スーパーロボッコ大戦
EP12



 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、ホメロス効果を強制発動させようとする。

「やはり、セル強制固定までは出来ません!」
『ホメロス効果発動を最優先! 人工重力場は最低、いや切って!』
「誰かが、内部に突入するしかないわ!」

 ワームとは勝手が違う相手に、周王とミーナの声が飛び交う。

「後部格納庫ハッチだったわね?」
『牙龍及び攻龍双方の内部図面を転送できるメンバーに全転送します!』

 ジオールのドラマチックバーストが攻龍・イミテイトの後部格納庫ハッチを吹き飛ばし、七恵がデータ転送を開始する。

 だがそこで、三機のコピーネウロイがまるで行く手を阻むように立ち塞がった。

「邪魔よ!」

 コピー零神に向かってフェインティアのアンカーが飛び、相手はそれをMVソードで弾こうとして逆にキャプチャーされる。

「目標補足、主砲発射用意! さあ、どうする? もう逃げられんぞ!」

 そこへムルメルティアの主砲弾が炸裂、搭乗していた者の体を大きく吹き飛ばし、胸の中にあったコアを露出させる。

「くたばれ!」

 コアへと向けてストラーフが突撃、アングルブレードでコアを両断する。
 直後、コピー零神の体が無数の光の粒子となって砕け散った。

「まず一機!」
「弱っ!」
「音羽! クアドラロックに集中して!」

 あっさりやられたコピー零神に音羽が思わず漏らすが、瑛花の檄に慌ててロックに集中する。

「じゃあ中のコアを破壊すればいいのね!」
「その通りだマイスター」
「マスター、行って来るね!」
「エイラさんとサーニャさんも行って! 内部で何が起こるか分からないわ!」
「了解! ………おい、機銃が動き始めるゾ!」

 武装神姫二体を伴って突入するフェインティアにエイラとサーニャも続くが、突入間際にとんでもない未来視結果をエイラが残していく。

「ホメロス効果、限界です! 活動停止しきれません!」
「マドカにおまかせだよ!」
「はいはい、消えて消えてー」

 可憐の悲鳴染みた声に続けて、攻龍・イミテイトの兵装が幾つか動きそうになるが、ライディングバイパーが即座にそれを破壊していく。

「負けないわよ〜!」

 速度を上げる亜乃亜のビックバイパーに、コピービックバイパーが追随、すかさず亜乃亜が縦ロール機動しながらミサイルをコピービックバイパーへと向かって発射していく。
 ミサイルの直撃を食らったコピービックバイパーだったが、瞬く間に損壊箇所が再生していった。

「コアを破壊しなければダメよ!」
「いや〜、やっぱ自分そっくりなのを撃つのはちょっと……」
「じゃあ私がやるわ!」
「亜乃亜さんも内部に突撃して!」
「分かりました〜!」

 亜乃亜を押しのけるようにエリューがコピービックバイパーの前に進み、ジオールの指示で亜乃亜も慌てて格納庫ハッチへと向かっていく。

「手伝う?」
「いらないわ。こいつ、そっくりなのは見た目だけだもの」

 隣に来たマドカに断りつつ、エリューはロードブリティッシュを突撃させる。

「モードセレクト、RIPPLE。マルチプル!」

 ロードブリティッシュからリング状のレーザーが放たれ、射出されたマルチプルオプションからも同様のリングレーザーが発射、コピービックバイパーを弾幕で破壊していく。
 急降下、さらに回避行動を取ろうとしたコピービックバイパーに向かってエリューは容赦なくミサイルを発射し、相手の再生速度を上回る破壊力を叩きつけていく。
 やがて、コピービックバイパーに騎乗していた者の胸部が崩れ、そこにあるコアが露となった。

「モードセレクト、C.LASER! 落ちなさーい!」

 トドメを刺すべく、エリューはレーザーを貫通直線型へと変更。相手へと急接近しながら発射しようとした時だった。
 それまで何も無かった相手の顔がうごめき、そこに紛れも無い亜乃亜の顔が現れる。

「!!」

 予想外の事に、エリューは思わずトリガースイッチを押す指を止めてしまう。
 至近距離で急制動をかけて停止してしまったエリューは、相手の顔を間近で見てしまう。
 ルームメイトとして、仲間としていつも見ている亜乃亜と同じ顔に、表情が生まれた。
 本物の亜乃亜なら絶対浮かべない、悪意に満ちた邪悪な笑みを。

