スーパーロボッコ大戦
EP32


「後部格納室と二番砲塔にかすめました! 今被害を確認中!」
「古鷹、長良被弾! 戦線離脱します!」
「ポートランド、総員退避を開始! ダナエは沈没寸前です!」
「モントレーから救援要請! ボルツァノからもです!」
「被弾場所から浸水! 修理班向かいました!」
「なんという事だ………」

 自艦も含め、次々と入ってくる被害報告に、大和のブリッジ内は先程を遥かに上回る修羅場と化していた。
 杉田艦長は嵐のように飛び交う損害と、ブリッジからも見える戦線離脱や救援の状況に、思わず拳を力強く握り締めた。

「攻龍から連絡! 現状で被害を受けた艦は四割以上! 一割は戦闘不能もしくは戦線離脱!」
「よもや、友軍ごと無差別攻撃とは………ウィッチの被害は!?」
「それが、先程の謎の光はあるウィッチによる治癒魔法だった模様! 負傷者は出ていますが、死亡や重体の者はいないようです! ただ、それを行ったウィッチが一番の重体との情報も………」
「もう一撃食らった時、我々の敗北、いや壊滅は決定するな」

 杉田艦長の言葉に、ブリッジ内の誰かがつばを飲み込む音が大きく響いた。

「二番砲塔から連絡! 破損により、旋回不能!」
「取舵20! 砲塔の向きを敵へと向けよ! 大和はまだ戦える!」
『了解!』

 友軍が次々と戦線離脱していく中、大和の乗員はまだ、戦意を失ってはいなかった。



「被害は!」
「センサー系が幾つか過負荷でダウンしました! 前部甲板一部破損、カタパルトにも被害が出た模様!」
「ソニックダイバーは全機無事!」
「通信系、回復!」
「なんとか軽症で済んだか………」
「ああ、彼女のお陰でな」

 冷や汗をかいた嶋副長が予想よりも被害が少い事に安堵し、門脇艦長はブリッジから見える機影を確認していた。


「ま、間に合っタ………」
「そのようだな」

 息を荒らげるエイラに、真下に見える攻龍の状態を確認したアウロラも大きく息を吐いた。
 自らの固有魔法の未来予知で危険を察したエイラが強引にホルス2号機を発進させ、普段滅多に使わないシールドで攻龍への直撃を防ぐ事に成功していた。

「む、なんか妙なランプがついてるぞ」
「無理ニ出てきたカラな〜」
『二人共聞こえるかい? 調整が不完全な状態で急発進したから、回路に多少無理がかかったようだ。まだ許容範囲内だが、注意してほしい』

「だ、そうだ」
「イヤ、無理しないト、間に合わないと思っテ………」

 宮藤博士からの通信に、エイラは思わず言葉を濁すが、アウロラは不敵な笑みを浮かべる。

「さて、今なら味方も混乱しているが、敵も混乱している。突撃するにはいい頃合いだ」
「姉ちゃん、今無理するなっテ宮藤博士ガ………」
「無理? これくらいは私の通常行動だ、行くぞイッル!」

 右手に20mm機関砲、左手に巨大スコップを構え、ホルス2号機は今だ混乱状態の戦場へと突撃していった。



「皆無事!?」「なんとか!」「問題ありません!」「し、死ぬかと思った………」「機体に損傷は無い」

 ウィッチ達のシールドに守られ、なんとか無事だったソニックダイバー隊だったが、周辺は壮絶としか言い様のない惨状だった。

「ひどい………」

 足元で損傷、炎上、そして沈没しかけている無数の艦隊、そしてその合間に漂う無差別攻撃を食らって撃破された敵の無数の残骸に、音羽は呻くような声を漏らすしかなかった。

「拡散ビームの間合いに誘うために、乱戦に持ち込ませるなんて………どんな奴が指揮してるの!?」

 自軍の損害を無視してるとしか言い様のない敵の戦術に、瑛花も思わず声を荒げた。

「そんな、張れるだけの大きさで張ったのに………」

 ありったけの魔力でシールドを形成したが、到底間に合わなかった事に芳佳も愕然としていた。

「芳佳ちゃん、前!」

 芳佳と一緒に零神の警護にあたっていたリーネが、生き残った敵がこちらに向かっている事に気付いてアンチマテリアルライフルを速射する。

「冬后大佐! ここは一度撤退しつつ、被害艦の救援を!」
『ダメだ! こちらも混乱してるが、向こうも戦列が乱れている! 今しかない!』
「しかしナノスキンの効果時間も半分を切っています! ここは…」

