スーパーロボッコ大戦
EP18



『全長80m以上が一体! 他5m前後の反応多数! 注意してください!』

 エルナーの警告が響く中、皆が己の得物を構え、固唾を飲んで水中の影を見つめる。

『予備のライトニングユニットを調整した。ユナ君に!』
「取ってくるですぅ!」

 宮藤博士の声にユーリィが慌ててプリティー・バルキリー号に向かい、珍しくまっすぐ(そもそも寄り道できる食い物屋が無いが)戻ってくる。

「ユナさん早く!」
「亜弥乎ちゃんはそのままで大丈夫!?」
「うん、なんとか!」
「来る!」
「総員構え!」

 ユナが急いでライトニングユニットを装備する中、ポリリーナと美緒が叫び、それはとうとう水しぶきを上げて、その巨体を露にした。

「なんだあれは!」
「おっきいエビですぅ〜!」

 美緒が叫ぶ中、誰もが思いついた言葉をユーリィが口にした。
 それは大きな二つのハサミと甲殻に覆われた細長い体と尾、複数の節足を持った、巨大なエビのような姿をしていた。
 だがどこか歪さを感じさせる巨体が、半身を海面に沈め、目玉と思われる部分でこちらを見据える様に、誰もが絶句するしかなかった。

「伊勢エビかな?」
「ロブスターじゃないのか?」
「知るか!」
「なんか小っちゃいのも来たわよ!」

 初見で感じた事を思わず口走ったユナとシャーリーの感想に、バルクホルンが怒鳴り返す。
 だが、そこで舞の指摘通り、巨大エビに従うかのように、ヤドカリや熱帯魚のような姿をした物が無数に水上へと飛び出してきた。

「水中からという事は、ネウロイではない! コアらしき物も見当たらん!」
「こんな連中、こちらも初めてよ」

 美緒が烈風丸を、ポリリーナがバッキンボーを構え、謎の敵群へと突きつける。

「一体どこからこんな物を……」
「さ〜あ? 戦ってみれば分かるんじゃなあい?」

 クルエルティアも見た事も無い敵に注意を向ける中、フェインテイア・イミテイトがそう言い放ちながら、人差し指を立てると、それを巨大エビへと向ける。
 そこからレーザー信号が放たれたのをトリガーハートと武装神姫だけが気付いた時、敵は一斉に動き始めた。
 巨大エビはその巨大なハサミを片方掲げて開く。
 そこに生じたビーム光に、正面にいた者達が一斉にその場から飛び退くが、そこから放たれた太目のビームが、突然空中で散開、無数のビーム散弾となって周囲に降り注ぐ。

「ちょ、何よこれ!」
「総員、防御体勢!」
「皆さん、私の後ろに!」

 完全に予想外の攻撃に、皆が慌てふためき、美緒の号令で一斉にシールドを展開したウイッチ達の背後に慌てふためきながら回りこむ。

「ディアフェンド!」「カルノバーン!」
『キャプチャー!』

 こちらに向かって弾を放ってきた小型の敵を、エグゼリカがヤドカリ型、クルエルティアが熱帯魚型をアンカーでキャプチャー、スイングして敵陣へと叩き込む。

「姉さん!」
「ええ、ヴァーミスに似てるけど違う。まったく未知の敵………!」

 キャプチャーした時に分かった敵の情報が、該当するデータが己達に無い事に二人のトリガーハートが緊張を高める。

『こちらで解析を進めます! 注意して戦ってください!』
「この位置では狙い撃ちされる! 水面近くまで降下しながら、速度の有る者は小型をかく乱しつつ撃退! 防御に秀でた者を先頭に、大型の懐に潜り込む!」
「スプレッドビームに気をつけて! 放出と同時にウイッチのそばへ!」

 エルナーが中心となって敵の解析が進められる中、美緒とポリリーナの指示が飛ぶ。

「私が先頭に立ちます! 皆さんは後ろに!」
「いや、それなら我らが…」
「そうです…う……」

 シールドを展開する芳佳の前に、幻夢と狂花が出ようとするが、そこで体勢を崩して慌てそばにいたハルトマンとミサキが二人を支える。

「ちょ、服の下ボロボロじゃん!」
「こんな体で戦ってたの!?」
「お姉様………」

 予想以上の二人のダメージに、支えた二人が驚き、亜弥乎も呆然とする。

「ふふ、ユナには亜弥乎が世話になってばかりだったからな……」
「たまには、姉らしい事もしませんと………」
「ダメだよ無理しちゃ!」
「盾くらいは出来る………」
「ダメです! 盾なら私のシールドで十分です!」
「はっきり言おう。足手惑いだ」

 皆の制止を振り切ってでも戦おうとする幻夢と狂花に、美緒が一言で斬り捨てる。

「お姉様になんて事言うの!」
「坂本さん、言い過ぎです!」
「事実だ。もっとも、私もだがな」

 亜弥乎と芳佳が抗議するが、美緒は撤回せずに己もその中に加える。
 顔には出さないようにしていたが、美緒の呼吸は荒く、その顔には多量の汗が浮かび、手持ちの回復エキスも使い果たしていた。

「闘いが長引き過ぎた………魔力消費に、回復が追いつかん……」
「貴方達は一度撤退を。美緒はエルナーと解析に回って」
「すまない……バルクホルン、しばらく前線指揮を頼む」
「はっ!」
「マスター、援護します」
「こちらへ」
「亜弥乎ちゃんも………」
「あたしは大丈夫、ユナと一緒に戦う!」