「い、いやあああぁぁ!」

 それを見た瞬間、自分でも訳の分からない絶叫を上げながら、エリューはドラマチックバーストを発動。
 至近距離で炸裂したスプレッドボムがコピービックバイパーを大きく吹き飛ばすが、そこに更に連続してスプレッドボムが叩きこまれ、コアどころかコピービックバイパーを完全に吹き飛ばし、消滅させていく。

「はあっ、はあっ………」

 バーストを撃ち尽くし、トリガーを引いても発動しない事でエリューはようやく我に返る。

「ど、どうしたの?」

 ただならぬ様子に、ジオールもこちらへと寄って来るが、エリューの顔は明らかに青ざめていた。

「あいつ、亜乃亜そっくりの顔になりました……」
「……後で詳しく聞くわ。今は戦闘に集中して」
「はい!」

 即座に機首を返して攻龍・イミテイトへと向かうエリューにひとまず胸を撫で下ろしたジオールは、すでに欠片も残っていないコピービックバイパーのあった空間を見る。

「あれは一体、何なのかしら………」
「避けて!」

 思考は上から響いてきたミーナの声で中断される。
 ジオールが機体を強引に横滑りさせ、シールドをかすめて小型のビームの連続発射が過ぎていく。

「そういえばまだ一つ残ってたわね」
「直に片付きます。資料程手ごわい相手ではないみたいですし」

 ミーナの言う通り、上空ではルッキーニとコピーウイッチのドッグファイトの真っ最中だったが、自由奔放なルッキーニの機動に、やがてコピーウイッチが追随しきれなくなっていく。

「それ〜」

 大きく開脚しながら強引とも言えるターンで瞬時にしてコピーウイッチの背後を取ったルッキーニが、銃弾を叩き込む。

「カッコだけルッキーニそっくりで、勝てるわけないじゃん!」

 背後から連続で撃ち込まれた弾丸がコピーウイッチの装甲を穿ち、露出したコアが貫かれる。

「これで…」

 胸を撫で下ろしたミーナだったが、コピーウイッチの体が砕け散る寸前、コピーウイッチの顔が蠢き、ルッキーニそっくりの顔が浮かび上がる。

「!」

 思わず銃を向けたミーナだったが、その口が何かを呟くように動いただけで、すぐにコピーウイッチの体が光の粒子となって砕け散った。

(今のは……)

 まるで何かを誰かに伝えるようなコピーウイッチの動きに、ミーナの頬を生ぬるい汗が伝う。

『ナノスキン限界まで3分! 急いでください!』

 それが何かを考える間も無く、切羽詰ったタクミの通信にミーナは思考を後回しにして取って返す。

(私達は今、何と戦っているの…………)

 ミーナの胸の中に浮かぶ漠然とした不安は、どうしても拭い去る事は出来なかった。



「右! 3機来ル!」
「分かってるわよ!」
「マイスター、このまま直進だ」
「隔壁が降りてきてる」
「任せて!」
「後ろの隔壁再生してきてるよ!」
「コアを破壊すれば、全部崩壊スル!」
「また来た!」

 攻龍・イミテイトの内部へと突撃した6名だったが、内部から湧き出してくる小型ワームや小型バクテリアン、そして先手を打つように徐々にしまっていく隔壁に手を焼いていた。

「なんで中にこんなに敵がいるのよ!」
「想定の範囲だ。内部は牙龍そのままになっているのは好都合だけに、許容すべきだろう」
「赤城の時は、中でビームの嵐だったらしいカラ、だいぶマシだけどナ」
「外部と全然通信繋がらないし!」
「私の探知も上手く働かない。エイラの未来視が頼り」
「任せろサーニャ! また5機来る!」
「どきなさい!」

