プリンター徹底比較
2020年末時点のプリンターを徹底検証
新機種と旧機種を徹底比較
(2021年3月5日公開)

表中の背景が黄色になっている項目は、旧機種・現行機種からの変更点です。なお3機種で比較している場合は、旧機種1・現行機種1からの変更点となります。

新機種「TR8630」と旧機種「PIXUS TR8530」を徹底比較する

 TR8630は、ファクス機能付き複合機である。キャノンにはファクス付き複合機のビジネス向けモデルとしてMAXIFYシリーズが存在するが、それよりはやや家庭向けにも寄った製品になっている。型番上は家庭向けの機種と同じく1世代で百の位が1上がっただけのようだが、実際にはPIXUSブランドが無くなっている。旧モデルPIXUS TR8530の直後より、TRシリーズはPIXUSブランドを冠さなくなっており、新製品に移行する際に「ただの」TR8630となっている。約3年ぶりの新モデルだが、どのような部分が変わったのか徹底的に検証する。

プリント(画質・速度・コスト)
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
発売日
2020年9月10日
2017年10月5日
発売時の価格(税別)
26,500円
25,880円
インク
色数
5色
5色
インク構成
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
カートリッジ構成
各色独立
各色独立
顔料/染料系
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100)
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100)
インク型番
380XL(大容量)
380/381(標準容量)
380s/381s(小容量)
380XL(大容量)
380/381(標準容量)
380s/381s(小容量)
ノズル数
4096ノズル
4096ノズル
C/M/顔料BK:各1024ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
C/M/顔料BK:各1024ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
最小インクドロップサイズ
N/A
N/A
最大解像度
4800×1200dpi
4800×1200dpi
印刷速度
L判縁なし写真(メーカー公称)
31秒
31秒
A4普通紙カラー(ISO基準)
10.0ipm
10.0ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準)
15.0ipm
15.0ipm
印刷コスト
(税別)
L判縁なし写真
17.2円(標準容量)
17.6円(大容量)
17.2円(標準容量)
17.6円(大容量)
A4カラー文書
9.6円
9.6円
A4モノクロ文書
N/A
N/A

 まずは販売価格を見てみよう。販売開始時の価格はTR8630が26,500円で、PIXUS TR8530の25,880円より620円上がっているが、ほぼ同価格といえるだろう。
 それでは、印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インク構成や使用するインクカートリッジ、印刷速度、印刷コストなど一切変わっていない。ベースとなっているPIXUS TS6000番台ではPIXUS TS6130からPIXUS TS6230に変わる際に、文書印刷速度はそのままに写真の印刷速度が31秒から18秒に高速化しているが、TR8630では写真の印刷速度も据え置かれている。

プリント(給紙・排紙関連)
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
対応用紙サイズ
定型用紙
名刺〜A4
名刺〜A4
長尺用紙
長さ676mmまで
長さ676mmまで
給紙方向
(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙))
背面

(100枚/40枚/20枚)

(100枚/40枚/20枚)
前面
【カセット】
普通紙のみ
(100枚/−/−)
【カセット】
普通紙のみ
(100枚/−/−)
その他
排紙トレイ自動伸縮
用紙種類・サイズ登録
○(カセット収納(前面)・カバー(背面)連動)
○(カセット収納(前面)・カバー(背面)連動)
用紙幅チェック機能

 続いて、TR8630の給紙、排紙機能を比較してみよう。給紙方式から給紙枚数まで同じである。

プリント(付加機能)
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
自動両面印刷
○(普通紙のみ)
○(普通紙のみ)
自動両面
印刷速度
A4カラー文書
3.0ipm
3.0ipm
A4モノクロ文書
3.0ipm
3.0ipm
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能
○(自動写真補正)
○(自動写真補正)
特定インク切れ時印刷
自動電源オン/オフ
○/○
○/○
廃インクタンク交換
フチなし吸収材エラー時の対応機能

 続いてTR8630のその他のプリント機能を比較してみよう。ハガキ非対応の自動両面印刷機能や自動電源オン/オフなど機能面で変わりは無い。

スキャン
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
原稿サイズ
A4
(216×297mm)
A4
(216×297mm)
読み取り解像度
1200dpi
1200dpi
センサータイプ
CIS
CIS
原稿取り忘れアラーム
ADF
原稿セット可能枚数
20枚
20枚
原稿サイズ
A4/レター/リーガル
A4/レター/リーガル
両面読み取り
読み取り速度
カラー
N/A
N/A
モノクロ
N/A
N/A
スキャンデーターのメモリーカード保存
○(JPEG/PDF)
○(JPEG/PDF)

