■2002年6月号

今月の潮流
News
News2
今月のできごと


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る






































































































バイオジャーナル

ニュース


●遺伝子汚染
モンサントのナタネが遺伝子汚染か?!


 ウォール・ストリート・ジャーナル(2002年4月15日付)は、モンサント社が米国内で遺伝子汚染種子を販売する可能性があると発表した、と伝えた。汚染種子は、同社が開発した除草剤耐性ナタネ「GT200系統」で、すでにカナダでは作付けされているものの、米国内では未承認であるため、同社が農務省とFDA(食品医薬品局)に自主的に届け出て、リコールをしないように要請した。
 この「GT200系統」は、カナダでは食品および飼料として認可されており、作付けが行われているが日米欧では認められておらず、未承認作物として出回る可能性が強いため混入の恐れのある種子が昨年回収された。今年もまた、同じ事態が繰り返されたことになる。
 一昨年、ヨーロッパでは、同社の除草剤耐性ナタネ「GT73系統」の混入事件が起き、焼却処分などが行われたが、モンサント社は、毎年、遺伝子汚染種子事件を起こしている。
 なお、モンサント社は同日、混入の事実を否定した。

メキシコの遺伝子汚染は広範囲

 Nature誌2001年11月28日号に、米カリフォルニア大学バークレー校のDavid QuistとIgnacio H.Chapelaが発表した、メキシコ・オアハカ州でのトウモロコシの遺伝子汚染の論文が、企業寄りの科学者たちの圧力に屈した同誌によって撤回されたことが波紋を呼んでいる。
 メキシコ政府は、この論文を否定したままだが、同政府による調査が進むと、汚染は想像以上に深刻であることがわかってきた。オアハカ州とプエブラ州で採取された野生種のほとんどで汚染が確認されている。原因としては、米国から輸入されたトウモロコシの種子を用いたためと見られている〔ガーディアン2002/4/19〕。
 論文執筆者たちは撤回に対して結論を変えておらず、他の科学者による反論も始まった。企業サイドに立ち論文執筆者を批判したのは、バークレーの元同僚でワシントン大学のMathew Metzと、スイス植物科学研究所のJohannes Futtererらに加え、加大バイオサイエンス学部の6人の同僚だ。数年前、ノバルティス社が同校バイオサイエンス学部を乗っ取った際、論文の執筆者は、これに批判的だった。今回の論文撤回がきわめて政治的であると、英科学者メイ・ワン・ホーは指摘している〔ISIS報告 2002/4/8〕。

●海外動向・中国
GM大豆をめぐり、中国、米国の圧力に屈する

 中国国務院は昨年5月23日、「農業遺伝子組み換え生物安全管理条例」を公布した。同条例の実施を保障するため、今年1月5日に「農業遺伝子組み換え生物輸入安全管理規則」「農業遺伝子組み換え生物安全評価管理規則」「農業遺伝子組み換え生物表示管理規則」の3つの管理規則が作られ、3月20日より運用を開始した。
 運用の開始前に米国産大豆の行方が焦点になっていた。現在、中国は米国からの大豆の輸入量は、EU(約25%)に次いで第2位(約21%)であり、米国内での遺伝子組み換え大豆の作付け面積が全体の約68%を占めていることから、この新制度によって米国からの大豆の輸入がストップする可能性があったからだ。しかし、米国からの圧力に屈する形で、暫定認可案を発表し、従来通り輸入を継続させた。

イネゲノム解析戦争に中国が参入

  このところバイオテクノロジーへの中国の参入が注目されている。4月5日発行のScience誌で、スイスのシンジェンタ社が、解析したジャポニカ米(日本晴)ゲノムの公開に踏み切ったが、同時に、中国・北京ゲノム研究所が米国ワシントン大学と共同で解読したインディカ米ゲノムも掲載した。
 これによって、日本の農水省が中心になって進めてきた「国際イネゲノム解析プロジェクト」は、追い越されたことになる。これからポストゲノムと呼ばれる「遺伝子特許」の奪いあいが本格化することになる。
 その中で注目されているのが、中国の動きである。2000年の中国のポストゲノム関連特許の出願数がおよそ1500件近くに達し、日本やヨーロッパを抜いて米国に次いで第2位になることが判明した。
 その中心は上海にある聯合基因(基因=遺伝子)の傘下のベンチャー企業で、上海にある復旦大学の研究者などが設立したものだ。いま中国では、米国に留学していた研究者が多数帰国し、続々と企業を設立しており、この分野の中心的存在になると予測されている。遺伝子組み換え作物の新品種開発でも旋風を巻き起こす可能性が強まっている。


ことば
*プルラナーゼ
デンプンを分解する酵素。添加物として、デンプン糖製造工程でブドウ糖や異性化糖製造に用いたり、蒸留アルコール製造工程で補助剤として用いられる。

*3つの抗生物質耐性遺伝子
3種の抗生物質(クロラムフェニコール、ネオマイシン、アンピシリン)の耐性遺伝子が用いられている。

*BTトウモロコシ
BTとは枯草菌の一種バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringensis)の略称。この菌の作る毒素タンパク質の遺伝子を組み込んだ殺虫性トウモロコシのこと。蛾の幼虫がこのBTトウモロコシの葉を食べると毒素の効果により死に至る。

*ターミネーター技術
次世代の種子が発芽とともに枯れる(自殺する)ように、遺伝子組み換えで操作する技術のこと。種子独占につながる技術として批判を浴び、開発者は凍結を宣言したが、最近この性質を逆手にとって、組み換え遺伝子の環境中への伝搬を阻止できる環境保護のための技術と言い始めている。