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作品と解説 14

路に遺せるを拾うもの無し


27cm×24cm (色紙)



これは、天来書院のビデオ『書・現代作家の技法』Dの攝影のとき
(1997年11月)に書いたものです。この攝影は暦の上では冬でし
たが晩秋のうららかな好天でした。
ビデオには書いている場面が収録されています。そのテキスト『ビ
デオ手本集書・現代作家の技法』にも掲載されています。
ただ、この『手本集』ではなぜか「創作」と解説されています。私は
「清明臨」と書き、左図の張遷碑(漢・186年)の臨書です。
碑石が痛んでいて、拓本が不鮮明ですが、はっきりしなければしな
い程、想像力をめぐらす余地があるわけで、楽しいものです。

「路に遺せるを拾うもの無し」とは、道路に落ちている遺失物を誰も
拾わないという、平和でのどかな治政を象徴する言葉です。張遷碑
ではこの後に「犂種、野に宿せしむ」と続きます。「農具や種などが、
田畑に放り出したままになっている」ということです。何年か前、にこ
んな話を聞きました。

雲行きが怪しくなってきた、雨になりそうだ。早く帰ろうと、スキやクワ
を田んぼに置いたまま帰ってきた。直後に雷雨になった。カミナリが
落ちた。後で行ってみると、残して来たクワを握って黒焦げになってい
る人がいた。
南無阿弥陀仏!

人の物を盗んで罰が当たったのだなどという心算はありません。世の
中にはもっと大泥棒がいるわけですから。



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