 アーンヴァルと白香に援護されながら、三人がプリティー・バルキリー号へと撤退していく。

「それでは行くぞ!」
「攻撃開始!」

 バルクホルンとポリリーナの指示に、一斉に巨大エビへの攻撃が始まった。



「3Dスキャニング開始!」
『カルナダイン、全センサー全開! 解析開始します!』

 エルナーとカルナの二人が、突如として出現した謎の敵の解析を進めていく。

「これ程の巨体なのに、コアらしき物が見当たらない……どういう事だ?」

 続々と送られてくる解析データに目を通しながら、宮藤博士は首を傾げる。

『全長82m、30cm前後のナノマシン集合体が集結して構成されてます。こんな兵器はチルダのデータにも存在しません』
「待ってください。これは、どこかで………」

 詳細データが分かるに連れて、エルナーがそのデータに見覚えがある事に気付く。

「これは………そうだ! これはW.O.R.M(ワーム)!」
「ワーム?」
「今から200年程前、ある闇の力に捕らわれた天才科学者が生み出し、当時の光の救世主によって倒された侵略機械兵器群。ただ、その時の個体はここまで巨大ではなかったのですが………」
「それはどうでもいい、対処方法は!」

 帰艦した直後、息を切らせながらブリッジに飛び込んできた美緒の言葉に、エルナーは当時のデータを思い出す。

「対処方法はあったのですが、今の状態では………」
「どういう事かな?」

 言葉を濁すエルナーに、宮藤博士は問いかける。

「ワームには、中枢プログラムとなるコアが別個に存在するのですが、それがどこにあるか分からなければ、手のうちようがありません。もし別の世界から転移してきたのなら、中枢プログラムから隔離されて機能を停止するはずなのですが、それも見られません。これ以上の事は私にも………」
「物理破壊は不可能なのかな?」
「可能です。構成されているナノマシンの自己修復速度より早く、構成体の半分以上を一瞬で破壊すれば」
「あれの、半分か………よし、それなら……あっ」
「危ない」

 それを聞いた美緒が再度出撃しようとするが、足をもつれさせ転倒しようとした所をブリッジに入ってきたウルスラに支えられる。

「坂本少佐、貴女も治療が必要です」
「大丈夫だ、大した怪我は負ってない」
「ダメだ。君はどう見てもすでに戦える状態にはない」
「そうです。その疲労では、回復限度もおのずと限られてきます。今出て行けば、命の保障はありませんよ」
「しかし………」

 ウルスラ、宮藤博士、エルナーの三人に諭され、美緒はうつむきながら、拳を握り締める。
 その拳を、小さな手がそっと握り締める。

「私が、マスターの分まで戦います。指示をお願いします、マスター」
「アーンヴァル………しかし、幾らお前がその体に似合わぬ火力を持っていても、相手があれでは………」
「火力ならこちらにもあります。ミラージュ!」
『はいエルナー』

 エルナーの声に、ミラージュとの通信枠が開く。

「今からそちらにデータを転送します。ミラージュ・キャノンで、あのエビ型ワームの構成体を半数以上、破壊できるか計算をお願いします」
『分かりました。ただ、先程からこちらでも解析を行ってるのですが、どうやらある種のECMを発生しているらしく、詳細なサイティングが不可能です』
『詳細座標データはカルナダインから転送します。けど、タイムラグは出ますね……』
「なにより、あの強力な砲撃、この星その物にも被害が及ぶ」
『構いません』『被害はこちらで抑える。我々は首都への防衛線構築に全力を注ぐ!』

 幾つもの問題点、何より惑星への被害への懸念に、鏡明と剣鳳がそれを了承する。

「つまり、あの猛攻を掻い潜り、無数の敵群を破壊しつつ、あのワームとやらを攻撃して足止め、艦砲でトドメを刺す。そうだな?」

 美緒の作戦に、その場の全員が一斉に頷く。

「美緒、指揮をお願いします。こちらは全員に作戦概要を転送します」
「よし、総員に通達! あの大型目標はワームというらしい。まずは周辺の小型ユニットを撃破しつつ、ワームをウイッチの速度でかく乱、攻撃をそらしつつ、光の戦士達の攻撃で足止め、トリガーハートのアンカーで固定の後、上空からの艦砲射撃で撃破する!」
『了解!』

 返答が帰ってくる中、美緒は今だ整わぬ呼吸のまま、交戦状況が映し出される画面を凝視していた。

「……美緒君、せめて座ってた方がいい」
「しかし…」
「ここで貴女が倒れたら、誰が指揮を取るんですか? あんな大物と戦った経験なんて、こちらにはほとんどありません。そちらでは大型ネウロイとの戦闘経験も多いと聞いてます。戦歴が長い人間が、的確に指揮をしなくては、勝てる戦いも勝てませんよ?」
「ふ、そうだな………」

 エルナーの進言に、美緒は大人しく空いていたナビゲーター席に着席する。

「それではマスター、行って来ます」
「気をつけろアーンヴァル」
「はい!」
「ウルスラ君、君はユニットの応急処置の準備を。今ストライカーユニットが破損しても、代替は直ぐには不可能だ」
「分かりました」
『小型ユニットの解析も終了、データ転送します』
「こちらは金属細胞で構成されてますね。機械人に似た構造です」

