スーパーロボッコ大戦
EP16



「記憶領域をスキャン完了、目的の機密情報は発見できない」
「パーソナリティーを完全置換するには問題が多い。ロックの後に、戦闘用簡易パーソナリティーを移植」
「戦闘能力維持を最優先」
「擬似人格制御。コントロールコア移植。上位存在の認識を改変」
「リンク完了。サンプル01覚醒」
「あれ、ここは………あたし………」
「コントロールコアを起動」
「……あ!? 何? 何かがあたしの中に! イヤ! やめて! ユナ……! ………………たおす……てきを………てき………」
「起動成功」
「終了。発進準備を」



「ファイアー!」「シュート!」

 二機の随伴砲撃艦から、二種のショットレーザーが射出される。

「へえ〜」

 赤いトリガーハート、フェインティアはそのショットレーザーを驚異的な機動力でいともたやすく避けていく。

「あんた達、そんな物なの? 期待はずれもいいとこね」
「くっ………」
「姉さん、あの機動力、やっぱり本物のトリガーハート?」
「分からないわ………けど、あの回避パターンは…」
「ごちゃごちゃうるさいわね、今度はこっちから行くわよ!」

 クルエルティアとエグゼリカがまだ困惑している中、フェインティアの周囲の無数の外部拡張攻撃ユニット群《ファルドット》が展開していく。

「いけない!」「ディアフェンド!」

 とっさに二人はアンカーを射出、手近のヴァーミスの小型ユニットをキャプチャーして前へとスイング、そこへファルドットからの凄まじい弾幕が降り注ぐ。

「きゃあああ!」
「うわああ!」
「こっちだ!」
「早く下へ!」

 流れ弾は下まで降り注ぎ、下にいた者達が逃げ惑い、ウイッチ達のシールドへと慌てて非難する。

「な、なんだあのデタラメな火力は!」
「まるで戦艦ね………」
「エリカちゃん、あんなのと戦ったの!?」
「とても我々の出る幕ではないな……」

 ウイッチ、光の戦士双方が愕然とする中、シールドにしたヴァーミス小型ユニットが消し炭となってそばへと落ちてくる。

「マスター、あちらは任せた方がいいと思います」
「確かに。それに、我々の相手も来たようだ………」

 アーンヴァルの提言に美緒が素直に頷く中、彼女の視界に、こちらへと迫ってくる無数の人型ネウロイが飛び込んでくる。

「気をつけてください! あの赤い少女と人型ユニットの軍勢に、こちらは一方的に壊滅寸前にまで追い込まれました!」
「ああ、よく知ってる。一体だけでもこちらの手に負えなかったからな………」

 白香の声に、バルクホルンも頷きつつも、その頬に一筋の汗が流れる。

「私とシャーリー、ハルトマンで敵をかく乱、バルクホルンとペリーヌがそれを援護。リーネと宮藤は後方で防護に当たれ!」
『了解!』
「行くぞぉ!」

 号令と同時に、美緒は先陣を切って突撃、烈風丸を手に手近の人型ネウロイへと切りかかる。

「行っけえ!」
「シュトルム!」

 人型ネウロイの両手から発射されるビームを掻い潜りつつ、シャーリーとハルトマンも固有魔法を発動、超高速と疾風で人型ネウロイを薙ぎ払っていく。

「こいつらのビームは下手なシールドは軽く吹き飛ばす程の威力がある! 回避を徹底しろ!」

 叫びながらも一刀の元に人型ネウロイを斬り捨てた美緒が、何か奇妙な違和感に気付く。

「何だ、何かが……」
「マスター! 来ます!」

 その違和感を探る暇も無く、背後を守るアーンヴァルがGEモデルLC3レーザーライフルを速射しながら叫ぶ。

「何かが違う、何だ?」

 次々と襲い来る人型ネウロイに、美緒はどんどん大きくなる違和感を感じながら、白刃を振るい続けた。

「こちらにも来るぞ!」
「トネール!」

 迫り来る人型ネウロイに向かって、ペリーヌが先手を打って電撃を解き放つ。
 何体かを確実に破壊する中、それを上回る敵が向かってくる。

「一撃離脱だ! 格闘戦に持ち込まれれば、火力で押し切られる!」
「遠距離攻撃できる人は撃ちまくって! 速度のある人は動きを止めないで! それ以外はシールドから出ないで!」
「は〜い」「わかりました〜」