 瑛花の意見を即断で比定する冬后だったが、周辺の被害に瑛花は尚も救援しつつの撤退を進言する。

『ま、待ってください! ガランド少将が今とんでもない情報を! ロス・アラモス研究所の新兵器が15分以内に到着すると!』
「ロス・アラモス………まさか!?」
「原子爆弾!?」

 タクミの通信士らしからぬ慌てた声に、瑛花のみならず可憐の顔色も変わっていく。

『こちらカルナ! 南西方向から向かってくる機体から高濃度放射線反応感知! この世界ではまさか大気圏内で核反応兵器を使うつもりですか!?』
『プリティー・バルキリーでも確認しました! 旧型ですが、ここにいる人間全員が全滅するには十分過ぎる威力があると推察出来ます!』
「え? え?」「全、滅?」


 突然の情報に、音羽と芳佳が状況を理解しきれず、唖然とする。

「時間が、もう無い。残った時間内に目標を殲滅するしか…」
「けど、下には救助を待ってる人達が!」

 瑛花と音羽が相反する事を口にした時、突然上空に次元転移のゲートとなる、黒い渦が出現する。

「まさか、まだ何か来るの!?」
「敵? 味方?」

 瑛花が愕然とし、エリーゼが臨戦体勢を取るが、そこから見覚えのある姿の者達が一斉に飛び出してくる。

「遅れて済まぬ!」「救助には我々が当たる!」

 真っ先に飛び出した剣鳳と鏡明に続いて、友軍の証と思われる、急造の赤十字の旗を掲げた機械人の救援部隊が次々とゲートから出現していく。

「救護班、負傷者を収容、安全圏まで退避! 防衛班は残存敵を近付けさせるな!」「工作班、航行可能な船の応急処置を!」

 剣鳳と鏡明の指示で、機械人が次々と散開、それぞれの作業へと移っていく。

「これなら、皆さん助かるかもしれません!」
「けど、もう時間が…!」

 芳佳が喜色を上げるが、音羽は更に減っているナノスキンの有効残時間に悲鳴を上げる。

「冬后大佐! 一度撤退を…」
『それが、カタパルトをやられた! 修復に時間が掛かる!』
「そんな!」
「待って下さい」

 攻龍の予想外の被害に瑛花も悲鳴を上げる中、そこへ白皇帝玉華自らもその場に現れる。

「事情は存じております。これを」

 そう言いながら、玉華は不思議な珠のような物を差し出す。
 その珠は虚空に浮いたかと思うと、突然五つに分裂し、それぞれのソニックダイバーの元へと行ったかと思うと、そこで破裂する。

「え?」「何!?」「きゃっ!」「ちょっ…」「………」

 いきなりの事にソニックダイバーのパイロット達がそれぞれの反応を示すが、別段変わった所はないように見えた。

「今のは?」「オーニャー、それ!」

 音羽が首をかしげる中、ヴァローナがある場所を指さす。
 音羽のバイザー型ディスプレイに表示されているナノスキンの残時間が、巻き戻しのように増えていっていた。

「ナノスキンが、回復してる!?」
「こちらで急ごしらえですが、用意した再活性システムです。完全とは言えませんが、しばらくは持つはずです」
「べ、便利な物作ったわね………」
「残時間が18分まで回復、行けます!」

 エリーゼが唖然とする中、可憐が各機のナノスキンの回復度を素早く確認、作戦続行可能を報告した。

『艦長から作戦続行指示が出ました! 今残存部隊との連携をシミュレート中!』
『こちらガランド! 戦闘可能な全ウィッチは作戦を続行! 繰り返す、作戦続行!』
『RVも全機健在! 攻撃を再開します!』
『トリガーハート、全機攻撃再開!』
『みんな無事だね! じゃあ、行くよ!!』

