実務の友   インターネット不正接続と電話料請求に関する判例集
最新更新日2003.10.26-2006.08.10
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索  引

◆ 判例集 ------------------------------------------------------------------------

 1 インターネット不正接続と国際電話通話料金の請求  
     1 東京簡裁判平成15.3.14(平成14年(ハ)第75476号 通話料金等請求)
         最高裁HP下級裁判所判例集
 2 ダイヤルQ2と電話通話料金の請求  
     1 最高裁三小判平成13.3.27(平成7(オ)1659 通話料金請求事件(第55巻2号434頁))
         最高裁HP下級裁判所判例集


■ 参考 -------------------------------------------------------------------------
 1 総務省の取組み
  ○ 「情報通信(IT政策)」-「電気通信消費者情報コーナー」-
    「トピックス」中「インターネットの国際不正接続トラブル」
    インターネットを利用した国際情報提供サービスに関するトラブルに対するお知らせ
    (平成14年3月20日報道資料)
  ◆ 報道資料・パンフレットの要点

 2 電話会社
  ○ KDDI=DIONの場合
    「FAQ一覧」「カスタマーサポート」-「海外情報提供サービス」-「インターネット(画像)」
    ご注意下さい、海外の情報提供サービス!!
  ○ NTTコミュニケーションズ=OCNの場合
    インターネットご利用時の 国際電話・ダイヤルQ2接続トラブルへのご注意(2001年3月16日)

 3 国民生活センター
  ○ 消費生活相談データベース
    「最近の話題(相談データベースから)」-「インターネット・電話関連」-
    「インターネットから国際電話に勝手に接続」(平成15年10月9日)
  ○ 「インターネットトラブル」(相談内容,アドバイス,コメント&解説)
(1) [2001年1月5日:公表] インターネットの消費者トラブル(6) インターネット接続によって電話会社から思いもよらぬ料金を請求された!
     【概要】:「詳細情報」
(2)知らない間にインターネットを通して利用していた国際電話※2003.2.20に一部修正

 4 警視庁ハイテク相談室
  ○ 被害例としての「自動架電」の紹介
    身に覚えのない国際電話料金請求 (相談事例と被害防止策)

 5 法律家の見解
  ○ 齋藤雅弘「インターネットをめぐるトラブルと消費者」(法律時報2003年9月号75巻10号)54頁
 消費者法に詳しい弁護士・齋藤雅弘氏は,上記「法律時報」特集「消費者法の今日的課題」中の「インターネットをめぐるトラブルと消費者」の中で,
 国際電話の通話料の請求について,(1)勝手に接続してしまうプログラムなどを消費者のコンピュータに不正に取り込ませる行為の規制,(2)理由のいかんを問わず,ほぼ全面的に契約名義人が通信料金の支払義務を負うことになっている現在の電話サービスの約款の再検討の2つの必要性を説いた上で,次のように述べておられる。
 「電気通信サービスでは,電話だけではなく一般消費者の大多数がインターネットを利用するようになっている現実や,他人が外部からこれらの機器を操作することが可能となっている現在の技術的水準を踏まえた上で,もう少しきめの細かい合理性の有無,内容の検討が必要ではないかと思われる。このことにより,不当請求事案において現状では殆ど契約名義人が負担させられている通信料金について,もう少し公平な分担が可能になると考えられる。(11)」
(注)
「(11) 信義則を理由にダイヤルQ2の利用に伴う通話料金の請求権を制限した最判平成13年3月27日(判タ1072号101頁)も,電話の利用実態を踏まえて約款の合理性の検討を行っているが,あくまで電話としての利用という側面でしか検討されておらず,情報通信サービスの側面での検討はなされていない。」






