スーパーロボッコ大戦
EP35


会議の翌日

「うへ〜………」「あ〜………」「うう………」

 目の下にクマをこさえた僚平、嵐子、晴子の三人が、食堂のテーブルに突っ伏して注文したコーヒーに手も伸ばさず呻いていた。

「三人共大丈夫? すごい事なってるよ?」

 三人のゾンビ一歩手前のような状態に食堂に来た音羽が思わず引きそうになるが、声を聞いた僚平がゆっくりと顔をそちらへと向ける。

「あ、音羽か………零神含め、ソニックダイバーの修理終わったぞ………」
「ここ数日、ほぼ格納庫で寝泊まりしとったわ………」
「どこもかしこも完璧に直したで………」

 それだけ告げた僚平が、せめてコーヒーだけでも飲もうとして手を伸ばすが、途中で力尽きて突っ伏したまま寝息を立て始める。

「………え〜と」
「寝かしといてやれ、整備の連中は今どこも似たような状態らしいしな。タクミの奴もブリッジが忙しくて数日こっちにこれねえ」

 諦めたような口調で顔を覗かせる料理長に、音羽はしばし迷ったが、食堂の隅に置いてあった仮眠用毛布を持ってくると、三人にかけてやる。

「随分と修理急いでるんだね」
「聞いてないのか? まだ何かあるんじゃないかって噂………」
「そう言えば、そんな事聞いたっけ」
「オ〜ニャ〜、覚え悪すぎ」
「こっちにまで非常時用食料の配給が来てるぜ。相変わらずどう開ければいいか分からんのが難点だが」

 ギャラクシーハイカロリー乾パンと銘打たれた極彩色の缶詰らしき物を手に、料理長は説明書きをガン見する。

「はああぁぁぁ………あ、源さんカフェオレお願い」

 そこへ爆睡している三人に劣らず疲れているマドカが食堂へと入ってくる。

「だ、大丈夫?」
「やっと直せる分は終わったよ………機械人の人達が手伝ってくれなきゃ、マドカ一人で全部やらなきゃならなかったけど。エモンのは本部に戻して完全オーバーホールだね」
「あの渋い人の? そんなに壊れてたんだ………」
「ここだけの話、皆に隠してるみたいだけど、RVがああだったら、エモンもただで済んでるはずないよ。本人平気そうにしてるけど」
「う〜ん、そうだ。マドカちゃんは機械を統べる者って知ってる?」
「機械を統べる者? さあ、知らないな〜」
「エルナーさんはそれが大ボスだとか言ってたんだけど………」

 テーブルに突っ伏し、ストローでカフェオレをかろうじてすすってるマドカの返答に、音羽は腕組みして考えこむ。

「あ、いたいた。音羽〜、ソニックダイバー修理終わったから、シミュレート訓練だって」
「分かった〜、今行く〜」

 顔をのぞかせたエリーゼが声をかけてきたのを聞いた音羽が格納庫へと向かおうとするが、ふと振り向くとマドカもカフェオレを飲みかけで寝息を立て始め、慌てて毛布をもう一枚持ってくるとかけてやる。

「それじゃ源さんあとよろしく!」
「おう」

 音羽が出て行った後、寝息の輪唱となっている食堂内で料理長は手を上げながら、冷め始めたコーヒーを下げる事にしていた。



『攻龍、ソニックダイバー、全面修理完了しました。まあ、整備班の皆さんはグロッキーですが………』
『カルナダイン、オールグリーン。トリガーハート及び随伴艦、戦闘力平均95%まで回復しました。7時間以内に完全回復します』
「各ストライカーユニットの修理も今日中には終わりそうだ。多少ここのではない部品も使用したが」
「プリティー・バルキリー号も修理は完了しています。なんとか間に合ったようですね」

 各艦から修理完了の報告をエルナーが受け取り、胸を撫で下ろす。

「こちらの体制が整う前に来る可能性も考慮していましたが………」
『前回が向こうにとっても総力戦なら、向こうも同じ事をしている可能性が高い。体制が整ったとはいえ、油断は禁物だろう』
『けど、本当に敵襲があるんですか?』