 バルクホルンの警告とポリリーナの一番最後の指示に、ユナと詩織がもっとも的確に反応して芳佳のシールドの下で得物を構える。

「芳佳ちゃん、こんなのと戦ったの!?」
「ううん、前に会った時は全然攻撃してこなくて……」

 ユナの問いにシールドを張りながら答える芳佳だったが、そこに強力なビームが何発も直撃し、慌てて銃撃で応戦する。

「違う、前にあった子はこんな事してこなかった!」
「じゃあ違う奴って事よ!」

 芳佳のシールドから飛び出しながら、ミサキがレールガンを連射して迫ってきていた人型ネウロイを撃破する。

「こんなのインチキよ! 火力が違い過ぎるじゃない!」
「当たるとすごく痛そうです〜」

 降り注ぐビームに前へと出られなくなった舞とユーリィがぼやく中、戦闘は更に激化していった。

「……お姉様、敵更に増援来ます」
「おいおい、勘弁してくれ………」
「坂本少佐! 何か変だよこいつら!」
「確かに、だが何が……!」

 増え続ける人型ネウロイに段々苦戦していく中、美緒は魔力の温存を諦め、眼帯を剥ぎ取って魔眼を発動させる。
 そこで、違和感の正体に気付いた。

「こいつら、コアが無い! ネウロイではない!」
「え?」
「あ! 確かに!」

 シュトルムで破壊した人型ネウロイが爆発する瞬間、コアらしき物が全く無い事を確認したハルトマンも叫ぶ。

「これは、まさか………」
「恐らく、イミテイトです。マスター」
「偽物だというのか!? だが、この姿、攻撃力、我々が知っているウイッチもどきと瓜二つだぞ!」

 そこまで言った所で、はたと気付いた美緒が上空を見る。

「では、あの赤いトリガーハートも!」



「あなた、フェインティアなの!? もしそうなら、コミュニケーションリンクの識別コードで応えて!」
「…何よそれ!? うっさいわね!」

 クルエルティアの必至の呼びかけを、フェインティアは無視してファルドットを突撃させてくる。

「わたしとどうしても戦うというなら…もう容赦しないわ!」
「いいの姉さん!?」

 覚悟を決めて随伴艦を向けるクルエルティアに、エグゼリカは思わず問いかける。

『聞こえるかクルエルティア! こちらのネウロイは偽物だった! だとしたらそちらも!』

 そこに飛び込んできた美緒からの通信に、トリガーハート二人の顔色が変わる。

「イミテイト!? ここまで精巧な………」
「でも、それなら随伴艦無しで敵対する理由も納得できるわ!」
「あら、ばれちゃった?」

 通信が聞こえたのか、フェインティア・イミテイトがいたずらっぽく舌を出す。

「まあいいわ。アンカーユニットはあんた達を叩き潰してからゆっくりとね。実働データを丸ごといただいて、私がより完全になる材料になってもらうわ。そして最後はオリジナルを超えてみせる。覚悟なさい!」
「やはり、コピー……じゃあ本物はどこ!?」
「応えてもらいます!」
「はっ! 本体は灰になってもらうわ!」

