■2005年7月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

ニュース


●ES細胞
韓国でクローン胚からES細胞

 韓国ソウル大学の黄禹錫(ファン・ウソク)らの研究チームが、そのままだとクローン人間を誕生させ得る「クローン胚」から、さまざまな臓器・組織の細胞を作り出す可能性をもつ「ES細胞」を作成した。これによって患者本人の細胞から拒絶反応の起きない移植用臓器を作り出せる可能性が出てきた。
 しかし、このクローン胚を作るために200個以上の卵子を用いるなど、安全性や倫理面の課題もクローズアップしている。 〔Wired News 2005/5/19〕

ヒトES細胞研究、新たに2件承認

 5月31日、ヒトES細胞研究を審査する文科省の専門委員会が開かれ、岐阜大学大学院と京都大学大学院がそれぞれ申請していた使用計画が承認された。使用計画とは、すでに作られたヒトES細胞を用いて分化誘導などの研究を行うことである。
 またこの日、過去に承認された研究8件の計画変更が認められた。変更は、研究期間の延長や研究者の補充、細胞株の追加などの部分的なものであるが、当初考えていたようには研究が進んでいないことを窺わせる。ヒトES細胞は株によって分化能力に差があり、海外から入手した株が分化能力が低いため、その能力が高いと評判の京大作成の株を追加する機関もあった。

●オーダーメイド医療
30万人遺伝子バンク計画、サンプル13万突破

 対象疾患の患者30万人の血液と診療情報を収集し、遺伝子バンクを作ろうという文科省の「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」が、2005年4月末時点で、サンプル提供者9万7308人、対象疾患延べ数13万5010件に達した(複数提供があるため人数と疾患件数は異なる)。すでにバンクからのサンプル配布の申請受付も開始しており、これまでに10件の申請を受付たという(日経バイオテク 2005/5/23)。
 同様のもので世界的に有名なアイスランドのプロジェクトは、現在中断している。地元のデコード・ジェネティクス社が全国民約28万人の遺伝情報を調査してデーターベースを作成し、情報を販売しようとしたが、思ったほど利益が上がらず計画は頓挫してしまった。
 アイスランドと違って日本のプロジェクトは、バンク設立の資金200億円はすべて国家予算で賄われ、患者から採取した血清とDNAそのものが、製薬企業などの民間を含む研究機関に配布される。


●ヒト胚
中絶胎児の細胞利用見送り


 5月19日、ヒト幹細胞を用いた臨床研究の指針作りを進めている厚労省の専門委員会が開かれ、中絶胎児由来の幹細胞の利用を指針に盛り込むことを断念し、それ以外の体細胞由来の幹細胞のみで指針をまとめることで合意した。中絶胎児の細胞利用については、いったんは認める方針を打ち出し、集中審議を重ねてきた。しかし、昨年秋以降、横浜の産院が中絶胎児を一般廃棄物として捨てていた問題や、ハンセン病療養所において中絶胎児や新生児の遺体を無断で標本化していた問題が明らかになり、審議は一時中断していた。厚労省としては、とりあえずは中絶胎児の件は脇に置いて、先にヒト幹細胞の臨床研究指針をまとめてしまおうと判断したのだろう。今後、あと2回程度の会合で指針案をまとめ、パブリックコメントを募集する予定だ。


●政府動向
GM樹木の野外試験審査に着手

 6月9日、生物多様性影響評価検討会総合検討会(農水省、環境省共催)が開かれ、モンサント社申請の除草剤耐性綿(MON88913)が第一種使用として承認された。第一種使用とは、野生生物への影響なしという評価で、野外栽培を許可したものである。またこの日、総合検討会の下に林木分科会を新設し、新たに申請があったGM樹木の審査を開始することが明らかにされた。

コーデックス特別部会へ日本政府が見解

 6月10日、厚労省の梅田珠美食品国際企画調整官は、9月19日から千葉県幕張で開催されるコーデックス委員会バイオテクノロジー応用食品特別部会に向けた日本政府提案のうち、次の3つを優先して取り上げた理由を説明した。
 1つめは、GM作物同士を掛け合わせた後代交配種の「複合遺伝子食品」。2つめは、ゴールデンライスを意識した「栄養強化食品」。すでに日本では、1については認可済みのものもあり、2についてもGM食品安全審査基準に入っているため提案しやすいと説明した。3つめは「GM動物」で、動物全般を扱うには、まだ科学的知見も乏しく、今回の部会で決着を付けるのは困難と判断し、魚を優先すべきであるとしている。

カルタヘナ議定書締約国会議、行き詰まる

 環境省は、5月30日にカナダで開催したカルタヘナ議定書締約国会議で、焦点となっていたGM食品などの輸出時に添付する文書の内容が継続審議となったと公表した。議定書発効から2年以内に定められることになっていながら、いまだに決められない状態がつづいており、同議定書の実効性が問われ始めている。