 エルナーの懸念が無駄に終わったが、門脇艦長は警戒を緩めず、カルナは逆に首を傾げる。

「せめて、予兆のような物があればいいんだけどね」
『今までそのような物は無かった。あればあそこまで苦労はしなかった』

 宮藤博士が冗談めかして言うが、門脇艦長が断言して皆が思わず頷く。

「たしかに、いつまで待てばいいかわからないのは問題ですね………」
『今の内に言っておくが、各航空団を留めておけるのはあと二日がいい所だ』
『二日、か………』

 ガランドの報告に、門脇艦長含め、皆の顔が険しくなる。

『そろそろ上層部を騙しておけるのも限度が…』
『警告、警告。ミッションプログラムに従い、エネルギー補充モードに入ります。クレイドルをセットしてください。警告、ミッションプログラムに従い…』

 顔をしかめていたガランドの言葉を遮るように、突然無機質な声が響く。
 突然の事に皆が驚く中、それがガランドの肩にいたウィトゥルースから発せられてるという事に気付く。

『どうしたウィトゥルース?』
『クレイドルをセットしてください』

 普段の弱気な発言とも違う、完全な機械音声のような口調にガランドが首を傾げるが、同じ事しか言わないために、ウィトゥルースと共に現れたクレイドル(※ソーラーパネル付き)に寝かせてやり、ようやく音声が止まる。

『エネルギー切れでしょうか?』
『妙な事を言っていたようだが』
「プログラムとか言ってなかったか?」

 今まで見た事のない武装神姫の挙動に皆が首を傾げる中、事態はそれだけでは収まらなかった。

「警告、警告。ミッションプログラムに従い、エネルギー補充モードに入ります。クレイドルをセットしてください」
「え、ストラーフ?」

 エルナーと一緒に現況を聞いていたミーナの肩で、ストラーフがまったく同じ口調で同じ事を言い始める。

「これは………」
「おい、アーンヴァルが妙な事を言い始めたのだが」
「飛鳥のクレイドルどこだったかな〜」
「ムルメルティアがおかしいわよ!?」
「ヴァローナがあたしの頭の上にクレイドルを………」

 あちこちから聞こえてくる武装神姫達の異変に、指揮官達の顔が険しくなっていく。

「エルナー君、率直に聞きたい。この状態をどう解釈すればいい」

 門脇艦長の問に、エルナーは言葉を選びながら答える。

「………武装神姫達は、当初から何らかのプログラムに従い、パラレルワールドを渡り歩く方々のサポートに徹していると推測されます。そして、その武装神姫達が一斉にエネルギー充填に入ったという事は、次に起こりえる事はただ一つ」
「最終決戦」
「恐らくは」

 代弁するようにガランドが呟いた言葉に、エルナーは静かに頷く。

『つまり、武装神姫達は決戦が近い事を知っている、となるな』
「そう考えるのが妥当です。何故か、は今は考えない方がいいでしょう」
『考えるなというのは難しい話だが、そう言ってもいられないようだな』
『こちらも、準備に入った方がいいだろう』

 ガランドと門脇艦長の言葉に、全員が頷いた。

「今までの武装神姫のエネルギー充填時間から逆算すれば、最短で八時間前後、最長で十二時間以内でしょうか………」
『今行われている全訓練を中止、休息の後、装備の点検配備を』
『こちらも同様、半日なら上もごまかせる』
「医薬品の手配も必要ね」
『戦闘可能な艦にウィッチを分配配置しよう。各隊長を至急集結』
「機械化帝国にも支援要請を………」

 指揮官達が次々と指示を出していく中、エルナーはある不安に駆られていた。

(もし私の予想通りなら、あれはかつてのとは比べ物にならない力を手に入れているはず………勝てるのでしょうか? 彼女達の力を結集させても………)



「オペレッタ、リーダークラスリンク。リーダー権限による時空間探索の結果表示要請」
『こちらオペレッタ、リーダークラス認識。当該スペースを中心とした周辺バース探索を実施、しかし目標は認識されず』
「やっぱ隠れてやがるのか」

 攻龍の一室で行われていたジオールの通信を、後ろから見ていたエモン・5が舌打ちする。

『エモン・5とウェルクストラ両名からのデータは受諾済み、目標存在の実在は確認できましたが、接触は偶発的の可能性が高いです』
「偶然でRV壊されてりゃ世話ねえよな………」
「壊されたのはRVだけじゃないでしょう。ヒーリングカプセルに入るなり、治癒能力者に頼むなりしてきた方が………」
「一応、傷は塞がってるぜ。それにRVがすぐに直せない以上、戦じゃ役立たずだからな」
「本当なら、リーダー権限で強制帰還と強制入院させたい所なのだけど」
『受け入れ準備は完了しています』
「それをしないってのは、気付いてるんだろ? 武装神姫達は何かを隠してる。オレのウェルクストラもな。一斉に寝ちまったのはその証明だ」
「何を隠してるかは、気付いてる人は何人もいるわ。オペレッタもその可能性を指摘している。だから、皆には言えないのだけれど」
「オレが武装神姫のマスターって事は、ここにいなきゃならねえ理由があるって事か」
「門脇艦長に頼んで、ブリッジに貴方の席を用意してもらってるわ。何かあったらそっちで待機していて。オペレッタはリンクを常時フルリンク、有事に備えておいて」
「軍師なんて柄じゃねえんだがな………」
『了承しました』