 カルナから送られてきたデータに、エルナーが解析を進めていく。

『ヴァーミスにも似てますが、基礎設計が違います。違う技術体系で設計、製造された兵器群と推測できます』
「そうですね、いやこれ………ああ!」
「どうしたエルナー?」
「こちらにも覚えがあります! ワームが倒されてから更に後、一度だけ亜時空星団と呼ばれる存在が地球に向けて侵攻し、新たな光の救世主が立ち向かい、中枢コアを破壊して退けた事があります! そう、その時の敵が、このバクテリアン!」
「つまり、どちらも過去にこの世界に出現した事がある敵という事か?」
「ええ、ただ私のデータと詳細は一致するのですが、外見その他はまるで違うのです………」
「そういう世界から来た、と考えるべきだろうね。問題は、どうやってだが」
「宮藤博士、それは後にしましょう。今は、倒す事が最優先です」
「ああ」

 美緒の言葉に促されながらも、宮藤博士の中に沸き起こった疑問は、いつまでもくすぶり続けていた。



「ペリーヌは左翼、ハルトマンは右翼から! 私とシャーリーは正面から行く!」
「了解ですわ!」「了〜解!」

 海面を半身浮かべた状態で悠然と泳ぐ大型ワームに向け、バルクホルンの指示でペリーヌとハルトマンが左右へと分かれ、バルクホルンとシャーリーが並んで銃口を向ける。

「食らえ!」

 バルクホルンの気合と共に、三方向からの銃撃が大型ワームへと炸裂するが、魔力で破壊力が高められた弾丸を持ってしても、表面が削れるといったレベルでしかダメージを与えられていなかった。

「硬いよコイツ!」
「ならば、トネール!」
「リネット軍曹!」「はい!」

 思うようにダメージを与えられない事に、業を煮やしたペリーヌが固有魔法の電撃を放ち、後方に控えていたリーネがバルクホルンの指示で大口径狙撃銃を叩き込む。

「よし、効いてる!」
「……でも再生しています、お姉様」

 大型ワームの直撃した場所から体液のような物が噴出し、今度は確実にダメージを与えれた事にシャーリーが思わずガッツポーズを取るが、飛鳥の言うとおり、破損した部分が光を帯びてすぐに再生し始めていた。

「ええい、こういう所はネウロイ並か!」
「危ない!」

 バルクホルンが悪態をついた時、リーネと一緒に後方に控えていた芳佳が叫ぶ。

「パッキンボー!」

 飛来した細長い何かをポリリーナが迎撃するが、別方向から同じ何かが飛来し、とっさにシールドを張ったシャーリーとバルクホルンを弾き飛ばす。

「うわあ!」「何だ!?」

 弾き飛ばされながらも、バルクホルンは自分達を攻撃した物に視線を送る。
 それは細長い触手のような物で、自在に動きながら、更に他の者達を襲おうとしていた。

「これ、ヒゲですわ!」
「離れよう! 近いとこれが………え?」

 その触手が、大型ワームの頭部に当たる部分から生えているヒゲだと気付いたペリーヌが叫び、ハルトマンが距離を取ろうとした時、その頭上から影が指す。

「ハルトマン!!」

 影の先、海面から高く掲げられて振り下ろされようとするハサミがハルトマンを狙い、バルクホルンが思わず叫んだ瞬間にハサミは振り下ろされた。

「シュトルム!」

 とっさにハルトマンは固有魔法を発動、巻き起こった疾風でハサミを辛うじて弾きながら距離を取る。

「止まったらダメ! 距離を取って動き続けて!」
「ネウロイと似てるが、戦い方がまるで違う! 不用意に近付けば直接攻撃が来るぞ!」

 ポリリーナとバルクホルンが叫び、皆が慌ててそのようにするが、そこへバクテリアンが襲い掛かる。

「これでどう? サイキックピース!」
「これでも食らえ〜!」

 エリカの念動力が周辺のガレキや敵の残骸をまとめて叩きつけ、ミサキのリニアレールガンが最大出力のレーザーを放つ。
 直撃したバクテリアンが破壊される中、即座に別のバクテリアンが襲い掛かってくる。

「こいつら、次から次へと!」
「編隊で攻撃してくるわ!」
「ええ!? 危ない人達なの!?」
「そっちじゃないわよ!」

 個々はそれ程強くないが、的確に編隊で攻撃してくるバクテリアンを前に、いらん事を言ったユナが舞に突っ込まれる。

「攻撃を止めないで! 数で押し切られる!」
「エリカ7! フォーメションよ!」
『はい、エリカ様!』

 ミサキの声に応じてエリカの指示が飛び、エリカ7が素早くエリカを取り囲むようにフォーメションを組み上げ、一斉に攻撃を開始する。

「まだまだ出てきますぅ!」
「そ〜〜です〜ね〜〜」
「亜弥乎ちゃん、さっきのケーブル出せる!?」
「ダメ! 水の中じゃ操れない!」
「こっちも複数で組んで! 遠距離攻撃できる人中心に!」

 エリカ7に習い、他の光の戦士達も数人ずつでチームを作って攻撃するが、バクテリアンは水中から続々と現れ、迎撃しそこねた敵機はそのまま水中へと戻り、また襲ってくる。

「数は多いけど、動き自体はそれほど複雑じゃないわ! 次出てきた時、一斉に撃つ!」
「OKミサキちゃん!」

 ミサキの指示で遠距離攻撃が出来る者達が一斉に構える。

「いけません!」
「下がって!」

 だが一斉攻撃が行われる直前、上空にいたアーンヴァルが叫び、芳佳が前へと出てシールドを全開で展開、そこへ大型ワームの拡散ビームが飛来する。

「く、これくらい!」
「今、どこから撃ってきたの!」
「水中です! 一度ハサミが水に潜ったと思ったら、そこから撃ってきました!」

 アーンヴァルの警告と芳佳の機転で何とか難を逃れた皆だったが、大型ワームの巨体は水しぶきと共に水中へと沈んでいく。
 僅かに背中が見えるまでに沈んだ大型ワームの水中からの攻撃に、皆が悪戦苦闘していた。

