Episode - Spain


Montefrioでバスから降りると、珍しく宿の客引きに会った。
国によっては(ギリシャの島々、モロッコ、トルコ)バス停や船着場に、必ず何人もの(安)宿の客引き達が待ち構えていて、卸市場の競(セリ)の如く交渉を挑んでくるのだが、スペインでは初めてだった。
その軽薄そうな痩せぎすの若者は町の中心にある Bar の二階を紹介し、宿の名前を書いた紙切れを渡すと、宿へ案内することもなく、あっさりと消えていった。
とりあえず下見に行ってみると、なかなか感じのいい「おうち」で(宿というより老婆がひとりで鍵付の部屋を貸しているようだ) 値段も安いし、何よりその町には他に安宿は無いようだったので 泊まる事にした。

南スペインのBarではアルコールを頼むとタパス(一品料理の小皿)がついてくる。
ちなみにこのBarはセルベッサ(スペインのビール)100pts=約80円、グラスワインも100ptsで、タパスもなかなか美味しい。チキンのトマト煮込みは、ジャガイモみたいにホクホクしたガーリックが入っていたし、親指程の大きさの小鰯の酢漬けは骨まで軟らかく、オリーブの実と刻んだトマトがたっぷり添えられていた。
私はこの「小鰯」がとても気に入り、今後のためにぜひスペイン語で料理名を覚えておこうと、魚を指差し「ケ エス エスト?」(これは何ですか?)とスペイン語会話集片手に質問した。
「サルディナ sardina 」だと教わり、「オリーブはいらないからサルディナだけ欲しい」と身振り手振りで伝えると、「今晩はもうない。明日の昼なら用意出来る。」という。
次の朝、Barへ行くと主人が「今、女房が君ために買い物に行っている。」と言う。
私は期待に胸ふくらませ、昼、再びBarを訪れた。
私の顔を見て、主人はニッコリ笑い、奥の調理場から得意そうに持ってきた皿を、デンと私の前に置いた。
そこには・・・
手に余る程大きな、サルディナ(鰯)が横たわっていた。

「大きさは違うけれど、もしかして同じ味かも・・・」と、試しに半分、骨ごと食べてみたが、やっぱりトゲトゲしていて無理。
でも骨ごと食べる私を見て、主人は言った。
「もう一匹どうだ?」

私はゆっくり首を横に振った。

(参考)小鰯の酢漬け=Boquerones en escabeche

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