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島の時間 宮古 八重山
 

東京の自宅のテレビで全国の天気予報を見るとき、画面の左下隅に三つの点があるのを確認するのが癖に
なった。右から宮古島、石垣島、西表島である。これら沖縄県の先島諸島と呼ばれる島々に昨年夏から今
年の初夏にかけて幾度かにわたって旅をした。最初に島に着いたときからなぜか懐かしいという感情がわ
き上がった。まとわりつくように湿ってはいるが決して不快ではない空気。息をのむような海の美しさ。
そしてゆったりと感じられる時間の流れ。前世というものを初めて意識した。旅の道連れは6×6のカメラ
たち。今回、島を撮るのはスクエアな画面にしようと心に決めていた。今から20年以上前、中学生になっ
て写真部に入って写真雑誌を訳も分からず見ていた頃、正方形の画面で写真を発表している人がいた。ひ
とりは静岡県の木村仲久さんというベテランのアマチュア作家で使っているのはミノルタオートコード。
お祭りに来ている少女を撮るのがとてもうまい人だった。 もうひとり好きだったのが山陰で写真館をやっ
ているという年輩の人で植田正治さん。(当時はその程度の知識だったからしょうがない。)砂丘の写真
がとても新鮮で高校の修学旅行で鳥取砂丘に行ったときは嬉しかった。35ミリで撮った写真を正方形にト
リミングしてプリントしてみたりした。自分も大人になったら二眼レフというのを手に入れて四角い写真
を撮ってやろうと密かに決意していたのだ。大学で写真を学ぶようになってからは横浜の看板屋さんです
ごい写真を撮る人がいることを知った。サーカスの写真は心に浸みた。鈴木清さんだった。そして時は流
れ、写真で飯が食えるようになって写真雑誌をめくる余裕ができたとき、三人とも逝ってしまった。心に
ぽっかり穴があいたようだった。ローライフレックスを防湿庫から引っぱり出した。正方形のピントグラ
スのなかに中学、高校の頃、次の号が出るまで何度も写真雑誌を読み返していた自分を思い出した。  
 

日本カメラ2001年9月号掲載文
 

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