「これでは、艦砲攻撃の狙いが定められん!」
「水中用のストライカーユニットなんてないしね〜」
『敵は無限とは限りません! 迎撃を優先させてください!』
「だが、あのエビをどうにかせん事には!」

 エルナーですら決定的な対処法が思い浮かばず、皆が焦り始めた時だった。
 プリティー・バルキリー号の格納用ハッチから何かが投じられ、水中に没したかと思うと、しばらくして大爆発を起こす。

「何あれ!?」
「まさか、爆雷か!」
『ありあわせの物で爆雷を作ってみました。取りに来てください』
「ありがとうウルスラ!」
「我々は爆雷装備のために一時撤退する!」
「こちらで防ぐわ、急いで!」

 エーリカとバルクホルンを先頭にウイッチ達が一時撤退する穴を、ポリリーナが中心となって素早く塞いでいく。

「早めにお願い!」
「うん!」

 ユナが無数の敵影に向かってトリガーを引きながら呼びかけ、芳佳はそれに頷いてそれぞれが勝機を掴むために、行動を開始した。



「下は大変みたいね〜」

 フェインテイア・イミテイトが意地悪く笑みを浮かべながら、更なるファルドットを呼び出す。

「カルノバーン!」「ディアフェンド!」

 それが攻撃を開始するより早く、二つのアンカーが飛来して一つのファルドットをキャプチャー、それを二人がかりでスイングして放たれたビームや弾幕を全て受け止め、爆砕させる。

「トリガーハートが二機そろって、防戦一方なんて笑い話にもならないわ」
「それはどうかしら!」

 クルエルティアが爆砕で生じた一瞬の隙を逃さず、カルノバーンの砲口をフェインティア・イミテイトに向けてショットを発射。

「ちぃ!」
「そこです!」

 フェインティア・イミテイトは舌打ちしながらそれを避けるが、その回避行動を見越していたエグゼリカがアールスティアを向けていた。

「こいつ!」

 拡散型のショットを回避しきれず、何発か食らいながらもフェインティア・イミテイトはファルドットを周囲に呼び寄せ、防護を固める。

『姉さん……』
『分かってるわ。このままでは、お互い決め手に欠ける。しかし、このフォーメーションを崩したら、下に攻撃の余波が向かう……』

 相手に悟られぬよう、コミュニケーションリンクで会話しつつ、エグゼリカとクルエルティアも焦りを感じていた。
 二人係のコンビネーションなら相手に有効な攻撃は十分与えれるが、相手の攻撃が下に流れてしまう可能性もあり、そして向こうも攻撃に集中し過ぎれば防御に隙が生じ、そこを突かれる。
 トリガーハート同士の戦いは、こう着状態になりつつあった。

「もうメンドクサイ! まとめて焼き払ってあげるわ! アンカーユニットは守りなさい!」

 業を煮やしたフェインティア・イミテイトがありったけのファルドットを召喚、膨大なエネルギーをチャージし始める。

「いけない! あれが照射されたら!」
「確実に下の皆さんに被害が!」
「させません!」
「……この身に変えても、防ぎます!」

 今までで最大の攻撃に、二人のトリガーハートがなんとか防ごうとアンカーを投じる脇から、二つの小さな影が前へと飛び出す。

「うおおおぉぉぉぉーっ!」
「空襲警報、発令!」

 飛び出したアーンヴァルが手にしたアルヴォPDW9機関銃を連射、放たれた弾丸が炎を帯びた竜へと変じ、急加速で上空を取った飛鳥がサイレンと共に三六式航空爆弾を投下、双方がフェインティア・イミテイトへと直撃、爆発を引き起こす。

「こ、のフィギュアサイズが!」

 予想外の急襲に完全に攻撃の出鼻をくじかれ、致命傷にはほど遠いながらもダメージを食らったフェインティア・イミテイトが激怒しながら二体の武装神姫を睨みつける。

「貴方達……!」
「マスターからの指示です。ここは私達が受け持ちます!」
「……下への増援をお願いします」
「けど!」

 アーンヴァルと飛鳥からの言葉に、クルエルティアとエグゼリカも驚く。
 だが、それ以上にその言葉に過敏反応した者がいた。

「はあ? あんた達が私の相手? 舐めてるのかしら? それとも、そのマスターとやらはとんだマヌケかしらね?」

 表情を引きつらせ、こわばった笑みと化しながらフェインティア・イミテイトがあまりにサイズ差が有りすぎる相手を睨み殺さんばかりに凝視していた。

「ふざけてはいません」
「私達がお相手します」
「じゃあ、記憶素子の一片も残さず焼却してあげるわ!」

 激怒しながらフェインティア・イミテイトがファルドットを武装神姫へと向けるが、即座に武装神姫達はその加速度と旋回性能で逆にファルドットの影へと潜り込む。

「ち、ちょこまかと!」
「アタック!」「参る!」

 相手がこちらを見失った隙に、死角へと潜り込んだ武装神姫が同時に攻撃を開始。

「つ、この!」

 フェインティア・イミテイトがそちらへと振り向いた時には、すでに武装神姫の姿は消えている。

「まだまだ行きます!」「……覚悟をしてください」

 当惑するフェインティア・イミテイトが周囲を見回す中、二体の武装神姫は動き回りつつ、ヒット&アウェイを連続していく。

「……エグゼリカ」「はい姉さん」

 その様子を見ていたトリガーハートはお互い目配せすると、反転して下へと向かっていく。

「ちょっと、待ちなさい!」
「行かせません!」
「あなたの相手は私達です」

 トリガーハートを追おうとするフェインティア・イミテイトの眼前に進み出たアーンヴァルと飛鳥が同時に銃口を向け、とっさに身をひるがえしたフェインティア・イミテイトの髪を放たれた弾丸が千切っていく。

