それでも私は

お前を想い奏でよう




 -Endless ballade-






ある日、街中で流れていたラジオ。

そこから聞こえた一説の言葉。

頭の中で繰り返されるそれに、何故か胸は痛み、目尻が熱くなった。

あぁ、そうだ。

長い間沈んでいた記憶がゆっくりと浮かんで来るようだった。


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−ねぇ、いい加減教えてくれない?

−…何がだ?

−これ、

−?

−何か書いてあるじゃない。

−呪いみたいなものだ、

−何それ?私は年端もいかない子供じゃないわ。

−分かっている。


−…はぐらかさないで、

−お前がこんなに気に掛けるとは思っていなかった。

−自惚れないで。

−読めないのだろう?

−………。

−それで良い。

−あまり良い気分ではないわね。

−…母国語だ。今は亡き、だがな。

−内容は?

−…気になるか?

−…まぁいいわ。どうせ下らないコトなんでしょ。

−あぁ、そうだな。



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結局、分からないまま。

もう、あの人はいない。

読めない言葉。

調べれば簡単に解くことは出来たのだろう。

けれど、それはしない。

どうでもいい。

そんな上辺の理由。

教えて欲しかった。

そんな有り得ない理由。

どれが一番?知らないわ。



どれだけ時間が経っても色褪せない記憶。

理由は…分かる。

忘れたくないんだ。

あの人の声も、温もりも、心臓の脈打つ音も。

人間だったあの人を忘れたくないから…。

でも、忘れたい。

自然に消えていくんだと、そう思い続けてきた。

でもそれは違った。

いつでも思い出そうとすれば、あっさりと浮かぶ。

そして自己嫌悪が襲う。


けれど…今は。

不思議と痛みは無かった。


流れてきたメロディ。

優しい歌声が脳内に響く。

いつしかそれは懐かしい声へと変化し、安らぎをくれた。




「同じね…」

紡がれた言葉に親近感にも似た何か。


これ以上聴いてはいけない。

本能がそう告げた。


誰にも気付かれないように静かに席を立った。



残された紅茶に微かな苦味。







 -END-



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後書:
ザトミリというかミリア側のみですが…。
人としての、ある一瞬までは本当に彼を必要としていたのだと、脳内捏造。
あ、私が、ですよ。嬢は…分かっているけれど、その意識を受け止めたり拒絶したり。
感情の起伏によって様々。苦悩、かもしれないし、それがあるから自分なんだと思ったり。
どうすることが正解なのか、自分が望むことは何なのか。
そんなもの含めて行ったり来たり浮いたり沈んだり。
今回は比較的享受的に、ある程度の整理と取捨が出来ている状態、なのかな。

想い出の曲って、誰にでもあるものです。
不意に耳にすると思い掛けない記憶が蘇って。
不思議なものですね。