 各チームから返信が届き、最後のユナの一言と同時に、戦闘可能な者達が一斉に動き始める。

「今しか無いわ、ソニックダイバー全機、ペンタゴンフォーメーション可能範囲まで前進します!」
「行くよ、ゼロ!」「行こうオーニャー!」
「リーネちゃん!」「私達も行こう、芳佳ちゃん!」

 誰もが万全とは言えない状態の中、だが誰もが闘志を漲らせ、仲間と共に強大な敵へと立ち向かっていった。



『ミラージュ・キャノン、発射体勢完了です! いつでも言って下さい!』
「発射タイミングはこちらで指示します! 目標の再生力の前では、ミラージュ・キャノンも決定的とは言えません!」

 プリンセス・ミラージュからの通信を受け取りながら、エルナーは残存部隊の戦力から可能な作戦を次々とシミュレーションしていく。

「やはり、あの拡散攻撃を何としても封じなければ………」
『こちらカルナ、先程の攻撃から次の発射可能時間を試算しました! 600秒前後との結果です!』
「十分………! それまでにどうすれば………!」

 無差別攻撃で敵群は大分減ったとはいえ、試算された次弾の発射までに撃破は不可能と判断したエルナーが、更に幾つもの作戦を考える。

「攻撃を封じつつ、原子爆弾の使用を遅延させなければ………しかしまさか撃墜する訳にも………」

 エルナーは自らの演算能力をフルに活用していく中、ふと今まで無かった通信帯からの通信が入っている事に気付く。

「これは?」

 それはGで使われているのと同じ通信形式で、簡単なショートメッセージだけが送られてきていた。

《原子爆弾とやらはこちらでどうにかする。そっちを頼む E・5》

「Gからも他に誰かがこの世界に? ならば、任せてもいいでしょうか………しかし何をするつもりでしょうか?」


その頃 大西洋上空 原子爆弾搭載B29爆撃機内

「どこの兵器か知らんが、すごい威力の新兵器が使用されたらしいぞ」
「そうか、それじゃあトドメにこのデカブツ叩き込めば終わりだな」

 爆撃機のコクピット内、クルー達が自分達がいかに恐ろしい物を運んでいるかも知らずに、目標へと向かって全速力で飛ばしていた。

「ウィッチ達に任せるんじゃなく、たまにはオレらもネウロイ倒さないとな」
「こいつが量産されれば、ネウロイなんか恐るるに足らずらしいぞ」

 それがネウロイよりも遥かに危険だという認識がまだ無い中、突然計器の一つがアラートを鳴らす。

「何だ? 燃料計に異常?」
「おい、漏れてんじゃないだろうな?」
「今確認して………今度は高度計がおかしいぞ!」
「二番エンジンが急に遅くなったぞ! どうなってる!」
「レーダーも不調だ! 何だ何だ!?」

 突如として連続して起きた謎の不調に、コクピットがにわかに騒がしくなっていった。

「落ち着け! まずは燃料、次はエンジンだ!」
『こちら後部銃座! 機銃が暴発してる! グレムリンが出た!』
「グレムリン? 馬鹿を言うな!」

 当時パイロット達の間で恐れられていた機械に不調をもたらすとされる怪物の名に、機長は声を荒らげる。

「おわああ! 便所が詰まって溢れてるぞ!」
「通信にも異常発生!」
「何が起きてやがるんだ!」
「本部、本部! 謎のトラブル多発! 作戦遅延の可能性大!」

 もう機内は完全にパニック状態の中、視界の隅に何か小さな影がよぎった事に、機長は思わずそちらに振り向く。

「ま、まさか本当にグレムリンが………」
「四番エンジン停止! 速度半減!」
「グレムリンだ! グレムリンが乗ってやがるんだ!」

 機内が完全にパニック状態になったのを確認する小さな影に、気付いたクルーはいなかった。

「……こんな物でいいかな。オーナーの指示通り、落ちない程度に妨害活動実施完了。ウェルクストラ帰還します」

 クルー達の隙を見て、武装神姫が一体、爆撃機から離れていくのを気付いた者はいなかった。



「原子爆弾搭載機、なぜか航行速度低下!」
「あの、その機からと思われるエマージェンシーコールが出てるんですけど」
「まさか墜落するのではないだろうな?」
「いえ、救難信号まではまだ………」
「いっそ、海底にでも沈んじまった方が無難かもしれんが」
「こちらが済んだら救援班を出す。目標の殲滅が優先だ」

