運命




















生きる価値など無い

そう言われた者には

残された選択肢など

死ぬこと以外に無く

早々とその命に自ら

終幕を引くのだろう
































 「用済みだ」














そう言い放たれた瞬間に僕の死は確定した。

恐らく明日にも科学施設行きだ。

生きた実験台にされるか、それさえも出来ずに廃棄されるか…。

どちらにせよ長い命じゃ無い。

まぁ、それも薄々感じてはいたことだけれど。







組織に拾われて数年。

様々な技術を仕込まれたけど、どれもこれも後一歩だった。

本能的に何かを殺めるコトに抵抗があった。

それを見抜いた組織は僕の体に毒までも仕込んだ。

自分から手を下さずに相手が死ぬように。







だけどそれも意味を成さなくなる。

僕はもう生きる道の上に立ってはいないのだから…。























暗い、暗い道だ

明かりも無くて、何も見えない

あぁ、目が開かない

開く必要も無くなるの…

これからは…

あの空間で生きなくて良い

僕は…楽になれる?























翌日、僕は研究とは名ばかりの施設へと案内された。





そこですれ違った、金髪のオトナ。





長く伸ばした前髪の隙間から覗いた彼の影は…少し異様だった。

見惚れていると本人と目が合いそうになったので必死に避けた。

別に疚しい事は何一つやってないけれど…。



それを見たオトナは別の大人と話を始めた。

僕をココへ連れてきた人間だ。

酷く困ったような顔をして、でも最後には苦笑いでその場を去って行った。

その背中を目で追いながら、僕は何をしたら良いのだろうと漠然と考え出した時だった。


 「お前の名前は?」

 「えっ…?」


後方、頭上から降ってきた声に一瞬肩が震えた。

今から死に行く人間の名前なんか聞いてどうするんだろう。

不思議に思って後ろを振り返った。

もちろん前髪のせいでこっちからも向こうからもお互いの表情は見えない、はずが。

その髪を掻き分けられて、顔を曝け出させれた。

 「綺麗な顔だな、良いだろう」

それだけ言うとオトナは手を退いて、さっき僕が入ってきたドアへと歩き出した。

 「何をしている、来ないか」

 「…え、でも」

これから先の死ぬという選択肢以外に現れた可能性にスグに順応することが出来ずに。

僕はその場に留まってしまった。

 「…ココに居たいのか?」

オトナの考えは分からなかったけど、言っているコトは分かった。







僕は首を横に振った。

でももう用済みだから、と付け足して。




オトナはこっちに近付いて僕の腕を引き上げた。

 「俺がお前に用を命ずる。そうすればお前が生きるには足りるだろう」

問われているのは僕?

どうして僕なんかにそんなに声を掛けるの?

僕は何も満足に出来なくて、期待に応える事が出来なかったからココに居るのに…。

それなのに。

 「…僕は何も満足に出来ない」

だから要らないと棄てられた。

 「死にたいのか?」

死ぬ…楽になれるのならそれを望んでいるのかも知れない。

でも、

 「僕は、」

生きる理由が無いんだ。


 「…正直、お前じゃなかったら声は掛けていないぞ」



どうして、貴方はそこで…そんな風に笑えるの…。














用済みだと宣告された時、死は覚悟したはずだった。

組織に中に入ったときから僕の中の法律は組織だ。

逆らうこともしなければ、疑うこともしなかった。

それでも僕は適応できなくて棄てられた。

組織の下した判断だからそうなのだと思っていた。













だけど貴方はそんな僕に道を作ってくれた。
















僕の生きる理由がまだあるというのなら、縋ってみても良いのかな。

それは、死んで楽になるということよりも難しいかもしれないけれど。

















 「…はい、」

僕は自らの意思で返事をした。




























僕は、死ぬことよりも生きることを選んだ。

僕みたいな人間でも、生きる理由を持たせてくれた人が居るから。

その人が望むのなら僕は何だってしよう。

そう、何だって。







たとえ、それが心底嫌った空間であっても。






























  -END-




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後書:
ヴェノム君拾われました。ザトー様とヴェノム君の口調は以降変わります。理由はそのうち。
ヴェノム君の口調、変だけど 見 逃 し て !
これでも迷いました…けどこの歳で"私"、もどうかと…とか言ってみる(苦笑)
多分、この後ザトー様の世話焼きしながら色々伝授されるんだろうなぁ…。
ちなみにザトーの『救いたかった』と多少リンクしてますよ(苦笑)
では次回でー。