新潟少年合唱団
 少年合唱団の解散や少年少女合唱団への移行が相次ぐなかで、新しく少年合唱団が誕生したという嬉しいニュースが入りました。その名は「新潟少年合唱団」。新しい少年合唱団の誕生を祝い、その前途に幸多からんことをお祈りします。
  平成12(2000)年10月に誕生し、スタート時は団員はわずか5人だったそうですが、その後25人にまで増えました。令和3(2021)年現在は、14人です。
 平成14(2002)年11月17日(日)だいしホールで第1回演奏会を行いました。(団員はこの時点では小学2年生から中学2年生までの20名) 指導者は、スタート時は久住和磨(作曲家、新潟大学名誉教授で、毎年新潟市で演奏される「メサイア」の常任指揮者) 相川高子 樋口由起子 吉村陽子(ピアノ)の4名でしたが、現在は長川絢子も加わって5名の先生方でしたが、久住和磨の逝去により、指導陣は、長川絢子を中心とし、最近では団員数は10数人で推移しています。
 毎年11~12月に定期演奏会を行っていましたが、平成25年度は平成26年1月に行いました。その後は、冬を中心に行っていましたが、令和3(2021)年の第19回定期演奏会は、コロナ禍でできない時期もあったため、8月に行いました。

     

 新潟少年合唱団 第18回定期演奏会
令和元(2019)年12月15日
(日)  だいしホール (YouTube映像鑑賞

    多様な曲でありながら親しみやすいプログラム

 ステージに上がっている団員の誰もがマスクをしていないことから、このときは、まだ新型コロナウィルスが日本に上陸していなかった時ということがわかります。1stステージは、上手と下手の両方から登場した、マスクをしていない13人の団員が「友達賛歌」を歌いながら、2段の定位置に並びましたが、ボーイ・ソプラノのオブリガードがよく響きます。同じ列の中でも団員間に40cmぐらいの身長差があるところから、小学校中学年から高校生ぐらいまでの団員ではないかと思われま続く、「線路は続くよどこまでも」は、混声合唱で、声部が絡み合いますが、ここでもボーイ・ソプラノのオブリガードが快く響きます。3曲目は、歌ではなく、「Music for Hand Clapping」という歌のない手拍子足拍子の曲が続き、4曲目の「イカイカイルカ」は、動きの入った歌で、選曲の多様性を感じさせます。ここで、団員紹介で、1人あるいは2人ずつ自己紹介した後、団員による指導者の紹介もあり、団員一人ずつが輝く場を作っていると同時に、紹介があるごとに会場から拍手が起こり、舞台の上と下が一体になっている姿が伝わってきました。ただ、時々ではありますが、曲が終わるごとに大声で「ブラボー!」と叫ぶ声は、本当にその歌のすばらしさを絶賛しているよりも、かえってコンサートの余韻を妨げているように感じました。

 その後は、合唱曲らしい曲に戻って、「ビリーブ」宗教曲の「荒野のはてに」「ビザンチン頌歌」ロイド・ウェッバーの「ピエ•イエズ」がボーイ・ソプラノだけで、あるいは混声合唱で歌われると、しっとりした雰囲気が醸成されてきました。宗教曲で会場の雰囲気がしっとりりした後は、「シャボン玉」「海」「七つの子」「夕やけこやけ」「月の砂漠」「砂山」と、よく知られた童謡や歌曲が並び、「月の砂漠」には、ソロを入れたり、団員の指揮で「砂山」新潟市民歌「砂浜で」は、観客と一緒に歌うなどの工夫も見られましたが、観客が「砂山」と「砂浜で」「浜千鳥」を、どの曲も同じぐらいの声でしっかり歌っていることには感心しました。

    混声合唱団だからこそ表現できること

 2ndステージは、「勇気100%」から始まりましたが、Ya・Ya・yahの歌とは違って、合唱曲らしい雰囲気がよく出ていました。「音のシンフォニー」は、いろいろな動物の鳴き声や楽器等の音を交えて楽しそうな雰囲気を醸し出していました。「夢の世界を」では、混声合唱の世界に戻り、「少年の日は いま」は、この合唱団のよさが一番よく発揮された歌に仕上がっていました。「いつも何度でも」は、むしろ変声後の男声を前面に出した編曲で、この合唱団だからこそできる独特の世界観を描き出していました。このステージ最後のアルペジオの前奏に続いて歌われる「歌は風にのって」は、曲想にあったさわやかな雰囲気を感じることができました。

 アンコールステージは、「きみに会えて」で始まりましたが、卒業式などでもよくこの歌がもっている出会いの感動がじんわりと伝わってくるような歌に仕上がっていました。「Music for Hand Clapping」は、1stステージでも演奏されましたが、リズムによる音楽の面白さを再現するという感じでした。会場の観客と共に歌う「今日の日はさようなら」でしっとりと終わるというアンコールステージの組み立てもよくできていると感じました。

 新潟少年合唱団 第20回定期演奏会
令和5(2023)年1月29日(日)  だいしほくえつホール (YouTube映像鑑賞)

