私は、この時期の旅行には縁がなかった。2〜4月はサンショウウオの繁殖期で、特にシーズン真っ盛りの3月は、調査・研究に専念しなければならなかったからである(1)。
研究室の学生・大学院生が、数台の自動車に分乗して、こぞってスキー旅行や温泉旅行などに出掛けるのを横目で見ながら、タモ網とクーラーボックス、更に胴長を持ってサンショウウオの採集に行くのが、この時期の私の日課であった。
たくさんの人たちが遊んでいる時期に、或いは仕事の量を普段より減らして、くつろいでいる時期に、身を粉にして働かなければならないとは、なんとも皮肉な研究対象を選んでしまったものである(2)。
[脚注]
(1) 「あなたは、調査・研究に行くのが旅行だろう!?」と突っ込む人は必ずいるものだが、私には「旅行」という感覚がない。なぜなら、サンショウウオの繁殖期に成果をあげなければ、研究そのものが成立しないものが多いからである。とてもじゃないが、旅行(?)を楽しむ余裕などない。
(2) ちまたには「暦の調整月である2月が、一年で最もないがしろにされている月である」という見方が多い。しかし別の見方をすれば、日本では3月が最も哀しい月なのかもしれない。3月は学業の狭間(はざま)というだけでなく、会計年度の狭間ということもあり、生態学的なこととは全く無関係の事由で、アセスメントなどの環境調査からも漏れてしまっているのが現状である。そのため3月が繁殖期の両生類も、調査対象から外れてしまっていることが多く、当然、予算も付くことはない。