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インストラクターとして、伝えられること |
僕が「コリオV」を立ち上げようと思ったのは、3年ほど前のことです。ワークショップやセッション等で全国のインストラクターの方にお会いしてお話しすると、それぞれが指導において様々な悩みをかかえていらっしゃる事を感じたのです。「情報がない」「資格を取っても現場で活かせない」「なにを勉強したら良いか分からない」「日々のレッスンの内容に追われて自分の勉強やトレーニングができない」etc etc... 「インストラクターの社会的地位を向上する」とかいっても、契約内容についてとか、保険はどうするとか、社会人らしい服装は?とか、木の幹ではなく枝葉に囚われているような事ばかり。
でもインストラクターは専門職のはずです。イントラはフィットネスについて・エアロビクスについて誰よりも詳しかったり、楽しい誰にもマネできないレッスンを提供したり、それよりもまずメンバーさんより「動ける体」にしなきゃダメじゃん!と思ったのです。だって英語の下手な英語の先生やまずい料理しか作れない料理の先生なんかに習いたくないですよね?
イントラのみなさんがもっと専門性を高めることにエネルギーを費やせるようにするために、僕自身ができることは何なのかを考えたとき、まず最初に「振り付けビデオ」を思いついたのです。振り付けのヒントを毎月お届けし、新しいレッスンが少しでも楽につくれるようお手伝いをしたい、その上でその振り付けの中に「動ける体」でないとできないバリエーションを取り入れ、従来の窮屈で固定化された「エアロビクス」的動作から、より高度でそして楽に動ける方法を伝えていきたいと考えたのです。
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固定された体幹部の問題点 |
僕自身はイントラになって20年になりますが、トレーナー歴も同じ20年で、また自分自身30年武道を修行し、また母親がダンサーだったりしたことから、様々なスポーツ、武道、ダンスの運動動作に接する機会があったのです。
その中で常に疑問だったのが昔よく言われていたレッスン開始時の「姿勢」の作り方。「お腹とお尻を締めて、膝を少しゆるめて、頭を上に引っ張られているように」などなど...ターンや方向転換でも脊柱の回旋を制限し、腕を動かすときもコントロールと称して肩甲帯の動きが固定化されたまま、肩関節のみを動かす。
確かにそこには決められた様式美としての「エアロビクスらしさ」はありますが動作の効率性から考えると不自由極まりない。常に音楽を一定のリズムで捉えることも含めて、「型にはめる」事がグループエクササイズの普及として必要だったのかも知れませんが、「伝言ゲーム」のように本質が変わって伝えられるのが世の常。「こうしたら最大公約数的に安全なんではないか」という試みがまるで「こうしないと危険!」という絶対的な法則になってしまう。
その結果、いつの間にか「エアロビクス」しか知らない「フィットネス指導者」がその法則に基づいて「エアロビクス」以外の「ヒトの動きと体」そのものを見てしまうという現象が起こってしまったのです。しかし「伸長反射は筋肉を固くして危険だ」などという偏った理論の解釈による思いこみと同じように、「胴部固定」を原則として身体運動を見ていくと、数多くの解決できない局面にぶつかります。 例えばものを投げるとき、走るとき、いいえ、ただ歩くときでさえ、胴部は動き、効率的に四肢に力を伝えていきます。例えば武道の蹴りは私の専門分野ですが「鳩尾(みぞおち)から脚になる」と言う言葉があるぐらい、蹴りとは体幹部の動きが結果として足先に伝わったモノにすぎないのです。
つまり極論すれば胴部を固定すると手足は動けないのです。
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腰を痛めて腰を知る
動ける体を伝えたい! |
小学校時代から様々な武道・格闘技に親しんできましたが、中学時代にはプロレスラーにあこがれ、空手の稽古以外に数十キロのサンドバッグをアマレスでいう「反り投げ」でブリッジしながら投げる練習を毎日繰り返していました。