「この……」
「マスターの指示です」「……ここは通しません」
「分かったわ。まずあんた達から壊させてもらうわ!」

 ファルドットを繰り出すフェインティア・イミテイトを前に、アーンヴァルと飛鳥は己の翼を全開で稼動させた。



「クルクル〜パ〜ンチ!」

 能天気な掛け声とは裏腹のユーリィの強力な一撃が、大型ワームの僅かに見えていた背中に叩き込まれ、その巨体が逆エビ状態に反り返り、水中に沈んでいた頭部が水しぶきと共に跳ね上がる。

「行くよ、離れて!」

 そこへシャーリーが持っていた一抱えほどはある円筒形の爆雷を投下、水中に沈むと程なく爆発して、大型ワームの巨体が更に揺らいだ。

「連続で行くぞ!」
「待ってトゥルーデ!」

 続けて同じ大きさの爆雷を三個束ねた特製のを投下しようとしたバルクホルンだったが、直前でハルトマンが背後についたかと思うとシールドを展開、そこへ振るわれたヒゲが直撃する。

「く、一度距離を取れ!」
「はい!」「ちょっと重いねこれ………」

 バルクホルンの指示で、慣れない手つきで爆雷を運んでいた芳佳とリーネが大型ワームから離れる。

「効果的なのは確かなのですけれど、有効距離まで近寄るのが一苦労ですわね……」
「我々は爆撃隊では無いからな。私自身、爆撃の経験はそれ程ない。反跳爆撃(※水面で跳ねさせて水きりの要領で目撃に到達させる爆撃)など練習も無しでは出来た代物ではない」

 なんとか片手で爆雷を抱えながら銃撃を行うペリーヌに、バルクホルンも何か有効的な方法は無いかと、今までのウイッチ経験を総動員させる。

「高高度からの急降下爆撃か、逆に低空からの近接爆撃が行えればいいのだが、制空権が確保できてない以上、どちらも不可能か………」
「上からも下からも攻撃されてるしね〜」

 上空で繰り広げられている武装神姫とフェィンティア・イミテイトの闘い、そして低空で行われている光の戦士達とバクテリアンの戦いに挟まれ、そして勝手の違うワームとの闘いに、ウイッチ達は苦戦する一方だった。

「どうにかしてウイッチ達を爆撃可能距離まで近寄らせないと………」
「こっちだって手一杯よ! 誰か暇な奴に行かせて!」

 なんとか活路を見出そうとするポリリーナの隣で、舞が悲鳴染みた声を上げながらアイアンを振るっていた。

「舞、後ろアル!」
「へ?」

 前方の敵に注意を取られていた舞が、麗美の声に慌てて後ろを振り向こうとして、背後でこちらに砲口を向けるバクテリアンに気付く。

「マズ…」
「カルノバーン!」

 回避も防御も間に合わない事を悟った舞だったが、そこへ飛来したショットがバクテリアンを撃ち落す。

「危ない所だったわね」
「皆さん大丈夫ですか!?」
「遅いわよ!」

 上空から降下してきたトリガーハートに、舞は助けてもらった事も棚に上げて声を荒げる。

『上空の方は武装神姫に任せた! これより状況の打開に移る! トリガーハート達により、爆撃ルートを確保。ウイッチ隊は即座にそこから爆撃を行い、目標の大型ワームの動きを止めた後、総攻撃を行い、目標を完全に固定、艦砲射撃にでトドメを刺す!』
『こちらは爆撃を行うまでに大型ワームへの牽制攻撃を行ってください!』
『アンカーユニットによる攻撃によって目標大型ワームへの通路確保、及び近接格闘用アームへの攻撃を!』

 美緒、エルナー、カルナからそれぞれ支持が飛び、それを聞いた全員が一斉に攻撃を開始する。

「エグゼリカ! 周辺小型ユニットをキャプチャーして、私は右腕、あなたは左腕を狙って!」
「了解姉さん! ディアフェンド!」「カルノバーン!」

 二つのアンカーが飛び、バクテリアンをキャプチャー、それをフルスイングして発射する。
 放たれたバクテリアンは周辺のバクテリアンを吹き飛ばしつつ、狙った通りに大型ワームの両方のハサミに直撃して爆発を起こす。

「今だ、突撃!」
『了解!』

 アンカー投擲によって生じた空洞を、バルクホルンの号令でウイッチ達が一気に抜けていき、大型ワームに肉薄していく。

「援護射撃よ!」
「ヒゲを狙って!」
「後ろからも来るよ!」

 ウイッチ達の背後に続きながら、光の戦士達が大型ワームや残ったバクテリアンを攻撃、ウイッチ達の邪魔をさせじと奮戦する。

「投下!」

 トリガーハートと光の戦士の援護を受けたウイッチ達がなんとか爆撃可能距離まで近付き、次々と手にした爆雷を投下していく。
 立て続けに海面下で爆発が生じ、大型ワームの巨体が激しく悶える。

「効いてるぞ!」
「攻撃を集中させて!」

 のたうちまくる大型ワームに、バルクホルンとポリリーナの号令で更なる総攻撃が開始される直前、大型ワームの体が一際激しくのたうち、そのまま虚空へと巨体が飛び出しきた。