 攻龍のブリッジで、いきなりB29の速度が急激的に落ちた事に皆が首を傾げるが、門脇艦長の言葉に全員が即座にその件を思考の隅に追いやる。

「状況は」
「機械人の方達によって救援は続行中! 各攻撃部隊は白鯨型ワームに先程よりは接近してますが、残存敵の反撃が厳しく、直接攻撃には至ってない模様!」
「トリガーハートから連絡! フェインテインティア・イミテイトの攻撃が激しく、目標への攻撃が困難との事!」
「残存火器を総動員で援護にあたれ!」
「了解!」
「問題は、あのデカいのをどうやって取り付いて、セルを潰していくか………」

 通信と指示が飛び交う中、冬后は先程よりも更に激しさを増している戦況を確認、決め手に欠けている事に顔を険しくする。

「もっとこう、強烈な手がいるな」
「けど、さすがにN2弾頭をもう一回使う訳には…」

 同じ事を考えていた周王も何か手は無いかと必死になってデータを検索していたが、そこでふとある反応に気付いた。

「ソナーに何か反応が有るわ!」
「こちらでも確認しました! 大型潜水艦が目標に接近中!」
「いかん、警告を! この時代の潜水艦なぞ、ワームの的にしかならんぞ!」
「は、はい!」

 嶋副長の声に、タクミが通常波とアクティブソナーのモールスによる警告を並行して発信。
 だが意外な反応が帰ってきた。

「海底潜水艦からモールス! コチラフソウコウコク イ901、ホンカンハタイネウロイヨウケッセンカンナリ?」
「伊901? そんな潜水艦は二次大戦時に存在しない!」
「つまり、この世界のオリジナル潜水艦という事でしょう。しかも対ネウロイ戦闘用の」

 周王のデータ整理を手伝っていた緋月の言葉に、嶋副長が思わず門脇艦長と顔を見合わせる。

「ガランド少将と宮藤博士に連絡、何か知っているかもしれん」
「ガランド少将は戦闘中で通じるかどうか………」

 タクミが双方に連絡を取ると、反応はすぐに来た。

『伊901? そんなのは知らん。今忙しいから他に聞いてくれ』
『伊901、本当にそう名乗ったのですか!?』

 あっさりとしたガランドと、過剰なまでの宮藤博士の返答に、タクミは思わずたじろぐ。

「知っているのかね」
『まだこちらにいた時に計画だけ有った物です。まさか、濃紺艦隊が完成していたとは………』
「濃紺艦隊? 現状一艦だけのようだが」
『それはそのはずです。なぜなら濃紺艦隊とは…』



同時刻 伊901ブリッジ

「やれやれ、できれば出番が無しでいきたかったが」
「そうも言ってられません艦長」
「………その呼び方もまだ慣れないな」

 狭い潜水艦のブリッジ内で、扶桑皇国海軍将校服を纏った女性と、その隣で同じ扶桑皇国陸軍の将校服をまとった女性が船の指揮を取っていた。
 のみならず、ブリッジ内にいるのも全て女性、正確にはこの潜水艦を運営しているのはまだ10代前半と思しき少女と、20代を超えているらしい若い女性の二種類しかいないという、この時代ではある種異様とも言える状態だった。

「総員戦闘配置、機関変更、魔力充填開始!」
「魔力充填開始!」

 艦長と副長の号令と同時に、乗員が次々と己の持ち場にある、ストライカーユニットに似た装置に己の足を突っ込み、魔力を発動させていく。
 乗員のほぼ全員がウィッチで構成されるという、非常識なコンセプトで設計、建造されたネウロイ決戦用潜水艦が先程とは打って変わった高速で目標へと接近していった。

「ソナーに感あり! 小型の敵機が接近中!」
「ネウロイとは似て非なる敵とは聞いていたが、水中にも来るとはな………」
「シールド展開用意! シールド回路開け…」
「待て、ただでさえ安定しない状態で防御にまで回せる余裕は無い」
「しかし艦長…」
「敵機の数は?」
「6、7? あれ?」

