ねこ横丁



迷い猫キティをご近所3軒が、それぞれナイショで世話し始めてから、早、数ヶ月たった。
今では公認のノラ猫として、住民権を得ている。

さて両親が車で揃って出かけたある晩、帰宅した私が一人でカレーライスを食べていると、ピンポーンとベルが鳴った。斜め向いのAさんである。
表に出てみると、心配そうな顔をしたAさんが
「います?」
と聞いてきた。
お正月の大雪以来、我が家のガレージにキティが住み着いてる。私の秘密兵器ホッカイロの魔力には、さすがのワガママ猫もとりつかれたようだ。
今では、夕方、帰りが寒い時に私が使ったカイロを、帰ったらキティにあげるというシステムが確立しつつある。

「さっき帰ったときに見たら、いましたよ。でも今日はお腹が一杯なのか、箱から出てきませんでした」

Aさんによると、キティは今日、エサを食べてないそうだ。
私:「すいません、私、時々、エサあげてるんです。それでかな?」
ところがAさんがいうには、トイレも一回もしてないそうなのだ。
A:「具合が悪いんじゃないかしら」
私:「そういえば、さっき抱いた時、ハナたらしてました」

何気なく言ったのだが・・・というより何も気付かない私も私だったが、キティはどうやら風邪をひいてしまったようだ。(でも出会った頃、キティはいつもハナをたらしてたので、またか〜位にしか思わんかった)
私:「どうぞ(ガレージに)入って下さい」
私の愛車の脇を通って、ガレージの奥へ誘導する。キティはやっぱり箱から出てこず、引っ張り出してみると、やっぱりハナをたらしてた。
A:「やっぱり!風邪だわ!!」
確信したAさんは、お上品なAさんにしては珍しいほどの大興奮だった。

A:「うちにうちの猫用の抗生物質があるわ!」
すぐに持ってくるという。

私はキティを抱いてAさん宅の前まで行った。Aさんは、私に抱かれたキティの口を器用に開けて、スポイトでチュッと液体を飲ませた。

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家の前の道端で、そんなこんなをしている時に、今度はBさんが帰ってきた。
Bさん宅はうちの右隣で、実は以前キティはしばしばBさん宅のガレージで寝ていた。
「あら〜ひさしぶりやねえ」
猫好きのBさんはキティに話し掛ける。

私・A:「いえね、ちょっと具合が悪いみたいなんです」
あれやこれやの話し合いになった。

私:「あっ、そういえばキティの首輪、Bさんが付けてくれはったんですね。ありがとうございます」

もう数ヶ月も前になるが、ある日、キティの首に鈴つきの赤い首輪が着いていた。 これが便利で、キティが歩くと、鈴の音がするので、どこにいるかがすぐにわかるようになった。猫に鈴・・・とはよく言ったもんだ。猫好きのAさんが付けてくれたのかと思い尋ねたら、「あれね、Bさんなのよ」と言っていたので、お礼を言おうと思いつつ、いつも忘れていたのだった。

「あれ、私やないのよ。Cさんがつけてくれはってん。あの人も猫、大好きなんよ」

Cさんは私の左隣の奥さんで、家で犬を飼っている。それで猫は飼えないのだが、キティが来たばかりの頃、何故か一番キティの動向(つまりその頃、どこで寝てたとか、どのへんが実家だとか)を知っていた人だ。しかし、一応猫騒動には参加してない形になっていた。
(しかも私が前、猫の首輪を「私じゃないんです、Bさんが付けてくれたんです」って言った時、だまってはったと思うんやけど・・・
一応、猫を飼うと色々ややこしい責任も発生するので、みんなが知らん振りしながら、面倒をみてる均衡状態が続いているのだ。)

大人三人が冬の寒夜空の下、キティのために相談しあってる中、私に抱かれたキティが弱々しく「フミ〜」と鳴いた。

皆:「どうしたん。おなかすいたんか?おトイレか?」
そっと地面に降ろしてあげると、私ら三人を振り返りもせず、キティは、とっとと我が家のガレージへ歩いていった。寝たかったんやろな。恩知らずめ・・・

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まあ、そろそろ解散・・・ということになった。Aさんは別れ際に言う。「いえね、お父さんの車がなかったから、お母さんもお留守で、お嬢さん(私)だけだと思ったから、思い切って、ベルを鳴らしたの。よかったわ」
Aさんもうちの母が猫が苦手なのは充分承知なので、母の前で猫の話をするのは失礼だと思っているようだ。

そのうち、両親が帰ってきて、一連の話をした。「あの首輪、Cさんやって」「車がなかったから、お母さん留守やと思て、来はったんや。私が帰って間もなくやったから、灯りがついて、車がないから「今や〜」っておもわはったんやろな」
そんな話をしてると、母がこんなことを言い出した。

「実はな・・・」

「だまってたんやけど、あんたが車で出かけた、あの大雪の日な・・・」
あのものすごい大雪の朝、母が表に出てみると、うちのガレージに入っていく、小さい足跡があったそうだ。最初、泥ボーかと思って、盗るもんなんかないのに・・・と気味悪く思っていたそうだが、ガレージに入ってから、また出て行ってる足跡を辿るとAさんの家まで続いていたそうだ。
たぶん大雪で猫がどうしてるか心配で見に来たんだろうけど、「それなら言ってくれればいいのに」と母。「しっかりと足跡が残ってるのに、それを隠そうとか消そうとか思わんかったんやろか?」

しかし今日、謎が解けた。
その朝も、私が乗っていった為、父の車がなかったので、Aさんはうちの両親が家にいないと思い込んだんだろう。ザンネ〜ン! 私も父の車に乗るのだ!

そういえば、Aさんをガレージに誘導した時、「猫が心配やったら、いつでも入って見てもらっていいですよ」と言ったのに、そうともなんとも言わはらへんかったなあ。内心ドキドキしてはったんかもしれへん(笑)

かくいう私も、かつて、キティがうちのガレージにいなかった頃、Bさん宅のガレージで寝てるキティを忍び足で訪問したことは、たぶん誰も知らないはずだ・・・


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