花追い人
〜信州〜



私にとって春の信州といえば阿智村の駒つなぎの桜である。
数年前某風景写真雑誌で某カリスマカメラマンT氏撮影の駒つなぎの桜を見て以来、この桜に極度な憧れを抱いてしまい、一年目は畏れ多くて行けなかった。当時関西しか知らなかった私にとって信州はものすごく遠くて、実際周りにも駒つなぎの桜に行った事のある人はいなかったし、まるで桃源郷のような神聖な場所に思えて、うかうか行ったら罰が当たりそうな気がしたのである。
それが今じゃすっかりあつかましくなって、2002年は春の兆しが見え始めると、ずっと「駒つなぎ、まだ?駒つなぎ、まだ?」と役場や信州のカメラマン勢に聞きまくっていた。
万全を期して、暖かい関西で桜が咲き始める三月末から聞きまくっていたので、待ちくたびれてグッタリした4月の半ば頃、駒つなぎの桜はやっと見頃を迎えた。
これでも例年と比べれば随分早いという。
・・・そして・・・
神聖な桜の周りは煩悩にまみれた人間で溢れかえった。もちろん私は最も多くの煩悩を抱えた一人である。夜明け前から始まる三脚の場所とり、駐車スペース争い、まるで修羅場のこちら側とは対照的に、桜は田んぼの水鏡を境界にして知らぬ顔で咲き誇っている。芥川龍之介の名作「蜘蛛の糸」を垣間見た気がする信州の春であった。
★駒つなぎの桜 : 「21世紀放浪記」参照 

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