能なミュージカルです。第1部から輝かしい声を披露した魚住龍太郎君は、よく伸びる美声を輝かせて、安定感のある芝居で飛行士を演じた中尾友也君を相手に歌い踊ります。王様・キツネ・ヘビ・資産家などの役はベテラン陣が脇を固めますが、今回は出番はわずかでした。その中で北九州少年合唱隊名物の女装は「花」を演じた山下慧也君で、わがままで小悪魔的な感じをよく出していました。今回は、小学生以下の隊員は、ほとんど数人で一緒に登場して歌うという役でしたが、これからの成長が期待されます。と言いますのも、今回輝かしい歌を歌った魚住君も、2年前の小学5年生の頃は特別に目立つことはなかったからです。急に頭角を現してきたと言えるでしょう。この時期の少年の1〜2年間の成長がいかに大きいかを改めて感じました。また、このミュージカルでは、「象を丸飲みしたウワバミ(蛇)」の絵をはじめ、絵や文字をスクリーンに映し出すといった新たな手法が使われ、視覚的な効果を表していました。舞台の上だけでこれを表現することは難しいでしょうし、その有名な絵を見てこそ、この話の本質に迫れます。
 北九州少年合唱隊は、何年かごとに「ながぐつねこ」「白雪姫と七人の小人」「ピーターパン」などの名作を再上演していますが、「星の王子さま」を再上演するのはいつになることでしょうか。また、前者のミュージカルなどは、原作が子ども向けの童話ですから、小さい子どもでもストーリーの理解が可能です。しかし、「星の王子さま」は、むしろ「大人の童話」ですから、小さい子どもにとって、この舞台は、どう受け止められたでしょうか。想像の域を出ませんが、「王子さまの声はすごくきれいだったよ。」でよいのではないでしょうか。

第33回 全日本少年少女合唱祭 西宮大会 
3月28日(金)〜29日(土) アミティーホール


第1ステージ 28日 10:30〜12:30 北九州少年合唱隊

   
ミュージカルの片鱗を見せた北九州少年合唱隊

 第1ステージの最初に登場した北九州少年合唱隊12名(2曲目からは13人)は、先ず、「リベラ」の歌で有名になったNHK土曜ドラマ「氷壁」の主題歌「彼方の光」をソプラノとバリトンのソロを中心にした編曲で隊形移動を含めた曲に紡ぎあげました。これは、北九州少年合唱隊の持ち味を生かした演出で、ボーイ・ソプラノが浮き出るような演奏でした。続く「Stand Alone」は、司馬遼太郎原作のの「坂の上の雲」のNHKドラマの主題歌で、これまたあまり児童合唱としては採り上げない曲が選ばれました。これは、歌詞のごとく凛とした演奏でした。このような選曲もまた、北九州少年合唱隊の一側面をよく表しています。3曲目の「宇宙戦艦ヤマト」は、持ち歌の一つで、隊形移動しながらこの歌を力強く構成していきました。指揮の井上博子先生は、定期演奏会ではいつもミュージカルの指揮をしておられますが、今回初めてそれ以外の指揮を見ることができました。このステージからもミュージカルの片鱗を見ることができました。帰りがけの隊員たちに、「演奏よかったよ。女装がなかったのが残念でした。」と声をかけましたが、このジョークわかってくれたでしょうか。


 北九州少年合唱隊第28回定期演奏会
平成26(2014)年11月2日(日) 北九州芸術劇場 中劇場


   ヨーロッパの響きに少し近づいた宗教曲
   
 着席してプログラムを見ていると、例年2ページなのに、今年度は1ページに収められた隊員数の減少が気になります。しかし、15人(インフルエンザで1人欠席)が、2列に並んで「北九州市歌」を歌い始めると、力強さは健在でした。今回は、いつもミュージカルの指揮をされている井上先生が「宗教曲」を指揮されました。ヨーロッパ系の透明度の高い宗教曲と比べると、やや日本的な響きが混じった響きなのですが、5年前よりは、確実に「ヨーロッパの響き」に近づいていました、フォーレの「レクイエム」から「ピエ・イエズ」では、橋本君のソロも入り慎ましやかな歌になっており、続くフランクの「パニス・アンジェリクス」では、ゆったりした旋律をたおやかに歌っていました。さらに、あまり聴くことのないサン・サーンスの「アヴェ・マリア」と続きます。
 今回は、「OBと共に」のステージで、純然たるOBが3人だけということで、あまり人数が増え、ボリュームが増したという感じがしませんでした。そのような中で、「夢の世界を」「雨のちハレルヤ」は、やや薄味かなと思っていたところ、「With you smile」になると俄然これまで歌い込んできたものが表出して、この曲のもつ生命力のようなものが浮き彫りになっていました。なお、今年度は、OBだけのステージはありませんでした。

