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一にして党せず(一而不党)

              隷書



 このごろは「右肩上り」の成長を疑問視する向きが
多いようだ。11年前の平成4年(1992年)には、まだ
「右肩上り」の風潮が幅をきかせていた。

 そんな世間の風潮とは無関係に、漢碑やら武威漢
簡やらの隷書に取り組んでいた自分は、思いきって

右下がりの結体を試みた。このテストは成功したの
か失敗したのか、いまだに不分明だが、試みたこと
自体はなつかしい思いがする。
 岩波文庫の『荘子』第二冊では、一而不黨の一
節を「彼の民には常性あり。織りて衣、耕して食う。
是れを同徳と謂う。一にして党せず、命じて天放と曰
う。」と訓読し、「あの民衆には一定した本来の生ま
れつきがあって、織りものをしてはそれを着、耕作を
してはそれを食べている。それを同徳というのだ。そ
して、そうした一つの立場を守って人為のかたよりが
ないのを、天放と名づけるのだ。」と訳している。
 私の手元にある別の『荘子今釈』では、
一而不黨

の「一」は「渾然一体」の一で、「不党」とは「不偏不
党」のことだとある。
 「一」のままでは、作品の上部が軽すぎると思い画
数の多い「壹」で書いたが、良かったかどうか。
 平成四年一月の第31回日書学展に出品した思い
出の作品である。



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