 1 東京簡裁判平成15.3.14(平成14年(ハ)第75476号 通話料金等請求)
(最高裁HP下級裁判所判例集)
(判決)
        主       文
1 被告は,原告に対し,金26万4960円及びこれに対する平成14年4月26日から支払済みの日の前日まで年14.5パーセント(年365日の日割計算)の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
        事実及び理由
第1 請  求
   主文と同旨
第2 事案の概要
   本件は,電気通信事業を営む原告が,契約者である被告に対し通話料金等の支払を求めたところ,被告は,利用者の気付かないままに国際電話サービスを利用させるような接続システムを設定していた原告が,トラブル防止のために必要な一定の措置を講じないまま,使用料金の支払いを請求するのは信義則に反し許されないとして争っている事案である。
 1 争いのない事実(証拠により容易に認定できる事実を含む)
  (1) 被告は,平成14年2月9日当時,訴外A株式会社の総合ディジタル通信サービス(以下「Bサービス」という)の契約者であった(電話番号「(045)a局b番」)。
   被告は,上記Bサービス申し込みの際に,第2種一般電話等契約を締結しない旨の意思表示をしなかったため,約款の定めにより,原告との間で前記第2種契約が締結されたものとみなされることとなった。
    (2) 上記加入電話により,平成14年2月9日から同年3月13日までの間に,別紙のとおり(別紙省略),原告の国際電話サービスの利用(以下「本件サービス利用」という)がされた。
  (3) 原告の電話サービス等契約約款には,契約者以外の者が利用した通話料についても,当該契約者に支払義務がある旨規定されている。
 2 争点
  (1) 原告は,トラブル防止のために必要な措置を講じたか
  (2) 被告に対し本件使用料金を負担させることは,信義則に反し許されないか
第3 争点に対する判断
 1 証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  (1) 原告は,インターネットを利用した国際情報提供サービスに関するトラブルが増加したことから,総務省の要望を受け,平成7年頃から,新聞・雑誌により,あるいは請求書送付の際に,利用者に対する注意を呼びかけてきた。また,平成10年ごろからはホームページへの掲載を始め,平成11年頃からは,トラブルが多いと思われる国際電話番号の通話については,国際電話であることを知らせる音声ガイダンスを挿入した。そのうち,特にトラブル発生比率の高い特定地域に対する通話について,平成13年中に,利用者が接続する前に音声ガイダンスにより注意喚起する方法を講じた。その他,平成9年ごろから,国際電話料金が一定額(5万円)を超えた場合には,法人・個人を問わずその時点で臨時請求書を発行し利用者に早めに確認してもらう措置(ただし,被告宛にこの臨時請求書を発行した事実はなかった。)や,消費者センターなど各団体へトラブル発生の情報を提供するなどの措置を講じてきた。
    しかし,その後もトラブルは減少することなく,注意喚起による方法だけでは対応しきれなかったため,平成14年12月16日からディエゴガルシア,セイシェルの二つの地域について国際ダイヤル通話等の取り扱いを当面の間休止する措置をそれぞれ講じた。
  (2) 本件サービス利用は,被告の業務の時間中に,もっぱら被告代表者・訴外C(以下「C」という)により行われた。Cは,インターネットについては5年程度の使用歴があり,日常的に使用するときは,パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という)の音声を絞り込んでいた。また,パソコンの使用中,画面上に国際電話への接続を知らせる表示や警告を認識したことはなかった。
  (3) Cは,原告が発送した平成14年2月分の請求書を受け取る同年3月13日を過ぎる頃まで,本件サービス利用が国際電話に接続して行われたものであることを知らず,同種トラブルについての注意喚起の情報等に触れることもなかった。前記請求書が送付され,原告への照会により初めてその事実を知った。その後の使用については,ホームページに掲載されているトラブル予防策に従い,画面上の表示を注意深く観察しながら処理するよう努めたため,同種トラブルは発生しなかった。
 2 以上の事実に基づいて,判断する。
  (1) 本約款には,実際の通話者が誰であるかにかかわらず契約者が通話料金を負担する旨の定めがある。この約款は,通信事業を成り立たせるために必要なものであり,契約者の利益を一方的に害するものとは認められず,信義則に反するものとはいえない。
   しかしながら,一般の電話料金よりも高額に設定されている国際電話については,利用者が全く認識しないまま接続された場合にまで,その料金を契約者に負担させるべきか否かについては,電気通信事業が公益的なものであるが故に,その立場にある原告が適切な措置を講じたか否かという点とも併せて総合的に判断しなければならない。
  (2) 原告は,本件サービス利用時には,ホームページへの掲載や音声ガイダンスにより,一般利用者に対する注意喚起の方法を,また,一定の地域に対する国際電話料金が1か月5万円以上になる利用者については,法人,個人を問わず臨時請求書を発送するなどして注意を喚起する措置を講じていた。しかし,そうした予防策にもかかわらず,トラブルの増加に歯止めがかからず,後に,特定の地域に対する接続業務を停止するに至った。   (3) これについて,被告は,原告がトラブル防止策として接続業務の停止をしたことは,原告がこれまでの対策が不十分であったことを認めたということであるから,自らの不作為という過失に基づく請求は権利の濫用であり許されないと主張する。
    しかし,原告が行う通信事業のメカニズム自体に瑕疵があり,それに基づいて原告が利用料金の請求をしているのであればともかく,メカニズム自体に瑕疵が認められない本件においては(前記のとおり,トラブル防止策のとおりに操作すれば正常に作動していた。),被告の前記主張をそのまま採用することはできない。
  (4) 原告は,従来の対策を不十分として,そのメカニズムの妨害を作出している原因を断つために,特定地域に対する接続停止の措置を講じている。原告のこの措置は,結果的に被告の本件サービス利用の後になされたものであるが,準公益的な立場にあることを踏まえた,自己の利益よりも公益を優先させることを目的としてとられた措置であり,一定の評価に値するものである。
ところで,トラブルの発生を事前に防止する方法としては,利用者の通話先,通話の動機等を逐一管理することが考えられるが,そのような方法は,通信の秘密を守るべき通信事業の性質上問題がある。     通信事業は,国民の権利として保障されている通信の秘密の保持を原則としており,本件のように,通信事業者ができ得る限りの対策を講じても防ぎきれなかった結果については,通信の秘密が保持される限り,利用者の利益が制限されることになってもやむを得ないと解すべきである。
    また,被告が法人であることとも併せて考慮すると,被告に対し本件通話料等を負担させたとしても,信義則に反することにはならないというべきである。
   よって,主文のとおり判決する。