 続いてTR8630のスキャナー部を見てみよう。スキャナーの解像度やCISセンサーという点は同じで、ADFの機能も同じである。

ダイレクト印刷
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
ダイレクトプリント
メモリーカード
SD
SD
USBメモリー
赤外線通信
対応ファイル形式
JPEG/TIFF/PDF(本機でスキャンしてメモリーカードに保存したPDFのみ)
JPEG/TIFF/PDF(本機でスキャンしてメモリーカードに保存したPDFのみ)
色補正機能
フチなし/フチあり
赤目補正
フチなし/フチあり
赤目補正
手書き合成
メモリーカードからUSBメモリー/外付けHDDへバックアップ
−/−
−/−
PictBridge対応
○(Wi-Fi)
○(Wi-Fi)
各種デザイン用紙印刷
定型フォーム印刷(レポート用紙/原稿用紙/スケジュール用紙/方眼紙/チェックリスト/五線譜/漢字練習用紙/アルファベット練習用紙)
組み込みパターンペーパー
定型フォーム印刷(レポート用紙/原稿用紙/スケジュール用紙/方眼紙/チェックリスト/五線譜/漢字練習用紙/アルファベット練習用紙)

 TR8630とPIXUS TR8530のダイレクト印刷機能を比較してみよう。SDカードに対応しており、写真印刷が可能である点や、その際の色補正機能などは同じだ。唯一、プリンター単体でプリントできる機能として、従来の「定型フォーム印刷」に加えて、カラフルなパターンを印刷できる「組み込みパターンペーパー」に対応した。スクラップブックの台紙やブックカバーなどに利用できる。

スマートフォン/クラウド対応
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
スマートフォン連携
アプリ
メーカー専用
Canon PRINT Inkjet/SELPHY
Canon PRINT Inkjet/SELPHY
AirPrint
対応端末
iOS 12.0以降
Android 4.4以降
iOS 11.0以降
Android 4.4以降
スマートスピーカー対応
○(Alexa/Googleアシスタント/LINE Clova)
○(Alexa/Googleアシスタント/LINE Clova)
Wi-Fi接続支援機能
○(QR(iOS・iPadOS)/Bluetooth(Android))
○(Bluetooth(Android))
写真プリント
ドキュメントプリント
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
スキャン
○(PDF/JPEG)
○(PDF/JPEG)
クラウド連携
プリント
アプリ経由/本体
○/○
○/○
オンラインストレージ
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive/google classroom)
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive/google classroom)
SNS
○(Instagram/Facebook・コメント付き可)
○(Instagram/Facebook・コメント付き可)
写真共有サイト
○(googleフォト/image.canon)
○(googleフォト/image.canon)
スキャン
アプリ経由/本体
○/○
○/○
スキャンしてオンラインストレージにアップロード
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive)
(OneDriveはアプリからのみ)
○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/OneDrive)
(OneDriveはアプリからのみ)
メールしてプリント
LINEからプリント
○(JPEG/PNG/PDF/Word/Excel/PowerPoint)
○(JPEG/PNG/PDF/Word/Excel/PowerPoint)
リモートプリント
○(ファイルアップロード・PDF/DOC/DOCX/PPT/PPTX/XLS/XLSX・Windows 10 IEのみ)
スキャンしてリモートプリント

 TR8630のスマートフォン、クラウド関連機能を見ていこう。対応アプリには変化は無い。対応端末が、iOS 11.0以降からiOS 12.0以降に変化しているが、これはプリンター発売時点のアプリの対応端末なので、現在ではPIXUS TR8530もiOS 12.0以降となっている。
 異なるのはWi-Fiダイレクト時の接続方法についてだ。PIXUS TR8530では、Bluetoothを用いた接続支援機能が用意されており、Bluetoothで予めペアリングをしておけば、Wi-Fiダイレクトプリント時に簡単に接続出来るというものだった。しかし、本体側、アプリ側の両方で設定画面が奥の方に追いやられており、大々的に使用を推奨している方法では無かった事に加えて、Androidのみ対応で、iOSではWi-Fi設定で、プリンターを選んでセキュリティーキーを入力して接続するという、昔ながらの方法しか用意されていなかった。TR8630ではiOSについても、本体液晶に表示されるQRコードを、iOS 11.0以降、iPadOS 13.0以降の標準カメラアプリで読み込むだけで接続が完了となる機能が追加された。セキュリティーキーの入力などが不要で、設定は簡単になっている。この機能はエプソンが昨年より搭載している機能と同等である。ただし、エプソンではAndroid場合も「アプリ上でプリンターを選ぶと、本体の液晶にメッセージが表示されるので接続の許可を選べば接続が完了する」という、iOSと同じく非常に簡単な方法が提供されており、その点ではAndroidについては従来のBluetoothを用いた方法が継続されている点で改善が無かったことになる。
 もう一点、「PIXUSでリモートプリント」という機能が新たに搭載された。この機能は、昨年のモデルでも利用できるため、新モデルへの追加機能と言うより、ネットワークを利用した新サービスの提供という方が正しいかもしれないが、PIXUS TR8530は3年前の機種なので、対象外となっている。そのため、実質的にTR8630の新機能と言える。専用サイトからプリントしたいファイルをアップロードすると、離れた場所にあるTR8630でプリントが出来るという機能だ。ただし、対応フォーマットはPDFとWord、Excel、PowerPointで、ファイルサイズ20MB、99ページ以内という制限がある。2in1や両面印刷設定も可能だが、対応用紙はA4又はB5普通紙のみだ。またWindows 10のみ対応で、対応ブラウザもInternet Explorerと、EdgeやChromeは非対応だ。似たような機能としてエプソンがずいぶん前より「リモートプリントドライバー」を提供しているが、こちらは通常のプリントドライバーのリモートプリント版であるため、各ソフトから普通にプリント操作をする方法のまま、リモートプリントが可能だ。プリント時にプリンターの選択項目でリモートプリントを選ぶだけなので、プリントの出来るソフトであれば形式を問わないし、ソフト上で印刷範囲選択や拡大縮小を行って印刷する事も可能だ。印刷設定も細かく行える。通常のプリント操作と変わらず実行できるエプソンと比べると、「PIXUSでリモートプリント」は機能は少なく手間がかかると言える。LINE上でファイルを送ると自動的にプリントされる「PIXUSトークプリント」という機能が以前から提供されており、イメージ的には、これをLINEが使えない環境でもブラウザ上でアップロードする形で提供したという感じだ。