 それぞれの目的のため、二つのアンカーが射出され、更に猛烈な弾幕が上空に解き放たれた。


「たああぁ!」

 振りかぶった烈風丸が、ネウロイ・イミテイトを半ばまで斬り割く。
 だがそこで不意に手ごたえが重くなり、構わず美緒は強引に白刃を斬り通す。

「はあ、はあ………」
「マスター、体内エネルギー量が低下しています。これ以上は危険です!」
「魔力限界か……だがここで下がるわけには……」
『下がるんだ』

 アーンヴァルの警告を聞きながらも再度白刃を構える美緒だったが、そこへ宮藤博士の通信が飛び込んでくる。

「宮藤博士、しかし………」
『美緒、周囲を見てください』
「え……」

 エルナーの言葉に、美緒は周囲を見回す。

「どおりゃあああ!」
「ホームラン!」
「シュート!」

 ビームをかいくぐりつつバルクホルンが叩き落したネウロイ・イミテイトを、マミとルイが打ち返し、蹴り返して他のネウロイ・イミテイトを撃破していく。

「怪我した人は言ってください! 私が治します!」
「手伝います!」

 負傷した者達は芳佳がシールドを張りながら治癒魔法を発動させ、白香もそれを手伝っている。

「距離200、風速北東から2、ここ!」
「はっ〜〜しゃ〜〜〜」

 リーネと詩織が二人がかりで狙撃し、ネウロイ・イミテイトの遠距離攻撃の陣形を崩していく。

「私も行きますわ……」
「まだ無理ですわ。ここは私が!」
「私のカンフー、見せてやるアル!」
「しゃあないわね、つきあったげるわ」

 まだ回復が済んでないエリカを押さえ、ペリーヌ、麗美、舞が中心となって近接戦闘に秀でた者達が突撃をかけていく。

「ようし、燃えてきたぜ!」
「お眠りなさい」

 姫のロックが周囲の者の攻撃力を挙げ、アレフチーナのバイオリンがネウロイ・イミテイトの動きを止めていく。

「参ります。ついてきなさい」
「おーっほっほ!」

 礼節と冷徹を併せ持った少女、元暗黒お嬢様13人衆最強を誇る高貴な沙雪華こと綾小路 沙雪華がハンドビームを連射して道を開き、その後ろをボンテージ風バトルスーツにアイマスクという危険な格好をした家柄と血筋のルミナーエフことルミナーエフ・ド・クロソウスキーが愛鞭のクレッセント・ビュウを振り回して更に道をこじ開けていく。

「みんな行くわよ! プラズマリッガー!」
「縦横無尽!」
「エレクトロンブレイク!」
『サイクロンカット!』

 こじ開けられた道で敵陣中央へと乗り込んだ葉子、エミリー、かえで、アコとマコが広範囲攻撃を一斉に炸裂。敵陣中央に大穴を空けていく。

「上を押さえる! 手伝ってくれ!」
「OK!」
「……お姉様、上空戦闘は継続中、ご注意を」

 スピードに秀でたシャーリーとセリカ、飛鳥が上空へと舞い上がり、上下からの流れ弾を回避しながら攻撃を加えていく。

「さっきのもう一回行くよ! シュトルム!」
「ポイズンニードル!」
「茶筅ミサイル!」
「オーロラファンネル!」

 ハルトマンの固有魔法に、マリ、佳華、ミドリのニードル、ミサイル、ファンネルが合わさって敵陣を穿っていく。

「みんな頑張って!」
「でもいっぱいいるですぅ〜」
「大丈夫よ、ほら」

 お互い背中合わせになりながら得物を連射しているユナとユーリィだったが、そこへポリリーナがある方向を指差す。

「リフレクトレーザー!」
「食らえぇ!」

 その方向から、周辺にレーザーを発射する細身の青い装甲と、大剣を振るう巨躯の赤い装甲の二人の男性型機械人に率いられた機械人の部隊が戦場へと合流した所だった。

「鏡明(ジンミン)さん! 剣鳳(チュンフォン)さん!」
「ユナ殿! はるばる地球からの御助勢、感謝いたします!」
「遅れて申し訳ない! 我々も戦いましょう!」
『おお!』

 機械帝国を治める三賢機が内の二人、右丞相・鏡明と左丞相・剣鳳を先頭に、参戦した機械化帝国の部隊を交えて戦況は拮抗から徐々に優勢へと変わりつつあった。

『みんな、力を合わせて頑張っています。貴女が無理をすれば、その分みんなの負担になりかねません』
「……そうだな」
「美緒、貴女の生体エネルギーはもうサイキッカーの実戦投入可能レベルを下回ってるわ。一度撤退して。その分は私が埋める!」
「それとも、こういたします? クランクイン!」