 エモン・5は一応ブリッジ配属を受領し、そのまま甲板へと出て行くと、背中からキセルを取り出し、一服し始める。
 その目は虚空を鋭い目で睨みつけていた。

「さあて、あとどれくらいで来る………?」

 紫煙と共に吐き出された呟きは、そのまま風に流されていった。



「ふあああぁぁ………」
「ユナ、遅いですよ」
「ごめんエルナー、急に寝てって言われても〜せっかく芳佳ちゃん達と打ち上げパーティーの準備でもしようかって話してたのに〜」
「それはまた後にしておいた方がいいでしょう。さあ早くご飯食べてください。でないとユーリィに全部食べられますよ」
「それはまずいわ!」

 最後の一言で慌てて食堂に向うユナの背中を見ながら、エルナーは戦力の配備状況を検索する。

(各戦闘航空団は戦闘可能な戦艦や空母に配備、弾薬・医薬品含む回復アイテム・その他配備は完了。問題は時間ですね………)
「エルナーさん、こちらはいつでもいけるわ」
「ああミーナ、予定していた八時間は過ぎました。武装神姫達の様子は?」
「皆目を覚まして準備始めてるそうよ。ストラーフも起きてきたから何で急に寝ちゃったのか聞いてみたけど、そうしなければならないと思ったから、って言ってたわ」
「そうしなければ、ですか」
「ねえ、オフレコで構わないわ。あなたは何を知っているの?」

 先程までの雑談とは打って変わって、鋭い視線で質問を投げかけるミーナに、エルナーはしばし考えてから話し始める。

「伝説の神と戦う事を、考えた事はありますか?」
「神? そこまでは分からないわね。けれど、この世界だと伝説や神話で怪物、恐らくはネウロイの古い姿なんでしょうけど、戦ったウィッチ達の話は多いわ」
「だとしたら、それに一つ加わる事になるかもしれません」
「相手が、神様だって言うの? さすがにそれは………」
「冗談では有りません。もし私の推測が正しいのなら、相手は本物の神、と言って差し支えない相手です。そう、私のような光のマトリクスが生まれる原因ともなった………」
「!? それは………」
「エルナー、門脇艦長とガランド少将が最終調整を相談したいそうよ」
「分かりました、今行きます」

 説明の途中で、ポリリーナがエルナーを呼びに来、そこで説明は途切れる。

「神………? 機械を統べる者、神、一体それは………」

 ミーナの疑問は、間を置かずして解かれる事になる………


「おはよ〜」
「あ、ユナさんおはようございます」
「ユナさん遅いですぅ」

 食堂に入ったユナに、片付けをしていた芳佳と、大量の空食器を重ねているユーリィが声をかけてくる。

「え〜と、あたしの分残ってる?」
「はい、ちゃんと残ってますよ」
「あ、ありがとうって白香!? 大丈夫なの?」

 食事の載ったトレーを運んできたのが、前の戦いで無理をし過ぎて母星送りになったはずの白香だった事に、ユナが驚く。

「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「いや〜、あの時は白香のお陰で助かったし」
「そうですよね。私、自分より強い治癒魔法初めて見ました」

 礼を述べながらユナは朝食に手を伸ばし、洗い物の手を一時休めて芳佳も感心の声を上げる。

「あの時は私も必死でしたから。それに玉華様がこちらにいた方がいいとおっしゃって」
「あ〜〜、また何か来るんだっけ? ようやく終わったと思ったのに〜」

 エルナーに言われた事を思い出し、ユナが食べかけのトーストを咥えたまま表情を暗くする。

「あ、ユナおはよう………」
「亜弥乎ちゃん? どしたの、疲れてるけど………」
「お姉様達が、まだ直ってないのにこっちに来るって言うから、鏡明と一緒になんとか止めてきた………」
「二人共しばらく動けないって美鬼さん言ってたよね? ダメだよ無茶しちゃ」
「そう言ったんだけど、私が操られた時の借りを返させてもらうって聞かなくて。鏡明が直ってないなら足手まといですって言ってたよ」
「鏡明さんも結構言う時言うよね………」
「坂本さんも無理して一日半目覚ましませんでしたし………ミーナさんとお父さん二人して今度こそ出撃禁止だって言ってました」
「う〜ん、でも芳佳ちゃんみたいなウィッチの人達いっぱいるし、なんとかなるよ♪」
「そうですね」