○ 加入電話契約者の承諾なしにその未成年の子が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係る通話料のうちその金額の5割を超える部分につき第1種電気通信事業者が加入電話契約者に対してその支払を請求することが信義則ないし衡平の観念に照らして許されないとされた事例
 2 最高裁三小判平成13.3.27(平成7(オ)1659 通話料金請求事件(第55巻2号434頁))
  (最高裁HP下級裁判所判例集)
(判決要旨)
 第1種電気通信事業者甲が,一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でいわゆるダイヤルQ2事業を開始するに当たって,同事業における有料情報サービスの内容やその利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったにもかかわらず,平成3年当時には,これをいまだ十分に果たしていなかったこと,その結果,加入電話契約者乙が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で,乙の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために通話料が高額化したことなど判示の事情の下においては,乙が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料については,甲がその金額の5割を超える部分につき乙に対してその支払を請求することは,信義則ないし衡平の観念に照らして許されない。
(補足意見がある。)
(判決理由抜粋)
 1 加入電話契約者は,加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話に係る通話料についても,特段の事情のない限り,上告人に対し,支払義務を負う。このことは,本件約款118条1項の定めるところであり,この定めは,大規模な組織機構を前提として一般大衆に電気通信役務を提供する公共的事業においては,その業務の運営上やむを得ない措置であって,通話料徴収費用を最小限に抑え,低廉かつ合理的な料金で電気通信役務の提供を可能にするという点からは,一般利用者にも益するものということができる。したがって,被上告人は,本件約款の文言上は,上告人に対して本件通話料の支払義務を負うものといえる。
 しかし,加入電話契約は,いわゆる普通契約約款によって契約内容が規律されるものとはいえ,電気通信役務の提供とこれに対する通話料等の支払という対価関係を中核とした民法上の双務契約であるから,契約一般の法理に服することに変わりはなく,その契約上の権利及び義務の内容については,信義誠実の原則に照らして考察すべきである。そして,当該契約のよって立つ事実関係が変化し,そのために契約当事者の当初の予想と著しく異なる結果を招来することになるときは,その程度に応じて,契約当事者の権利及び義務の内容,範囲にいかなる影響を及ぼすかについて,慎重に検討する必要があるといわなければならない。
 2 今日のように,一般家庭に広く電話が普及し,日常生活上不可欠な通信手段となったのは,通常の家庭における日常の電話利用を前提とする限り,特段の注意を払わなくても,家族等による電話利用が契約当事者の予想の範囲内にとどまり,また,その利用に伴う料金も日常の生活経費に織り込まれた金額の範囲内に納まっているからである。このような事実関係を前提として,加入電話契約者は,日常の電話利用から生ずる通話料について,それが誰の利用によるものかを問わず,原則として,そのすべてについて支払義務を負うことを承認しているのであり,他方,上告人は,電気通信役務の提供に必要な機構を構築してその機能及び情報を管理し,加入電話契約者に対して予定された電気通信役務を提供することを期待されているのである。
 3 ところで,今日,通信に関する高度技術の発展に伴い,電気通信事業が急激に拡大し,市民の生活を豊かにするとともに,その生活様式さえも一変しつつあることは公知の事実である。従来,国営企業として電気通信役務の提供を一手に引き受けていた電電公社が民営化されて一般企業と同様な株式会社となり,電気通信事業の拡大に乗り出すとともに,電気通信事業法に基づく電気通信事業が自由化され,これに伴って従来固有の電気通信設備を有しなかった事業者にも上告人の電気通信設備が開放されて,ダイヤルQ2事業のような新たな事業が創設されるに至ったのも,こうした流れに沿うものであって,その発足当初,Q2情報サービスの内容やその料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても,そのこと自体から上記のような事業の存在そのものを否定的に評価することは相当でない。
 しかし,Q2情報サービスは,既設の電話回線から直接情報提供者に対して電話をかけることにより多種多様な情報を取得することができ,その情報内容によっては時間的に制限のない娯楽を提供することも可能であり,しかも情報提供者は加入電話契約者と同一市内に限られず全国に広域化していたというのであるから,従来の日常生活において予定された通話者間の意思伝達手段としての通話とは異なり,その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していた。そして,本件当時においては,青少年に対する誘惑的要素を多分に含んだ番組も相当数に上っていたために,加入電話契約者の監護下にあって経済的能力のない青少年が加入電話契約者に隠れてひそかにQ2情報サービスを利用し,加入電話契約者は,上告人からの電話料金の支払請求を受けて同サービスの利用に係る料金が著しく高額化したことを初めて知らされ,それまではその利用の事実を認識することができないという事態が生じたということができる。すなわち,このようなQ2情報サービスの開始は,日常生活上の意思伝達手段という従来の一般家庭における加入電話契約のよって立つ事実関係を変化させたものということができるのである。