 それでもなお撤退を躊躇う美緒を、ミサキが強引に促し、ミキが間近まで近寄ったかと思うと、突然その姿が美緒そっくりに変身する。

「な……それが君の固有魔法か」
「私の演技力で、短時間なら貴女の真似くらいは出来るから」
「そうか、だが魔眼は使いこなすのに慣れが必要だ。使わない方がいいだろう」
「分かったわ。それじゃあ行くぞ!」

 美緒の口調まで完璧に演技しながら、美緒そっくりのミキが白刃を手に敵陣へと突っ込んでいく。

「マスター、私が援護します! それと、気になる事がありますので、解析を優先すべきかと」
「お前もそう思うか。よし、後は任せる!」

 美緒が烈風丸を鞘へと収め、アーンヴァルと共にプリティー・バルキリー号へと帰還していく。

「今戻った! 戦況の解析を!」
「エルナーがすでに始めている」
「それと、先ほど衛星軌道の敵旗艦最後の一隻が撃墜されました。通信網も回復しました」
「そうか」

 宮藤博士とウルスラの言葉に頷きながら、美緒はブリッジへと向かう。

「現状は!」
「こちらやや優勢、なのですが……」

 ブリッジに飛び込むなりの美緒の言葉に、エルナーは言葉を濁す。

「旗艦は全艦撃墜、戦況は優勢。だが、向こうに焦りが見られない」
「ええ、恐らくあのトリガーハートのコピー体が指揮官だと思われますが、この戦況に我関せずといった感じでクルエルティア、エグゼリカと交戦中、こちらも2対1なので優勢と言った感じなのですが………」
「通信を全員に繋いでくれ。恐らく気付いていない者もいるはずだ」
「ユナは絶対気付いてませんね………」
「こちらも何人気付いている事やら」

 思わずため息をつきながら、美緒は通信ようレシーバーを手に取った。

「こちら坂本! 先程、上空で通信妨害をしていた敵旗艦は三艦とも撃破した! 戦況はこちらに有利だ! だが、恐らく敵は何か手を隠している! 総員、注意せよ!」



「ふ〜ん、どうやら結構できる指揮ユニットがいるみたいね」
「やはり、何かを隠しているのね?」

 通信を傍受したフェインティア・イミテイトが頷くのを見たクルエルティアが鋭く聞き返す。

「そうね、そろそろ着くと思うわよ?」
「何が……上空に転移反応!」
「でも、何が………」

 エグゼリカが感知した転移反応の精査に入り、クルエルティアがその反応の小ささに首を傾げる。
 突如としてネウロイ・イミテイト達が空中に場を空けていき、そこに小さな渦のような物が虚空に生まれ、渦から小さな人影が宙へと浮かび上がる。
 それは、中華風の衣装を身にまとい、長い髪を二つに分けておさげにした一人の少女だった。
 額にフェインティア・イミテイトと同じ奇妙なサークレットを付け、虚ろな目をした少女が真下を見る。

「あ、亜弥乎ちゃん!!」
「ああ、本当ですうぅ! 亜弥乎ちゃんがいますぅ!」
「え?」

 遠くからその少女、妖機三姉妹の末妹で大の親友でもあった亜弥乎の姿を確認したユナが大声を上げ、ユーリィの口からもそれに劣らない驚愕の声が上がる。
 光の戦士達もその姿を確認すると、口々に驚愕の言葉を上げる。

「敵に捕まったはずじゃ?」
「まさか偽者!?」
「分からないわ! ユナ注意を…」
「亜弥乎ちゃ〜〜〜ん!」

 ポリリーナの注意も聞かず、ユナが亜弥乎へと向かって突き進んでいく。
 何故かネウロイ・イミテイト達がユナに攻撃しない事を何人かが気付いた時、亜弥乎は虚ろな瞳のまま、片手をユナの方へと向ける。
 すると、突如として地面が盛り上がったかと思うと、そこから無数のケーブルが意思持つ触手のように噴き出し、ユナへと襲い掛かってくる。