   少年にふさわしいミュージカル作品とは

 このような人数的に厳しい困難の中、北九州少年合唱隊は、「ノートルダムの鐘」という新しい合唱ミュージカルに挑戦しました。指揮は、隊長の高山先生でした。原作はヴィクトル・ユーゴ―の「ノートルダム・ドゥ・パリ」。日本では、現代では障がい者差別につながるような題で紹介されたため、このような題にしたのでしょうが、実際に舞台化するのには、いくつかのハードルをクリアーしなければならないと感じました。少年時代に読んだ60年前に出版された本を開いてみると、登場人物の紹介の部分だけ読んでも差別用語が次々と。確かに、ミュージカルでは、それは薄められているものの、人物像も原作から大きく変えられており、「ノートルダム・ドゥ・パリ」を下敷きにした別の作品と考えた方がよいでしょう。しかも、この日描かれたのは、ダイジェスト版です。端的に言えば、この作品の主題である人間の表面と内面の「美」と「醜」を表現するのは少年では難しいと痛感しました。とりわけ、ミュージカルという舞台芸術においては、視覚的な要素が強いことを再認識しました、
 カジモド役の橋本君は、醜く見せるためのマスクをかぶっていましたが、ほとんどそれを眼鏡を上げるようにかぶっていたためよけいに素顔が見えて、顔も声も「美しいカジモド」になっていました。そのため、見ていて感情移入がしにくくなってしまいました。これは誰が演じてもきっとそうなるでしょう。一方、フロロー役の西田君は、すっかり安定したハイ・バリトンの声で善の中に潜む悪を表現していました。フィーバスはかなり単細胞な役に描かれていましたが、藤田君は、直情的なところが伝わる演技でした。その三人の男たちの愛を受けるエスメラルダを演じた斉藤君がまだ可愛いだけの歌と演技なのは、年齢的にも仕方ないことなのでしょう。ヨーロッパの各地において今では「ロマ」と呼ばれる人たちに向けられた民族的な偏見は、予備知識のない観客にはわかりにくいでしょう。驚いたのは、狂言回し役のクロパンを演じた魚住君で、ファルセットを駆使してこの作品を面白く伝えようとしていました。隊員たちは、みんなそれぞれの役を最大の努力で演じていましたが、作品の時代的・社会的背景を理解しなければ、一人の女性を巡る三人の男たちの恋愛劇にとどまってしまい、この作品の本質に迫れないという大きな壁も感じました。少年たちには、その年齢にふさわしいミュージカル作品があるのではないだろうかかというのが、私の想いです。


 北九州少年合唱隊第29回定期演奏会
平成27(2015)年10月25日
(日) 北九州芸術劇場中劇場

   この少年合唱隊の持ち味は

 今年は、プログラムに顔写真が載っている隊員は14名と人数的には、厳しい状況が続いています。応援に駆け付けたOBを入れても18名。この日は、北橋健治市長のあいさつで始まりましたが、役人の作文ではなく、自分の言葉で話をされていることに好感をもちました。スタートは、今年も、力強い「北九州市歌」でオープニングしました。第1部の「少年の世界」は、おお「スザンナ〜草競馬」は、軽やかな明るい歌で曲想に合ったよいスタートでしたが、「カントリーロード」は、かつてビクター少年合唱隊の名演が耳の底に残っていたこともあってこの曲に求められているものとはやや違うものを感じました。それは、振り付けがそうさせたのかもしれません。北九州少年合唱隊は、第3部のミュージカルでたっぷり振り付けを見ることができるのですから、第1部はむしろ歌に集中した方がお互いが引き立つのではないでしょうか。また、西田君が、下級生を支えながらソロも聞かせてくれ、よい先輩ぶりを見せていたことが心に残ります。
 また、OBが混じった場合、この少年合唱隊の歌声の特質を生かした合唱曲は「夢の世界を」のような憧れを感じさせるような曲よりも、「With you smile」のような大きく盛り上がる曲ではないかと改めて感じました。 
 さらに、第2幕の北九州市小倉少年少女合唱団の今年の演目は、KJCポピュラーから3曲でした。この日の演奏と表現は、むしろリズム感よりも優美さが特色で、これまでとは一味違うものを表現しました。なお、数年前は少年も約1〜2名いたのですが、このところ完全に少女合唱団になっています。いつもなら、ここで休憩なのですが、この日は、隊員一人ひとりに光を当てるような、スクリーン一杯の隊員紹介の画像上映があり、合唱ミュージカル「ピーターパン」への期待を高め、名前と顔の一致を図ろうとする工夫と努力を感じました。

   演出が違った「ピーターパン」

 「ピーターパン」は、北九州少年合唱隊にとって、上演4回目の定番ミュージカルとなりました。しかも3年前と演出が違うところに創意工夫の跡が見られます。隊員の人数や年齢構成の関係で、今年は主演級が前回よりも2年ぐらい若くというか幼く3・4年生になっていました。ピーターパン役の末次君は、まっすぐな力強さやたくましさを感じさせる歌と演技でした。ウェンディ役の金子君は柔らかい歌声を披露しました。ティンカー・ベル役の古田君は、ジェラシーという複雑な感情表現がまだ十分できないところはあるものの、この役に精一杯取り組んでいることは伝わってきました。また、タイガー・リリー役の丸下君は可憐さを精一杯表現していました。この4人がもう2年後ならもっとそのような微妙な表現ができるようになるだろうなと感じさせました。その代わり、ほとんど練習する機会も時間もなかったと思われるOBたちが、脇をしっかりと固めていました。特に中尾君のワニの演技は絶妙で、かぶりものをかぶって演技しているという感じを起こさせない表情のあるもので、長年舞台に立ってきたことが、このような役でも生きていました。かつてはボーイ・ソプラノで主役級を演じた隊員が変声後悪役やコミカルな役を演じる姿は、少年の声の成長やこの合唱隊の縦のつながりを感じさせるものでした。
 最後に、高山保材隊長があいさつされましたが、人数的には厳しい状況の中でも決して弱音を吐かない凛としたものを感じました。




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