 4 そうすると,加入電話契約において,加入電話の管理,ひいてはいかなる者にいかなる程度の電話利用を許すかは加入電話契約者の決し得るところであるとしても,上告人は,他方において,電気通信役務提供の条件やそのあり方を自ら決定し,事業の内容等についての情報を独占的に保有する立場にあるのであるから,ダイヤルQ2事業の創設に伴ってQ2情報サービスの無断利用による料金高額化の危険が存在していた以上,上告人には,本件当時既に生活必需品として一般家庭に広く普及していた電話に関わる公益的事業者として,ダイヤルQ2事業の開始に当たり,あらかじめ,加入電話契約者に対して,同サービスの内容や危険性等について具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき信義則上の責務があったということができる。
 確かに,ダイヤルQ2事業の創設が電気通信事業の自由化に伴う初めての試みであることから,上告人において,当時,前記危険が広範に現実化するという事態までは想定していなかったとしても,上告人は,その分野における専門家として,我が国に先立って米国で実施された同種事業において既に生じた種々の問題やこれに対する対策等についても知り得る立場にあったことなどからすれば,上記の点は,上告人の前記責務を否定しあるいは軽減する理由にはならないというべきである。
 そして,上告人が前記責務を十分に果たさなかったために,加入電話契約者がQ2情報サービスの存在やその危険性等についての十分な認識を有しない状態の下に適切な対応策を講ずることができず,加入電話契約者以外の者,とりわけ生計を同じくする未成年の子等によるQ2情報サービスの多数回・長時間にわたる無断利用により通話料が日常生活上の利用による通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し,加入電話契約者において上記通話料の負担を余儀なくされるといった契約当事者の予想と著しく異なる結果を招来した場合には,上告人が加入電話契約者に対して上記通話料の支払を請求するに当たって,信義則上相応の制約を受けることになってもやむを得ないといわなければならない。
 5 【要旨】以上を要するに,ダイヤルQ2事業は電気通信事業の自由化に伴って新たに創設されたものであり,Q2情報サービスは当時における新しい簡便な情報伝達手段であって,その内容や料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても,それ自体としてはすべてが否定的評価を受けるべきものではない。しかし,同サービスは,日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり,その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから,公益的事業者である上告人としては,一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては,同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに,その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。本件についてこれを見ると,上記危険性等の周知及びこれに対する対策の実施がいまだ十分とはいえない状況にあった平成3年当時,加入電話契約者である被上告人が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で,被上告人の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために本件通話料が高額化したというのであって,この事態は,上告人が上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものということができる。こうした点にかんがみれば,被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで,本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは,信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。そして,その限度は,加入電話の使用とその管理については加入電話契約者においてこれを決し得る立場にあることなどの事情に加え,前記の事実関係を考慮するとき,本件通話料の金額の5割をもって相当とし,上告人がそれを超える部分につき被上告人に対してその支払を請求することは許されないと解するのが相当である。
 6 そうすると,これと異なる見解に立って,上告人が本件通話料につき本件約款118条1項の規定に基づいてその支払を請求することは信義則上許されないとして,上告人の同請求を全部棄却すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの限度で理由がある。そして,前記説示に照らせば,上告人の同請求は,本件通話料の5割に相当する金額,すなわち,平成3年2月分として4万0762円(円未満切捨て。以下同じ。)及び同年3月分として9777円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みの前日まで年14.5%の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余を失当として棄却すべきものである。
 第5 以上に説示するところに従い,第1審判決中上告人敗訴の部分は前記のとおり変更されるべきであるから,原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとする。