「バッキンボー!」
「当たれぇ!」

 ケーブルがユナへと届く前に、ポリリーナとミサキの攻撃がケーブルを撃墜する。

「亜弥乎ちゃん!? どうして……」

 背後からの爆発音に、ユナが愕然として思わず動きが止まり、亜弥乎の方を見つめる。
 亜弥乎は相変わらず虚ろな瞳のまま、もう片方の手もユナへと向けると、そこから放たれた電撃がユナへと襲い掛かる。

「ユナさぁん!!」
「トネール!」
「うわあぁ!」

 ユーリィの絶叫が響く中、放たれた電撃を相打つように、ペリーヌの電撃魔法が放たれてユナの手前で壮絶なスパークを撒き散らし、直撃こそ免れた物のユナはバランスを崩して墜落していく。

「危ない!」

 芳佳が空中で何とかユナを受け止める。
 ダメージこそほとんど無い物の、ユナの目は攻撃してきた親友を凍りついたように見つめていた。

「亜弥乎ちゃん………何で? 最近忙しくてメールしてなかったから? ユーリィと二人きりで食べ歩きした事教えたから? それとも、それとも………」
「ユナちゃん! しっかり!」
「さては、あいつもパチ物ね!」

 呆然としているユナを芳佳が必至に気付かせようとする中、舞がアイアンを亜弥乎へと突きつける。

「……いや」
「固有パターンが一致している。あれは紛れも無く、本物の亜弥乎殿だ………」

 鏡明と剣鳳の言葉に、他の者達も呆然と亜弥乎を見る。
 虚ろな瞳のままの亜弥乎の周囲には、ネウロイ・イミテイト達が従卒が如く集い、陣形を形成していった。

『洗脳か! 似たような事がスオムスでも会ったと聞いている!』
『気をつけてください! 亜弥乎の能力は機械人の中でも…』

 その光景を見た美緒とエルナーの言葉が最後まで響くよりも早く、亜弥乎が両手を左右に広げる。
 それに呼応するように、戦場の真下の地面から、一斉に膨大な量のケーブルが吹き出してくる。

「きゃああぁぁ!」
「何だこれは!」
「うひゃあ!」

 予想もしてなかった攻撃にウイッチ達が上昇や旋回を繰り返してケーブルをなんとか回避していく。

「あの子、洗脳のついでに強化手術でも受けたんじゃない!?」
「あ〜〜〜れ〜〜〜〜〜」
「逃げるですぅ!」
「きりがないアル!」

 光の戦士達も逃げ惑うが、かわしきれずにダメージを食らう者も出始める。

「止むをえん!」
「だめえええ!」

 上空にまで伸びてくるケーブルをかわしながら、バルクホルンが銃口を亜弥乎へと向けるが、そこへユナが飛び出してその前へと立ちはだかる。

「どけ! 安心しろ、急所は外す!」
「ダメ、絶対にダメぇ! 亜弥乎ちゃんを撃つなんて絶対にさせない!」

 泣き叫びながら亜弥乎への攻撃をさせまいと必死に立ちはだかるユナに、バルクホルンの銃口も震え始める。
 そこで、ある事に気付いたバルクホルンの瞳が大きく見開かれる。

「後ろだ!」
「え…」

 ユナが振り向く間も無く、衝撃と共にユナの長髪の一部が宙に舞い、力を失ったユナが落下していく。
 後には、手に電磁ロッドを持った亜弥乎が虚空に佇んでいた。

「き、貴様…」

 バルクホルンが思わず怒声を上げようとした時、虚空を滑るように瞬時に間合いを詰めた亜弥乎の二の太刀がとっさに前へと突き出した重機関銃を二丁まとめて苦も無く両断する。

(つ、強い!)