 楽観的なユナに芳佳も同意しながら、食後のお茶を入れ始める。
 ちなみに、ユーリィはまだ朝食を食べ続けていた。



「全員、準備できてるな」
『はい!』

 攻龍艦内で、冬后の確認にソニックダイバー隊とGの天使達が同時に答える。

「予想では、数時間以内に敵襲があるそうよ。臨戦態勢を維持していて」
「でも、一体何が来るんですか?」
「また大きいワームか何か?」
「小型くらいならこれだけのメンバー揃ってたら問題ないけど」
「そう簡単には行きそうにないと思うけど………」

 ジオールの宣言に、皆が口々に疑問や楽観を口にする。

「問題はそこなんだよな〜親玉が来るって話もあるが、どんな奴だか」
「巨大なコンピューターとか、大っきい脳みそとか」
「う〜ん、有り得る」
「もうちょっと現実的に考えなさい」「SFの見過ぎよ」

 冬后が頭をかきながら唸るが、亜乃亜の予想に音羽が腕組みして頷き、瑛花とエリューが横目で睨みつける。

「ま、あんまり緊張してても無駄なんじゃない?」
「準備万端、いつでもいける」
「エモンの以外整備も万全だし」

 エリーゼとティタはやる気まんまんで答え、マドカも笑顔で答える。

「いや、あいつはそんな簡単な相手じゃないと思う」

 そんな皆をたしなめるように、予備員として準備していたアイーシャが呟く。

「あいつって言ってもな、エモンって奴以外誰も見てないのがどうにも」
「けど、あれは…」

 言葉の途中で、アイーシャの動きが止まる。
 皆が訝しく思う間も無く、突然アイーシャがその場に跪き、己を掻き抱くようにして震え始める。

「アイーシャ!?」「ど、どうしたの?」

 突然の事に音羽とエリーゼが驚いて駆け寄ろうとするが、それに続くようにティタもその場に崩れ落ちるように膝をついた。

「ティタも!?」「まさか、またハッキング!?」

 亜乃亜とエリューが驚く中、二人は申し合わせたように首を横に降る。

「違う、これは攻撃じゃない」「来たよ、あいつが………」

 呟いた二人が同時に視線を上に向け、全員それに吊られて思わず天井を見上げる。

「一体、何が来るってんだ………」

 皆の気持ちを代弁するように、冬后が呟いた………



「な、何よこれ………」「マイスター、気をしっかり」

 カルナダインの一室で、突然感じた重圧としか言いようのない感覚に、フェインティアは思わず壁にもたれかかり、ムルメルティアが励ます。

「まさか、ここまでとはね………」

 ここ数日で一応敵対の意思無しと判断され、解析のためにカルナダインに移転、幽閉されていたフェインティア・イミテイトが、オリジナルと同じような苦悶に近い表情を浮かべながら、思わず軽口を叩く。

『演算処理に謎の負荷増大!』『電子攻撃の類は感知されず。原因不明、原因不明』

 カルナとブレータが同時に異常を知らせる中、よろめきながらクルエルティアとエグゼリカが室内へと入ってきた。

「これは一体、何?」「何か知ってるんですか!?」

 全てのトリガーハートが異常を感じる事態に、フェインティア・イミテイトも顔を歪ませながら口を開いた。

「多分私を、いやヴァーミスを一軍ごと乗っ取ったあいつだ。前に接触してきた時はコントロールコア越しだったけど、こんなに凄まじい奴だったなんてね………」
「カルナ! 臨戦態勢! 全方位探索!」
『り、了解!』
「はは、ここまでふざけた奴とはね………」

 まだ見ぬ相手に恐怖するという、ロールアウトされてから初めての事態に、フェインティアは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


「あ、あああ………」
「亜弥乎ちゃん! しっかり!」
「こ、怖いよユナ………」
「これは、威圧? まだ姿も見えてないのにこれ程………」

 震え上がる亜弥乎をユナが抱きしめ、隣では白香が思わず防護シェルの中へと退避する。

「サーニャ! 大丈夫か!」
「分からない………これが何か分からない………」

 別室では、サーニャの元々色白の顔から完全に血の気が引き、魔導針は異常を示す赤の明滅を繰り返している。
 エイラが必死になって声をかけるが、エイラ自身も得体の知れない威圧感を感じていた。

