今でも 大切に…いや、
未練がましく残してある一枚の写真。
色を失った風景はもう二度とかえらない。
-色褪せた写真-
随分と忘れていた気がする。
昨日もそう感じた。
いつ見ても変わらない。
懐かしい感じがするから。
縋ってしまいそうになるから。
だからずっと見ないように、忘れるようにしまっておいた。
だけど人の弱さは変わらない。
過去は乗り越えることが出来る。
けれど決して忘れることは出来ない。
変わらない過去を写した写真。
消せない証拠。
なくならない思い出。
たった一枚の写真が私を弱くする。
ただ存在していただけのあの頃に。
記憶の海は、なんて広いのだろう。
…迷惑な話だ。
いっそ焼き払ってしまえたら楽なのに。
出来ないことばかり頭に浮かぶ。
存在しないものに依存するなんて馬鹿らしいと思う。
そんな自分が嫌で、耐えられない。
理想なんてものはやっぱり儚いし。
望んだモノを与えられないからと喚く子供じゃない。
欲したモノを否定する天邪鬼でもない。
私は…ただ、彼を望んだだけ。
あの頃のザトーを。
写真には肩までの綺麗なブロンドをなびかせた少女と、優しく微笑む一人の男が立っていた。
背格好は今のザトーとさほど変わらない。違うのは、写真の中の彼が眼帯をしていないこと。
両の瞳を持って少女に笑みを向けている。
今では決して望めないもの。
掴めない夢と届かない想い。
理解している頭と揺れる心。
写真に小さな涙がこぼれた。
粒は跳ねて醜い円を描いた。
色褪せた写真はさらにその色を失う。
どんなにモノクロになっても、彼女には常に鮮やかな思い出なのだけど。
涙は乾き、太陽が昇る。
光の中で彼女は眠りについた。
-END-
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後書:
嬢はザトーが嫌いなんじゃないんです。エディは分からないけど…
彼の為に涙を流すことは一種の屈辱だと思い込んでます。何かに負けた気がして。
けどそれでも蟠りを忘れることは出来ないし…
物証を消すことは簡単だけど心から消すことはほぼ不可能だから。
あやふやな記憶よりも確かな証拠を目にすることで多少楽になるんでしょう…。
お題に副ってないのはいつものコトですね(苦笑)
お題に対して…
『色あせた写真』…これは消せない過去を表していると捕らえて書きました。
風化してしまったけれど確実に残っている記憶、とも取れます。
どちらにしても本人にとって欠かせない重要な何か、ですよね。