 現れた小型ワームをレーザーで一掃し、フェインティアが閉じた隔壁にアンカーを打ち込み、強引に引き剥がす。

「正面、あの隔壁の向こう!」
「気をつけて! 今までと厚さが半端じゃない!」
「いっけえ〜!」

 亜乃亜が先導してレーザーを叩き込むが、隔壁の表面が焦げただけだった。

「ええ!?」
「一発でダメなら、もっとダ!」
「内部エネルギー数値、上昇確認。マイスター、このままだと相手の行動が活性化する」
「何やってるのよ外の連中は!」



「く、この………」

 MVソードを突き刺しながら、音羽はクアドラロックをかけ続ける。
 周辺の兵装が動いて攻撃しようとしてくるが、その度にウイッチや天使達が撃破していった。

『ナノスキン限界まで、残る120秒!』
『コアの破壊はまだか!』
『内部との通信、極めて不安定で状況が確認できません!』
『カウントが30切ったら、クアドラロックを解除して帰投しろ!』
『大佐! それでは内部に突入した人達が…』

 緊迫した通信が連続する中、音羽は零神から伝わってくるMVソードの手ごたえに変化が起きている事に気付く。
 何事かと思ってMVソードの切っ先を見た時、そこが黒く変じてきている事に気付いた。

「MVソードが!」
『どうした!』
「侵食です! MVソードの侵食が始まってます! このままではロックが……!」

 素早く状況を解析した可憐が悲鳴じみた声を上げる中、MVソードへの侵食は更に進み、刀身の半ば以上が黒く変じていく。

「音羽それを離して!」
「ダメ! これを離したら中に入った皆が……!」

 瑛花が叫ぶ中、音羽はそれでも手を離そうとしない。
 だが侵食は一気に進み、柄から零神へと及ぼうとした時だった。
 突然侵食が止まり、どころかゆっくりと黒く変じていた部分が戻っていく。

「あれ?」
「構成ナノマシンに外部からの干渉! 一時的に機能が停止して…」

 可憐の説明の途中で、それが何を意味するのか悟ったソニックダイバー隊全員が一斉に攻龍の方を振り向いた。

『アイーシャ!!』
『私なら、少しだけ抑えられる……急いで………』

 それがアイーシャの奥の手とも言えるナノマシン干渉だと気付いた皆が一斉に叫ぶが、攻龍のブリッジ内でアイーシャは己自身に極度の消耗を強いるその力を行使し続ける。

「は、早くして! じゃないと、またアイーシャが倒れちゃう!」
「ロックに集中! 私達にアイーシャのために出来るのはそれが一番よ!」

 エリーゼが慌てるが、そこへ瑛花の一括が入る。

『ナノスキン限界まで、あと100秒!』



「何よこれ!?」
「内部エネルギーが低下している」
「アイーシャがやってる………」
「今なら破れる! 行くよムルメルティア!」
「分かってるストラーフ!」

 突然のエネルギー低下に、皆が驚く中でそれを起こしたのが誰か悟ったサーニャが呟く。
 そこで好機と見た武装神姫が、己の得物を展開して隔壁中央へと突撃する。

「これでどうだ!」
「たああっ!」

 繰り出されたアームパーツと鋼芯の一撃が、隔壁中央を穿ち、そこから生じたヒビが瞬く間に広がり、隔壁を崩壊させていく。

「手早く終わらせるわよ!」
「行くぞサーニャ!」
「うん、エイラ」
「それ〜!」

 フェインティアが一番に内部へと突入し、エイラ、サーニャ、亜乃亜と続いてストラーフとムルメルティアも内部へと突入する。

「これがコアね」
「な、何だコレ!?」
「ネウロイのコア……だけじゃない」

 内部にあった高密度のエネルギー源を見た者達が、それの予想外の形に絶句する。
 それは、三つのコアが正三角形を構成するようになっており、それぞれがまるで鳴動するように明滅を繰り返していた。
 頂点にあるのは、多面体で構成された赤い光を放つ、紛れも無いネウロイのコアだった。

「あ、あれバクテリアンのコア!?」

 左下にあるのは真紅の球体で、バクテリアンでもボスクラスの物が持つコアに間違いなかった。

「あれって………」
「攻龍のデータと一致する。あれはワームセルだ」
「うん。間違いないね」

 右下にあるのは青白い光を放つ多面体で、ワームを構成するセルの一つに間違いなかった。

「これって、どういう事?」
「分かるカ!」
「こんなの、見た事も聞いた事も………」

 皆が困惑する中、突然どこかからアラームが鳴り響く。

「ソニックダイバーのナノスキン限界、60秒を切ったようだ」
「そうみたいだね。じゃあまずやっちゃおう!」

 アラームをセットしていたらしいムルメルティアの言葉に、困惑していた四人も目的を思い出す。

「ガルクアード、アンカー固定! ガルトゥース最大出力!」
「サーニャ、残弾全部撃ち込むぞ!」
「うん!」
「バーストゲージMAX、ドラマチックバースト発動OK!」
「目標、攻龍・イミテイトコア」
「それじゃあ、撃つよぉ!」