コピー機能
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
等倍コピー
拡大縮小
倍率指定
○(25〜400%)
○(25〜400%)
オートフィット
定型変倍
CD/DVD/Blu-rayレーベルコピー
写真焼き増し風コピー
○(色あせ補正対応)
○(色あせ補正対応)
割り付け(2面/4面)
○/○
○/○
その他のコピー機能
プレビュー
濃度調整
プレビュー
濃度調整
バラエティコピー
ADF手動両面コピー
ページ順コピー
枠消しコピー
IDコピー
コピー予約
ADF手動両面コピー
ページ順コピー
枠消しコピー
IDコピー
コピー予約

 TR8630のコピー機能を見てみよう。拡大縮小や割り付け機能、写真焼き増し風コピーや、各種コピー機能に違いはない。

ファクス機能
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
通信速度
33.6kbps
33.6kbps
画質設定
モノクロ
8dot/mm×3.85本/mm(標準)
8dot/mm×7.7本/mm(ファイン)
8dot/mm×7.7本/mm(写真)
300×300dpi(ファインEX)
8dot/mm×3.85本/mm(標準)
8dot/mm×7.7本/mm(ファイン)
8dot/mm×7.7本/mm(写真)
300×300dpi(ファインEX)
カラー
200×200dpi
200×200dpi
送信原稿サイズ
N/A
N/A
記録紙サイズ
A4/リーガル/レター
A4/リーガル/レター
受信ファクス最大保存ページ数
250枚/30件
250枚/30件
データー保持(電源オフ/停電)
○/−
○/−
ワンタッチ
アドレス帳
100件
100件
グループダイヤル
99宛先
99宛先
順次同報送信
101宛先
101宛先
自動リダイヤル
発信元記録
ポーリング受信/送信
−/−
−/−
ファクス/電話自動切替
見てから送信
見てから印刷
受信ファクスを
メール送信
共有フォルダ保存
外部メモリー保存
○(SD)
○(SD)
PCファクス
送信のみ
送信のみ

 続いて、TR8630のファクス機能を見てみよう。ここも機能面で変更は無い。

操作パネル/インターフェース/本体サイズ
新機種
旧機種
型番
TR8630
PIXUS TR8530
製品画像
液晶ディスプレイ
4.3型
(角度調整可)
4.3型
(角度調整可)
操作パネル
タッチパネル液晶
(角度調整可)
タッチパネル液晶
(角度調整可)
インターフェイス
USB他
USB2.0×1
USB2.0×1
無線LAN
IEEE802.11n/g/b
(ダイレクト接続対応)
IEEE802.11n/g/b
(ダイレクト接続対応)
有線LAN
100BASE-TX
100BASE-TX
対応OS
Windows 10/8.1/7 SP1
Mac OS 10.12.6〜(AirPrint利用)
Windows 10/8.1/7 SP1
Mac OS 10.10.5〜(AirPrint利用)
耐久枚数
N/A
N/A
外形寸法(横×奥×高)
438×351×190mm
(前面給紙カセット伸張時438×366×190mm)
438×351×190mm
(前面給紙カセット伸張時438×366×190mm)
重量
7.9kg
8.0kg
本体カラー
ブラック
ブラック

 最後にTR8630の操作パネルやインタフェースなどを見てみよう。液晶のサイズやインタフェースに違いは無い。対応OSに関しては、Windowsは従来通りだが、MacOSに関しては10.10.5以降から10.12.6以降に変更されている。本体のサイズや基本的なデザインも変更は無い。



 TR8630は、最近の家庭向けインクジェット複合機と同じく、マイナーバージョンアップ程度に留まっている。元々、最新モデルに近い性能となっているため、改良する箇所が見つからないというのもあり、変更点は組み込みパターンペーパー印刷機能と、「PIXUSでリモートプリント」対応、QRコードでの簡単接続機能だけと言える。とはいえリモートプリントとQRコードでの簡単接続は、エプソンに負けていた項目だけに、エプソンと同等とは言わないが細かく弱点を潰していく姿勢は素直に歓迎したい。特にQRコードでの簡単接続は、iPhoneやiPadでWi-Fiダイレクト接続する場合の手間とハードルが大きく下がったといえる。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
エプソンhttp://www.epson.co.jp/


TR8630