資 料
 総務省ホームページの「インターネットを利用した国際情報提供サービスに関するトラブルに対するお知らせ(平成14年3月20日報道資料)」の要点

 上記の「お知らせ」には,電気事業者に対し必要な対策を要望しつつ,利用者の予防策,料金支払義務についても,下記のようなコメントが付されている。
 なお,「総務省」−「情報通信(IT政策)」−「電気通信消費者情報コーナー」の項中「国際不正接続トラブルに関するQ&A」には,「国際電話会社は2002年12月から,国際不正接続トラブルが多発している国や地域への通話を当分の間休止することとしました。」とあります。」とある(「電気通信サービスQ&A(平成15年版)」(HTML版)−「インターネットを楽しむために」)。

1 利用者の予防策(注:入力者による要約)
(1) 不用意にプログラムをダウンロードしない
 画面上の表示をよく理解せず容易に「OK」などのボタンをクリックしない。
(2) パソコンの設定(接続先)を確認する
 契約しているプロバイダにつながっているかどうかをこまめに確認する。
(3) モデムの音量を上げておく
 ダイヤルアップ時のダイヤルの音や国際電話会社の警告アナウンスが聞こえるようにして注意する。
(4) 国際電話契約を休止する
 国際電話契約自体を休止することで、国際電話がかからないようにする(必要になれば、利用再開も可能)。
(5) 専用の予防ソフトを利用する
 接続先が海外に設定されている場合に警告を発するソフト(国際電話事業者が無料配布)を利用する。
(6) 必要でなければモデムを取り外す
 CATVやADSLなどによりインターネット接続の場合には,問題は生じないと考えられている。しかし,この場合でも、ダイヤルアップによる接続が可能なときは問題が生ずることがあるので,取り外すのが有効策。

2 料金の支払義務(入力者注:原文のまま)
 「インターネットを利用した国際情報提供サービスの場合、利用する意思がなかったことを根拠に国際電話料金の支払を拒むことは極めて困難です。なぜなら、加入電話から電話がかけられた場合には、利用者に国際電話をかける明示的な意思表示を行っているかどうかを問わず、加入契約者が通話料の支払義務を負うことが約款上定められているからです。これは、大量化・定型化された国際電話サービスの提供において、個別の通話について利用者の認識の有無を問題にするのは非現実的であるという理由によります。
 理論上は、こうした場合、情報提供業者に対して料金額相当の損害賠償を請求することが可能です。しかし、現実には、業者を特定するのが困難なケースが多いようです。
 このため、利用者の方々においては、事前に被害の予防に努めることが重要です。」(同書56頁)


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