 それぞれの銃口から、一斉に攻撃が解き放たれる。
 高出力のレーザーが、魔力を帯びた高速グレネード弾と12・7mm弾が、ロックオンから放たれるサーチレーザーが、小型だが高密度のエネルギーを内包した3・5mm砲弾とマイクログレネード弾が三種の合体したコアに炸裂。
 無数の爆発を起こし、三つのコアが同時に破壊されていく。
 全てのコアが砕け散ると同時に、動力室の周辺、やがて攻龍・イミテイト全体にもヒビが入っていき、そして一気に全てが砕け散った。

「やったわよ!」
「勝ったぞサーニャ!」
「うん!」
「エリュー、マドカ! 先輩にティタも大丈夫!?」
「大丈夫よ」
「うし、みんなの勝利!」
『ナノスキン限界まであと30秒!』
『急いで帰投しろ!』
「わあああぁ!」

 MVソードを握ったまま零神でガッツポーズを取った音羽だったが、もう時間が無い事に気付いて大慌てで他の三人と攻龍へと向かっていく。

「敵、殲滅を確認」
「これより、そちらに着艦します。私とティタの着艦許可を」
『全員の帰投を許可。ご苦労だった』

 作戦完了報告を入れたミーナと、着艦許可を求めるジオールに艦長からの返信が入る。

「お疲れ様。自己紹介がまだだったわね。私はカールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」
「エリュー達から報告は聞いてるわ。私は秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーよ」

 二人のリーダーがお互い手を伸ばし、硬く握手をかわす。

「お互い話しておきたい事は山程あるけど、まずは帰艦ね」
「ええ、そうしましょう」
「ルッキーニお腹すいた!」
「亜乃亜もすきました〜」
「はいはい、じゃあまずは帰ってご飯ね」

 ぞろぞろと皆も攻龍に着艦するべく向かう中、ミーナはすでに何も残っていない空間を見つめる。

(……考えすぎね)

 思わずため息をもらし、ミーナが最後に攻龍へと向かおうとした時、何かを感じた。

「!?」

 思わず背後を振り返るが、そこには何もない。

「………見られていた? 誰に? いや何に?」

 感じた視線のような気配に、ミーナが生唾を飲み込むが、やはり何も見当たらない。

(………気のせい、であってほしいけど………)

 湧き上がる不安を頭を振って払いのけると、ミーナも攻龍へと向かった。



「何とかなりましたな」
「ああ……」

 胸を撫で下ろす副長に、艦長も小さく吐息を漏らす。

「アイーシャ! 大丈夫!?」
「大丈夫………」

 崩れ落ちそうになったアイーシャを慌てて周王が支えるが、アイーシャは辛うじて意識を保っていた。

「早く彼女を医務室へ。帰投した者達も負傷者は治療を」
「ライフデータを見る限り、問題は無さそうです」

 艦長が指示を出す中、七恵が戦闘終了間際のモニターデータをチェックしていく。

「で、今あいつらどうしてる?」
「格納庫からの連絡だと、皆さんしてシャワーもそこそこにお腹空いたと言って食堂になだれ込んだそうです………」
「そんだけ元気なら問題ねえな。食い終わったら一条とヴィルケ中佐、それとフェインティアとGのリーダーさんに作戦会議室に来るように言っといてくれや。藤枝、それまでに今の戦闘データまとめておいてくれ」
「分かりました。皆さんのご飯も作らないと」
「30分ほど下さい。あ、そう言えば本部にはなんて報告すれば……」
「まずそこからか………」

 冬后が渋い顔をしつつ、席から立ち上がる。

「手伝うか?」
「ええ、お願い」

 そこでアイーシャを取り合えずその場で座らせていた周王に声を掛けるが、アイーシャがブリッジの外をじっと見つめている事に気付くと、何気なくその視線の先を見る。

「アイーシャ、何かいるのか?」
「見られてた。今の闘い、最初から最後まで……」
「何に?」
「分からない」
「藤枝」
「何の反応も有りませんけど……前も似たような事言ってませんでした?」