 ソナー手を務めていた、幼いウィッチが耳を済ましていた所、突然破壊音と共に迫ってくる音源が減っていった。

「5、4、更に減っていきます!」
「口だけでは無かったようだな」

 艦内では確認しようもなかったが、伊901の周囲を小さな影が驚異的な速度で動き回り、迫ってきていた小型バクテリアンやワームを次々撃破していた。

「こんな雑魚、朝飯前ですぅ!」

 触手とも見える複数のアームで構成されたプロテクターにそれぞれ武装を持った風変わりな武装神姫、テンタクルス型MMS・マリーセレスが見た目とは裏腹の毒舌を吐きながら、ありったけの武装を駆使してサイズの違い過ぎる伊901をガードしていた。

「マスターもこんなポンコツ押し付けられて、カミカゼアタックなんて時代遅れですぅ! このマリーちゃんがいなければ、すでに沈んでいるのですぅ! おらそこの雑魚とっと沈めぇ!」

「敵機反応消失!」
「マリーセレスが頑張ってくれているようだな」
「潜水艦が人形に守られるというもアレな話ですが………」
「アレも口以外はこちらとは比べ物にならん性能を持っている。幸い敵の注意は上にばかり向いているようだしな」

 艦長がほくそ笑むが、その笑みはブリッジ内に響いてきた警告を示すブザー音にかき消された。

「魔力回路、負荷増大中! これは計算よりも早く限界が来そうです!」
「やっぱりか。試験航海も無しで実戦投入するから………もっとも乗員の半分が上がりでこれとは」

 艦長自らも魔力を発動させているが、実は乗員が確保出来ず、現役を引退した20歳以上のウィッチが半数を占めている現状ですら、すでに色々とカウントダウン状態の決戦艦に半ば呆れた声を上げる。

「目標まで距離300!」
「魚雷発射管、一番二番魔力魚雷発射!」
「発射!」

 乗員達の魔力を帯びた魚雷が水中に航跡を描きながら推進、途中で後部スクリューが脱落、代わりに魔力によるエーテルプロペラが発生し、一気に速度を上げて水中から空中へと飛び出し、見事に目標に命中する。

「命中確認! 効いてます!」
「魔力回路に更に過負荷! 予備回路開きます!」
「自分達の攻撃でも過負荷を負うとは。とんだ欠陥兵器だな、加藤副長」
「仕方ありません、宮藤博士がいてくれたら違ったかもしれませんが………」
「宮藤博士はこの計画に最初から反対してたとも聞いていたがな。魚雷装填、魔力充填完了と共に発射」
「了解です、北郷艦長」

 かつて扶桑海事変でその名を轟かせた二人のウィッチが指揮を取る未完の決戦艦が、絶望の戦況を打破すべく、攻撃を再開した。



「何今の!? D・バースト!?」
「似てるけど違う、ウィッチの攻撃よ!」
「まさか、ウィッチで潜水艦を運用してる!? 魔力同調も無しになんて無茶な事………」
「無茶はこっちも」

 下手な砲撃よりも効いている魔力魚雷攻撃に天使達が驚くが、どのRVも先程の無差別攻撃をフィールドで防げたはいいが、少なからずダメージを負っているのは事実だった。

「チャンスよ、海面下の攻撃と並列して、こちらもD・バーストを叩き込んで構成セルを潰せるだけ潰しましょう」
「けど、各機PEジェネレーターがオーバーヒート気味、威力が平均30%減の可能性が…」
「危ない!」

