待ちぼうけ
今日も一日、仕事と呼べない仕事を片付け帰りに一杯、と思って酒場を選んでいた時だ。
街灯の下にいつか見た独特の髪の色。
安易に日本を想像させる服装。
その片袖を揺らしてキセルをフかす姿はお世辞にも可愛いとは言い難く。
けれど夜も更け込む時間にいくら彼女と言えど放っておけない。
態の悪い破落戸や賞金稼ぎの良い的だ。
それは、彼女に敵う男なんてのは指折り数えるくらいで、町の野郎共では無理だと分かっていても、だ。
「こんな時間にレィディが一人たぁ感心しないなぁ」
ジョニーはいつもの調子で佇む人に声を掛けた。
その声に顔を向け、逸らし、煙を吹く。
そのまま面倒そうに梅喧は応えた。
「…オッサンが何の用だい」
「もうちょっと他の言いようは無いのかい?」
予想はしていたけれど、相変わらずだと肩を竦めるジョニー。
梅喧は気にもせず煙を吹く。
「用が無いなら消えな」
「確かに用はねぇが…どうだ、一杯付き合わないか?」
そこで初めて梅喧はジョニーと会話をした。
「アンタの奢りなら」
らしい、といえばそれまでだが…。
取り合えず一人にすることもなくなったとジョニーは笑った。
「ありがたいねぇ。ところでお前さん、何をしてたんだ?」
「…酒を待ってたんだがな、来る気が無いらしい」
ジョニーが来た方向とは逆を見つめて呆れたように息を付いた。
「〜?」
何のコトだ?、と首を傾げるジョニー。
それを見て苦笑いしながら梅喧はキセルを懐に戻した。
「気にすんな。」
見つめていた空間を背に歩き始めた。
ジョニーもそれに併せて歩く。
と、不意に梅喧の肩になま暖かい感覚。
横目で見ればそれはジョニーの手。
梅喧はいつもながらどうにかならんものかと思いながら放っておいた。
そして軽く息を吐いた瞬間だった。
「…!ちょ、何、してんだ…!」
激しく息の切れた声が背後から二人に響いた。
掠れてはいるものの、それはしっかりと聞こえた。
「闇慈、」
肩で息をしながら、小脇には大事そうに…といっても落ちない程度に抱えられた瓶が二つ三つ。
「…お前が酒、か?」
「は?ていうか何でアンタが姐さんと…!」
「いや、酒を誘われてな」
「お前さんもどうだい?」
全くどうにも闇慈には気に障ることだらけの状況で。
二人ともがそれに気付かないわけも無いのだが、態度は変わらないまま。
それどころかその状況下に巻き込もうとしている。
「その前にいい加減その肩の手を離してくれねぇか?」
呼吸も落ち着き、真っ直ぐとジョニーを見据える。
が、しかしそんなことくらいで怯む男ではないこのジョニー。
「ん?あぁ…だが俺が誰を誘おうが、構わないだろ?」
「うぐ…」
「それとも人の女、になるのかい?」
「…あんた、楽しんでるだろ」
依然として肩の上の手は留まったままだし。
「酒は楽しむもんだぜ」
肩を竦めて見せるジョニーを横目に、梅喧が溜息を付いた。
それから置かれていた手を払い、両者に言う。
二人の言い争いなど、どうでも良いような表情で。
「何でも良いから早くしろ」
「あ、姐さんまで…」
「最初に待たせたのはどっちだ?」
「…すまねぇ、でもこの酒は本物の一級品だぜ!」
「当たり前だろ、この唐変木が」
「あー…俺としたことが急用を思い出した。」
「…は?」
「てなわけで奢りはまた今度だ、梅喧」
本当にすまねぇ、今度は二倍でもてなすからさぁ?と、身を屈めて耳打ちする。
梅喧は呆れたように苦笑した。
「…物好きが」
「まぁそう言いなさんな。……闇慈」
「何だ?」
「大事なもんは、一人にさせるもんじゃないぜ?」
「なっ…!」
「じゃあな」
ジョニーは颯爽と黒コートを翻し、いつもの決めポーズの後、街の中へと姿を消した。
「何しに来たんだ彼奴は…」
むすっとしている闇慈に近寄り、梅喧は改めて見上げる。
「遅い。」
一言、それだけを言った。
「…ごめん。」
闇慈もそれだけ。
「まぁ、良いさ。帰るぞ」
梅喧は視線を外し、闇慈の横をジョニーとは反対方向へ歩き出す。
本来の目的地の方向へ。
その後ろを闇慈が一歩遅れて追う。
恐る恐る横顔を覗き込んで聞いてみた。
「姐さん…怒ってない?」
「あぁ?…そうだな、酒が不味けりゃ嫌になるくらい怒ってやるよ」
風に揺られた前髪が丁度傷を隠すように、その奥の瞳だけを見せるように靡いた。
その中に怒りなど初めから無かったことを認めて、闇慈は安堵のの息をつく。
同時に感じる感情もあったのだけれど、今は、伏せておいた。
「ありがと、姐さん」
「…次は無いぞ」
「……えっ!?」
「冗談だ」
「……姐さん、性格変わった」
-END-
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後書:
闇梅にジョニー参戦(違)
何か恥ずかしいのでコメントし難いです(苦笑)
お題について…
『待ちぼうけ』ということでした。誰かを待ってる、というイメージは姐御が強かったので…
もう少しちゃんと書きたかったんですが…残念です。言葉に出来ない自分が恨めしい。