 ブリッジにいた全員が首を傾げながら、アイーシャの見つめる先を見るが、やはりそこには広がる空以外に何一つ、見つける事は出来なかった………



「これおいし〜!」
「それ私の!」
「お代わり!」
「皆さんタフですね……」

 食堂に雪崩れ込んだ一同が、すさまじい速度で出された料理を食い尽くしていく。

「うおらタクミ! 急いで作れ! 間に合わねえぞ!」
「分かってます親方!」
「マドカ特性プリン、もう直できるからね〜」
「このスープ変わった味だけど、けっこうおいしい」
「サーニャのシチーだナ」
「ザワークラウトが有ったから」

 マドカとサーニャが厨房でそれぞれ得意な料理を作っていたが、他のメンバーはただむさぼるように食う様は、激戦の証とも言えなくもなかった。
 なお、エリーゼ、ルッキーニ、ティタはすでにスプーン片手にマドカ特製プリンが出来るのを今や遅しと待ち構えていた。

「あの三人、一番食べてたわよね?」
「育ち盛りなのよ」
「甘い物は別腹って言うし」
「そうそう」

 瑛花とミーナが呆れる中、三人の後ろに同じくスプーン片手の音羽と亜乃亜も並ぶ。

「プリンってそんなにおいしいの?」
「マドカの作るのはどれもおいしい」
「ふ〜ん、それじゃ私も…」
「マイスター、時間だ」
「各リーダーは作戦会議室に集合だよマスター」
「あらあら、もうそんな時間?」

 二体の武装神姫の言葉に、ミーナも時計を確認する。

「残念ね、プリンは後でいただきましょう」
「作戦会議室ってどこかしら?」
「案内するわ」
「早く終わらせましょ」

 瑛花を先頭に、ジオール、ミーナ、フェインティア、そしてストラーフとムルメルティアが食堂を離れる。

「は〜い、出来たよ!」
『いただきます!』

 直後、出来立てでまだちょっと熱いプリンに無数のスプーンが突き立てられた。



「来たな」
「では始めるとしよう」

 作戦会議室では、艦長と副長、そして冬后と周王を含めた攻龍の上官が勢ぞろいしていた。

「改めて初めまして、秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーです。皆さんの事はすでに伺ってます」
「そうか、では余計な事は抜きで本題に入ろう」

 副長がそう告げると、作戦会議室中央の3Dディスプレイに先程の戦闘の様子が表示されていく。

「この攻龍・イミテイト、今まで我々が戦ったどの敵よりも厄介な相手だった」
「だが信じられん……何から何まで攻龍その物だ」
「けど、中身は牙龍のままだったよ」
「二種の図面と比較したが、突入したルートでは攻龍の内部とは明らかに違っていた。他は確認してないが、変化していたのは一部分だけではないかと推察する」

 ストラーフとムルメルティアが内部突入時のデータを3Dディスプレイに表示させていく。

「中は小型のワームとバクテリアンが結構いたわ。そして何より問題なのはこれね」

 フェインティアが破壊直前に記録しておいたコアを表示させる。

「これは、何?」
「何って、コアよ。これを破壊したら本体もキレイさっぱり消えたし」
「こんなコア、見た事も聞いた事も無いわ………」
「おいおい、ワームセルが混じってるぜ」
「こちらはバクテリアンのコアね………こんな混合型のコアなんてGの記録にも無いわ」
「つまり、攻龍・イミテイトは牙龍をベースとし、ワームセル・ネウロイコア・バクテリアンコアの三種の混合したコアを持っている、全く前例の無い存在、という事かしら?」
「そう、なるでしょう」
「実際この目で見ても信じられませんけど」

 周王の出した結論に、ミーナとジオールも頷く。

「信じられん……一体なぜこのような物が」
「確かにこれも問題だが、こちらも深刻だ」

 副長も呆然と呟く中、艦長が別の戦闘データ、コピーネウロイ達を映し出す。

「ヴィルケ中佐、君はこれをコピーネウロイと呼んだ。このような存在を知っていたのかね?」
「……はい。ここまでではありませんが、ウイッチを真似たネウロイと接触した事もあります。ただここまで似たコピーネウロイは、スオムス義勇独立飛行中隊の戦闘記録を読んだだけで………」
「その戦闘記録にはなんと?」
「それが、ネウロイとの戦闘中に行方不明になったウイッチがネウロイによる精神操作を受け、中隊メンバーのデータをネウロイに送信し、そのデータを元に作られたらしいと」
「待て! それでは今攻龍にスパイがいるという事か!?」
「副長、それは無いと思います」