「なに!?」「ちょっと、あのエビ飛んでるよトゥルーデ!」
「どうなってるのこれ???」「おいしそうですぅ!」
「予測可能範囲よ、攻撃続行!」「はい姉さん!」

 空中へと飛び出した大型ワームに皆が驚くが、ある程度予測していたクルエルティアが構わず攻撃を開始、皆もそれに続いて攻撃を続行する。

「むしろ好都合よ、これでも食らえ!」
「その通りですわ、トネール!」
「エリカ7、背中に回って一斉攻撃よ!」『はい、エリカ様!』
「ユーリィ、芳佳ちゃん、お腹狙うよ!」「はいですぅ!」「リーネちゃんも!」「うん、一緒に!」
「麗美、マリ、佳華、アレフチーナ、姫は私と左翼から! 舞、葉子、かえで、沙雪華、ルミナーエフ、エミリーは右翼から!」
「どこか殻の薄い所ないか!?」
『先程までの喫水線下は若干薄いようですが、さほどの違いはありません!』
「撃ちまくれ! どんな装甲が厚かろうが、これだけの攻撃が効いていないはずはない!」

 全方位から攻撃を受けながらも宙を泳ぐように動く大型ワームに、シャーリーが漏らした言葉に、カルナが解析結果を告げ、バルクホルンが皆を鼓舞する。

「ならば、モロくすればいいだけですわ!」
「エリカ様! 危ない!」

 ミドリの制止を振り切り、攻撃を掻い潜って大型ワームへと肉薄したエリカがほぼゼロ距離まで接近する。

「食らいなさい、ミラージュビーム!」

 大型ワームの背中へとエリカは腐食性のビームを次々と叩きつけ、結合のもろくなった部分にエリカ7が攻撃を集中させる。

「よし、もう一撃…」
「エリカ様!」

 再度ミラージュビームを放とうとしたエリカに向けてヒゲの一撃が振るわれるが、直前で切断され、千切れた破片が宙を舞う。

「離れて下さいまし! 狙われてますわ!」
「図体の割に細かい奴ですわね!」

 レイピア片手でエリカの窮地を救ったペリーヌに促され、エリカは再度振るわれたもう片方のヒゲをエレガント・ソードで切り払いつつ、距離を取る。

「再生速度は落ちてきてるけど、体積が大き過ぎる! 致命的なダメージが与えられていない………」
「目標をキャプチャーできるまでにエネルギー量を消費させられれば……」
『サイティングまでの時間さえ稼げればいいのですが………』

 クルエルティア、エグゼリカ、エルナーがそれぞれ状況を分析するが、好転する要素はまだ見出せない。
 そんな中、大型ワームが片方のハサミを開き、そこにエネルギーが集束し始める。

『いかん、避けろ!』
「うわああぁ!」「またいっぱい来るですぅ!」

 スプレッドビーム発射の予兆だと気付いた美緒が叫び、ユナとユーリィが率先して逃げ出す。

「シールド全開! 私達の後ろへ!」
「ダメ、何人か間に合わない!」

 バルクホルンの指示でウイッチ達がシールドを張るが、散開していたのが災いしてポリリーナが何とか救い出そうと瞬間移動に入るが、とても間に合いそうにない。
 それを見ていた芳佳が、ふとある手段を思いつく。

「シャーリーさん! 私をルッキーニちゃんみたいに投げてください! 早く!」
「な! 無茶だ宮藤…ええい、死ぬなよ!」

 突然の提案に拒否しようとしたシャーリーだったが、すでにスプレッドビームが発射目前なのを見て、半ばヤケクソで己の固有魔法で芳佳を加速させ、発射する。

「させない!」

 シールドにありったけの魔力を注ぎ込み、極限にまで大きくした芳佳はシールドごと発射直前のビームへと突撃、双方がぶつかり合い、大爆発を起こす。

「芳佳ちゃん!」「芳佳ちゃん!!」『宮藤!』

 爆煙が周囲を覆い、皆が芳佳の身を案じる中、爆煙から小さな影が飛び出す。

「ディアフェンド! お願い!」

 慌ててエグゼリカがアンカーを投じ、その影、爆発で吹き飛ばされた芳佳をキャプチャーする。

「大丈夫!?」「はい、なんとか………ちょっと頭がくらくらしますけど」

 かろうじてシールドで身を守れた芳佳の声に、皆が安堵する。

『相変わらず無茶をする奴だ』
「芳佳ちゃんすご〜い」
「見て!」

 美緒が半ば呆れ、ユナが歓声を上げるが、そこでミサキが大型ワームを指差す。
 爆煙が晴れていくと、そこには片方のハサミを失い、半身も大きく焦げた大型ワームの姿があった。

『いける!』『皆さん、もう少しです!』
「よおし、行くわよ!」

 美緒とエルナーが声を上げる中、ユナが銃口を向け、全員が一斉に構える。

「攻撃開始!」

 バルクホルンが叫びながらトリガーを引き、そこへ全員の攻撃が大型ワームへと集中する。
 先程のダメージと相まって、今度は瞬く間に体が削れて行く事に、大型ワームは身もだえ、海面へと向かおうとする。