それが原因で第5腰椎が脊椎分離症になり、第4と第5の間の椎間板は完全につぶれて無くなっています。それでも体幹部の筋肉の強化で何とか乗り切ってきたのですが、イントラになって9年ほどが経ち、日々のレッスンとトレーニング、競技の練習と疲労が積み重なったとき、脊柱起立筋の急性筋膜炎を起こし動けなくなってしまいました。ベッドに寝た切りでトイレにも這っていく日々が何日か続きましたが、その時には起きられるようになったら「如何に脊柱を固定するための筋強化をするのか」の計画を立て、押し寄せる不安と戦っていました。しかし、その後どんなに強化し固定しようとしても疲労がピークになると、突然恐ろしい痛みで数日間寝たきりになる事が年に数回あり、2年後競技を引退しました。
その頃「HIPHOP」と出逢い、また「武道系フィットネスプログラム」開発を始めたのも、エスフィックのオープンとともに毎日トレーナーとしてアスリートを始め多くの方に接するようになったのも同時期でした。その中で最新のバイオメカニクスとダンス、古来からある様々な東洋武道の技や鍛錬法、また「○○体操」「強健術」などと呼ばれる多くの健康法を検証していくと、「胴部を固定しない」「胴部を如何に動かせるようにするのか」に効率的な動きを生み出す共通項があることに気づいたのです。 それと同時にトレーナーとして医師と連携して患者の症状改善の一環として運動処方に携わるようになると、エアロのイントラで腰痛に悩む方が非常に多いことを知りました。その方達に話を聞き、レッスン中の動きを見せていただくと、多くの方は熱心に体幹部を強化し、レッスン中の固定もでき、手足の動きも十分に固定されていました。いや、十二分に...つまり固定するための静的筋収縮力だけが協調されすぎており、血液循環も十分でなく乳酸の発生により筋の疲労感があると、よりその部分の意識性が高まり緊張してしまいという悪循環。回りに相談すると「体幹部を強化するトレーニング」の方法を教えられ、さらに疲労の上塗り。ついに筋肉が耐えきれず悲鳴を上げている...まるで以前の自分を見ているようでした。
トレーニング不足ではなく、運動様式そのものの見直しが必要だったのです。
その後、さらに様々な身体運動理論を学びました。昨年惜しくも亡くなられた「胴体力」の伊藤昇先生を始め、武道的アプローチから身体運動を考える素晴らしい先人の方たちもおり、またヨガや中国の健身法にも興味深いモノが数多くあります。またスポーツやダンスの一流の方の動きももう一度見直して見ました。様々なメソッドを自分自身とそして日々接する多くの方たちに人体実験のようにして試し、検証をくわえてきました。
そして実感したのです。今までとは全く違う自分の、そしてクライアントの方々の動きの質。筋疲労を伴わず何度も繰り返すことができることで、より洗練することができた武道の技の数々。実際に40歳を迎えようとしているのに、10年前の競技エアロの時代より遙かに「動ける体」を手に入れていました。それは競技スポーツの選手の指導にも生き、多くの選手に喜んでいただいています。今は「蹴健道」という武道フィットネスプログラムを立ち上げ、その中で選手としての武道家の育成もはじめました。
そして自分のエアロの振り付けそのものも大きく変わっていったのです。それは型にはまらずあらゆるモノを取り入れた「スタイルのないスタイル」に...
本来「エアロビクスダンス」は「有酸素効果のある安全で効果的な動き」なら何でも取り入れられるキャパシティーを持つモノだったはずです。キックのクラスでラテンやヒップホップの動きは取り入れられません。でもエアロはなんでもありですよね。それがいつの間にか「基本動作」の名の元に凝り固まった「スタイル」になってしまったと感じるのは私だけでしょうか。「コリオV」のビデオを通して私はそんな自由な発送に基づいて、みなさんに「動ける体」の普遍性を伝え、それをぜひ指導や生活に活かしていただきたいと思っているのです。
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