■2002年9月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル



ニュース


●海外事情
波紋が広がる米国新農業法

   米国新農業法が波紋を広げている(本誌2002年8月号参照)。この法律は、今年11月に行われる中間選挙を睨んで、農民票獲得のために急遽つくられた。そのため内容がずさんで、国内外から激しい批判を受けている。米国の環境保護団体は、「納税者に際限のない負担を強いることになる」と批判。また、欧州委員会のフィシュラー農業委員は「WTOの貿易規則違反」と批判している。カナダとメキシコは、対抗措置をほのめかしている。

米国政府長官が「表示不要」発言

 米国保健社会福祉省トンプソン長官は、6月10日にカナダのトロントで行われたバイオ産業界の会合で、米国政府は遺伝子組み換え食品の表示に反対であると述べた。その理由として、表示は消費者の不安をあおるだけであり、表示があると安全でないような印象を持たれるからだという。〔AP 2002/6/10〕


●クローン人間
クローン人間、今度は韓国で?

  新興宗教系の米国企業クローンエイド韓国支部の郭基和スポークスマンは、7月23日、20歳代の韓国人女性が、クローン技術で妊娠していると発表した。クローン人間に関しては、イタリア人医師が妊娠に成功したと発表して以来の報道であるが、本当にクローン人間を妊娠したのか疑問視する声も出されており、今回のケースも詳細は不明である。〔中央日報2002/7/24〕


●ES細胞
信州大のヒトES細胞使用計画、再び継続審議

  7月24日に第9回特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会(文科相諮問機関)が開かれ、前回承認が見送られた信州大学の使用計画が再び審査された。しかし、多くの委員から、指針の精神を十分に理解せずに学内倫理委員会での議論が行われているとの指摘がなされ、再度承認は見送られた。結局、数名の委員が信州大学に赴き、意見交換を行った上で最終的に判断することに決まった。


●省庁動向
厚労省、科学技術政策に関する中間報告

  7月25日に第7回科学技術政策にかかる専門委員会(厚労省諮問機関)が開かれ、今後の厚労省における科学技術政策の方向性を示した中間報告が大筋でまとまった。ゲノム創薬、テーラーメイド医療、再生医療、遺伝子治療などの先端医療のより一層の推進がうたわれている。
 「食品、化学物質、医薬品及び医療・福祉機器等に係る安全の確保」という項目が入ったが、BSEやGMO問題に関しては簡単に触れられているだけである。

食品表示制度一本化と現状維持両論併記

  7月30日に第5回食品の表示制度に関する懇談会(農水省総合食料局長と厚労省食品保健部長の私的諮問機関)が開かれ、中間報告がまとまった。当初、この懇談会は、厚労省の食品衛生法と農水省のJAS法を一本化することを目的に設置されたものと見られていた。しかし、中間報告では、法律は一本化すべきとする案と、各法は現行のままとし、各省の連携で整合性を図るべきとする案の両論併記だった。


●遺伝子組み換え安全性論争
「ベンブロック報告」への反論始まる

 元全米科学アカデミー農業委員長のチャールズ・ベンブロックによる、モンサント社の除草剤耐性大豆の収量減少と農薬使用量の増大を示す研究報告「ベンブロック報告」はつとに有名である。そのベンブロック報告への反論の作業が、米国食料と農業のための国民センターで始まった。同センターは、モンサント社が一部出資している組織である。同報告が世界の市民から高く評価されたことから、反論の必要性が出てきたためか。急激に株価が暴落し、遺伝子組み換え作物の先行きが不透明な状況への、同社の反撃としての意味合いもあるのではないかなどと推測されている。〔ngin 2002/7/23〕


●バイオ食品
ホルモン剤汚染豚

 黄体ホルモンに汚染された砂糖液が用いられた家畜の飼料をめぐって、EU全体に波紋が広がっている。この砂糖液は、女性ホルモン剤(ピル)の糖衣に用いられているものの残りである。98にも及ぶオランダの飼料製造業者がこの砂糖液を飼料に添加し、ヨーロッパ全体に輸出していた。汚染がないことが判明するまで、肉の販売は禁止されているが、ドイツでもっとも被害が大きかった。黄体ホルモン剤は、北米では使用が認められ、EUでは禁止されていることから、米国とカナダは、この禁止がWTO協定違反であるとして訴えている。〔New Scientist 2002/7/29〕


●遺伝子組み換え樹木
水銀を気化させる遺伝子組み換え樹木

 I-SISレポートでは、遺伝子組み換え樹木に対して警告を発している。米国EPA(環境保護局)が、水銀汚染濃度が高い地域に、イオン化された水銀や有機水銀を無機水銀に変えて大気中に放出させる遺伝子組み換え樹木の開発を支援してきたことに対して、事実上水銀を薄めて放出するだけであり、ふたたび地上に落下し、イオン化されたり有機水銀となって、環境問題を引き起こすことになる、としている。〔I-SIS Report 2002/7/2〕


ことば

*黄体ホルモン 卵巣でつくられる女性ホルモン。
*糖衣 
薬のにおいや苦味を抑えるためのコーティング。
*ゲノム創薬 
ゲノム情報を活用して新薬を開発する新しい分野をゲノム創薬と称する。
*テーラーメイド医療 
オーダーメード医療ともいう。個々の患者のそれぞれに対して薬の効き目や副作用に関与する遺伝子を調べて薬を選んだり、薬の働きを調べるなどの医療のこと。注文服になぞらえて呼ぶ。
*再生医療 
病気や怪我で失われた臓器や組織を再生させる医療。