「未来が、何モ見えない………何ガ来るンダ!!」



「各艦から通達! ナイトウィッチ達が次々倒れてるそうです!」
「電探に異常発生! 原因不明!」
「全艦に非常事態宣言! 第一種戦闘配置!」

 大和のブリッジに異常を示す報が続々届き、杉田艦長が即座に臨戦態勢を指示する。

「一体、何が起きてるんでしょうか?」
「起きてるのでなく、これから何が起きるか、だ」

 副長の呟きに、杉田艦長は思わず返した言葉に自分自身が驚く。
 そこで、突然ブリッジが暗くなった。

「なんだ、曇ったか?」
「違う! 空を!」

 突如として暗転した視界に皆が首を傾げかけた時、誰かが叫んだ。
 空が、正確には見渡す限りの上空に漆黒の何かが広がっていた。
 それが、巨大な渦、つまりは今までに無いほどの巨大な転移ホールだと気づけた者は、ほんの数名だった。

「何て事でしょう………」
「ウソ、ではないようね………」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで、転移ホールに気付いたエルナーとポリリーナが思わず呟く。
 直後に、周辺の艦艇、その中でも臨戦態勢の少女達が乗った艦のみが、虚空へと吸い込まれていく。

「対ショック体勢! 対ショック体勢!」
「しゃがむか、何かにつかまれ!」
「これで一体何度目だ!」
「考えたくもないわ!」
「来るぞ!!」

 指示と怒声が響く中、幾つもの艦艇が、転移ホールへと消えていった。



「船体停止したわ!」
「周辺状況を確認!」
「これは………」

 転移が終了したのか、動きが止まったプリティー・バルキリー号のブリッジで素早くエルナーの声が飛ぶ。
 外部カメラが写しだした外の光景に、宮藤博士は絶句した。
 それは、無数の色が不規則に入り交じる異常な空間で、周辺には一緒に吸い込まれた艦艇が浮かんでいる。

「まさか、ここは宇宙サルガッソー?」
「いえ、似ていますが違います。ここは次元の間。どこでもあってどこでもない、世界と世界の隙間です」

 見覚えのある場所に似ていたポリリーナの言葉を、エルナーが訂正する。

「各艦に連絡! 状態を知らせて下さい!」
「攻龍とのリンクを…」

 エルナーが通信を回復させようとした時、重苦しい音が響き渡る。

「何だ今のは………」
「あ、あれは?」

 何か聞き覚えがあるような無いような音に、宮藤博士が外部映像を確認しようとするが、そこに映っていた物にポリリーナが気付いた。


「12時方向、謎の熱量確認! センサーにも感あり、全長不明!」
「見えている。だが、何だあれは?」
「歯車?」

 攻龍のブリッジ内でもほぼ同時にその存在に気付いた。
 それは、その奇妙な空間に浮かぶ巨大な歯車だった。


「カルナ!」
『今解析中! けど、何なんですかこれ!』
「ブレータ、映像拡大!」

 今だ重圧を感じる中、トリガーハート達はそれの解析に映る。
 拡大された映像を見ると、それは大小二つの歯車で、しかも歯車内部に無数のパーツが複雑怪奇に入り乱れ、そのどれもが蠢いている。

「こんな物、見た事が無い………」

 異様としか言いようのない存在に、エグゼリカが絶句する。
 映像を更によく見れば、その謎の歯車を中心とした、巨大な人影にも見える存在が虚空に佇んでいるがようやく分かった。

「こいつが………全ての元凶って訳?」

 フェインティア・イミテイトが確信を突く言葉を発していた………


「外を見たか!」
「今見てるわ」
「あれは一体何!?」

 ブリッジに飛び込んできた美緒とミーナに、振り向きもせずにポリリーナは答える。

「あれが黒幕なのか! あれは一体何なのだ!」
「分からないわ………ただ凄まじい力を秘めてるのは確かよ。深く暗い、闇の力を………」

 ポリリーナの頬を、冷たい汗が滑り落ちる。
 しかし、エルナーは無言でその謎の存在を見つめ、外部スピーカーのスイッチを最大音量で入れた。

「やはり、貴方だったのですね………機械化帝国初代皇帝、機械仕掛けの女神デア・エクス・マキナ!!」





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