      予習のいらないプログラムは貴重

 今、日本の少年合唱は危機的な状況に置かれています。1960年代前後に次々と誕生した少年合唱団(隊)は、一時的な流行(ブーム)が去ると少年少女合唱団になったり、解散したりしていきました。その中で、流行には関係なく平成12(2000)年に誕生した新潟少年合唱団は、貴重な存在です。5人でスタートしながら、最高25人まで増えましたが、最近は10人台の中で推移してきました。9人という人数をどう思うかは、人によって感じ方が違うでしょうが、一人一人が高い意識をもって参加していることは間違いないでしょう。コロナ禍の中、地方へ行くほど、少年合唱をめぐる状況の厳しさを感じます。会場のだいしほくえつホールは、聴き慣れない名前でしたが、「だいしホール」が、第四銀行と北越銀行が合併し「第四北越銀行」設立にともない、ホールの名称変更したことがわかりました。

 こんな1桁の横一列に並べる人数でも、ステージ上でマスクをしなければいけないのかと思いながら観ていました。本来なら、第20回の記念定期演奏会のはずですが、舞台上にそのような華やかな掲示物はなく、簡素な舞台で、1stステージは、下手から登場した9人の団員が、おそらく定例の入場曲であろう「友達賛歌」を歌いながら、舞台をぐるぐると回って、指揮者の位置から扇型の定位置の台上に並びました。プログラムを見て感じた嬉しいことは、やたらと難解な曲や、「合唱のためのエチュード」的なマニアックな合唱ファンにしか知られない歌はなく、地域に親しまれた曲を含め、少なくとも「子どもの歌」や「少年の歌声」が好きな人なら誰もが親しめる予習のいらない曲を並べていることです。確かに半世紀以上前に作られ、現在あまり聴くことのない曲もありますが、若い世代で初めて聴く人にも決して古さを感じない選曲です。 YouTube映像の下に演奏された曲名も紹介されていますので、あえてプログラムを丸写しするような曲名の紹介はしませんが、2~4曲ぐらいが一つのまとまりとなって団員によって紹介されているところに、メッセージ性を感じます。これは、かつて、ボーイズ・エコー・宝塚がやってきたことですが、特にコロナ禍の今、非常に大切なことだと考えます。ここであえて挙げた「合唱のためのエチュード」のような曲は、ショパンのピアノ練習曲のような芸術性の高い名曲ではなく、文字通り合唱用の練習曲なのですから、「本番ではなく、練習の時にやってください。」と言いたいです。一般客にとって、耳になじみのない曲を中心とした選曲でプログラムを組んだ結果として、観客動員数は増えず、曲に親しみを感じないため新入団員の獲得を妨げている実態もあると感じています。

   観客は、何に対してエールを送っているのか 

 歌の合間の団員紹介で、1人ずつの自己紹介もあり、一人一人の声の個性や、変声期に入っているかどうかも伺えましたが、何よりも曲の紹介や自己紹介があるごとに会場から拍手が起こり、これは、会場の人数が最大269席で、身内もかなり多いということで可能な面もありますが、舞台の上と下の一体感が伝わってきました。しかし、よく聞いてみると、「今何年生で入団したのは何年生です。」という自己紹介から、一人一人は頑張っていても、コロナ禍以後入団した団員は殆どいないのではないかということが気になります。これは、全国の少年合唱団共通の課題ではないでしょうか。また、「Music for Hand Clapping」は、手足でリズムを刻む歌ではない定番曲になっているのでしょうが、観客にとっては、新潟少年合唱団の20数年の「伝統」は健在と感じさせたのではなかったでしょうか。本来なら、会場の皆さんと一緒に歌うはずの「新潟市民歌 砂浜で」は、OB5人を加えた合唱でしたが、その後、OBの自己紹介で、卒団後どうしていたか等の話もあり、音楽の世界で生活している人はいなくても、新潟少年合唱団に在籍したことが、現在の自分の人間的な成長につながっていることが伺われると同時に、後輩を応援しようという縦のつながりが生きていることを感じさせました。こういうことも、拍手につながっているのだと思います。 

 1stステージでも、2ndステージでも、一つ一つの曲では、その曲の楽しさや魅力、あるいは曲が伝えようとするメッセージが伝わってきましたし、変声前のソプラノパートのオブリーガートを多用するなど、これが大変美しくて効果的で、混声合唱団だからこそできる表現も感じることができました。一方、変化を持たせるためには、部分ソロはありましたが、すべて9人で歌うより、全曲ソロやデュエットがあったり、変声前だけ、変声後だけの合唱もあってもよいと感じました。しかし、新潟少年合唱団の歌「歌は風に乗って」と「いま、地球(ふるさと)が美しい」を聴いたとき、それまで感じていたことが小さなことであり、こんな厳しい状況の中、よく頑張られたという爽やかな気持ちが残りました。定期演奏会をYouTubeで公開することは、よさを伝えるとともに、弱点を知られることにもつながるのですが、厳しい状況のこの時期、あえて公開に踏み切った新潟少年合唱団の英断にエールを送りたいと思います。




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