 ミーナの言葉に思わず身を乗り出した副長だったが、瑛花がそれを否定。

「あのコピー零神ですが、カタパルトで射出されたにも関わらず、最初からAモード状態でした。それに動きも本来の零神ほどのキレがありません」
「それはこちらも言えます。あのコピービックバイパー、追加兵装の類を一切使ってきませんでしたし、機動性もイマイチ………」
「確かに。スオムス義勇独立飛行中隊の記録では、あまりに似た戦い方をするのでかなりの苦戦を強いられたそうですが、そこまで苦戦はしませんでした」
「じゃああのコピーネウロイは、不完全なデータで作られた?」

 周王の仮説に、三人のリーダーが一斉に頷く。

「はっ、とんだアマチュアね。多分主砲潰されて、大慌てで不完全な兵器を投入してきたって所かしら?」
「どうにも信じられんが、そう考えればつじつまはあうな………」

 フェインティアの呆れ声に、冬后も首を捻りながらも頷く。

「現代戦術を知らない者が作戦を立てたのならば、火力のある母艦の方を脅威とみなしていた可能性も十二分にありえる」
「ボクらの方がずっと脅威だったけどね」
「そうね。そのサイズで強いなんて普通思わないわね」

 ムルメルティアとストラーフの意見に、ミーナが思わず微笑む。

「それと、もう一つ気になる事が………アイーシャが、誰かに見られてたと言ってるのよ……」
「………私も戦闘終了後、一瞬ですが、何かの視線を感じたような気が」
「何の反応も無かったわよ?」
「ええ、こちらも………」

 フェインティアとジオールが思わず顔を見合わせ、首を傾げる。

「取り合えず分かってるのは、あれはとっくの昔に沈んだはずの船をベースにしていた。改造技術はこの世界に無いはずのネウロイらしい、しかも攻龍そっくりの兵装をしていた。そして…」
「複数のコアの融合を持っていた」

 冬后が指折り数える中、周王が最後の一つを口にする。

「そもそもワームにはコアに該当する物は存在しないわ。そちらで似たような事例は?」
「異種のコアを併せ持つネウロイなんて聞いた事もありません」
「ヴァーミスなら指揮中枢機にメインコアがあるけど、複数なんて事は無いわね」
「ここまで幾つもの世界の技術が混合されている事例は、Gでもありませんわね」

 周王の問いに三者三様の否定意見が上がる。
 その返答に、攻龍の上官は全員そろって頭を抱え込みそうになった。

「これでは、上層部になんと報告すればよい事か………」
「問題はそちらではない。今後、似たような敵が現れる可能性があるかどうかだ」

 一番難しい顔をしていた副長だったが、艦長の言葉に息を飲み込んだ。

「………その可能性はあります。もしあれがネウロイをベースとしているなら、次の対抗手段として新型の投入が行われるのがこちらでの通例となってます」
「技術革新が常時行われる、という訳ね。ワームよりもずっと戦闘的のようね………」
「おいおい、またあんなの出てこられたら洒落にならねえぞ」
「大型が連続して出る、と決まったわけではありません。ただ、どのような新型が現れるかは全くの不明としか」
「しばらくは警戒を厳重に。それと分かる限りのネウロイのデータをリストアップ。他のバクテリンやヴァーミスのも必要になるかもしれん」
「一条艦隊との合流を早めては?」
「まだ距離がある。何より本来の作戦に弊害が出る可能性もあるだろう」
「もう十分に出てる気もしますがね………」

 艦長の判断に、冬后があごをかきながらボソリと呟く。

「ソニックダイバー隊のみならず、全パイロットに向こう24時間の静養を通達。頼みの綱は彼女達にある」
「了解。一条以下ソニックダイバー隊四名、別名あるまで静養待機に入ります」
「ヴィルケ以下501統合戦闘航空団四名、同じく静養待機に入ります」
「有事の際は、小規模の場合は私とティタで対処します」
「私も自己調整に入るわ。24時間あれば、大抵の事には大丈夫なレベルにまでは持っていける」
「マスター、ボクもそろそろ……」
「我々も静養休眠に入る。最低6時間は作戦行動が無ければよいのだが」
「お前らも疲れたなら寝てろ。食堂にいる連中にも食ったら寝ろと言っておけ」

