あぁ、なんて冷たいんだろうな。

今までこんなに冷たい雨は初めてだ。




 雨






空の色は分からない。

闇があるだけだった。

そこから無数の雨が降り注ぐ。

もうどれくらいそれに打たれているだろうか。

服は体と一つになった感触。

唯一正確に感知するのは背の温もりだけ。





その冬、季節外れの豪雨だと誰かが言っていた。

勿論、それはコロニーで、のことだが。


梅喧が帰って数日、そんな知らせを聞いたのだ。

 「雨なんて、鬱陶しいねぇ」

そう呟いて空を見上げた。

どんよりと、重たそうな雲が連なっていた。

 「本当、邪魔だよ、あんた等」

行く当ての無い文句を口にして、苦笑った。

別に太陽が好きなわけではない。

それでもやはり晴れ渡った空は気分が良い。

その方が酒も美味いというものだ。

 「…そういや、もう無かったか」

昨日の晩酌で酒を空け切ったコトに気付いた梅喧。

 「豪雨、ねぇ…。ま、大丈夫だろ」


とっておきの酒と場所が思い浮かんで、彼女は少しばかり足を速めた。








そして。














櫻が散るわけが無い。


今は、冬だぞ。


櫻は散らない。


それはお前が一番、良く知っているだろうが…!



 …ごめんよ。



莫迦者…。
















櫻が、散った。



残ったのは生温い体。

冷たい雨。

朽ちた大木。

情けない己。





どうしてなんだろうな…。


もう、失うものなんて無いと思ってた。


在るとすれば、自分の命くらいだと。


他人なんて関係無かった。


そうやって生きてきた。


余計なものを背負込んでまで進める道じゃないことは、よく分かっていた。


だからこそ。


なのに何故。





 「畜生…」










誰が死のうと関係無かった。


誰も彼もが他人だったから。


顔見知りは他人と同じだ。


知ったこっちゃない。







 「畜生…!」




腕の中にはまだ生命がある。

それは確かだった。

死んではいない。


ただ、止まない雨。


冷たさばかりが増していった。














 -END-


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後書:
中編ですね。「櫻」が初編です。というか、うん。
読んでもらえれば分かるとは思うのですが(苦笑)
真ん中の桜色の文字の部分が「櫻」収録部分です。また後日アップになっちゃいますが…すいません。
…闇梅もソバも好きですが、今回は闇梅で。

お題について:
『雨』……もうちょっと使い道は無かったのかと喉元掴まないで下さい…。
私も思ってないわけじゃありません(汗)
激しい雨に降られて、動けないのはそれよりも思考を支配する何かがあるからだと思ってます。