「水中に逃げ込ませるな!」
「誰か抑えて!」
「どうやってよ!」

 バルクホルンとハルトマンの声に、舞が思わず怒鳴り返す。

「あの〜。ちょっと〜〜」
「ん、なんだ?」

 いきなり声をかけられ、銃撃を続けながらシャーリーが振り返ると、そこに詩織が何かを思いついたのか、小首を傾げながら話しかけていた。

「私を〜〜〜先程の〜〜方の〜〜〜……」
「あ、うんなんとなく分かった。でも大丈夫か?」
「その子鈍いから多少のダメージは平気よ」
「葉子、沙雪華、コーティングを!」

 詩織のやろうとしている事に気付いたシャーリーが問う中、舞が余計な事をいい、ポリリーナが防御増強能力を持つ者を慌てて呼ぶ。

「く、潜られる!」

 攻撃を食らいながら、大型ワームが水中へと逃れようとする時、用心して弱めに投げられた詩織が、大型ワームに直撃する。

「……なあ、あれ大丈夫か?」
「……さあ」

 さすがに無策で直撃するとは思わなかったシャーリーが投擲の体勢のまま硬直し、舞もさすがに顔を引きつらせる。
 だが平気なのか気付いてないのか、詩織はそのままの体勢で顔だけ起こす。

「スロ〜〜〜ム〜〜ブ〜〜」

 さらにそこで詩織が特殊な光を発射、それを浴びた大型ワームの動きが、突然ゆるやかになる。

「あんな固有魔法持っていたのか!?」
「いいな〜、トゥルーデ用に私も欲しい」
「何に使うつもりだ!」
「これなら、エグゼリカ!」
「はい姉さん! ディアフェンド!」「カルノバーン!」

 好機と見たトリガーハートが、アンカーを左右から投じる。
 水面に潜る直前にアンカーは大型ワームに突き刺さり、キャプチャー体勢に入る。

「侵蝕開始!」「キャプチャー率、10、20、30……」

 動きが遅くなりながらも、キャプチャーから逃れようと大型ワームは身をよじらせ、トリガーハート達は全エネルギーをアンカーユニットに集中させていく。

「トリガーハート達を防御!」
「まだ小さいのも残ってるわ! もう少しよ、みんな!」
「詩織ちゃんを剥がしてこないと!」
「宮藤〜、回復準備を」

 トリガーハート達がキャプチャーに集中できるよう、ウイッチ達と光の戦士達が周囲を防御、今だ残るバクテリアン達の掃討に入る。

「60、70」

 キャプチャーが進む中、なおも身をよじる大型ワームだったが、不意に残っていたもう片方のハサミが千切れ、海面へと落ちる。

(あちらのハサミ、それほどダメージを負ってなかったと思ったけど?)
「エルナー、ミラージュに砲撃準備打電!」
『やってます! サイティングポイントほぼ確定、キャプチャー完了と同時に発射します! 皆さん射程範囲から待避してください!』

 ポリリーナの脳内に僅かに浮かんだ疑問も、ミサキとエルナーの切迫した声に霧散する。

『サイティングポイント確定、砲撃射程範囲及び退避距離を確認。クルエルティア、水平座標にW20移動。エグゼリカはそのままの位置で』
『シャーリー、ハルトマン、6時方向に退避!』
「ユナ、そっち危ない!」
「わあ! ミラージュちょっと待って!」

 カルナと美緒の退避指示が出され、遅れそうになったユナを亜弥乎が慌てて引っ張る。

「90、100!」
「キャプチャー完了、座標送信!」
『座標送信完了、皆さん対閃光防御を!』
『総員シールド全開、衝撃に備えろ!』
「ミラージュ、お願い!」
『分かりましたユナさん、ファイアー!!』

 動きが完全に止まった大型ワームに向けて、地球上空の永遠のプリンセス号の主砲が発射。
 放たれたエネルギーの奔流はワープゲートを突き抜け、機械化惑星上空へと転移。
 そこから送信された座標、固定された大型ワームへと直撃する。

「きゃああ!」
「うひゃあ!」
「これはすさまじい……」
「耳が痛い〜」

 眩いエネルギーの奔流が目標へと突き刺さり、そして海面にぶつかって水蒸気爆発を起こす。
 吹き荒れる爆風と水しぶきがしばし続き、そしてようやく止んだ。

「目標は!?」
「あれ見て!」

 誰かが叫び、皆が煙の吹きぬけた向こう、巨体の6割以上を失った大型ワームが、残った部分も粉々に砕けつつ、海面へと落ちていく。

「やったああ!」
「ありがとうユナ!」

 ユナが歓声をあげ、亜弥乎が歓喜の表情でユナへと抱きつく。

「よし、残った敵の掃討を…」

 作戦の成功を確信し、バルクホルンが残った敵の掃討支持を出そうとした時だった。

『水上に高エネルギー反応! 先程の大型ワームと一致します!』
「なんですって!」
「姉さん、あれを!」

 カルナからの報告に、クルエルティアが驚愕し、エグゼリカが海面のある場所を指差す。
 エグゼリカの指差す先、先程千切れ落ちたと思われたハサミが海面に浮かんでいたが、そこからエポキシ素材でも膨らませるように何かが湧き出していく。

『何が起きている!』
「うそ………」
「そんな………」

 美緒の質問に、答える者は誰もいなかった。
 全員が凍りついた状態のまま、ハサミから湧き出した物はどんどん膨れ、形を成していく。
 程なくして、そこには、つい先程倒したはずの大型ワームと寸分たがわぬ姿が出現していた。