 マドカの説明の途中で、飛来した敵機に全機が散開、即座にエリューとジオールが応戦する。

「PEジェネレーター回復までD・バーストは使用停止! 全ウェポンを持って、周辺の敵および目標を攻撃!」
「よおし、亜乃亜、行っきま〜す!」

 先陣を切るように、亜乃亜はダメージの残るビックバイパーを加速させて白鯨型ワームへと向かっていった。



「カルノバーン・ヴィス!」「ガルクアード!」「ディアフェンド!」
「このおっ!」

 三方向から同時に叩き込まれるアンカーに、フェインティア・イミテイトはとっさに砲撃ユニットを盾にする。

「パターンが単調だ」

 だがその隙間を縫うように迫ったムルメルティアが、フェインティア・イミテイトの体にインターメラル 超硬タングステン鋼芯を叩き込んでいく。

「そんな玩具!」
「でも役に立つわよ!」

 素早く迂回したフェインティアが砲撃艦からビームを発射、フェインティア・イミテイトは身をよじってビームをかわすが、ムルメルティアの攻撃が打ち込まれた箇所が余波に耐え切れずにダメージを追い始める。

「くっ!」
「幾ら貴方でも、トリガーハート三機に武装神姫一機の波状攻撃、防ぎきれはしないはず」
「4対1、ここで決着を付けさせてもらいます!」

 クルエルティアとエグゼリカも砲撃艦をサイティングした時、フェインティア・イミテイトの顔に笑みが浮かぶ。

「4対2よ」
「2? ………何!?」

 フェインティア・イミテイトの示した数値に違和感を感じた時、フェインティアは突然真下から急上昇する何かを感知する。

「ムルメルティア!」

 何かまでは分からないが、とてつもなく巨大な何かが高速で迫ってくる事に危険を感じたフェインティアは、思わずムルメルティアをひったくるように掴み寄せ、最高加速で急上昇する。

「マイスター、下からの攻撃だ!」
「でもさっきまでの何の反応も…!」

 上昇するフェインティアが迫ってくる攻撃にエネルギー反応が全く無い事に違和感を覚えた時、その体が何かに包まれる。

「これ、水!?」「海水だ!」

 攻撃の正体に気付いたフェインティアが、更に加速させて水の層を突き抜ける。

「今高度なんぼだと思ってるの!」
「マイスターの速度だから無効化出来たが、これ程の質量を高速で打ち出せるのなら、れっきとした兵器だ」

 海面から高空へ水を打ち出す、という非常識な攻撃にフェインティアは悪態をつくが、海面を精査してその方法に気付いて更に愕然とする。

「まさか、そんな原始的な方法で!?」

 フェインティアが驚く中、白鯨型ワームは尾びれに当たる部分を水中へと沈めたかと思うと、周辺に衝撃波をまき散らす程の高速で、尾びれを載せた水ごと弾き上げる。

「マイスター!」「分かってるわよ!」「エグゼリカ」「了解姉さん!」


 弾き上げられた水塊を回避すべく、トリガハートは各機散開、跳ね上げられた水塊はそのままある高度まで上がると、下へと広がりながら落ちていく。

「驚いたけど、距離を取ってれば怖い攻撃じゃないわ」
「貴方達はそうでしょうけどね。けど、下の鈍い連中はどうかしら?」
「え………」

 クルエルティアが下を確認すると、そこには生物のクジラならばあり得ない、尾びれを垂直近くにまで捻った白鯨型ワームの姿があった。

「危ない! 避けて!!」

 クルエルティアが大声で叫んだ時、尾びれが真横へと振り抜かれた。
 大量の水が、高速の津波となって押し寄せていくのを、トリガーハート達は上空で見つめる事となった………



「何だ、何をしている!?」

 目標の白鯨型ワームが奇妙な動きをしている事に、魔眼を発動させていた美緒が最初に気付く。
 だが、尾びれの動きが高速過ぎ、それが上空への攻撃だと気付くのに若干の遅れが生じた。
 そして、その尾びれが垂直に捻られた時、それが意味する事に気付いた。

「奴の真横に立つな!!」

 美緒が叫ぶが、次の瞬間、尾びれは右方向へ超高速で振るわれた。
 上空攻撃よりは遅い物の、それでも空気を凪ぐすさまじい衝撃音が響き渡り、それに追随してとてつもなく高く、広くそして高速の津波が襲いかかってきた。

「え…」「何…」

 津波の正面にいた者達は、轟音と共に突如として生じた青と白の壁が、津波だと認識出来ず、回避する事すら出来なかった。

「回避…」

 RVのセンサーで津波だと悟ったエリューが上空に回避しようとするが、乱戦状態での急上昇はほぼ不可能な事、そしてウィッチや光の戦士のような低速の者達は逃げらない事に気付き、愕然とする。

(間に合わない…!)

