交差点から国道を新潟方面へ110mほど進んだ左手にはコンビニ(セブンイレブン)がある。男性は新川漁港のほうから内野方面への道路を歩いてバス停まで来るのだが、このコンビニに寄って買い物をしてから、バス停まで戻ってくる。その戻り方が、常人と異なって面白いのである。
道路の幅員は、6mに満たないくらいだろう。コンビニからバス停に戻るには、普通にバス停のところまで歩きながら、車が来ないのを確認して、道路を横断すればいいだけの話である。私なら、そうする。ところが、この男性は、交差点にある信号機のところまで戻り、わざわざ横断歩道を渡ってから、またバス停へと向かうのである。この間、およそ80mの距離を、彼は余計に歩いていることになる。みたところ、これが、どうも彼の日課のようである(2)。
最初の頃は、彼を「公衆道徳に秀でた人」かと思って、妙に感心していた。ところが、ある日のこと、とんでもない場面に遭遇し、彼への認識を改めることになってしまったのである。
私の下宿の隣は、ゴミの集積所になっている。ある日、大学へ行こうとして下宿を出たところで、ちょうど道路を挟んで向かい側に件(くだん)の男性が立っていることに気づいた。手には大きな、それこそ大きな透明のゴミ袋を持ち、中には空のペットボトルがたくさん詰まっていた。「なぜ、こんな遠くまで、わざわざゴミを捨てに来るのだろう? それに、プラスチックの回収日は昨日だったはず......」と思いながら、私には、ある種の期待感があった。それは「彼は、信号機と横断歩道のあるところまで歩いていってから、道路を渡り、再びゴミの集積所まで戻ってくるのだろうか?」というものであった。
ところが、この期待感は見事に裏切られ、すぐに彼は道路を渡ってゴミを捨ててしまったのである。横断歩道は、彼が立っていた場所から70mほど離れたところにあった。
こうしてみると、この男性の日課である「横断歩道渡り」は、ただのパフォーマンスに過ぎないことが分かる。そういえば、あそこは人通りが多い。
[脚注]
(1) 交差点は六叉路になっているが、六叉路と言うよりは、十字路に二つの小路がくっ付いたような形状である。
(2) お分かりかと思うが、私は彼の行動を逐一、観察しているわけではない。その日その日で遭遇した、微妙な時間帯のズレから生ずる様々な場面をつなぎ合わせ、彼の行動の全体像を描いているわけである。