「再生した………」
『そんな事が! そんなデータはこちらにはありません!』

 状況を表す一言を呟いたポリリーナに、エルナーが思わず声を荒げる。

「こ、こんな馬鹿な話があるか!?」
「あるよ、今目の前で」
「理不尽ですわ! あれだけ苦労したと言うのに!」

 バルクホルンが狼狽するのをハルトマンが客観的にいさめるが、ペリーヌも声を荒げている。

「自切再生、トカゲのシッポのように危険回避のために体の一部を切り離すだけならともかく、全身を再生させるなんて………」
「エミリー、何か対策は!」
「データが少な過ぎるわ。けど、そう何度も再生できる程のエネルギーがあるとは思えないわ」
「何べんも同じ事やれっての!?」

 状況を理解できたエルナーの呟きに、ポリリーナが思わず対策を問うが、その返答に舞が怒号を上げた。

「あらら、残念ねえ………」

 絶望感が漂うその場に追い討ちをかけるように、上空からフェインティア・イミテイトが姿を現す。

「あの子達は!?」
「さあて、どうなったかしら?」

 クルエルティアの問いにフェインティア・イミテイトは意地悪く首を傾げる。
 だが、遅れるように二つの小さな影が上空から降下してきた。

「おい、大丈夫か!」
「……かろうじて大丈夫です、お姉様」
「けど、これ以上の戦闘は困難です」

 シャーリーが慌てて近寄り、左のウイングが消失している飛鳥と、右のウイングが消失しているアーンヴァルがお互い肩を貸し合っているのが痛々しいばかりだった。

「しかし、ダメージは与えてます」
「……無駄に損傷したわけではありません」
「後は任せて休んでていいよ、あとはこっちでどうにかするから」

 シャーリーが小さな体で頑張った武装神姫達の帰艦を促しつつ、フェインティア・イミテイトを見る。
 武装神姫達の言葉どおり、フェインティア・イミテイトの全身にはあちこち弾痕のような跡や刀傷のような物が生じていた。

「ふうん………それじゃあ、飼い主に責任を取ってもらおうかしら?」

 ファインティア・イミテイトが顔を引きつらせるような悪意の篭った笑みを浮かべると、その周囲に無数のファルドットが出現していく。

「この状況で、あの二体を相手にすれば……」
「けど、撤退しようにも………」

 圧倒的な戦闘力を持つトリガーハートのコピー体と、総力を持ってようやく駆逐したはずが再生した大型ワーム、そしてこちらは負傷・疲弊した者達ばかり。
 バルクホルンとポリリーナの脳裏には、この絶望的状況を覆せる要素は何一つ思い浮かんでこない。
 皆同じ気持ちなのか、全員の顔に暗い影が指そうとした時だった。

「もう一回やろうよ!」

 ユナの声が、その場に響き渡る。
 その声に、疲弊した仲間達、そしてフェインティア・イミテイトですらユナの方を見つめた。

「みんなの力があったから、あのエビを倒せたんじゃない! だったら、またみんなの力を合わせればもう一回くらいできるよ! だから、やろうよ!」
「ユナ………」

 ポリリーナが完全に呆気に取られた顔でユナを見る。
 ユナの顔には、先程までその場に満ちていた絶望は欠片もなく、ただ純粋に皆を信じる希望だけがあった。

「いいよユナ、やろうよ!」

 隣にいた亜弥乎が一番最初に賛同し、スタンソードを構える。

「うん! そうだね! もう一回くらい!」

 芳佳も賛同し、手にした銃に残ったマガジンを叩き込む。

「ユーリィお腹すいたですぅ! はやくあの人達倒してゴハンにするですぅ!」
「あはは、そうだね」

 せかすユーリィに苦笑しながら、リーネが銃口を大型ワームへと向ける。

「まだ負けを認めたわけではありませんわ………」
「その通りですわ!」

 エリカとペリーヌが背中を合わせるようにしながら、切っ先をフェインティア・イミテイトへと向ける。

「カルノバーン、カルノバーン・ヴィス、予備エネルギーバイパス解放!」
「アールスティア、ディアフェンド、ユニット リ・シンクロ!」

 クルエルティアは随伴艦の残っていたエネルギーを開放、エグゼリカは再調整を施し、再戦の体制を整える。
 やがて、その場にいた者達は全員、先程とは打って変わり、疲弊した体に鞭打って闘志を漲らせる。

『こちらミラージュ、エネルギー最充填はあと15分程で完了します』
『フォーメーションを組みなおせ! 残弾に余裕のある者を先頭に!』
『回復は早めに! 回復アイテムはまだあります!』
『目標、再活性化始まります!』

 ミラージュ、美緒、エルナー、カルナからの報告や指示が飛び、再戦の準備は整った。
 その光景に、フェインティア・イミテイトは憤怒で顔を引きつらせていく。

「まだ勝てるなんて思ってるの? それじゃあ、今度こそ完全に…」

 フェインティア・イミテイトが殲滅コマンドをファルドットと大型ワームに入力しようとした時、不意に彼女のセンサーに異常な反応が生じる。

『転移反応! しかも今までで最大です!』
『総員警戒態勢!』
「まさかここで増援!?」

 エルナーと美緒の声が飛ぶ中、ミサキが更なる最悪の展開を予想するが、フェインティア・イミテイトの明らかに狼狽した表情にその考えを否定。

『来ます!』

 カルナの声と同時に、虚空に巨大な渦が現れる。

「なんて大きさだ!」
「戦艦でも来るっていうの!?」
「まさか〜………」

 自分達が巻き込まれた物とは文字通り桁違いの大きな謎の渦に、バルクホルンが驚愕し、ポリリーナがいやな予感を口にするが、ハルトマンは思わず否定。
 だが、程なくしてその渦から現れた物に、敵味方全てが絶句する事になる。
 渦から海面へと落ちていく、二つの艦影に………






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