 エリューが思わず目を閉じた時、甲高い衝突音のような物が鳴り響いた。

「え………」

 予想外の音にエリューが目を開くと、迫ってきていた津波が、巨大なシールドで阻まれていた。

「これって…」
「皆さん、離れて下さい!」

 響いた声に皆がそちらを振り向き、そこには持てる限りの力でシールドを張った玉華の姿が有った。

「玉華様!」「玉華さん!」
「大丈夫です………」

 鏡明とユナが玉華へと駆け寄るが、玉華は明らかに必死の表情をしながらシールドを張り続ける。
 やがて津波が通り過ぎた所でシールドが解かれるが、周辺の海は嵐がごとく荒れ狂い、玉華は明らかに疲労困憊していた。

「艦隊を下がらせろ!」「目標の動きに注意! 二撃目を打たせないようにしないと!」

 ガランドとジオールの指示が飛び交い、ようやく我に帰った皆がそれぞれ動き始める。

「すまん、先程は助かった」「いえ、そちらにだけ任せる訳にはいきませんので」

 ガランドが鏡明に肩を借りてなんとか浮かんでいる玉華に声をかけるが、その状態に眉を曇らせる。

「まさか海水で攻撃してくるとはな………純粋な質量攻撃、ウィッチのシールドでも防ぎ切れん」
「防ぐ事は出来たとしても、押し流されます。二撃目を放たれる前に…!」
「どけぇ!」

 ガランドとジオールが対策を考える前に、シャーリーの声と共に、何かが二人の脇をかすめて飛んで行く。

「………人?」

 ガランドが唖然としていると、シャーリーの固有魔法で加速して投じられた詩織が、またしてもノーガードで白鯨型ワームへと直撃する。

「だ、大丈夫なんですか?」
「怪我してたら宮藤に治してもらう! 今だ!」
「スロ〜ム〜ブ〜〜」

 白鯨型ワームの尾の付け根辺りに大の字で半ばめり込んでいる詩織が発動させた技で、二撃目を放とうとしていた尾の動きが目に見えて鈍くなる。
 だがさすがに巨大過ぎたのか、遅くなったのは一部で、その結果他の部分が引きずられ、半端な津波が起きた上に白鯨型ワームの体勢が僅かに揺らぐ。

「ダメか、デカすぎる!」
「尾を切り落とすんだ!」
「しかし、これは………」

 シャーリーが思わず呻く中、ガランドが尾への攻撃を指示するが、半端に動く尾がもがくように小規模な津波を連発し、それに遮られて接近は困難だった。

「亜乃亜、マドカ、上からなんとか…!」
「よ〜し…」
「ダメ! あのクジラ、全方向にデタラメに撒き散らし始めた!」
「こうなったらD・バーストで…」
「行って、ディアフェンド!」「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」

 上空から急降下しながら、エグゼリカとクルエルティアがアンカーを高速射出、二機がかりでなんとか尾の動きを封じようとする。

「出力上昇……頑張ってディアフェンド!」「侵食しきれない………! 今の内に!」

 トリガーハート二機がかりで抑えこむのがやっとの状態だが、ようやく津波が収まった事に皆が戦意を奮い立たせる。

「集中攻撃、急げ!」
『今の内です! あの津波攻撃だけでも使用不能に…』

 ガランドとエルナーの指示が飛び交うが、白鯨型ワームはその巨体を激しく身じろぎさせ、大きな口を再度開くと、そこから更に敵性体が出てくる。

「まだ入ってるの!?」
「数は少ないわ! 一気に行くわよ!」

 先陣を切っていたエリューと瑛花が若干驚くも、大した事は無いと判断し、皆もそれに続く。
 だが出現した敵性体は突然二手に分かれ、片方はこちらに近付く少女達の前に壁のように立ちふさがり、残った半分は更に三つに分かれ、身動きできないエグゼリカ、クルエルティア、そして詩織へと向かっていく。

