●征途(徳間書店)佐藤大輔
1衰亡の国
2アイアン・フィスト作戦
3ヴィクトリー・ロード
今をときめく仮想戦記作家の大御所、佐藤大輔のメジャー・デビュー作。
私を煉獄の世界に連れ去った、ファースト・ストライク
そして、数ある佐藤大輔作品の中でも、唯一完結しているという、ある意味救いがある作品。
今でも「仮想戦記読むけれど、どれがオススメ?」という質問があると、99%この作品がでるくらいの逸品です。
ネタ的には、「レイテで栗田が引き返さなかったら」という使い古されたネタが元で、その結果日本が分割占領されるというのも
短編集である「目標!砲戦距離4万」で描かれています。
レイテで栗田艦隊が引き返さなかった結果、米軍の侵攻スケジュールは遅れ、結果ソビエトが北海道に上陸、留萌--釧路線で
日本は分割占領(北方領土どころか、南樺太も「日本人民共和国」領です)、陸続きに共産国家が存在するため、この世界の自衛隊は
総兵力こそかわらないものの、なかなかに強力で、北海道戦争(朝鮮戦争とリンクしてます)ベトナム戦争、湾岸戦争、
と実戦を潜り抜けております。
この作品の魅力は、「海の家系」こと藤堂家の人々、元陸軍戦車兵、退役陸将補 福井定一、そして「大和」もさることながら
その緻密なリアリティでしょう。
佐藤氏がもっとも得意とするところが、「ウソのリアルさ」です。
例えば、イージス搭載超大型護衛艦「やまと」(笑)として「大和」は湾岸、統一戦争を戦いますが、改装図にあるイルミネーターの位置
では、爆風の影響が問題となりそうですし、打撃護衛艦も一時話題になり、そして葬り去られたアナーセル・シップそのものです。
が、理詰めの説明と、その描写力により、読者は納得し、その世界に引きずり込まれていきます。
知っている人は知っていますが、佐藤大輔氏は元々ボード・ウォーゲームのデザイナーでした。
その緻密な世界設定仮には定評があり、その力が存分に生かされた形です。
想戦記小説業界では明らかに「征途」前と後に分けられるだけのエポック・メイキングな作品だと思います。
(アーレイ・バーグも、艦隊をちゃんとTF、TUと表記するものこの作品からのような気がします)