 スクラップになった重機関銃を投げ捨て、後ろへと飛びながらバルクホルンは護身用の拳銃を抜く。

「トゥルーデ下がって! 私が…」
「気をつけろ! こいつ、見た目とは桁違いの怪物だ!」

 ハルトマンと位置を変わりながら、バルクホルンが威嚇のために拳銃を連射。
 だが、その全てが地面から伸びてきたケーブルによって阻まれた。

「なんの!」

 ハルトマンが突撃すると見せかけて体を捻り、伸びてくるケーブルを機敏にかわしつつ水平旋回、亜弥乎の背後を取る。

「そこだ!」

 ハルトマンは即座に銃口を向け、トリガーを引いた。
 魔力を帯びた弾丸の一斉射が亜弥乎へと迫るが、そこに突然ネウロイ・イミテイトが引き寄せられるように出現し、壁となって弾丸を阻む。

「もらいましたわ!」

 ハルトマンに注意が向いた隙に、ペリーヌがレイピアを手に突撃するが、必殺の突きはアヤコの電磁ロッドに止められる。

「まだまだですわ!」

 そこからさらにペリーヌは突きを繰り出し、ときたまフェイントも交えて亜弥乎を狙うが、異様なまでの冷静さで亜弥乎はレイピアの切っ先を捌き、フェイントは完全に無視して衣服が切り裂かれるのも無視していた。

「く、トネール!」

 駄目押しに至近距離で電撃を発動させたペリーヌだったが、亜弥乎も電撃を放ち、双方相打ちに近い形で食らうが、ペリーヌだけが弾き飛ばされるように落下していく。

「危ない!」
「く、間に合いなさい!」

 落下速度が増していく中、リーネが飛び出し、エリカがとっさに念動力で落下速度を緩めていく。

「確保しました!」

 落下速度がほとんどなくなった所でリーネがペリーヌを受け止める。

「やられましたわ……体が動きません………」
「こちらへ! 私なら回復させられます!」
「お願いします!」
「バルクホルン大尉にハルトマン中尉、それにペリーヌさんの三人がかりで手も足も出ないなんて………」

 電撃で麻痺したペリーヌを白香の元へと運ぶ中、リーネが愕然と亜弥乎を見る。

「え〜い、仕方ないわね!」
「ちょっとだけ眠っててもらうアル!」
「大人しくしてもらおう!」

 そこに舞と麗美、ミキ(※美緒に変身したまま)が三人同時にアイアン、閃空槍、扶桑刀を振りかざすが、亜弥乎は電磁ロッドのたった一閃で全員を弾き飛ばした。

「うぎゃあ!」「アイヤー!」「きゃあああ!」

 三人はそれぞれ弾き飛ばされ、ミキに至ってはクランクインが解けて元の姿に戻りつつ落下していくのを、慌てて手近の者達が救い上げる。

「亜弥乎ちゃん………」
「しゃべっちゃダメです! もうじき治ります!」

 芳佳の治癒魔法を受けながら、その光景を見ていたユナが呆然と呟く。

『皆さん! 近付いてはいけません! 恐らく亜弥乎はより戦闘用になるように調整されてます!』
『距離を取って一撃離脱を繰り返すんだ!』
「でも坂本少佐! このケーブルが邪魔だ! うわ、危な!」
「動きを止めないで! 狙われるわ!」
「でもどうすれば! きゃあ!」

 エルナーと美緒の指示が飛ぶが、亜弥乎の操るケーブルの触手がウイッチ達の機動力を奪い、その数に光の戦士達の攻撃は阻まれる。
 更にそこへネウロイ・イミテイト達が容赦なく攻撃を仕掛け、それをなんとか掻い潜って亜弥乎に近付いたとしても、亜弥乎自身の電磁ロッドと電撃の前に攻撃を加える事すら出来ないでいた。

「あらあら、あちらは大変ねえ」
「何て事をさせるの! あの子は彼女達の仲間なんでしょう!?」
「早くもどしなさい!」

 フェインティア・イミテイトが嘲笑する中、クルエルティアとエグゼリカが攻撃をしながら問い詰める。

「さ〜あ、どうしたら戻るのかしらね? いっそ破壊してみたら? そうしたら攻撃は止むわよ♪」
「そんな………」
「出来るわけないでしょう!」
「そ〜お? あっはっはっはっはっは!」

 猛攻の怒号と、その合間に負傷した者達の悲鳴が響く中、フェインティア・イミテイトの哄笑が周囲に響き渡る。
 戦況は、徐々に悪化の一途を辿っていた。







感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.