「いかん!」
「詩織ちゃん危ない!」

 美緒とユナが叫ぶ中、狙われた三人が迎撃を試みようとするが、更にそこへ水中から巨大な何かが迫り上がってくる。

「今度は何!?」
「潜水艦!?」

 急展開の連続に音羽と芳佳が驚くが、突如として大型潜水艦が浮上、甲板が展開しそこにウィッチ用カタパルトが出現する。
 更にカタパルトへと続くエレベーターから次々と扶桑陸軍・海軍双方の軍服をまとったウィッチ達が現れ、カタパルトから順次発進していく。

「総員出撃! 周辺敵機を排除せよ! 無理はするな!」
「すでに十分無理してません? もっとも、元々こういう用途の船ですが」
「先生!? 加藤少佐も!」

 潜水艦から射出されたウィッチ達の指揮を取る、剣の師匠とかつての上官の姿に、美緒も心底驚く。

「やれやれ、懐かしい顔があちこちにあるな」
「見た事の無いストライカー使ってる人も大勢いますが」
「だが、やらなければならない事は分かった」

 北郷艦長は背に指した二本の扶桑刀を抜き放ち、構える。

「マリーちゃん参上!」

 さらにそこへ水中からマリーセレスが飛び上がり、北郷艦長の脇で複数のアームで構成されたアーク・E・トゥージスを展開、それぞれに武装を構える。

「今の私がどこまで戦えるか、試してみるも一興」
「私もですがね」
「二人共男ひでりの年増は無理しないでマリーちゃんに任せるですぅ!」
「はっはっは、手が回らん分はそうさせてもらおう」

 マリーセレスの容赦の無い毒舌を軽く受け流し、かつての扶桑海事変で活躍した、元エースウィッチ達と一体の武装神姫が同時に敵へと向かっていった。


「まさか、扶桑があんな船を建造していたとはな」
『ネウロイの侵入出来ない水中から接近、中枢へ一気に多数のウィッチを投入させるための突撃型潜水艦だ。一歩間違えればただの特攻兵器だが………』
『しかし、出てきたウィッチ達のエネルギー分布が随分と不安定なようです。恐らくは新人と引退したウィッチで構成されているのでは?』
「とんだ切り札だな。突入した部隊はそれほど持たん! 敵陣突破急げ!」

 ガランドが突如として現れたウィッチ突入用の潜水艦に感心するが、宮藤博士とエルナーの説明に呆れながらも進軍を指示。

『目標のエネルギー上昇を確認! 先程のビーム攻撃の準備段階の可能性87%!』
『ナノスキン持続時間、10分を切りました!』
「急げ! 時間が無い!」

 カルナと七恵からの通信にガランドが急かすが、無数の敵が抵抗し、突破は困難となりつつあった。

「あの尾と体内の敵、そして拡散ビーム攻撃を防ぎつつ、体積を減らす。しかも10分位内に………かなり困難だな」
「ご主人様、尾を封じる作戦があります。かなり危険を伴いますけど………」
「今更危険を伴わない作戦なぞあるか。で、どんな方法だ?」
「はい、実は…」
「………なるほど、やってみるか。他の部隊にも伝えろ。全員の協力が必要だ」
『データは受け取りました。他の二つも、どうにか出来るかもしれません』
『時間はもう限られている、残存弾薬も限りは見え始めた。やるしかなかろう』

 データを受け取ったエルナーと門脇艦長が各作戦を修正、武装神姫を通じて総員へと通達する。

「各員、攻撃開始!」

 ガランドの声と同時に、無数の銃口から弾丸が撃ち出される。
 対抗するように無数の敵が壁になるように立ちふさがり、撃ち落とされていく中も反撃をしてくる。
 だが、その攻撃の隙間を縫うように小さな影が集結していく事に敵は気付いていなかった。

「今です! 突撃!!」

 弾幕と硝煙を隠れ蓑に、結集した武装神姫達がアーンヴァルを先頭に白鯨型ワームへと突撃していく。

「攻撃開始!」

 白鯨型ワーム、その尾の付け根に向かって、武装神姫達の一斉攻撃が放たれる。
 その小さな体からは想像も出来ない高出力粒子砲やアンチナノマシン特性を持った得物が次々と白鯨型ワームへと突き刺さるが、その巨体の前には文字通り蚊が刺した程にもなっていなかった。




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