 眠そうな武装神姫二体を冬后は手で追い出すような仕草をしつつ、戦闘に参加したメンバーを部屋から退去させていく。

「さて、と………一条艦隊の合流に、最速でどれくらいかかります?」
「作戦を一時中断し、こちらから向かったとして………」
「最短でも72時間」

 冬后の問いにルートを示した副長と、素早く計算した周王が数値を弾き出す。

「一条艦隊のビックバイパー隊と合流できれば、リスクはかなり低くなりますね」
「だが、作戦その物を見直す必要が出てくる」
「ネスト探索という我々の作戦目標が執行できなくなるな」
「だが、現状ですでにネスト探索その物が不可能に近くなってきているのは事実だ」
「しかし………」
「攻龍の進路変更、一条艦隊との合流を優先する。合流までの間、再度所属不明の敵機と遭遇した場合、ビックバイパー隊の援護も要請する事とする」
「了解、関係各所に通達します」
「今後、同型出現の場合のフォーメーションを緊急立案、他のパイロット達との連携も考慮」
「了解、もっともあんな戦闘データ入れて攻龍のデータバンクがまともな判断出しますかね……」
「アイーシャの様子は?」
「大分疲労してますが、一晩休めば大丈夫だそうです」
「恐らく、現状で一番状況を理解しているのは彼女だろう。それでも何が起きているかを把握は出来てないだろうが………」
「回復次第、分かっている事を聞いてみます」
「72時間、何も起きなければいいのだが………」

 艦長の言葉は、今その場にいる者達全員の総意その物だった。
 なお、各リーダー達が食堂に戻った時、すでにプリンはエリーゼが死守したアイーシャの分を除き、食い尽くされていた。



「ん………」

 深夜、ふと何かの気配を感じてサーニャは目を覚ます。

「えへへ、サーニャ〜〜〜………」

 隣ではだらけきった寝顔でエイラが寝言を呟いており、他のベッドでも疲労のためか半ば雑魚寝に近い状態で一つのベッドに数人が熟睡していた。
 エイラを起こさないようにそっとベッドを出たサーニャは、固有魔法を発動させてその気配を探っていく。
 足音を立てないように静かに歩いて辿り着いた先は、誰もいないはずの食堂だった。
 そこで明らかに何かの気配がある事に、サーニャは無言で電気を付ける。
 そして、冷蔵庫や棚を片っ端から開けているティタと目が会った。

「……何してるの?」
「ティタはお腹空いた」

 サーニャの問いに、もっとも分かりやすい返事でティタは即答。
 ただ、サーニャの記憶では彼女はオヤツから夕食まで自分の倍以上食べていたはずだった。

「勝手に探すのはいけないから、明日の朝まで…」

 サーニャが最後まで喋るより先に、ティタのお腹から否定意見のように音が鳴り響く。

「何か作る?」
「すぐ出来るなら。最高五分」
「………」

 余程お腹が空いているらしいティタに、サーニャはどうするべきか迷う。
 音羽達がお湯を注ぐだけで出来るインスタント食品が有ると教えてくれた気もしたが、置き場所までは教わっていない。
 なんとか探そうかと思った時、背後から足音が響く。

「何をしているんだ?」
「アイーシャ、大丈夫?」
「問題ない。少し疲労しただけ」

 医務室にいると聞いていたはずのアイーシャの姿にサーニャは少し心配そうな顔をするが、アイーシャは相変わらずの無表情で答えた。
 そこで再度、ティタのお腹から空腹を告げる音が鳴った。

「分かった。お菓子でよかったら私の部屋にある」
「いいの?」
「前にトランプで勝ったら音羽達がくれた。私はあまり食べない。それに二人に話があった」
「二人?」

 サーニャが首を傾げるが、ティタは無言でアイーシャに近寄り、じっと彼女の顔を見詰めていた。

「部屋まで来て欲しい、話は食べながらでもいい」

 無言で頷いたティタとサーニャを伴い、アイーシャは自室へと向かう。
 無言で部屋の扉を開けた所で、勝手にスナック菓子を開けて口に入れようとしていたフェインティアと鉢合わせした。

