走って 隠れて 息を潜めた


裏路地に 見慣れない影




 捨て猫






乱れた息遣い 揺れる肩

身にまとった襤褸布

その隙間 漏れた糸

くすんで見えたそれは

微かな斜光に煌めいた


 −…にゃぁ


柔らかい声

振り返る風

目が合う


 −…猫、?


冷たい声

青い瞳

くすんだ金色

彼女は思った

似ている と

どうしてかは分からない

けれどそう 感じた






 −ちっ、何処へ消えた…あの女…!


騒がしい。

いつもよりも騒がしい。

良くないことが起こっているのだろう。

人間は喧騒を嫌う。

自分に火の粉が掛かるのを恐れる。

けれど。

その火の中でしか

自分という存在を見出せない

そんな存在も確かにあるのだと。

私は知っている。


 −にゃぁ。


さっきよりも少しはっきりとした声。


 −…今は、構っている暇は無いのだけれど…、


 −にゃぁ。


声はしつこいくらい耳に残る。

弱い存在と植え付ける為に。

そして其処に在ると示す為に。


一種の、賭け。


自分という存在が認められるか、否か。

拾い手は居るのか、居ないのか。

生きるか、死ぬか。


 −…そんな目で見ないでよ、


上手くいきそうだ。


 −…これ以上此処に居たら巻き込んじゃうわね。


しゅる、と静かに何かが動いた。

糸…いや、髪だ。

あの綺麗だった髪が、動いている。

器用に私の体に取り付き、私は浮いた。


 −私が此処を離れればそれで良いのかも知れないけれど…。


青い瞳が少し細くなった。


 −…でもどうしてかしら…貴方も連れて行きたくなったわ。


嬉しそうな仕草も忘れない。

本当の理由は伏せておく。

頬を髪に摺り寄せ、喉を鳴らす。


 −…その首輪、大っ嫌いな色だわ。


確かに私の毛色とは不釣合いだとは思っていた。

けれどそこまではっきり言われたのは初めてだ。


 −さぁ、どっちへ行こうかしら…。貴方、知ってる?


 −にゃぁ?


 −…何処も此処よりはマシ?


ぐぅ、と喉を鳴らせば、彼女も微笑った、ような気がした。






彼女の髪は確かに追っ手を貫き、生命を絶った。

それは鮮明に覚えている。

けれど同時に温かくもあった。




 -END-


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後書:
ミリアと猫。前から書いてみたかったテーマなんですが…もう一つくらい書いても良いかな。
これはこれで、という感じで。ミリア逃亡中、初代の前、位でしょうか…。
色々語りたいこともあるのですが…うーん、そうですね。
救うとか救われたとか、所詮は主観なんですよね。だから…えーっと…上手く言葉にならない…。
スイマセン(汗)

お題について:
『捨て猫』とのことでしたが…相変わらず描写少ないです、はい。
想像にお任せします、首輪の色とか(苦笑)