その季節はいつだったか、それさえも曖昧。
廊下で声を掛けられ振り返った。
そこには似て否なる金の髪。
硝子細工
「……何」
不機嫌なのか戸惑っているのか分からない間隔で返ってきた声。
青い目は静かにこちらを映している。
「…何なの」
言葉を一つ紡ぐだけの動作さえも。
嫌悪を表す僅かな眉の顰め方も。
触れてみたいという衝動。
「貴女に用事があって」
「だから何」
既に彼女の視界に私の姿は無かった。
「部屋で話しても、構わないか?」
疑問と、明らかな拒否を表す表情で、沈黙。
そんなにも嫌われていたとは…。
いや、分かりきってはいたのだけど…。
「忙しいようなら無理にとは言わない」
「そう。じゃあ失礼するわ」
何事も無かったかのように踵を返し、歩き始めた。
次第に広がる距離感に、少し胸が痛んだ。
何者も寄せ付けないその背中。
触れようとすればそれは鏡のように、愚かな私に気付く。
私に何が出来ると言うのか。
ただ生まれてしまった好奇心。
それは彼女を傷付けるだけではないか。
私はそんなことを望んでいる訳ではない。
彼女の姿が見えなくなる前に私もその場を離れた。
一人、部屋へ戻ると、いつもと同じ静寂。
小さな溜息を一つ、部屋に響かせた。
窓の外にはもう欠けた月が浮かび上がり、室内に薄い影を作り出していた。
そのうちの一つ、プライベートデスクの引き出しに手を掛け、止めた。
中で一瞬、カタリと小さな音がしたが無視した。
そのまま寝室へ行き、ベッドへ腰を下ろした。
俯けば肩に掛かっていた髪の束が落ちる。
鏡ではない。
私と彼女は似ても似つかない。
そう、喩えるなら硝子。
輪郭は捉えられても中身は見えない。
けれど確かに存在している。
そして触れようとすればその者が映し出される。
それを見て彼女はどう思うのだろうか。
ただの愚者にしか思わないのだろうか。
そしてそれは私もその中の一人…?
唯一、違うとすればそれがあの方なのだろう…。
悔しい、とは違う。
だがコレは何かしらの感情なのだろう。
今はまだよく分からない。
綺麗だ。
声にはせずに、思う。
…あの方はさらりと、しかし愛して、言えるのだろう。
憧れ、でもない。
私もそうありたいとは、思わない。
その筈なのに、何故か靄が外れない。
分からない。
鏡に映るのは、同じく靄。
その中までは覗けない。
…硝子の様に、透明ならば或いは。
それが口実でもいい。
触れてみたい。
-END-
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後書:
猫丸様よりリクエスト。『ザトーとミリアとヴェノム』
……すいません、ザトー様、名前だけのご出演となりました(滝汗)
こんなものでしかありませんが、お持ち帰り下さいませ。
我が家の毒ミリの根底はこんな感じです。
あくまでもザトミリでありながら、なのです。