「あ………」
「フェインティアもお腹空いたのか?」
「いや、ちょっと有機再生分のエネルギーが足りなくなりそうだったんで………」

 気まずそうな顔で弁明するフェインティアだったが、口数の少ない三人の視線が集中し、それに押されて大人しく袋をベッド脇のテーブルの上へと置いた。

「わかったわよ! だから無言で見つめんじゃないわよ!」
「いや、一言言ってくれればあげるつもりだった。皆で分けよう」
「じゃあさっきのは何よ………」
「マイスター、就寝時間中に騒ぐのは静養の邪魔になる」

 テーブルの上のクレイドルで眠っていたムルメルティアにまで寝言で突っ込まれ、フェインティアがぶつくさ言う中、アイーシャは備え付けの棚からトランプで巻き上げた(アイーシャ自身に自覚は無いが)御菓子をあれこれ出すが、ベッドに腰掛けていたティタは無言でそれを端から貪り始める。

「あんた、さっきも随分食べてたわよね?」
「有機体なら、食べるのは常識」
「彼女は多分、私に近い存在」
「……それは私も感じていた。アイーシャに似てるような、違うような感じがする」
「またややこしいのが増えたみたいね………」

 ティタがむさぼる隣で、他の三人も思い思いに菓子に手を伸ばしていく。

「三人に聞きたい。昼間の戦闘で、何か感じなかったか?」
「何かって、具体的には?」
「私はチルダのデータバンクにも無いような奴と戦ったって事だけね」
「………」

 アイーシャの問いに、サーニャは首を傾げ、フェインティアは呆れたような口調で呟く。
 なお、ティタは視線だけはこちらに向けるが、相変わらず無言で御菓子を端から平らげていた。

「何かが、ずっとあの闘いを見ていた。そんな気がする」

 アイーシャの言葉に思わずサーニャとフェインティアは顔を見合わせ、同時に首を横に振る。

「そんな反応は無かった……」
「トリガーハートのセンサーにも、ブレータのセンサーにも余計な物は引っかかってないわよ」
「あれか」

 二人が否定する中、パーティーパックのポテトチップスを一人で食べていたティタがボソリと呟く。

「感じたのか」
「プランクの狭間から、じっと見ている奴がいた。それが多分今回の黒幕」
「ちょ、ちょっと待った! 私ですら感知できなかったのを、なんであんた達が!」
「分からない」
「細かい事は気にしない主義」
『…………』

 今一どころでなくよく分からないアイーシャとティタの即答に、フェインティアとサーニャはそろって黙り込んでしまう。

「ま、72時間以内に別の部隊と合流するらしいから、対処はその後で考えましょ」
「またあんな大きいの出てきたら困るしね………」
「その時はまたみんなで倒せばいい」
「下手の考え休むに似たり、と言います」
「………ま、確かにこのパーフェクトな私とあんた達がいれば、多少のイレギュラーは問題ないでしょうね」
「だといいんだけど………」

 自信があるのか、ただの楽観主義か、判断が付けにくい状況に、サーニャは少し困った顔になってしまう。
 そこで、最後の袋が空になったのを確認したティタが空袋をゴミ箱に捨てて立ち上がる。

「おそまつさまです」
「お腹いっぱいになった?」

 ペコリと頭を下げるティタに、サーニャが問うとティタは無言で首を縦に振る。

「ティタ、もしまたあれに気付いたら私に教えてほしい」
「……わかった」

 それだけ言うと、ティタは部屋を出て行き、サーニャもそれを追っていく。

「さて、私も調整休養に入るわ。お休み〜」
「お休み」

 追加設置された簡易ベッドにフェインティアが横になり、アイーシャもそれに続けて多少食いカスの散らばっているベッドを払って横になる。

(そうだ、みんながいればきっとなんとかなる………きっと………)

 胸の中に残る僅かな不安を、頼れる皆の顔でかきけしながら、アイーシャは眠りへとついた………



「第3攻撃目標、模造艦撃破確認」
「現地での敵性体、戦闘力を上方修正」
「これ以上の第3攻撃目標への侵略は一時停止」
「第3攻撃目標、機械体群への干渉強化を優先」
「他目標機械体群への干渉強化を最優先事項に変更」
「同時に敵性体の詳細データ解析の必要あり」
「敵性体、最終目標への障害の可能性、極大………」






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